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『艦女バトルライン』第五話

ミノス諸島北部・上空
「カ〜ッカッカッカ!最高の気分だぜ!」
船首に立ち腕を組み高笑いするムサシ。
マコトたち四人は飛空戦艦に乗っている。
周囲には一般兵や少年兵の船員もいる。

キョウジはコマンドウォッチを起動させて、
中空の映像に向かってしゃべっている。
「マルロクマルマル、天気は快晴。
 俺たちは拿捕した飛行戦艦で
 ミノス北部戦線に向かっている。
 ここの拠点を落とせば、
 タウルス軍の本拠地ラビュリントス付近まで、
 一気に戦線を拡大できる。
 俺たちは…」

ムサシがガッ!とキョウジの頭をつかむ。
「てめぇ俺が感傷に浸ってる時になんだぁ?
 ちまちまちまちま航空日誌だぁ?
 興が醒めるんだよ。今すぐやめろ」
「感傷の意味わかってねぇだろお前」
負けずに言い返すキョウジ。
「い・い・か・ら・や・め・ろ」
「はぁー?それは『命令』か?」
ぎゃあぎゃあぎゃあとじゃれあう
ムサシとキョウジ。
「貴様らァー!何を騒いでいる!
 ローレライ元帥閣下の御前であるぞ!」
歩いてきた黒髪の将校が怒声を上げる。
「やかましいですわ、サイレン中将。
 サイレンだけに!」
口に手をかざし、
おーっほっほっほ!と高笑いする、
縦ロールの髪にドレスを着たお嬢様。
「「誰だっけ」」
二人がお嬢様のほうを見たまま声をそろえる。
「なっっ…!?」
お嬢様がたじろぐ。
「サイレン、改めて紹介を」
「はっ」
すました顔のお嬢様が将校にうながす。
「このお方こそミノス方面軍元帥、
 ローレライ閣下にあらせられるぞ!
 と、いうか乗船時にご紹介したはずですが」
手でローレライを指し、汗をたらすサイレン。
「まぁいいですわ。
 気安くするように言ったのは
 わたくしですもの」
そう言って二人を見つめるローレライ。
「そもそも閣下の護衛ではなかったのですか、
 アナタたち」
サイレンが首をかしげて問う。
「あー、シンゲンのジジイがそう言って
 飛行戦艦の使用許可出したんだっけ」
ムサシが頭の後ろで手を組み言う。
「なっっ…!?このわたくしをダシに!?」
動揺するローレライ。
「しつも〜ん!ミノス方面軍って、
 結局なにが目的なんだ?」
手を挙げて元気よく質問するムサシ。
「もちろんミノス諸島の獣人軍の殲滅ですわ〜!
 殲滅の為なら手段は選びませんことよ?」
ムサシはローレライに近づき、
口元に手を当てる。
ヒソヒソ話のジェスチャーだ。
「じゃあさ、おいぼれジジイ副司令にして
 俺が第一拠点の司令になるのもアリだよな!」
ムサシに合わせて口元に手を当てるローレライ。
「そういえば貴女旗艦を二隻落としてましたわね
 考えてやらないこともないですわよ〜!?」
おーっほっほっほ!と高笑いするローレライ。

数時間後、
雲海を抜けると
地上に獣人軍の前哨基地が見えてくる。
「よし!砲撃用意!」
キョウジが手をかざして号令する。
その瞬間ムサシが笑顔で碇を甲板に叩きつける。
「スポイル!」
動力がストップし、自由落下する飛空戦艦。
「何でだああぁぁーーーーっ!」
叫ぶキョウジ。
必死に船にしがみつくマコトたち。
地上に迫ったところで、
ムサシは碇を持ち上げスポイルを解除する。
ふたたび動力が起動し、
ギリギリ墜落を避ける飛行戦艦。
キョウジがムサシの胸ぐらをつかむ。
「てめ何スポイルで高度落としてんだ!
 ってか高度有利取ってたのに
 何で下まで降りんだよ!」
「前哨基地潰さなきゃ始まんねーだろ!
 ちぃーまちま砲撃してたら日が暮れるわぁ!」
負けずに言い返すムサシ。
「はぁ?砲撃しないでどうやって攻めんだよ!」
いぶかしむキョウジ。
「いいか、よく見てろよ」
ふふん、と笑って離れるムサシ。
飛行戦艦は前哨基地すれすれを飛んでいる。
ムサシは右舷近くに立つと、すれ違いざまに
前哨基地の監視塔をボコォ!と引き抜いた。
「そぉ〜れお掃除だ!」
ズゴゴゴゴ!と監視塔を振り回し、
ほうきで掃くように前哨基地を破壊していく。
「せっかく作ったのに残念だったなぁ!」
浮き足立ち、右往左往する獣人兵たち。
キョウジが頭を抱える。
「お前、それはムチャクチャだ!」
「カーッカッカッカッカ!」
高笑いするムサシ。

その刹那。
ムサシの背後に黒い影が落ちてきた。
それは忍者のような姿をしていて、
ムサシの首筋に短めの刀を突きつけた。
「お命頂戴」
ギンッ!
とっさに反応したマコトの拳が、
その忍者を弾き飛ばす。
反動で後ろに跳躍するマコト。
「ヤベッ!」
思わず監視塔から手を離したムサシが、
監視塔もろとも艦橋に叩きつけられる。
「がはっ!」
「ムサシ!」
ナガトが声を上げる。
「っぶねー!大丈夫…だっ…!」
監視塔が音を立てて地上に落下する。
襲撃してきた忍者は身をひるがえし、
忍者刀を構える。
口元を覆面で隠し整った顔立ちは、
一見して男か女かわからなかった。
紫電を放つマコトの機械化した腕。
(歴史干渉率0.000256%。これでもダメか…)
マコトが機械化をとく。
マコトの腕は軍服を来た普通の腕に戻った。

「わが名はリザード。
 刀を抜け、東方の剣士よ!」
「いや…俺…そっちの武蔵じゃねぇから…」
息も絶え絶えにムサシがツッコミを入れる。
「獣人軍の刺客!?」
反射的に二丁拳銃を構えていたナガトが、
リザードに向かって拳銃を撃った。
「飛び道具など無粋!」
撃ってきたナガトに向かって、
リザードが一気に間合いを詰める。
ナガトは間合いを引き離しながら拳銃を撃つ。
しかしナガトの射撃は、
一発もリザードに当たらない。
(なんで!?明らかに当たってるのに!)
たたらを踏むナガト。
忍者刀がナガトの顔をかすめる。
ナガトの頬から血が噴き出す。
「つっっ!」
ナガトはよろけながらもリザードに拳銃を撃つ。
バク転していったん間合いを取るリザード。
リザードは改めて忍者刀を構える。
へなへなと座り込んだナガトが、
目を見開いて頬に腕を当てる。
ナガトの心臓が激しく鼓動する。
(ヤバいヤバいヤバいヤバい、コイツ強い!)
リザードとナガトの間に立ち塞がる男二人。
「どうする?義体使うか?」
「目撃者が多いと歴史が変わってしまうね。
 船員皆殺しでいいなら」
「ダメダメダメダメ!これは『命令』ね!」
あわてた様子でナガトが釘を刺す。
リザードと男二人の間を轟々と風が吹き抜ける。
「あんたたち!
 なんでここまで来たかおぼえてる!?」
「ったりめーよ」
「忘れてないよ」
二人が声をそろえる。
「「アリアドネ作戦!」」
リザードに相対し立つ二人。
「こんな所で手こずってる場合じゃねーな!」
キョウジが勝気な笑顔でそう言った。

第五話 元帥閣下は"お嬢様" 完

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