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【短編小説】『三途の川食堂へようこそ!』

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ほのぼの飯テロ風味のオリジナル小説です。全8話・約15000文字。 ■あらすじ■  不治の病で死んだ私は、一年間だけ三途の川のほとりにある食堂で働くことになった。現代の三途の川は…
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#物語

【短編小説】『三途の川食堂へようこそ!』第1話【全8話】

第一話 三途の川の小さな食堂 「今日も清々しー!」  柔らかな青い空の下、店の暖簾を掛けて伸びをすると気持ちがいい。爽やかな初夏の風が私のポニーテールと白いエプロンを揺らしていく。  あの世とこの世の境目に流れる三途の川は、近代化と観光地化が進んでいる。この世側のほとりには小さな街が出来ていて、宿屋や土産物屋等々の観光業で賑わう。  死者の魂と見学に招かれた生者の魂は、電車やバス、船といった交通手段でこの街にやってくる。しばらく滞在して観光を楽しんだ後、死者は船か橋を使

【短編小説】『三途の川食堂へようこそ!』第2話【全8話】

第二話 奪衣婆に贈るバブリートマトスープ  店の扉が勢いよく開いて、美女が叫び声を上げた。 『ちょっと聞いてよ! アタシってば、ババアなんて思われてんのよ!』  ゆるやかなウェーブを描く長い黒髪にインナーカラーはエンジ色のツートン。黒のボディコンシャスなミニワンピに、黒地の流水と菊花が染められた着物を片肌脱ぎに重ねてベルトを締めている。黒いエナメルヒールは十センチは軽くありそう。  赤い瞳の目元はナチュラルメイクなのに、真っ赤な口紅がバブリーな雰囲気を漂わせる。初めて来

【短編小説】『三途の川食堂へようこそ!』第3話【全8話】

第三話 賽の河原の積みハンバーグ  賽の河原と言えば、親より先に死んだ子供が父母の供養のために石を積んでは鬼に崩されるという責め苦を受ける場所と言われていた。  三途の川が観光地化した今は、縦横三十センチ、厚み五センチの軽石を、定期的に現れる鬼に崩されるまでにどれだけ高く積めるか競い合う人気のアトラクションになっている。 『昔は怖がられたもんだが、今じゃキャーキャー黄色い声援が来るからなぁ』 『鬼の一生わからんものよなぁ』 『石が軽石になったのと同じで俺たちの存在も軽く

【短編小説】『三途の川食堂へようこそ!』第4話【全8話】

第四話 船頭に贈るあつあつ鴨ネギうどん  昔は一人から三人乗りの木舟が主流だった三途の川の渡し船は、今では大きな客船になった。死者の魂が観光を終えてからなので、一度にまとまった人数が集まる。船酔いする者は白い大型バスで橋を渡るルートを選択することもできるらしい。 『木舟の時は一人乗せるだけではもったいないからと、ついでに乘る者はいないかと探したものだが、今では船着き場に集まってくれるから楽になったなぁ』 『本当になぁ。暴れて川に落ちる者もいない』  渡し船の船頭たちは、