髙野広海 / Hiroumi Takano

東京大学工学部都市工学科都市計画コース4年。ロンドンまちあるき/都市計画/住宅政策。

髙野広海 / Hiroumi Takano

東京大学工学部都市工学科都市計画コース4年。ロンドンまちあるき/都市計画/住宅政策。

マガジン

  • 中国大都市見聞録

    都市計画はいつだって経路依存的でローカルなものだから、ある場所でうまくいった政策が他の場所でもうまくいくことは少ない。だが、全く別の経路で発展してきた都市があるからこそ、その都市の形態や政策を相対化してみることができる。歴史も文化もサイズも制度も異なる都市をたくさん知っていることで、今自分が見ている都市に新しい視点をもたらせるはずだ。 私は昨年1年間イギリスに留学し、イギリス、西欧、北欧、南欧、旧共産圏、アメリカ、北アフリカの都市を歩いてきた。そして今回、都市への視野をさらに広げるべく、中国への旅行を決めた。中国は地理的に日本に近く、歴史的文脈を一定程度共有しながらも、全く異なるシステム・思想のもと都市を作っている。とにかく街を歩いてみて、感じたこと、気になったことを調べながら、中国の都市の思想・形態・制度を理解しようと努めた。

  • 【都市計画家列伝】今こそ、都市計画史

    現代日本の都市に強い主体は存在せず、たくさんの不完全な主体が時に協力しながら、時に対立しながら、街を作っている。自らが属する組織の利害で動くことは簡単だが、ひとりの「アーバニスト」として何をすべきか考えることは、本当に難しい。 都市は複雑になり続け、都市計画という仕事はより難しく、より無力になっている。東京一極集中も、コンパクトシティも、再開発も、何が正しくて何が誤っているかなど誰にも分かりやしない。そんな時代に敢えて拠って立つべきものを求めるとすれば、それは歴史だと思う。 この連載は、都市計画を学ぶ学生による「都市計画史」を社会に開く試みであり、私自身のアーバニストとしての価値軸を探す旅路でもある。絵を描いた人、プロジェクトをリードした人、制度を作った人など、多様な役割を持った「計画家」を取りあげたい。

  • 曇天をゆく ~ロンドンまちあるき~

    都市計画を学ぶ者にとって、ロンドンは特別な街です。それはロンドンが史上初めて「都市問題」に直面した街であり、「都市計画」が生まれた場所だから。現在でも森記念財団の世界都市ランキングで1位に君臨するこの都市は、世界的な政治・経済・文化の中心地であり、新しい都市政策や都市運動を生み出し続けています。 この連載では「曇天をゆく」と題し、ロンドンの中でも特に興味深いエリアを紹介していきます。世界都市ロンドンはどのように形成されてきたのか、どんな問題に直面しているのか。ただ「大きい」「歴史的」「カッコいい」というイメージだけではなく、ロンドンという都市の持つ多様な文脈を感じてもらえると嬉しいです。

最近の記事

【中国大都市見聞録5】猛暑の華北をめぐる

春休みに華南・華中・江南エリアを回り、威勢よくnoteの連載を始めたは良いものの、あえなく深センでストップしていた。この時見た中国の都市がとても面白かったので、他のエリアの都市も見てみようと思い、8月後半に改めて中国に行ってきた。北の方なら8月後半には暑くないだろうと思い華北(天津→済南→徐州→鄭州→石家荘→北京)に行ったところ、あえなく猛暑日に見舞われ続けてしまったのだが、せっかく夏バテと戦いながら足で学んだ中国の都市の姿をnoteに書き残しておこう。あまりに内容を詰め込み

    • たけのこプロジェクト - ASIBA2期を終えて

      建築都市社会実装スタジオ「ASIBA」の第2期インキュベーションプログラムを終えてから2週間が経った。個人としての内省は前のnoteに託したが、自分がたけのこプロジェクト(旧本郷シェアハウスプロジェクト)を通じて実現したいことはちゃんと示せていなかった。ここに記す問いや理想をまっすぐに実現するにはまだ自分の世界観が成熟していないし実行力も足りない。しばらくは修業しながら続けていき、自分の足りないものに向き合いながら、いつか正面から解決策を出したい。 たけのこプロジェクトにつ

      • 自分に期待しなくなった僕に、都市から社会を問う足場をくれた - ASIBA2期に参加して

        4月からの3か月間、建築都市学生のためのインキュベーションプログラム「ASIBA」の第2期に参加してきた。応募した理由、プロジェクトの進捗、ASIBA2期を通じての学びと変化について振り返る。 応募するまで留学から帰ってすぐの昨年8月、同居人・二瓶に誘われてASIBAの運営に入った。すぐにインキュベーション1期が始まり、その運営をする中で、毎週仮説検証を繰り返して解像度を上げていき、カンファレンスの舞台で心震えるピッチをした1期生達に刺激を受けた。この舞台に立たなければ見え

        • 【横須賀DTP演習録】③都市という専門性と演習について

          結局僕は都市工で過ごしてきた2年間で一度も演習というものに没入できなかった。特に今のB4の学年は演習に対するモチベーションが高くて、演習で良い成果物を出すことに対して競争的なマインドを持っている人もいて、みんな頑張っていた。その中で僕は、みんなのように頑張ろうと思って、新しい都市計画の形を構想しようとか、自分なりの思考方法を確立しようとか思っていたけれど、結局続かなかった。班でバリューを発揮できないのは申し訳ないから、「放牧」されながら好きなことを調べたり班の方向性を探ったり

        マガジン

        • 中国大都市見聞録
          5本
        • 【都市計画家列伝】今こそ、都市計画史
          4本
        • 曇天をゆく ~ロンドンまちあるき~
          4本

        記事

          【横須賀DTP演習録】②エグゼキューションという快楽

          DTP演習は中間ジュリーを迎えた。この3日ほど考えることが多かったのでまとめたい。ちなみに誰かに何かを伝える気はない。書き起こしただけ。 1. コンセプトの話中間ジュリー前に中島直人先生の授業があり、銀座のまちづくりについて紹介していた。銀座では都市デザイン協議会が銀座デザインルールを配布している。それは事前確定的な基準を機械的に適用することではなく、協議対象者が参照しながら銀座らしいデザインを考えるためのツールだった。イギリスの都市計画におけるマスタープランと同じ役割を持

          【横須賀DTP演習録】②エグゼキューションという快楽

          【中国大都市見聞録4】深セン - 現代中国都市のプロトタイプ

          春休みの中国旅行で得た知見をまとめています。とにかく街を歩いてみて、感じたこと、気になったことを調べながら、中国の都市の思想・形態・制度を理解しようと努めています。本日は2都市目・深センです。連載の詳細は以下から。 1. 深センへいよいよ中国本土に入る。香港MRTの東港線に乗って約40分、イミグレのある羅湖駅に着くと、そのまま国境を隔てる深セン川を渡る通路を通り、大量の人でごった返す入国審査場に出る。一番左に数ゲートだけある外国人用の列に並ぶ。本当に多くの人達が毎日中国本土

          【中国大都市見聞録4】深セン - 現代中国都市のプロトタイプ

          本郷シェアハウスプロジェクト(仮称)、始めます

          本郷キャンパス周辺に空き家を活用したシェアハウスをたくさん作ることを目指した「本郷シェアハウスプロジェクト(仮称)」を4月より進めています。一緒に進めてくれる人を絶賛大募集中ですので、少しでも興味を持った方がいればSNS等でお声がけください!以下メールでもOKです。 takanofight16[ ]gmail.com ※[]内は@にしてください また本PJは建築都市社会実装スタジオ ASIBAの2期プロジェクトとして採択されています。詳しくはこちらからご確認ください。 3

          本郷シェアハウスプロジェクト(仮称)、始めます

          【横須賀DTP演習録】①答える力より問う力

          弊コースの4年生は前期に横須賀ダウンタウンプラン(DTP)演習を行う。2か月弱の期間で京急線横須賀中央駅周辺の中心市街地のプランニングおよび設計を行うものだ。横須賀市は海軍の拠点として20世紀初頭に急速に発展し、戦後も東京大都市圏のベッドタウンとして団地開発が行われてきたものの、1990年代以降急速な人口減少に直面している。その中で中心市街地では2015年に吉田市政のもと容積率制限の緩和が行われ、マンション開発が加速している一方で、商業機能の低下や再開発プロジェクト間の連携不

          【横須賀DTP演習録】①答える力より問う力

          【中国大都市見聞録3】香港 - この街に魅せられて

          香港に来るのは高校3年の夏以来4年半ぶり。あの時と同じホステルに泊まり、同じ街を歩き、自分の都市への視線が少しずつでも確実に成熟していることを感じられた。この記事では自分の視線でとらえた香港を記していく。 行程【1日目】 ①深水埗(Sham Shui Po)~佐敦(Jordan)まで、MRTの観塘線(Kwun Tong Line)沿いに九龍半島中心部を歩く 【2日目】 ②石硤尾(Shek Kip Mei)~九龍塘駅まで、九龍半島北部の公共住宅団地エリアを歩く ③九龍塘→沙田

          【中国大都市見聞録3】香港 - この街に魅せられて

          【中国大都市見聞録2】中国大都市の空間構成をモデル化する

          中国大都市に共通する特徴、トレンド、構成要素、階層性等をまとめててモデル化してみる。特に長沙・武漢・合肥・南京をベースにしている。香港は中国都市をアレンジした独特な形態を持っていて、深センは改革開放以前の街並みを持たない点で特殊事例だが、逆に中国各都市の改革開放以後の開発は深センがモデルになっている。広州・上海はともにベースのモデルに近いが、広州は経済規模が大きいためもう1つスケールの大きな単位が必要だと感じる。また上海は中心街周辺の住商混在エリアで旧租界の歴史性が色濃いため

          【中国大都市見聞録2】中国大都市の空間構成をモデル化する

          【中国大都市見聞録1】中国に何を求め、何を感じたのか

          1. なぜ中国へ?なぜ人は都市を作るのだろう。なぜ都市に住むのだろう。 農耕社会が成立してから、人類の一部は集まって住むことを選んだ。基幹産業が第一次産業から第二次産業、第三次産業へとシフトしていくにつれ、都市は加速度的に巨大化し、ますます多くの人が都市に住むようになった。現在世界の都市人口率は50%を超え、未だかつてない水準に達している。 都市に住むことは、生産力のある広い土地を手放す代わりに狭くて家賃の高い家に住むことだし、騒音や大気汚染に悩まされることだし、感染症の

          【中国大都市見聞録1】中国に何を求め、何を感じたのか

          【都市計画家列伝】第1回 イルデフォンソ・セルダは現代バルセロナに何をもたらしたか ③考察編

          都市計画家列伝の第1回としてバルセロナの都市拡張事業を担ったイルデフォンソ・セルダを取りあげている。第1部ではバルセロナの歴史とセルダの生きた時代を、第2部ではセルダの都市計画理論とその結果について取り上げてきた。最後に、セルダは現代バルセロナに、そして現代都市計画に何をもたらしたのか。彼が都市に対して抱いた理想の意味を問う。 5. 科学としての都市計画を問い直す3aで紹介した吉村氏の主張の通り、セルダは科学としての都市計画の手法を初めて編み出した人物だと言える。そして吉村

          【都市計画家列伝】第1回 イルデフォンソ・セルダは現代バルセロナに何をもたらしたか ③考察編

          【都市計画家列伝】第1回 イルデフォンソ・セルダは現代バルセロナに何をもたらしたか ②理論編

          都市計画家列伝の第1回としてバルセロナの都市拡張事業を担ったイルデフォンソ・セルダを取りあげている。第1部ではセルダの生きた時代とバルセロナ、セルダの生い立ち、そして都市拡張事業をめぐる政治的思惑について解説した。そして第2部ではセルダの都市計画思想と、彼の思いがどの程度実現されたかに迫っていく。 3. セルダの都市計画思想a) 科学としての都市計画の黎明 バルセロナ都市生態学庁やカタルーニャ先進交通センターで働いた経験を持つ吉村有司氏は、イルデフォンソ・セルダをUrba

          【都市計画家列伝】第1回 イルデフォンソ・セルダは現代バルセロナに何をもたらしたか ②理論編

          【都市計画家列伝】第1回 イルデフォンソ・セルダは現代バルセロナに何をもたらしたか ①歴史編

          はじめに:なぜイルデフォンソ・セルダか昨年の交換留学中に欧州を中心に14か国41都市を回った。その41都市の中で群を抜いて魅力的だったのがバルセロナである。そのすごさは何と言ってもストリートの賑わいにあった。道路という道路が公共空間となり、当たり前のようにカフェやレストランの座席、ベンチ、子供向けの遊具などが置いてある。どの道路でも信じられない数の人が行き交い、そしてくつろいでいた。それにとどまらず、ミクストユースで高密度な市街地、緑被率の高さ、ファサードの多様性、時折現れる

          【都市計画家列伝】第1回 イルデフォンソ・セルダは現代バルセロナに何をもたらしたか ①歴史編

          【都市計画家列伝】今こそ、都市計画史

          かつて都市計画家は大スケールの青写真を描き、巨大プロジェクトをリードしてきた。しかし現代日本の都市に強い主体は存在せず、「都市計画コンサル」「国交省/自治体の技術系職員」「地方自治体の首長/副市長」「デベロッパー」「研究者」「まちづくり系のNPO」といったたくさんの不完全な主体が時に協力しながら、時に対立しながら、街を作っている。自らが属する組織の利害に基づいて動くことは簡単だが、ひとりの「都市に関わる者=アーバニスト」として何をすべきかと考えること、そして組織としての立場と

          【都市計画家列伝】今こそ、都市計画史

          【曇天をゆく4】Tower Hamletsのバングラデシュ系コミュニティと多文化都市ロンドン ~ロンドンまちあるき~

          ロンドンに来て2か月余り、東京と最も異なっていると感じるのはその民族的多様性です。私の住んでいるエリアは学生が多いこともあり、街を歩いていても東アジア系、南アジア系、アフリカ系が多く、所謂白人のイギリス人の方が圧倒的に少数派だと感じます。実際に2011年の国勢調査では、ロンドンの人口のうち"White British"は44.9%のみであり、18.5%をアジア系、14.9%を他の白人、13.3%を黒人が占めています。 さらに驚くべきはエスニックコミュニティ(人口の大半を特定

          【曇天をゆく4】Tower Hamletsのバングラデシュ系コミュニティと多文化都市ロンドン ~ロンドンまちあるき~