そもそも初期臨床研修はなぜ重要なのか?

 簡単に言えば、自己紹介の記事で書いたように、初期研修内容によって医者としての実力が如実に変わるからです。ハイポ病院の研修医とハイパー病院の研修医では、実力に天地の差がつきえます。もちろん個人差はあり、そもそも主観・個人的な経験上での話ですが。とはいえ、これらに相関があっても不思議ではないでしょう。

 なぜ当然に思われる話をするかというと、「初期研修は別に重要ではない」と主張する人がいるからです。そう主張する根拠としていくつか想像すると、

・最初のわずか二年間だけで、しかも診療科を一か月から数か月ごとにローテーションしても得られることは少ないだろうから。

・マイナー科志望なので、将来専門としない診療科を学ぶ意義が少ないだろうから。

・どこで研修しようと、十年ほどすれば皆同じようなレベルになるだろうから。

・ハイパー病院で働くと、過労死するリスクがあるから。

(・立場上医学生を勧誘しならないので、建前としてそう主張し病院の宣伝をしている。)


とりあえずパッと思いついたものを挙げてみました。全否定はしません(できません)し、診療科によっては本当に初期研修が重要でない場合があるかもしれません。しかし私はそれでも、一般的に初期研修は重要であると考えます。その理由を以下、上記の「初期研修は重要でない説」を否定するという形式で説明します。


診療科ローテートシステムで学べるものか?
自分の専門外の診療科を研修する意義はあるのか?


 初期研修も、新制度の内科専門医研修も、ローテーションの弊害に関しては様々言われています。またローテーションに限らず初期研修制度の問題点は色々指摘されています。ただいずれにせよ、この制度がある以上は従わざるをえません。初期研修をする身であれば、文句ではなくどのように有意義にするかを考えるべきです。

 まず注目すべきは、ローテーションといっても病院によってそのスパンが異なるということです。私は、メジャー科(循環器内科、消化器内科、外科)をそれぞれ、連続三か月程度研修できる病院が良いと思います。救急科があるなら、そこでも長く研修できるとよいでしょう。

 なぜメジャー科、救急科を重視するかというと、これらで扱う疾患はどの診療科でも遭遇しやすく、かつ致死的たりうるからです。医学生の中には、自分の専門外の診療科については知らなくていい、と本気で勘違いしている人がいますが、それは違います。第一に、患者、とくに高齢者は複数の疾患をかかえているからです。慢性心不全、2型糖尿病、高血圧、脂質異常症、何々の手術歴があり~などということはごく普通です。専門外のことはさっぱりわからん、では患者を診るなんて不可能です。医者は疾患だけを診るのではなく、患者を診なければなりません。
 第二に、救急外来を担当できるようになる必要があるからです。病院によっては、自分の専門にかかわらず救急外来を担当しなければなりません。というより、総合病院の多くはそうだと思います。医者は専門の診療科だけで働くと思ったら大間違いです。救急外来では各診療科の高度な専門知識まで問われなくとも、入院が必要かどうか、どういった検査すべきか、致死的な疾患を否定できるかなど、あらゆる診療科の知識が求められます。
 第三に、検査結果の解釈など、診療科によらず普遍的に求められる知識があるからです。上記に挙げた理由と一部重なりますが。血液検査結果の解釈、画像検査結果の解釈など、当然ながら専門外の疾患・異常が見つかるかもしれません。貧血が見つかったら全員血液内科に紹介ですか?血液内科医に怒られます。胸痛があるけど心電図はまったくわからないからという理由で循環器内科に紹介ですか?深夜でも?

 ところで、初期研修を経て志望科が変わる人ってたくさんいます。学生の時には絶対~科になると公言していたのに初期研修が終わる頃には違う科を志望するようになったアイツ、なんて話よく聞きますね。これは事実です。私は初志貫徹でしたけど。実際にその科で働いてみないとわからないことはたくさんあり、学生の目から見て感じた印象とは往々にして異なるものです。そういう意味でも、自分は将来~科になるから、などと言わず、他の診療科でも研修してください。自分が思ってたのと違ってた!と十分なりえますから。

 というわけで、賛否両論あるものの、最初の二年間はメジャー科を広く学ぶメリットはあると思います。現在ベテランの先生方で、専門外(とくに小児科)のことには疎いという方が少なからずいらっしゃり、すると初期研修のローテートもあながち悪くないかな、と思うのです。あとはもちろん、研修医にどれだけ仕事をさせてもらえるかが大事です。当然ながら、量と質の両方とも重要です。質、つまりどういう研修をすべきかについては、後日改めて言及します。


長期的に見ればどこで研修しても、医者のレベルは同じようになる?


 まず、これが正しいと仮定します。すると、同じレベルになるまでの間は相対的に実力の低い医者、ということになります。例えば、初期研修で楽をした方が最終的には実力が上になる、というのであればハイポ病院で研修する理由として成立します。しかし、いずれ追いつくから、というのはハイポ病院で研修するメリットとして成立しえないでしょう。楽をしたい人の言い訳にしか聞こえません。

 そもそも、初期研修でしっかり学んだ医者とそうでない医者が、最終的に同じレベルになるなんてことが一般的にありえるでしょうか。当然ながら例外はあるでしょうし、一芸に秀でることが重要な場合もあるでしょう。ただし一般論としては言えません。なぜなら、中堅あるいはベテランの医者を見た時、医者としての実力はピンキリだからです。悲しいことに、この年でこんな誤診するのかよ、という医者はいます。私が言うなんて恐れ多いことですが、実際います。逆に、名医という言葉では表せないほど能力の高い医者もいます。将来の能力と初期研修内容の相関を示すことはできませんが、どこで研修しても将来的には同じ、というのは考えにくかろうと思います。

 

過労死やうつ病のリスクがある?


 そりゃ、有るか無いかでいうなら、あるでしょう。現時点で精神疾患を有していたり、希死念慮があるならやめた方が良いかもしれません。

 ただし強調したいのは、そもそも医者は激務ということです。診療科や病院にもよるでしょうが、医者である以上、激務を強いられる可能性は高いです。日本の医療はそのシステム上、医者の献身によって支えられています。自分が休みたいといくら思おうが、患者に何かあれば24時間対応しなければなりません。応召義務が医師法で定められており、労働基準法云々以前に、患者が来たら診察することが義務付けられています。

 医者であることと、激務を避けることを両立するのは難しいです。激務に耐えられるかわからない、自信がないからといってハイパー病院を避けるのは一時しのぎにすぎません。三年目以降にハイパー病院で働くことになるかもしれないという可能性を考えているでしょうか。多忙により心身を害するから、というのはハイパー病院を避ける理由として一見正しそうで、長期的に見れば理由として成立しません。本当に激務・多忙が嫌なら、医者を辞めるべきでしょう。



 以上記載した通り、初期研修をしっかりすることは重要です。ハイポ病院で研修するのはデメリットがメリットをはるかに上回ります。二年間楽に過ごしたあとどうなるかは、アリとキリギリスの童話から想像できる通りです。

 今後、初期研修選びのポイントをさらに詳しく書こうと思います。もっとも、最近伝染病のせいで見学も医療現場も私の時と違うようにも思いますが。

以上


 

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