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エネ庁の洋上風力発電の導入目標5.7GW/2030年度の達成課題

2022年4月7日に開催された経済産業省・資源エネルギー庁・総合エネルギー調査会 省エネルギー・新エネルギー分科会/電力・ガス事業分科会 再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会(第40回)資料1「今後の再生可能エネルギー政策について」に掲載されている洋上風力発電の導入目標5.7GW(ギガワット)/2030年度を達成するための課題を整理します。

再エネ海域法に基づく洋上風力で3.3GW積み増し

また頼まれもしないのに勝手に「もし私が●●の担当者だったら」シリーズです。もし私がエネ庁の担当者で、「2030年度までに洋上風力発電の導入目標5.7GW」にコミットしている立場だったら、どんな課題に直面するか考えてみます。

出典:エネ庁資料「今後の再生可能エネルギー政策について」

下図を見ると、エネ庁は、ラウンド1「三種町沖」「由利本荘市沖」「銚子市沖」で1.7GWの出力を期待しています。未稼働分の稼働見込みの0.7GWとは、再エネ海域利用法適用外の港湾5プロジェクト(秋田・能代、石狩、響灘、鹿島、むつ小川原)の合計ではないかと推測します。(違っていたら、コメント欄でご指摘いただければ、訂正します。)

出典:エネ庁資料「今後の再生可能エネルギー政策について」

上図から、2030年度に5.7GWの出力を達成するには、さらに3.3GWの出力を積み増す必要があると読めます。この3.3GWという数字は、どうやったら達成できるのでしょうか。

下図は、促進区域と有望な区域の出力を示しています。こちらは、万kW(キロワット)という単位になっていますが、100万kW=1GWと理解して、「どこまで足したら330万kWになるのか」という足し算にお付き合いください。

出典:エネ庁資料「今後の再生可能エネルギー政策について」

330万kWという出力は、「⑪村上市・胎内市沖」を大きい方の70万kWとして、 公募を延期した「⑤八峰町・能代市沖」から「⑫いすみ市沖」をすべて足して達成できるという「楽観シナリオ」だとわかります。

課題達成上のボトルネックは何か

私がエネ庁の担当者だったら、これは胃が痛すぎます。というのは、日本には洋上風力発電所建設用に整備予定の基地港湾が4港しかないからです。しかも、「整備済み」ではなく「整備予定」で、港湾整備の管轄は「経済産業省」ではなく「国土交通省」です。

基地港湾のイメージ(出典:Pixabay)

国交省が洋上風力発電所建設用に地耐力を増強してくれるはずの基地港湾とは、北から「能代港」「秋田港」「鹿島港」「北九州港」の4港です。 2030年度中に上記の⑫まで運転開始させるには、遅くとも2026年度までにそれらの整備が終わっていることが条件です。

胃が痛いのを我慢して、国交省がすべての基地港湾を2026年度までに整備してくれると思い込むことにします。それにしても、胃の痛みは消えません。下図の着色は、各海域の風力発電所の建設にどの基地港湾を使うかを想定したものです。

出典:エネ庁資料「今後の再生可能エネルギー政策について」(ただし、海域名の着色は筆者)

黄色:北九州港、緑色:能代港、水色:秋田港、ピンク:鹿島港です。上記の①~⑫をすべて2030年度までに運転開始させるとしたら、建設時期もほとんど重なります。

港の占有時期を考えると、ざっくり風車30基(出力15MWの風車なら合計45万kW)で「基礎に1年、風車に1年」が目安です。上図には、45万kW超の計画もあります。いったいどうやって港をやりくりするのでしょうか?

国交省の基地港湾の整備計画では、洋上風力発電工事用に地耐力を強化するのは、だいたい1港湾あたり8haです。しかもその8haのうち、岸壁に面していてSEP船のクレーンが届く範囲を考えると、現行の工法では上表に見合う数の風車のプレアセンブリーはできません。今後、基地港湾でなくてもプレアセンブリー(仮組み立て)できるか、プレアセンブリー不要の超絶画期的な新工法でも編み出されない限り、いかんともしがたいです。

SEP船のイメージ(出典:Pixabay)

ここまで考えると、エネ庁だけではいかんともしがたい状況なので、ここからはエネ庁に「2030年度再エネ比率36~38%で行け!」と迫った自民党の立場で考えます。

上表で見ると、北九州港と鹿島港は、経産省が⑥と⑫を2022年に公募して2023年に入札を終わらせたら、なんとか事業者間で調整できるかもしれません。それでも、能代港と秋田港は、経産省が⑤と⑦~⑪を2022年に公募して2023年に入札を終わらせたとしても、どうにもなりません。

ボトルネック解消の打ち手は何か

打ち手としては、

  1. 能代港と秋田港の拡張

  2. 青森港の基地港湾整備(能代港の補完)と新潟県か山形県での基地港湾の新設(秋田港の補完)

のいずれかです。打ち手1は物理的に無理ですが、能代港と秋田港の間にある船川港を補完港として整備する計画があるようで、打ち手1に近い効果が期待できます。しかし、これだけでは足りないので、打ち手2に向けて自民党の再エネ議連の方々が政治的手腕を発揮してくださることを期待します。

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