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Code No.2 Elekid

早口でまくしたてる弾丸のような言葉たちは、まるで知らない異国の言語のように意味がわからない。けれど、彼のその語り口はたまらなく魅力的でドキドキが止まらない。また見つけてしまった、と思う。

メーカーで、ものづくりの主役はやっぱり開発者だ。けれど、会社に入ったばかりの私には、技術的なことは何一つわからない。

それなのに、開発者インタビューなんていう、1日がかりで新製品の開発エピソードを聞き続ける場にいきなりつっこまれてしまった日のことだった。

彼は電気設計の担当。時に眠気すら覚えるような時間が続く中で、彼の順番がまわってくる。今回のチャレンジの何が大変だったのか、Excelで膨大なシミュレーション内容を画面にうつしながら早口で説明する。

目が覚めるどころじゃない。圧倒される。

眼鏡の奥の瞳はキラキラしていて、声色はエネルギーがあふれている。しんどかったことを話しているのに、なんだかとても楽しそうだ。
他の設計者はまだできると決まっていないことを自ら話すようなこともなく、一様に保守的な印象だったけれど、どういう目標でやってるかを明言し、自分がきかれていない質問にも割り込んでコメントを残す彼の姿は自信に満ち溢れていた。

そのことを周りの一緒に働く開発者の方に話すと「彼は本当に細かいことばかり要望してきて面倒くさいんだよ。」と苦笑して返しながらも、でもそれがいいんだよね、という雰囲気が伝わってくる。うんうん、そういうのとてもいいと、私も思う。心のうちで頷いていた。

オフィスが違うので、彼には年に数回会えるか会えないか。取材や打ち合わせ以外の場所で話したこともない。けれどだからこそ、芸能人に会うみたいな気持ちでその短い時間で彼を観察し、変化を楽しむようになった。

そんなに話したこともないのに、3回目にインタビューで会ったときには私の近くに腰掛け、ほかの人が答えたことにこっそりエピソードを補足してくれるようになった。私がファンだと話していたのを聞いたのかもしれない。大半が専門的なことなので何を言っているかは半分くらいしかわからなかったけれど、そんなふうに接してくれるのがうれしくて、私は熱心に耳を傾けた。

彼は、会うたびにポジションが上がっていき、気付けば社運をかけたプロジェクトを複数任せられるようになっていった。純粋に変化していく様子を見るのはわくわくするし、取材をつけるチャンスが広がり、話を聞く機会が増えるから私にはありがたい。

地道な関係構築により、「持ち前の強気トークで取材をもりあげてください!楽しみにしてます!!」と私もからかいまじりに要望できるくらいには距離が近付いてきた。

いつだって、次に会えるのがいつなのかわからないけど、もう会えないかもしれないけど、彼は、もし私がこの会社を辞めるってことになったら、少しはさみしいって思ってくれるかな。私にとっては彼にもう会えなくなることが1番の心残りになるかもしれない。

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