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【短編小説】『三途の川食堂へようこそ!』

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ほのぼの飯テロ風味のオリジナル小説です。全8話・約15000文字。 ■あらすじ■  不治の病で死んだ私は、一年間だけ三途の川のほとりにある食堂で働くことになった。現代の三途の川は…
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#死神

【短編小説】『三途の川食堂へようこそ!』第1話【全8話】

第一話 三途の川の小さな食堂 「今日も清々しー!」  柔らかな青い空の下、店の暖簾を掛けて伸びをすると気持ちがいい。爽やかな初夏の風が私のポニーテールと白いエプロンを揺らしていく。  あの世とこの世の境目に流れる三途の川は、近代化と観光地化が進んでいる。この世側のほとりには小さな街が出来ていて、宿屋や土産物屋等々の観光業で賑わう。  死者の魂と見学に招かれた生者の魂は、電車やバス、船といった交通手段でこの街にやってくる。しばらく滞在して観光を楽しんだ後、死者は船か橋を使

【短編小説】『三途の川食堂へようこそ!』第6話【全8話】

第六話 死神に贈るがっつりレトロオムライス  三途の川の街には卸業者がまだ存在しないので、食材の仕入れは普通のスーパーへ買い出しに行くことになる。どこかでみたような気がするけれど、微妙に違うロゴが看板に掲げられていて、忙しく働く店員たちに生者の姿はない。  現世と変わらない品が並ぶ店内は、他の飲食店で働く方々も仕入れに来ているし、普通に買い物をしている方もいる。  メモを見ながら買い物かごに野菜を入れて、店内を回っていると声を掛けられた。 『お、食堂の姉ちゃん! 仕入れ

【短編小説】『三途の川食堂へようこそ!』第7話【全8話】

第七話 最期の晩餐 とろふわ親子丼  あっという間に一年が過ぎ去った。店はそれなりに上手く回り、壺から一文銭があふれそうになっているので、残りの一週間は全品無料で提供することにした。 『閉店まで、あと七日かー。寂しくなるわー。何とか続けられない?』 『無理を言って困らせてはダメだよ。まぁ、僕も続けて欲しいんだけど』  奪衣婆と懸衣翁は、毎日一緒に食べに来るようになっていた。別々の料理を頼んで仲良く分け合う姿が実は少々うらやましい。 『本当になぁ。ずっと続けてもらえないも