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『艦女バトルライン』第三話【週刊少年マガジン原作大賞連載部門応募作品】

星の明るい夜。荒れ果てた島の集落。
ムサシは獣人族に連れられ、集落の中を歩く。
人気は無く、かがり火がかかげられている。
生えているヤシの木は焼け焦げ、
茅葺きの住居はところどころ崩れている。
「あー、なんか悪いな。
 さっきの戦闘に巻き込んじまったか?」
頭の後ろで手を組み、悪びれもせず言うムサシ。
「建物に大きな被害はありませぬよ…
 火事も大事になりませんでしたしのぅ」
「おぉ、そうか?」
振り返りもせず言う獣人族の長老。
ムサシは無邪気に返事をする。

扉絵・水面の上にそれぞれバラバラに立つ、
艦女二人と指揮官二人。
一番手前のマコトの左目がこちらに向けられ、
魚眼レンズで見たように強調されている。

ムサシは、住宅に囲まれた広場に通される。
「宴にしますでな。
 ここで待っていてくだされ」
広場には敷物がされ、テーブルが置かれている。
低く大きなテーブルには飾り付けがされており、
料理だけが置かれていない。
テーブルの手前にどっかと座るムサシ。
沈黙するムサシ。
松明の明かりや音とともに、
「おまたせしました、人間の方」
という長老の声がかかる。
何人かの獣人が大きな台を持ってくる。
その台には、盛り付けられた獣人の子供の死体。
反射的に立ち上がったムサシの体を、
後ろにいた獣人たちがテーブルに押さえつける。
涙目の若い女性獣人が持った碇をムサシに乗せ、
「スポイルっ…!」
と唱える。
ムサシの輪郭がブレる。
抵抗出来ず、顔を死体に向けさせられるムサシ。
「これがお前たちのしたことだ」
テーブルの向こう側で長老が言う。
「違う…これは俺たちが望んだことじゃない…」
力無く言うムサシ。
「あの世で悔やむんだな」
獣人がそう言って、
ムサシのこめかみに銃口を突きつける。
撃鉄が上がる音。
思わず目をつぶるムサシ。

突然レーザーで撃ち抜かれる獣人。
撃った方にはマコトが金属製の腕を構えていた。
手のひらの銃口から煙が出ている。
マコトの上半身は、
アーマーに覆われた金属で出来ていた。
次々と無言で獣人たちを撃つマコト。
大柄な獣人がマコトに向かって槍を振るい、
何人かの獣人が銃を撃つ。
マコトはバク転をして槍をかわし、
顔を狙った銃撃を腕で受け止める。
マコトは再びレーザーを放ち、
獣人たちは一人、また一人と倒れていく。
かがり火が倒れ、テーブルや敷物に火が付く。
マコトは呆然とするムサシを、
広場の端に引きずっていく。
燃え上がるテーブル。
「違う…違う…
 そんなつもりじゃなかったんだ…
 いや…いやだ…
 ごめんなさい…ごめんなさい…」
着衣が乱れ、肌もあらわになったムサシが、
子供のように泣きじゃくっている。
「大丈夫、顔を上げてごらん、ムサシ」
ムサシは顔を上げる。
炎に照らされて逆光になるマコトの姿。
「ムサシ、
 僕は212X年の地球からやって来たんだ」
「ちきゅう…?」
ムサシは意味が分からずつぶやく。
「僕たちの世界は戦いばかりの世界だった」
「だから、少しはムサシに
 教えてあげられることがあると思うんだ」
「でも、君たちの代わりに
 戦ってあげることは出来ない」
「そんなことをしたら、
 この世界の歴史が変わってしまうからね」
「この戦争は、君たちが終わらせるしかない」
「この程度のことで泣いていてどうするんだい」
「戦争なら、殺し殺されるのは当然だろう?」
「だから」
マコトはムサシに向かって手を差し出す。
「立って、戦え。殺すんだ、ムサシ」
マコトは自然な笑顔でそう言った。
その向こうには、
遠くの上空から飛行戦艦の艦隊が迫っていた。
「第二、第三艦隊は散開!
 我々第一艦隊は中央を叩く!」
キョウジの声。
たくさんの艦女や兵士たちが、
ムサシたちを追い越し進軍していく。
交戦。
艤装を身にまとい、戦うムサシの姿。
ムサシは泣きながら戦っている。
暗転。

「…生き残った獣人は、タウルスという指揮官の
 命令だったと言っている」
海岸の軍営。
中空に浮かんだ映像を見ながらキョウジが言う。
「軍営に獣人たちが来た時点で、
 すでにあの集落に生存者はいなかったそうだ」
憮然とした表情でキョウジが続ける。
毛布に包まれ座り込み、
うつろな目で地面を見つめるムサシ。
「最初から騙し討ちを仕掛けるつもりで
 アイツら自身で集落を滅ぼした…
 と考えないと辻褄が合わねーんだよな」
頭をかくキョウジ。
「許せない…」
うつむき憤るナガト。
「我々地球軍第七援軍部隊は、
 君たち人間軍第一艦隊の指揮下に入る。
 それでいい?」
マコトがナガトにたずねる。
「はい」
答えるナガト。
「でもよ、
 まだ他の隊員も見つかってないんだぜ?」
マコトに言うキョウジ。
「もう正体はバレてしまったんだ、
 それしかないじゃない、キョウちゃん」
「まぁな…」
「あと、なるべく戦闘義体の起動は避ける事。
 歴史の修正力が働くのを避けるためにね」
「お前が言ってりゃ世話ねーけどな」
「じゃああーしからいい?」
片目をつぶって手をかざし、ナガトが言う。
「本時間より次の作戦行動を開始します。
 目標は敵指揮官タウルスの拘束。
 作戦名はアリアドネ。
 絶対捕まえるよ、いいね?」
「了解」「りょーかい」
マコトとキョウジが返答する。
ムサシは虚ろな目でうつむいたまま黙っていた。

第三話 "民間人"と艦女の苦悩 完

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