天は人の下に人を造らず、謎制作者は文字の下に言葉を造る

この記事は、立川茜(@fantasistaKKP)さん主催のアドベントカレンダー「なんか Advent Calendar 2021」の12/18の記事です。


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「あ」、ローマ字にすると「A」。
「あ」は50音の最初の文字で、「A」はアルファベットの最初の文字だ。
偶然だろうか?それとも、必然だろうか?
謎解きにはしばしば言葉遊びが登場する。謎制作者は日々新しい奇跡を求めて言葉の海を彷徨っているのだ。
時には、偶然の奇跡だと思って拾い上げた物が、言葉のルーツを辿れば必然の一致だった……なんてことも少なくはない。
あの日あの時心打たれたあの謎は、偶然か、必然か、はたまた神の作為によるものなのか。
これは、そんな偶然と必然を巡る物語。

「『豊胸』を左にずらすと『黙示録』」
フライパン職人(@1220oz_an)/謎制作者

教室に到着した僕は、自分の机の上に紙が置いてあるのに気が付いた。見てみるとそれは、謎解きのようだった。
何かの嫌がらせか?いや、僕が謎解き好きだと知っての犯行なら、こういうサプライズもたまには悪くない。

実際の謎

ラッキーアイテムだなんてそんな、占いじゃあるまいし。
そんなことをぼやきながら僕は謎を解き始める。
この日記のような文章の中に、"め"は2つ。その前を読めばいいんだから……。

『あな』……?

答えは『あな』か。
……いや、穴ってなんだよ。ブラックホール?落とし穴?それならラッキーアイテムというより気をつけたほうがいいものじゃないか?
「何やってるの?」
一人の女子が、僕の前にやってきてテーブルを覗き込んでくる。彼女はアカネ。僕の幼馴染だ。
「謎を解いてるんだ。誰かが僕の机の上にしかけていったらしい。」
「ふーん。で、答えは出たの?」
「『あな』って出てきたけど。いまいちしっくりきてないんだよな。」
「ちょっと見せて。へー……あ、これは"め"じゃないの?」
彼女は一番下の行に書かれた指示文中の"め"を指差す。
「これは指示文の一部じゃないか。第一、その前に書かれている文字を拾ったって言葉になんか……。」

本当の答えは、『あなた』……?

「『あなた』になるのか、一応。」
「ほら、言ったじゃないの。」
「じゃあ聞くけど、ラッキーアイテムが僕自身ってどういうことだ?僕は今日一日ずっと、自動的にラッキーなのか?」
「うーん……あっ!」
「なにか気付いたのか?」
「そうね、じゃあ指示文をもう一度読んでみるってのはどう?」
「『めの前に答えはある』だろ?」
「うんうん。それで、出てきた答えは?」
「『あなた』だ。」
「つまり、それを合わせると……?」
「…………さっぱりわからん。解けてるんなら教えてくれよ。」
「あーもう、これだから察しの悪いやつは……。だから、実際に、あなたの目の前に……。」
はっとして僕は顔を上げる。なんだ、そういうことか。
たった今、この教室において僕の目の前にあるもの。それはもちろん、黒板に他ならない●●●●●●●●
「……どいてくれないと、黒板が見えないんだけど。」
「え!?あ、あぁ、そうね。たしかに、目の前には黒板があるわね。」
なぜか歯切れの悪い返事をしながら横に移動してくれた彼女の後ろには、今度こそ最後の言葉が…………存在しなかった。
「おかしいな。僕の考えでは黒板に最後の答えが書いてあるはずだったんだけれど。」
誰かが消してしまったのだろうか?
「黒板がラッキーアイテムってことなんじゃないのっ。」
アカネが口を挟んでくる。
黒板がラッキーアイテム……そんな投げやりな答えがあるのだろうか?しかし、これ以上先に進めないのであれば謎解きはもう諦めるしかない。
そういえば心なしかアカネの機嫌が悪い気がする。謎を解くためとはいえ、さっきは強く言いすぎたかもしれない。
今日の天気は偶然にも謎と同じく雨。
……散々な目には、あわないことを祈ろう。

「いかにこじつけではなく奇跡のように見せることができるかが、謎制作における技術だと思っています。」
pia(@pia0314pia)/謎制作者

「……ねえ。」アカネが呟いた。
「ん?」
「謎解きに限界ってあると思う?」
「謎解きの限界か……難しい話だね。一枚謎のネタ切れはSNSでも嫌というほど目にしてきた話題だ。でも、僕は謎解きの限界は当分訪れないんじゃないかと思ってるよ。」
「どうして?」
「SNSでは毎日謎を出している人が今やたくさんいる。目の肥えている人からしたらよくある謎だったり見たことある謎だったりは多いけれど、その中には全く見たことなかったような奇跡があることだって少なくない。」
僕は続ける。
「それに、『ドロステ謎』なんてのが流行り出したのも今年のことだ。僕の知っている謎制作者たちならきっと、いつまでも新しい発見を見つけ出してくれると信じているよ。」
「それじゃあ他人任せじゃない。……でも、あなたの意見には同意ね。だって、いつだってて』の一歩先●●●には『ひと』がいるんだもの。」

「その単純な『奇跡を、感情を届けたい』という姿勢にこそ、私は『美しさ』を感じてしまったのである。」
常春(@halnanndesu)/謎制作者


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「ところで、あなたはアドベントカレンダーの昨日の担当者が書いていたコメントって覚えてる?」
「ああ、あれの話か。とんでもない押し付けだよね。たしか『明日すごい記事が出ます』だったような…………ん?まさか。」
「そのまさかよ。『"あ"の下にすごい記事が出る』というのが、昨日のタイトルとコメントの本当の答え。」
「はは、そりゃあ面白い。でも、"あ"なんてアドベントカレンダーの中にあったかな。」
「あら、灯台下暗しと言ったところかしら。今日のコメントをごらんなさい。」
「え……?」

最も手軽な伏線

カレンダーで”あ”の下の記事と言ったらそれはもう……わかるわよね?」

「……今日の記事に期待していた人はごめんなさい。ちゃんとした“すごい記事”は、来週に期待することね。」

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