見出し画像

風技解釈の暴走の副産物「材料認定」

前回の記事で「風技解釈の暴走の真相」に触れ、「風技解釈の暴走がもたらす結末」について考察しました。今回は、風技解釈の暴走に付随する他の丸投げ審査とその影響についても考察します。

下図は、風力発電所の事業化までの流れとビューローベリタス(第三者認証機関)の認証サービスを示しています。

出典:ビューローベリタス

その風車の設計が風技解釈の既定を満たしているかの第三者認証として、「ウィンドファーム認証」が位置付けられています。その前に「材料認定」というプロセスがあります。これは、ざっくりいうと「板厚100mmを超える鋼材の利用に関する認定」で、風技解釈の暴走の副産物とも言えます。

材料認定とは

材料認定とは、風車支持構造物に以下のいずれにも該当しない材料を使用する際に必要な材料の認定を指します。

  1. 建築基準法第37条の「指定建築材料」

  2. 国土交通大臣の認定を受けている材料

  3. 発電用風力設備に関する技術基準適合に係る性能評価に対する認定を受けている材料

上記の1は、JIS材のことです。JIS材の最大板厚は100mmです。つまり、板厚100mmを超える鋼材を利用するなら、材料認定を受ける必要があります。これも、暴走する耐風耐震設計基準の産物です。経済産業省が専門家の先生方に、耐風耐震設計の基準作りを丸投げし続けた挙句、日本基準で耐風耐震設計すると、陸上風車のタワーや基礎部材の一部の板厚が100mmで収まらない事態がすでに起きています。ということは、今後の洋上風車の主流となる12~15MW機でタワーやモノパイルの板厚が100mm以内で収まらないという事態は当然想定されます。

それは、つまり対応するJIS材がないということです。より高いグレードのJIS材で再設計するか、100mm超えの材料認定を受けるかしかありません。

材料認定のハードル1 タイミング

材料認定を受けるには、鉄鋼メーカーに供試体を作ってもらい、JIS材認定と同じ試験を実施してもらう必要があります。ということは、「その材料を使う支持構造物のメーカーが、どの鉄鋼メーカーの鋼材を使うのか」が明らかになった段階からではないと始められません。ゆえに、上図のフローのようなウィンドファーム認証前の実施は無理で、実際にはウィンドファーム認証に並行します。わざわざ特別な仕様の供試体を作ってもらうためだけに鉄鋼メーカーに炉を確保してもらうことになるため、量はわずかでも供試体の試作から試験だけでも2~3ヶ月かかります。そこから材料認定を申請して、専門家の先生の審査を受けて、審査を通すのもさらに2~3ヶ月かかります。

材料認定のハードル2 板厚の限界

圧延材は、板厚が上がれば、それだけ内側と外側の性状に差が生じます。つまり、板厚が厚くなるほど、目標とするJIS材のすべての項目の条件を満たすのは難しくなります。おそらく110mm台が限界ではないでしょうか。

材料を審査する専門家の先生方には、JIS原理主義があります。例えば、メーカーが「SM520C相当」の材料として申請しようものなら、先生方はSM520Cの全性能を満たすことを求めてきます。そこで、メーカーは、例えば、「SM520XYZ」という、与件に該当する風車専用の構造材として申請し、目標とするSM520Cの性能のうち、与件の風車の支持構造物に求められる性能に関わる項目を満たしていると認定してもらうように申請します。

設計板厚が120mmを超えたら

タワーやモノパイルの設計板厚が120mmを超えると、材料認定が取れるとは言い切れません。そこで、より高性能なJIS材で再設計して、板厚100mm以内を目指してみて、それでも無理なら材料認定を受けることになります。ところが、想定されるのは、供試体まで作って試験したけど、認定を取れそうな試験結果が得られないというリスクです。

そうなると、基礎形式をモノパイルからジャケットに変えて再設計することになります。前述の通り、材料認定に進めるタイミングの制約を考えると、基本設計段階からモノパイルの板厚には気を付けておく必要があります。

12~15MW機への材料認定の影響

洋上風車の主流が12~15MW機が主流になったら、何が起きるか予想してみます。経済産業省がリスクアセスにより、風技解釈の暴走(耐風耐震設計基準のエスカレート)に介入せず、このまま丸投げが続くと仮定します。

12~15MW機では、タワー重量は1,000トンを超え、モノパイル重量は水深によっては1,500トン、トランジションピースと合わせて2,000トンを超えてくるでしょう。こうなった場合、板厚が100mmに収まらない設計も想定されます。もし板厚が120mmを超えるような設計になれば、材料認定を取れないリスクから、モノパイルを諦め、ジャケットにせざるを得ないという判断もありえます。板厚が110mm台だったとしても、前述の材料認定のタイミングの制約で断念せざるをえないという判断もありえます。

そうなれば杭を打てる地盤であっても、材料認定の失敗リスクからジャケットを選択することでさらに高コスト化するという事例が出てくるでしょう。公募の際、そこまで深く検討した事業者は価格を高くせざるを得なくなります。ラウンド1の結果を見るに、経済産業省・国土交通省の公募審査メンバーには、そこまで実務に詳しい人はいないようなので、結局、公募の結果、あまり検討していない事業者が落札することになるでしょう。その事業者は落札した後になって、モノパイルでは無理でジャケットに設計変更せざるを得なくなり、建設費の大幅な上方修正と収益の下方修正を迫られます。

耐風耐震設計基準のエスカレートに歯止めが必要

前回の結論と同じになってしまいますが、経済産業省が専門家の先生方に基準作りを丸投げし続けた結果、耐風耐震設計基準がエスカレートしてしまったことが原因であり、経済産業省はリスクアセスメントに基づき、耐風耐震設計基準のエスカレートに歯止めをかける必要があります。さもないと、日本の風力発電の未来は失われます。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?