多度大社上げ馬神事について(6/28/2023更新)

本稿は新たな情報が出た場合には更新いたします。最新の更新は6//28/2023です。

動物虐待の定義について環境省は「動物虐待とは、動物を不必要に苦しめる行為のことをいい、正当な理由なく動物を殺したり傷つけたりする積極的な行為だけでなく、必要な世話を怠ったりケガや病気の治療をせずに放置したり、充分な餌や水を与えないなど、いわゆるネグレクトと呼ばれる行為も含まれます。」としている。
(https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/1_law/aigo.html)
また、平成22年2月5日、環境省自然環境局総務課長から 各都道府県・指定都市・中核市動物愛護主管部(局)長に宛てた環自総発第 100205002 号「飼育改善指導が必要な例(虐待に該当する可能性、あるいは放置すれば虐待に該当する可能性があると考えられる例)について」の「Ⅰ 動物の虐待の考え方」は、「やってはいけない行為を行う・行わせる」「・殴る・蹴る・熱湯をかける・動物を闘わせる等、身体に外傷が生じる又は生じる恐れのある行為・暴力を加える・心理的抑圧、恐怖を与える・酷使 など」を「積極的(意図的)虐待」としている。
(https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/1_law/files/n_07.pdf)
上げ馬においては上記のうち「殴る・蹴る・身体に外傷が生じる又は生じる恐れのある行為・暴力を加える・心理的抑圧、恐怖を与える」が行われている。
このような神事を「伝統的な神事であるので正当な理由があり、虐待に当たらない」と解釈する人々が存在し、桑名市、三重県もこれに準ずる姿勢を取っている。(「虐待であるともないとも判断できない」等)これに対する反論を述べる。

1.  伝統及び宗教と合法性について
2023年5月16日参議院農水委員会質疑において串田議員の「伝統行事であれば動物虐待罪の該当から除外されるのか」との質問に対し環境省は「その正当な目的があったと致しましても、当該行為の手段態様等が、社会通念上、容認される範囲を超えているような場合、それにつきましては、動物の殺傷、虐待罪が成立する可能性もある」と回答している。
つまり、動物に対する行為が「社会通念上、容認される範囲を超えている」場合、宗教行事であっても動物愛護管理法違反の捜査対象となる。上げ馬神事が「社会通念上、容認される範囲を超えている」ことは、本年の神事終了後約2か月を経過しても収まらない国内外からの非難の声を見れば明らかであろう。動物虐待については、100年前に違法ではなかったものが今日の基準では違法であり非倫理的であるという例は多い。動物虐待であるか否かを判断する際にはあくまで現在の法、倫理、社会通念に基づいて判断されるべきであることを2023年5月16日参議院農水委員会質疑における環境省回答が示唆している。

2.  サラブレッドを2メートルの崖に挑ませるという現在の神事形態の歴史について
現形態の神事が伝統的と言えるほど長期に渡り行われていた可能性は2つの点から無いと判断される。1点目はサラブレッドの使用である。2023年5月16日農林水産委員会での渡辺畜産局長の答弁によるとサラブレッドが最初に日本へ輸入されたのは明治40年(1907)である。今日のような年間7000頭を超える生産頭数となったのは1970年代中盤であるので、サラブレッドを使用した祭の形態はこの時期前後からのものと考えるのが妥当である。
2点目は崖及び上げ坂についての文献上の記述である。2023年の上げ馬の後、多度大社は見解を発表し本神事は「600年の歴史を持つ」としているが、何ら根拠となる文献を引用せず、また600年を通して2メートルの壁を馬に超えさせる現様式が行われていたのかについては言及していない。本年、複数の個人による文献調査で、上げ坂、崖を使用する現形態の神事は1911年以降にしか確認されないことが明らかとなった。国立国会図書館の次世代デジタルライブラリーの全文検索を利用し検索した結果を表で示す。「上げ馬」「急坂」という語が出現するのは1911年以降であり、神社側の主張する600年の伝統の裏付けはない。多度大社が現行形態の神事が600年の歴史を有するとの主張を変えないのであれば、その歴史学的根拠を示すべきであろう。
 


3.  サラブレッドを2メートルの崖に挑ませるという現在の神事形態の馬術的妥当性及び虐待の判断について
本神事で使用されるような、人馬がぶつかってもそれ自体が壊れることのない障害は固定障害と呼ばれ、総合馬術競技で使用されるが、そのサイズは「国際馬術連盟 FEI 総合馬術規程 第 25 版 付則B-1」により、最大1.2mと規定されている。
(https://www.equitation-japan.com/index.php?menuindex=download_rule&acno=16#:~:text=FEI%E7%B7%8F%E5%90%88%E9%A6%AC%E8%A1%93%E8%A6%8F%E7%A8%8B%E3%80%80%E7%AC%AC )
馬術で世界トップレベルの人馬が挑む非固定障害の上限が1.7m、固定障害の上限が1.2mと規定されている。この高さに挑む能力があるのは数年間にわたりトッププロに調教された馬術用馬のみであり、これらの馬は熟練した乗り手に導かれて障害物に挑む。乗馬歴約1か月の乗り手を乗せた引退競走馬にこれを遙かに超える2mの崖、つまり固定障害に挑ませるのは無謀であり虐待である。また馬術競技や競馬の障害競走と異なり、この崖に挑ませられる馬は逃げ場のない狭い空間で多数の人に囲まれ打たれて無理やりに崖にぶつけられており、これは身体的暴力であるのみならず心理的抑圧、恐怖を与える虐待である。
 この神事では過去数多くの馬が犠牲になっているが、使用された馬が生き残ったとしても、その身体的心理的損傷は深く、これを癒すにはプロの年単位の治療と再調教が必要となるであろう。一般的に引退競走馬にそこまでの金銭的人的資源は使われないため、この神事に使われた馬は生き残っても実質廃用となる可能性が高い。言い換えれば多くの引退競走馬にとってこの神事は「虐待され恐怖と身体的苦痛を味わった後に使い捨てられる」場と考えられる。神事後の馬の処遇も現在は明らかにされていないが、例外的に救出され現管理者により神事後の馬の様子が明かされることがある。(以下リンク参照)そのダメージの深刻さがうかがわれる。https://twitter.com/ronsandaisuki/status/1662618010845347841?s=20
この馬は理解ある管理者に恵まれ生き続けることが出来たが、このようなダメージを負った馬は人間にとって危険となるため処分されることがほとんどであろう。
 
4. 氏子による馬への虐待行為について
馬が上げ馬のスタート位置につくまでにも「馬のハミを複数人で引っ張る」等の暴力行為が見られ、また走り出した後にも「法被で脅す」、さらには馬を引いて木の周りを回る儀式でも乗り手以外が地上から馬を叩くなど馬に対する暴力行為が多く観察されビデオ記録されている。これらのビデオのうちいくつかは県警に提出されている。つまりこの祭で馬が使われる場面では、馬に対する暴力行為は頻発し容認されてきたのである。この事実は、多度大社及び上げ馬を行う氏子集団に動物愛護の概念が浸透しておらず動物虐待が常態化していることを示している。つまり、神社及び氏子集団、ひいては地域の動物愛護に対する意識改革が早急に必要である。神社及び氏子集団は馬への接し方を学びなおす必要があることは言うまでもなく、今のままの神社及び氏子集団に馬を任せることは、虐待を行う親から子供を保護しないのと同義である。
 
5.「改善」か「廃止」か
本神事で見られた馬への暴力行為や馬の死傷の多さについては過去複数回にわたり県による 「指導」が行われているが、効果がないことは本年再び馬の事故、それに続く殺処分が繰り返され、又馬への暴力行為も記録されたことを見ても明らかである。これに対し県及び桑名市はどう責任を取るのか未だ明確にしていない。このような現在及び過去の事実を踏まえると、「指導」以上の行政措置は必須と考えられ、上げ馬神事そのものを動物虐待と判断する必要がある。神舎、氏子、観客に動物愛護の概念が欠如していることが今日まで本神事及びこれに伴う馬への暴力行為を存続させてきたのであるから、「上げ坂の角度を緩やかにする」や「崖の高さを低くする」ことでは問題は解決しない。神社、氏子、観客が動物愛護の概念を理解し実践できるようになるまで当分の間、多度大社上げ馬神事は禁止されねばならない。

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