OMORI 感想【ネタバレあり】

OMORIをプレイして、とんでもなく感情を揺さぶられたので感じたこと、考えたことを吐き出します。
すごい……、すごい物語です。まっさらな気持ちでプレイすることを強くおすすめします。加えて、メンタルが元気なタイミングでプレイされるのがよいかと思います。

OMORI ダウンロード版 | My Nintendo Store(マイニンテンドーストア)


~~~~~~(ここからネタバレあります)~~~~~~~


「友達がやって面白そうって言ってた」「ホラーらしいけど、びっくりする系のホラーではないらしい」これだけの情報しかもたず、ほぼまっさらな気持ちでOMORIをはじめ、サニールート→引きこもりルートの順で2周、
OMORIをクリアして、この物語はグリーフ(悲嘆)の物語だと感じました。

グリーフ(悲嘆)とは、愛する人の死、離別、怪我、障害、失業など、その人にとって大切なものが失われたこと、状況に他する人間の健全な反応です。
姉の死、それによって大切なおともだちを傷つけてしまったこと、友達との関係性、家族との関係性、大切なツリーハウスという空間、たくさんの大切なものをサニーは失って、でもその悲しみを語れる場所がない。一人で抱えて折り合いをつけていくしかない。その、折り合いをつける過程がヘッドスペースでの旅(=サニーの空想の世界の旅)、このゲームであるのかな、と思います。

キュブラー・ロスは悲嘆のプロセス、大切なものを失くした人の気持ちの移り変わりとして5つのプロセスを提唱しています。

  1. ショック:現実を受け止められない。否認「そんなはずない」/ひきこもり(色々な情報に触れるのを避ける)/無感覚(大きな感情をそのまま感じるのが辛いので脳が遮断する)

  2. 感情:普段感じたくないような感覚がいつもより強く感じやすくなる。怒り/恐怖/罪悪感

  3. 取り返しをはかる:失ったものを取り戻すよう、神様に取引をする。「この出来事が夢であってほしい」「あの時こうしていればこうはならなかったのに…」

  4. 悲しみにくれる:集中力、生産性、やる気の低下、不眠や抑うつ気分

  5. 新しいコミットメント:徐々に新しい状況に戻っていく、復帰していく、立ち直っていく

このプロセスは順に進むとは限らず、行きつ戻りつしながら進むものとされています。ゲーム中のサニー/オモリは、まさに1~4を行きつ戻りつしている印象です。
現実を受け止められないので、マリの死を連想させるものが少しでも頭をよぎると、たちまち恐怖に支配されてしまう。だから否認する。色々な情報に触れるのも、悲しみも怒りもそのまま感じるのが辛いから感じないよう引きこもる。マリをもう二度と傷つけて殺さないよう、頭の中の空想の世界では彼女をセーブポイントにして危険から遠ざける。頭の中ではお友達とは仲良しのままで、マリの元気なまま。元気に楽しくどこへでも旅していける。でも現実のサニーは引きこもって悲しみに暮れたまま。

グリーフのケアでは安全な空間で気持ちを吐き出し、体調に不調があれば支援につなぐことが大切ですが、サニーには真実を安心して語れる相手がいないのですよね。バジルでさえ「君の後ろになにかがいて、それがやったんでしょ」と言っているので、サニーが事故とはいえ、自分の手でマリを殺してしまったという、本当に本当の部分は分かち合えていないのではと思います。被害者としての苦しみを分かちあえても、加害者としての苦しみは彼には語れる場所がない。

サニー/オモリは作中ではほとんど語りませんが、ゲームが彼の目線と思うと、彼にとって世界がどれだけ怖いのかはひしひしと伝わってきます。
自分の家の中でも首を吊ったマリが見えて、たくさんの目に見つめられるようで怖くて、16歳のサニーはもう安心できる場所がない。こんなに辛くて怖くて生きているのが苦しいのに、それでも彼はどうにか自分の心を守って折り合いをつけて生きていこうとしている、そのことがこのゲームの、サニー/オモリの眩しい部分だと思います。
冒険の中で、オモリは高いところ、蜘蛛、水と怖いものを克服していきます。ただ、幸せな夢に引きこもっているだけではなくて、その中で彼は前に進もうと努力しているんですよね。ひきこもって自分を守りながら、でもどこか先に進もうとあがいている。そうやってあがいて、もがいて、苦しくて向き合うことをやめた彼が引きこもりルートのオモリだと思うし、どうにか一歩を踏み出せた、ケルの誘いに乗って外に出られた彼がサニールートのサニーだと思います。

引きこもりルートは、好きに終わっていいよと言わんばかりのエンドですよね。マリの死の謎は明かされず、4年後のお友達には会わず、エンディングソングもなし。向き合わないのはいいけどそれならここまでだよ、って突き放された気分で終わる。
それに対し、一歩をふみだせたサニールートのサニーは、お友達にあって、離れていた距離を再び埋めることができて、背中を押されてバジルを助ける決心をする。そして、マリの死に向き合っていきます。

マリの死に向き合う中で、終盤にケルがいう「悪いことをしたとしても、お前が必ず悪人とは限らないと思うぞ」って言葉がすごく好きなんですが、これがサニーにとってすごく大事なことだと思うんですよね。
人が陥りやすいネガティブな思考パターンに認知の歪みというものがあって、代表的な認知の歪みに、白黒思考というものがあります。これは、物事を0/100で極端に捉えてしまう思考で、ちょっとミスしただけで全部だめだ!と思い込んでしまうような考え方です。これが正にサニー/オモリには当てはまる気がします。「大切な姉を殺してしまった。大切なお友達を悲しませてしまった。大切なお友達を共犯にしてしまった。全部自分のせいで、全て失って、もう取り返しがつかないのだ」こんな感じに。
確かに、してしまったことは取り返しがつかなくて、仲良しのお友達を引き裂く原因を作ったのは自分だけど、でもそれで全てが台無しになるわけではない。楽しかった思い出は無かったことにはならないし、なくなった友情はまた取り戻せるし、殺してしまった相手でもお姉ちゃんが大切で、ショックで傷ついた気持ちは本物なんですよね。
とんでもなくショックで、忘れてしまいたかった歪めてしまった過去を、安全な空想の世界で語り直して、拾い集めて、本当にそうだったのかな?全部忘れたほうがいいのかな?って見つめ直してスタートラインにたったのが、ノーマルエンドだったのかなと思います。

ノーマルエンドのあとがどうなるのかは語られません。ようやく関係性を戻した友達に罵声を浴びせられてなじられて終わったかもしれない。でも、サニーの中で折り合いがついたってのはすごく大きなことだったのではないかと思います。この先がどんなに辛くて糾弾され罵られ憎まれる人生でも、自分で自分の罪を認めて折り合いをつけて、人に話したことがあるというのは彼の今後の人生の財産になると思うので。

ボスラッシュ後にマリが言う「あなたが言わなくてもあなたのことはわかってる」ってセリフがありますが、それをサニーがマリに、サニーの頭の中の世界で言わせているってことがすごいな、と思うんですよね。サニーは無口で内向的で自分の気持ちを語るのは苦手な少年だ、とゲームの中で語られてきましたが、このセリフをマリが言うということは、大好きなお友達には自分の気持ちは伝わってる、わかってもらっているとサニー少年は思っていたのかなと思います。その思い込みがゆるゆる崩壊して、マリの事故につながったのではないかと。
ゲームの中で、アイテムに「プレゼント」があるのですが、これは「欲しかったものと違う!」と相手をイライラさせるアイテムなんですよね。クリスマスにみんなからプレゼントされた、サニーのバイオリンもそういうプレゼントだったのではないでしょうか。
サニーにとっては「お友達との時間が減るうんざりするバイオリン」ということは周りに伝わっていない。そういうわかってくれているはずだった気持ちは、サニーが語らないので周りに伝わっていなくて、その伝わらない・わかってもらえないというイライラもサニーは周りに伝えられなくて、つもりに積もった「なんでわかってくれないの!?」が爆発したタイミングが、コンサートで、あの事故だったのではないでしょうか。普段は語らない少年が、珍しく語ってぶつけた自分の気持ち、イライラが、結果的にマリの命を奪ったのだとしたら、もう何も語らないし何も感じないようにしようとサニーが心を閉ざしてひきこもるのもわかるような気がします。

そんな、語らないでここまできたサニーが、最後に真実を語ろうと口を開いて終わるのは、エンディングに相応しい、ほんとによくできたすごいお話だな~!!という感想です。

OMORI、つらいお話です。オモリ/サニー少年の苦しみ、恐怖、自責がひしひしと伝わってきて、楽しい空想の世界の冒険の端々にも滲んで、隠しきれない。でも、それ以上に、辛くて怖いどうしようもない過去に折り合いをつけようとする、生きていこうとする少年の眩しさが光る作品だと思います。そしてとにかく面白い!!!
ゲームで気持ちが悪くなったのは2回目ですが、それくらい気持ちをめちゃめちゃにされながらも、やってよかったと思える、素晴らしい作品でした。あ~、面白かった!!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?