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『艦女バトルライン』第六話

艦橋だった物に仰向けで背中をあずけるムサシ。
その奥で艦橋の機器類と格闘するローレライ。
マコトとキョウジの後ろに座り込むナガト。
そして忍者刀を構えたリザードと、
それに相対して立つマコトとキョウジ。
三人の周囲を轟々と風が吹き抜ける。

「異邦人、ここは引け」
「は?」
唐突に言うリザードに不意を打たれるキョウジ。
「私の目的はその艦女二人だ。貴様らではない」
「へぇ…」
キョウジの表情が怒気をはらむ。
汗をたらしそれを見るマコト。
「提案はありがたいが、二人とも同僚なんでね」
軽く手をかざして言うキョウジ。
「『我々』の歴史も知らぬくせに…!」
「貴様らにとっては所詮他人事だろうが!」
裂ぱくの気合いを放ち、威嚇するリザード。
ビリビリと空気が震える。
「マコト、二人には黙っとけよ」
前を向いたまま言うキョウジ。
「了解」
自然に返事するマコト。
「アンタらの戦う理由はどーでもいいわ!」
「女の子が斬りつけられてるんだぞ!
 黙って見てられる訳ねーだろ!」
キョウジも声を張り上げる。
動けないままのムサシ。
座ったままうつむくナガト。
「フッ…フハハハハ!」
目を見開き笑い声をあげるリザード。
「そんな理由か!バカらしい!」
キョウジに歩み寄り、
ぐいと覆面を下げるリザード。
整った顔があらわになる。
「私も女だ。どうだ?殴れるか?」
ゴッ!
次の瞬間、キョウジの鋭いフックが
リザードの頬にクリーンヒットした。
思わず倒れ込むリザード。
「敵に色目なんか使うか、アホ」
倒れたリザードをジト目で見下げるキョウジ。
「おのれえぇぇ…っ!」
頬を押さえて怒りをあらわにするリザード。
間合いを取り忍者刀を構えると、言った。
「ならば殺す!後悔するなよ異邦人!」

リザードは白目をむきだらんと腕を下げ、
なにごとかつぶやく。
「……ック……オン……」
ギン!
キョウジをにらみつけるリザード。
キョウジに届かない間合いで、突然刀を振るう。
「…?」
いぶかしむキョウジ。
次の瞬間、
キョウジの胸部が何かで斬りつけられる。
驚愕するキョウジ。
傷を押さえ、膝をつくキョウジ。
(やべぇ…とっさに身を引いたがこれは…)
傷は深く、どくどくと血が流れる。
「フン…」
笑みを浮かべるリザード。
リザードはさらに刀を振るう。
リザードが刀を振るうたびに、
何者かに切りつけられるキョウジ。
キョウジはうずくまり、ガードをしつづける。

いったん手を止めるリザード。
フフン、と余裕の笑みを浮かべる。
傷だらけで顔をしかめ前を向くキョウジ。
「マコト、義体を使ってもいいか?」
前を向いたまま笑顔で問うキョウジ。
「ダメだよ。歴史干渉率が高すぎる」
構えたまま表情を変えず言うマコト。
舌打ちするキョウジ。
(どうやって切りつけられるのか分からねぇ…
 そして相手はこちらの間合いの外だ。
 何か方法はないのか)
「わかった!キョウジ!」
吹き抜ける風の向こうからナガトが声をかける。
「そいつは『精霊鉱』の能力を使ってる!
 獣人しか使えない力だ!」
「たぶんその刀か胸当てが精霊鉱なんだ!」
「あとキョウジ!後でひっぱたく!」
「チッ、聞こえてたか」
そう言って、何かにピンとくるキョウジ。
「獣人しか使えない…リザード…トカゲ…
 届かないのに当たる攻撃…もしかしたら」
「マコト、合図をしたら同時に攻めるぞ」
「OK」
キョウジの指示に答えるマコト。
キョウジはリザードに向けてダッシュする。
「!」
間合いの外にも関わらず後ろに引くリザード。
「まだ動けるのか貴様!」
また刀を振るうリザード。
しかしキョウジがスウェーをすると、
どこからも攻撃はやってこない。
今度は後ろに引くキョウジ。
リザードは前進し、突きを繰り出す。
その瞬間、キョウジが見えない何かをつかんだ。
突きを出したまま動かなくなるリザード。
その顔に動揺が見える。

「貴様…!」
「リザードとはトカゲのこと。
 知ってるよな、トカゲと同じイグアナ下目に、
 光の屈折を利用して目をくらます動物がいる」
「…気づいたかっ…!」
「そう、カメレオンだ」
「『精霊鉱』が獣人にしか使えないなら、
 その源は獣の遺伝子…
 お前の場合はカメレオンの力だったって訳だ」
「カメレオンは光の屈折を変化させる。
 転じて自分の像をずらすプリズムってとこか」
腕を締め上げられたリザードが、
思わず刀を取り落とす。
リザードの虚像がキョウジの前に収束する。
「終わりだな、リザード」
腕を振り払い間合いを取るリザード。
「行くぜマコト!」
マコトとキョウジが
一糸乱れぬコンビネーションで
リザードに拳や蹴りを繰り出す。
攻撃をくらうリザード。
リザードはあっという間に
甲板の端に追い詰められる。
リザードは飛び降りたかと思うと、
手首からワイヤーを伸ばし、
甲板の端にフックを引っ掛けて降下する。
「しまった!逃げられる!」
マコトが叫ぶ。
「てめぇどこまで半端なんだ!
 ワイヤー使ったらスパイダーだろ!」
キョウジが悪態をつく。
リザードは前哨基地の屋根に降りると、
そのままダッシュして見えなくなる。
「追うか!?」
「無理だ!降下用の装備は間に合わない!」
あせるキョウジとマコト。
次の瞬間。
戦艦の逆の端から飛び上がってくるリザード。
その手には何本ものクナイが握られ、
表情には完全な殺意が現れている。
マコトとキョウジが気付くが反応出来ない。
勝利の予感に顔を歪めるリザード。
そこに飛び出してくる影。
ムサシが狙いすましたように飛び込んでいる。
「てめえぇぇぇ!お返しだぁーーーーっ!」
ムサシの鉄拳が飛ぶ。
衝撃波が走り、リザードの体はくの字に曲がる。
胸当てを打ち砕き、骨をも砕く鉄拳。
白目をむき、落下するリザード。
マコトもキョウジもナガトも目を見開く。
着地するムサシ。
「うっし、交戦終了!」
ポーズを決めるムサシ。

次の瞬間、大きな衝撃が走り飛行戦艦が傾く。
艦橋だったモノから出てくる、
ローレライとサイレン。
「アレだけ破壊されたら仕方ありませんわね〜!
 この船はもうじき墜落しますわぁ〜!」
ローレライが引きつった笑顔を浮かべて言う。
マコトたちに緊張が走る。
飛行戦艦は激しく揺れながら前哨基地を抜け、
遺跡のような露天掘りの鉱山へと堕ちていく。
動揺し慌てふためくマコトたち。
衝撃。
鉱山に墜落した飛行戦艦。
体を打ち、気絶する一行。
堕ちた飛行戦艦から煙が上がっていた。

第六話 戦う理由と"精霊鉱" 完

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