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『艦女バトルライン』第二話【週刊少年マガジン原作大賞連載部門応募作品】

人間軍拠点・予備作戦会議室
「こちらがお二人の手帳です。
 お召し物、よくお似合いになっていますよ」
軍服を着たマコトとキョウジが
浅黒い肌の少年兵から軍隊手帳を渡される。
二つの手帳には名誉少佐、と書かれている。
「えっと…トルーパーズ、でいいんだっけ?」
マコトが少年兵を指差して言う。
「はい、我々のことは
 軍需品の一種だと思っていただければ」

扉絵・カジノの一室、
兵棋の山の前で高笑いするムサシ。
ムサシにしなだれかかるナガト、
左右で起立するマコトとキョウジ
(二人は半身だけ画面に入っている)。

「という訳で作戦会議だ!
 すまんな、遠隔での参加で」
気の良さそうな老人が、
モニターの向こうでそう言って笑う。
老人はシンゲン名誉大将、
この第一基地の司令官である。
「それはいいんスけど」
「この四人しかいないのはどういうことスか」
キョウジがたずねる。
「おぬしら四人で一個艦隊扱いじゃからの」
「四人で!?」
シンゲンの返答に驚くキョウジ。
「常識だろ、異世界人はモノを知らねーな」
「キョウちゃん、テキストに書いてあったよ」
「お勉強足りなかったね〜」
口々に言うムサシ、マコト、ナガト。
「ぐぬぬぬぬ…」
怒りを抑えるキョウジ。

「さて、そのおぬしら一個艦隊で
 反転攻勢を仕掛けることになった。
 その行軍ルートに関してだが…」
シンゲンが会議を進める。
四人はミノス諸島の地形図の前に立っている。
ミノス諸島は円形に連なる島々で構成され、
第一基地はその南西に位置する。
敵飛行艦隊は北から攻めてきたらしい。
「西の島々にそって行軍すれば、
 途中で友軍と合流出来る。
 これで決まりだろう」
キョウジが提案する。
「いーやここは当然!」
ムサシは自軍の兵棋をつかむと、
「こう!」
おもちゃで遊ぶ幼児のようにまっすぐ走らせる。
弾かれて敵軍の兵棋が机からバラバラと落ちる。
「とうぜん最短距離で決まり!
 はい作戦会議終了!」
「はぁー!?」
ムサシが軽い口調でそう言うと、
キョウジは怒りをあらわにする。
「せめて夜に出撃しようよ。それまで仮眠ね」
「はいお疲れぇっ、そしておやすみぃ」
ナガトとムサシはそう言って会議室を出る。
「じゃあ洗濯物片付けちゃおう」
続いてマコトも退室。
「ふっざけんなテメー!」
ひとり残されたキョウジが叫んだ。

作戦決行から数時間後。
星が出ていて夜の海はとても明るい。
ムサシとナガトはホバーシステムで、
マコトとキョウジはジェットスキーで海を走る。
「今のところ襲ってくる敵飛行戦艦は無し…」
キョウジが索敵システムを起動させながら言う。
「だーから言っただろー?
 まっすぐが一番早いんだって!」
自慢げに言うムサシ。
「まぁ警戒はされるでしょうね。
 こっちは戦艦級艦女が二人いるんだし」
表情も変えずにナガトが言う。
「前方に獣人族の島があるね。
 民間人の居住が確認出来る。」
ナビを起動していたマコトが言う。
言葉の通りに前方遠く大きめの島が見える。
「1時の方向に敵飛行戦艦!
 このままだと交戦するぞ」
キョウジが言う。
「ねぇ、獣人族の島、巻き込んじゃうんじゃ…」
不安げに言うナガト。
バシッ、と手のひらと拳を合わせるムサシ。
「巻き込まれて死んだら弱いソイツが悪いんだ。
 このまま前進するぜ!」
言い放ち加速するムサシ。
「おいおい…」
あきれるキョウジ。

海上で飛行艦隊と交戦する四人。
少し離れた獣人族の島には
火の手が上がっている。
「チイッ!数が多い!これじゃ埒があかねぇ」
ムサシが顔をしかめて言う。
ひときわ大きい飛行戦艦が
四人に向かってサーチライトを照らす。
通信が入り、
四人の前の中空に映像が展開する。
「よぉ、人間軍の諸君!」
映ったのは、獣人軍の指揮官、タウルス。
タウルスはテンガロンハットを被り、
玉座に座っている。
「これはこれは例の艦女サマじゃないか!
 弱いクセに何を出しゃばっているんだ?
 女はおとなしく守られていればいいものを!」
獣人軍の指揮官は二人に見え見えの挑発をする。
「んだとコラァっ!」
挑発に乗るムサシ。
「アレやるぞナガト!」
「OK!」
ムサシとナガトがアイコンタクトをする。
「IKARIシステム発動!」
ムサシが左腕を掲げると、
碇の形をした兵器が光を放つ。
「くらいやがれ!」
ムサシは碇を射出。
鎖がありえない長さまで伸び飛行戦艦に刺さる。
「スポイル!」
ムサシが唱えると飛行戦艦の輪郭が一瞬ブレる。
船体が光を失い、落下を始める。
「おぉ!?」
動揺した獣人指揮官を映し、
中空の映像が消滅する。
大きな音を立てて水面に落下する飛行戦艦。
ナガトは艤装を切り離し、
ムサシの碇の鎖に乗り甲板に向けて走る。
ナガトの袖口から二丁の拳銃が滑り出す。
甲板に飛び出すナガト。
反応出来ない獣人兵が一人、二人と倒される。
「弱いクセに守ろうとしたんじゃない」
獣人兵を倒しながらナガトは走る。
「守ろうとして強くなったんだ」
甲板の奥、不自然にそなえられた玉座に、
獣人軍の指揮官、タウルスが座っている。
不敵な笑みを浮かべるタウルス。
「その覚悟がお前らに分かるか!」
ナガトの銃弾がタウルスを捉える。
タウルスの輪郭がぶれ、姿がかき消える。
「なるほど」
ナガトの背後に立つタウルス。
笑みを絶やさず、
手に持つジェラルミンケースを頭上に掲げる。
ケースからはプロペラが飛び出し、回転する。
「だったらその覚悟、忘れないでおけよ。
 本当かどうか、証明してもらうからな」
タウルスは高笑いと共に上空へ去っていく。
ナガトが小さく舌打ちをする。
飛行戦艦が金属音とともに大きく傾く。
あわてて戦艦から飛び降りるナガト。
大きな音を立てて横に倒れる飛行戦艦。

それから数時間後、
合流した友軍の兵士が、
投降した獣人兵を捕らえている。
四人は獣人の島の海岸で休憩を取っていた。

「こちらは人間軍の軍営でよろしかったか」
声に四人が振り返ると、
獣人族が数人、武器を持って並んでいた。
「我々はこの島の者です。
 島を守っていただいたことに感謝をしたい」
長老とおぼしき獣人が深々と頭を下げる。
「ついては宴の用意をしております。
 都合のつく方だけご一緒願いたい」
長老がそう言うと、ムサシが返事をする。
「そりゃすまねぇな!
 ちょうど腹がへっていた所だ」
ムサシはウキウキと立ち上がり、
獣人族の後についていく。
わずかにおびえを見せる何人かの獣人。
その様子を見ていたマコト。
「キョウちゃん、あと頼むわ」
そう言ってマコトは、
森に入っていくムサシたちを追っていった。

第二話 行軍ルートは"まっすぐ"!? 完

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