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『艦女バトルライン』第七話

ケハラの丘・精霊鉱採掘場
「んっ…」
ドレスを着た女性が目を覚ます。
(「人間軍ミノス方面軍元帥・ローレライ」と
 改めて説明書きを入れる)
「目を覚まされましたか」
目を覚ましたのは傾いた飛行戦艦の甲板。
飛行戦艦は灯りのない石の建造物に突き刺さり、
崩れかけた壁面から光がさしている。
少し離れた位置でサイレン中将が
マコトたち第一艦隊の面々を手当てしている。
第一艦隊の面々は皆意識が無いように見える。
「ここは…」
「獣人領の丘に墜落したようです」
サイレンが説明する。
ローレライは頭を振って気を確かにする。
「サイレン、他の兵士達はどうしたのかしら?」
ローレライが問う。
「それが…船内には誰も」
ローレライは壁面の外に目をやる。
青空が見える。
「い〜い天気ですわね〜。
 私、お外の空気でも吸ってこようかしら〜?」
「お気をつけて」
片目をつぶり、
冗談めかした表情で言うローレライに対し、
ローレライを見据えて真顔で答えるサイレン。

ローレライが建造物の上に出ると、
苔むした丘に遺跡が広がっていた。
出てきた建造物の他にも、
神殿めいた柱がいくつも残っている。
画面手前の飛行戦艦の船尾に背を向け、
画面奥に広がる遺跡を見るローレライ。
「…どうやら精霊鉱の採掘場のようですわね」
次の瞬間、
ローレライに背後から人魚鉱の槍をふるった
猫耳の獣人少女が「何か」に弾き飛ばされる。
「しっかり狙えって言っただろぉー!?
 に、人魚鉱扱えるのお前しかいないんだぞ!」
さっきまでとは打って変わって
鋭い表情で後ろを一瞥するローレライ。
「待て!様子がおかしい!」
ローレライが建造物の下を見ると、
飛行戦艦に乗っていた兵士達が
建造物から離れた広場に集まっている。
獣人の少女を叱った猫背の若い兵士と、
制止した筋肉質の中年兵士が見える。
おびえる少女にローレライは手を差し伸べ、
「怖い思いをさせて申し訳ありませんわ。
 中にいるサイレンという者に
 保護を求めなさい。分かるわね?」
と、優しい笑顔で告げる。
少女は激しく頷くと、
軽い身のこなしで建造物の中に降りていった。

「説明を求めますわ、カンベエ名誉軍曹」
兵士達を見下ろしたローレライの声が響く。
「僭越ながら申し上げますがねェ!元帥閣下!」
届くように声を張り上げる中年兵士。
「俺たちァもうこりごりなんですよ!
 地位も名誉も与えられずこき使われるのは!」
次いで声を張り上げる若い兵士。
「兵士達の待遇改善を求めます!
 さもなくば、閣下の首を獣人軍に引き渡す!」
口元に手を当て、高笑いするローレライ。
「地位はともかく『名誉』は与えていなくて〜?
 たかが人間の男がそれ以上を求めるなんて…」
冷たい表情で嘲りの笑みを浮かべるローレライ。
「傲慢じゃありませんこと?」

「撃てぇっ!」
広場の兵士達が一斉にライフルを発砲する。
「アンカー!」
ローレライが「詠唱」すると、
ローレライの周囲の空間にいくつもの穴が空き、
そこから鎖のついた「碇」が飛び出してくる。
「なッ…!?」
動揺するカンベエ。
広場に着弾するいくつもの「碇」。
兵士達の陣形が崩れる。
「なンだありゃあ!?
 IKARIシステム…じゃねぇな!?」
カンベエが叫ぶ。
「あらあら、
 これはもう生かして返せないですわね。
 知られてしまいましたものね、
 ミノス方面軍の元帥が『人魚族』だって…!」
「!」
カンベエの顔が引きつる。
「ではご機嫌よう」
ローレライは笑顔でフィッシュ、と詠唱する。
広場の地面に大きく黒い穴が空き、
その中で巨大な深海魚ががぱぁ、と口を開く。
絶望の表情を浮かべ、
落下を始める兵士達。

髪の長い女性士官の姿。
その女性士官は
ローレライの前に飛び出してきて、
「てめぇ!ふっざけんなぁーーーーっ!」
と叫ぶ。
伸ばした一つの碇と鎖が兵士達に巻き付く。
「ふんぬぅーーーーっ!」
建造物の上に立つローレライ。
その目前、突き出した飛行戦艦の船尾に。
一本釣りの様に兵士達を引っ張り上げる…

ムサシがいた。

「だっしゃらーーーーいっ!」
勢い余って空中に放りだされる兵士達。
その多くは建造物の上に放り出される。
うめき声を上げる兵士達。
「ムサシ大佐…何をしているのかしら」
ローレライがムサシに問う。
「何って…釣り?」
IKARIシステムを収納し、
ぶっきらほうに答えるムサシ。
「元帥閣下だか何だか知らねーけどさ」
後ろを振り向いてムサシが言う。
「俺の邪魔するのやめてくんない?」
「邪魔…?」
いぶかしげな表情を浮かべるローレライ。
サイレンとマコト、キョウジ、ナガトが、
建造物の上に登ってくる。
「そ。俺の邪魔」
「何を言っているか分かりませんわ」
「だぁーかぁーらぁー」
片目をつぶって真面目な表情のムサシのアップ。
「俺は人間軍全員守るんだって」
「…!」
苛立ち半分、驚き半分の表情のローレライ。
「つまり、貴女は単なる妄言の実現の為に…
 反乱を起こした兵士達をかばい…
 この元帥閣下の私に逆らったという事!?」
「そ」
ローレライが下を向く。
「呆れましたわ…そのトンデモスペックに加え
 そのふざけた行動規範…」
くっくっくっ、と笑いが込み上げるローレライ。
ふっふっふっ、おーっほっほっほ!と
その笑いは高笑いに変わる。
「サイレン、前哨基地の戦況は?」
「大方の占領が終わったと報告がありました」
「ならば目的は達しましたわね」
ローレライはムサシに向き直り、
「貴女のふざけた活躍によって
 前哨基地占領は完了しましたわ。
 その功績を考慮し、
 反乱分子48名の処分は保留とします。
 以後、48名の指揮は貴女が執るように」
「ええーっ!」
「嫌な顔しない」
「ちぇーっ」
ふ、とローレライは表情を緩め、
「準備が終わったら前哨基地に戻りなさい。
 一週間の静養を命じます」
「そりゃありがたいが…皆負傷してるしな」
と、キョウジ。
「あと、私の正体は極秘にするように」

後続の人間軍が採掘場に到着し、
サイレンの運転するジープに乗って、
ローレライは採掘場を去って行った。
「なんかさぁ…気に入られてなかった…?
 ムサシ…」
あはは…と笑いながらナガトが言う。
「知らね」
にべもなく返すムサシ。
「それよりも」
後ろをちらーりと見るムサシ。
「よろしく頼むぞ!我が配下たちよ!」
カンベエの背中をバンバン叩くムサシ。
その後ろに控える元反乱分子の兵士達。
ムサシはどっかと近くの木箱に座り、
「ビシバシ根性叩き直すからな」
と言い放つ。
ゾッとする兵士達。
「まぁ前線で静養出来るのはありがたいね。
 今後の作戦にかなり大きな差が出る」
マコトが言う。
「よっしゃー!バカンスじゃーい!」
全身で喜びを表現するムサシだった。

第七話 反乱分子と"意志と意地" 完

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