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Code No.3 Tornare

彼のことを思い出すとき、最初に浮かぶのはキラキラと光る夜の川面。

はじめはただのご近所さんだった。1つ下のサークルの後輩。
新歓シーズンだけ、出会いを求めてやってきた幽霊部員。
いかにもB型、という感じのマイペースさの垣間見える、大阪出身の軽いノリの少年。

それがまさか、十数年の付き合いになるなんて当時は思いもよらなかった。そして当時、川辺で語っていた将来の展望を現実にするなんて。

家が歩いて5分のところにあったから、別の飲み会のあと、飲み足りないなーというときに、お互いに適当に呼び出しあって、缶チューハイ片手に川辺でお酒を飲んだ。テニスサークルの運営の話、すごくかわいいと思っているサークルの同期に就活の相談をされて舞い上がってる話、院に行って何を勉強したいのかという話など、とにかく一緒にいるとくだらないことから真面目なことまで話題は尽きなかった。
お互いに彼氏彼女がいる時も当然あった。家に行くこともあったけれど、だからといって何かが起きるわけでもない。彼が酔っ払って眠りについたら、私が食器だけ洗って帰宅する。

「電気に関するビジネスがやりたい」
というようなことを当時から彼は夢として語っていた。最初は大企業に入りたいくらいのニュアンスかと思っていたらどうもそうではないようで、電気ビジネスの可能性について、深夜によくもそんなに…と圧倒されるくらいには熱く語っていた。ただ、院に進んだ彼が就活シーズンに入ろうとするときに、東日本大震災が起きて、軽々しく電気ビジネスの未来を語れるような状況ではなくなった。凹みつつも、学生起業にもチャレンジし、新卒市場においては申し分なく優秀だった彼はさらりと有名企業に就職する。

飲みに行く機会は、お互いが忙しくなるにつれて、数か月に1回から1年に1回、数年に1回になっていく。

一方、最初はただの仲良しの飲み友達だったけれど、だんだん見所が増していく様子に、気付けば次は何を思い、どんな行動を起こすんだろうと、近況報告を楽しみにするようになった。

そして彼は、あきらめなかった。

人とはちょっと違うユニークな行動を選択したい、けれど、優等生で失敗なくここまでやってきているから、そのイメージも壊したくない。守りながらも攻めたくて、熟考するタイプの彼は、電気ビジネスで起業するまでけっこうな時間をかけた。

何年か会ってなかったところから、
「起業したので広報の相談にのってほしい」
と連絡がきたときはうれしかったな。

本当に、あのころの初志を貫くとは。
大胆に見えながらも、失敗しないように戦略を立てることにもぬかりのない彼のことだから、きちんと勝算のあるチャレンジなんだろうなと思った。

今はお互い大人になったから、安上がりを最優先にせず、おいしいものを食べながらお酒を飲む。

「東京の幼馴染やね」
と大阪出身の彼は言った。
「ほんとだね」
と私も笑って返した。

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