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『艦女バトルライン』第一話【週刊少年マガジン原作大賞連載部門応募作品】

雨が降りしきる山間道路。
二人の青年が側溝にはまった猫を助けていた。
二人は合羽を着ていて、
タレ目で長身のキョウジが懐中電灯を照らし、
童顔のマコトがやさしく足を取りはずす。
「よし!外れた!」
猫はぴょーんと車道の中央に飛び出す。
「おい、危ないぞ!」
つられて車道に出る二人。
猫はしれっと道路の向こう側に去っていった。
「ふぅ…」
ひと息ついて見上げると巨大なトラックが。
立ちすくむ二人。
「えっ…」
「予定と違くね?」
衝突。
暗転。

扉絵・南海の島のはるか上空から落下する二人。
見開きで上空から見た島の全景。
画面手前に空中のマコトとキョウジ。

叫びながら落下するマコトとキョウジ。
砂浜に柱状の砂しぶきが二つ上がる。
双眼鏡を持ちながらその方向を見る少女ムサシ。
ムサシはロングヘアで背が高く軍服を着ている。
「なんだありゃあ?」
やや呆れ顔。

砂浜でうめくマコト。
キョウジは砂に顔をうずめて動かない。
遠くから近づく何台かのジープ。
マコト達は軍服を着た一団に取り囲まれる。
「目標を発見…十代から二十代の男二人」
誰かが無線で話している。
二人の前には、ライフルを携行したムサシ。
ムサシは二人にライフルを向ける。
「お前所属は?名前を言え」
マコトがあせり顔で答える。
「えっと…僕はマコトでこっちはキョウジ。
 いちおう…大学生?」
二人を目で見下ろしライフルを縦に構え、
親指を立てて後ろに向けるムサシ。
「怪しい。連れていけ」

兵士に囲まれて歩いて連行される二人。
兵士の半数は浅黒い肌で同じ顔の少年である。
人のいない海岸近くの街を歩く。
街には破壊された跡がいくつかある。
それを見て思案するキョウジの顔。
「戦争でもやってんのか、あんたら」
キョウジが少年兵にたずねる。
「いや、アレは…うぅん、まあ、やってる」
バツの悪そうな顔をして答える少年兵。
ハテナを浮かべるキョウジ。

ミノス諸島人間軍拠点・第一基地。
机に投げ出される数枚の書類。
「…で」
基地内のやや小さめの一室で、
机をはさんで向かいに座るゴツイ男性軍人。
「お前たちの言ってる話は理解しがたいが、
 とりあえず高等教育は受けているようだから」
萎縮して話を聞くマコトとキョウジ。
「お前たちは艦女指揮官に配属だ!よかったな」
「はぁ!?」
驚く二人。
「仕事は艦女サマの戦術サポートと生活指導だ」
にっこり笑う男性軍人。
「いや僕たち元の世界に帰りたいんですけど」
「いきなり指揮官って何!?そもそも艦女って」
口々に抗議するマコトとキョウジ。
「よぉ配属じじい!」
バァン!と勢いよく鉄のドアを開けるムサシ。
その後ろになぜか女子高生風の少女ナガト。
ナガトの髪はふわふわのツインテール。
叩き開けられた分厚いドアは壊れて落ちる。
「配属早々壊して回らんでくださいよ大佐殿」
「うっせーな、で、コイツら?」
ムサシは立ち上がったマコトに顔を近づけ、
苦虫を噛みつぶしたような顔で睨みつける。
「マコト、キョウジ、
 お前たちこの二人の担当な」
男性軍人が告げる。
マコトがあわててムサシに話しかける。
「君たちの生活指導を担当するマコ…ぐふっ!」
ムサシに蹴られたマコトが壁に叩きつけられる。
「生活指導じゃねぇ、お世話係だ」
ムサシはジト目でマコトを見下して言う。
ムサシは呆然とするマコトを引きずっていく。
「じゃああーしはこっち〜」
キョウジの耳をつかんで引っ張っていくナガト。
いたた、と言いながら引っ張られるキョウジ。
「腕力じゃかなわねぇからな!
 せいぜい頑張れよ!」
マコトとキョウジに声をかける男性軍人。
マコトとキョウジが入り口から連れていかれる。

人間軍・艦女宿舎。
「よしお前ら!モノの位置は一発で覚えろよ」
マコトを引きずりながらムサシが言う。
艦女達の部屋は広く、寝室やバスルームもある。
「帰ったらさっそくアレだよね〜」
制服をハンガーに掛けながらナガトが言う。
「ア、アレ?」
聞き返すマコト。
ダンッ!とマコトに壁ドンしてムサシが言う。
「帰ったらするコトなんて決まってんだろ?」

風呂!バァン!

「着替え!タオル!覗いたらぶっ殺すからな!」
バスルームでシャワーを浴びる艦女二人。
(カーテン越しのシルエットで姿は見えない)
マコトとキョウジはカーテンの外に控える。
バスルームにはカゴに入った着替えなどがある。
マコトはそっぽを向きムサシにタオルを渡す。
「いっしょに浴びる〜?」
カーテンから顔だけ出して言うナガト。
「ふっざけんなテメー!」
そっぽを向き怒りながらタオルを渡すキョウジ。
カーテンから出したムサシの腕。
二の腕のあたりから金属の義腕になっている。
一瞬その腕に目を奪われるマコト。
カーテンが開き鬼の形相のムサシ。
(肝心な所は見えない)
殴られバスルームの壁を貫通するマコト。

飯!バァン!

宿舎の食堂のキッチンで中華鍋を振るマコト。
「ふ〜ん…」
椅子にどっかと座り腕を組み、
料理をするマコトを片目をつぶって見るムサシ。
目の前のテーブルには料理が並んでいる。
「飯の用意ぐらいは出来るじゃねぇか。
 ムコにもらってやってもいいかもな!」
かんらかんらと笑うムサシ。
隣で静かに箸を口に運ぶナガト。
背中を向け包丁を持ち、
「おかわりいるかー?」
と訊くキョウジ。

寝る!バァン!

ベッドで眠る艦女二人。
「帰ったらするコトって風呂、飯、寝る、か…」
毛布にくるまり寝室の外に座り込むマコト。
数冊の本をドサッと置いてキョウジが言う。
「早急に頭に叩き込んでおけってさ」
マコトの隣に同じように座るキョウジ。
「これは…指揮システム、指揮官心得…?」
本を手に取り言うマコト。
「今夜は寝かせねーぞ。
 戦場でアイツらに遅れをとってたまるか」
真剣な顔で言うキョウジ。
「キョウちゃんって、
 そういうのすぐムキになるよね」
本に目を通しながら言うマコト。

「艦女とは古代文明の遺物『人魚鉱』で作られた
 艤装(ぎそう)を身にまとい戦う兵士である」
「YES」
「『人魚鉱』はXX型性染色体遺伝子に反応して
 パワーやエネルギーを生み出す」
「YES」
「艦女は希少な重要戦力であるため、
 指揮官は命を賭しても
 艦女の生還を優先させねばならない」
「YES」
「指揮官は艦女の言う事を
 すべて聞かなくてはいけない」
「YES」
「指揮官は艦女が空腹の時はおやつを、
 眠くなった時はベッドを用意せねばならない」
「YES」
「なんだこのテキスト…」
キョウジがポツリとつぶやく。
夜は更けていく…。

「よーし起きろテメーら!」
満面の笑顔でマコトたちを起こすムサシ。
カンカンカン…と遠くで鐘の音が鳴っている。
ハッ!と眠そうな顔で目を覚ます男二人。
「すぐに公園に向かうぞ!40秒で支度しな!」
ビッ!とムサシが親指を後ろに向けて言う。
広場で点呼を取る少年兵たちを尻目に、
機嫌良く公園へ向かう艦女二人と、
その後をついて行くマコトたち。

「があぉ〜!飛行戦艦だぞぉ〜!」
嬉しそうにおどけるムサシ。
ムサシに向かって思い思いにはしゃぐ子供たち。
「ほぉ〜ら、悪い獣人軍だぞぉ〜!」
マコトの足を持って、右に左に振り回すムサシ。
悲鳴をあげながら振り回されるマコト。
それに向かいかんじょびーむ!とか言う子供達。
「キョウジって言ったっけ?ちょっと意外?」
ベンチに座って二人を眺めながら言うナガト。
少し離れて並んで立って同じく眺めるキョウジ。
「え?あ、あぁ。まぁな」
「ムサシちゃん子供には優しいのよね〜」
ナガトとキョウジの後ろ姿。
視線の先にはしゃぐムサシとマコトと子供たち。
「で、一晩お勉強して艦女のことは分かった?」
「女の子を前線で戦わせるなんて理解に苦しむ」
立ったまま答えるキョウジ。顔は見えない。
「ばーか。わかんない?」
「あーしたちは覚悟を持ってやってんの」
ため息をつきあきれた様に返すナガト。
「あんまりナメたこと言わないで」
ナガトのシリアスな顔のアップ。
「あー!もー!そんなんじゃなくてだな!」
いらだつキョウジがナガトに向きなおる。
「そもそもアンタらのやり方じゃ…ぶべっ!」
投げられたマコトがキョウジの胸に飛び込む。
「おー!わりーわりー!飛んでっちまった!」
向こうでぶんぶんと手を振るムサシ。
にっこり微笑んで手を振るナガト。
「…そういう…とこ…だぞ…」
力無くうめくように言うキョウジ。
突然鳴るサイレン。
ムサシとナガトの顔が引き締まる。
倒れたままポカンとするマコトとキョウジ。
おびえる子供たち。
遠くの空に編隊を組む巨大な空飛ぶ戦艦の影。
誰かが叫ぶ。
「敵襲!」
「獣人軍の飛行戦艦だ!」

「お前らコマンドウォッチの使い方
 おぼえてんだろーな?」
走りながらムサシが言う。
四人は人間軍拠点の街中を走っていた。
腕時計型の機器を構えるマコトとキョウジ。
「「指令(コマンド)!艤装転送!」」
二人がそう言うと、
二人の周囲に浮かんだ映像が明滅し、
ムサシとナガトの艤装が転送される。
一瞬立ち止まり艤装をまとうムサシとナガト。
二人の武器は戦艦の砲台をかたどった連装砲だ。
それぞれの左腕には碇の形をした兵器も見える。
「街に入る前に迎撃するぞ!
 お前らは後から追ってこい!」
「じゃ、またね〜」
ムサシとナガトはホバーユニットで宙に浮くと、
飛行戦艦の向かってくる海岸に向かい飛び出す。
近くのジープに乗り込み後を追う男二人。

海上からムサシとナガトが連装砲で砲撃を行う。
次々と堕とされていく飛行戦艦。
ムサシたちにジェットスキーで追いつく男二人。
「ったく遅せぇぞ。
 索敵システムの持ち腐れだろうが」
悪態をつくムサシ。
「ちっ、指令(コマンド)!索敵システム!」
キョウジがコマンドウォッチを作動させる。
「12時の方向に大きな反応!いや…あれは…」
「バカ…目視でもわかるぜ…マジかよ…」
唖然とする一同。
上空を横切る巨大な影。
ゆうに都市の大きさを超える超巨大戦艦が、
砲撃を繰り返しながら
拠点に向かって落下を開始していた。

「マコト!落下地点を予測しろ!」
「わ、わかった!」
拠点の方向へひるがえり、
走り出すムサシとマコト。
あっという間に小さくなる。
「司令部に連絡…いや意味無いか。
 残党の処理だね。索敵して」
「了解」
ナガトの指示に返答するキョウジ。
(あの大きさの落下物を
 いったいどうするんだ…?)
拠点の方向を見て懸念をいだくキョウジ。

海上を疾走する二人。
「落下地点、前方20km先の砂浜!」
マコトが声を張りあげる。
「なぁお前!オレの義肢に気づいたよな!」
「何の話!?」
互いに声を張りあげる。
「お前に同情される筋合いはねぇぞ!」
ムサシが言う。
マコトは応えない。
「オレは目的のために自分の体を捨てたんだ!」
さらに加速し、砂浜にたどり着くムサシ。
巻き込まれない様に停止するマコト。
マコトの左眼が「録画」を開始する。
「うおおぉぉぉ!」
両腕をクロスさせ、戦艦の「着弾」にそなえる。
超巨大戦艦の砲撃がムサシに向けられる。
しかしムサシはびくともしない。
ゆっくりと、確実にムサシに迫る戦艦。
周囲の建物が吹き飛び、衝撃が起こる。
「うおおぉぉぉぉっ…ああああぁぁーっ!」
がっちりと戦艦を受け止め、上空へ持ち上げる。
ゴッ!と戦艦が上空へ吹き飛ぶ。
「オレは、この力で!」
超巨大戦艦は上空の彼方へ。
日差しが降り注ぎ、ムサシを照らす。
「人間軍全員、守ってやる!」

第一話 異世界、指揮官、"艦女"が二人 完

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