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「今までのこと、これからのこと」リノベーションまちづくり定点観測 第一回Guesthouse RICO 宮原さん

リノベーション」
まちづくりの世界でこの言葉が使われだして、どれくらい経ったのでしょうか。その間に様々な事業が生まれ、そして消えて行きました。

和歌山でも様々な事業が展開されています。

スタート時は、様々な注目を集めても、その後どうなっているかを追いかけている記事はとても少ないです。そんなわけで「今」続いている事業は果たしてどんな状況なのか。そのプロセスを取材して、それをシェアしていくことにしました。

第一回は「Guesthouse RICO(以下RICO)」

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「第2回リノベーションスクール和歌山」をきっかけに2015年12月にオープン。5階建てのアパートを改装し、ゲストハウスを開業しました。運営はまちづくり会社「株式会社ワカヤマヤモリ舎(以下ワカヤマヤモリ舎)」が行い、2019年12月で4年目を迎えます。「Find your Seeds」をコンセプトに、訪れる人や地元の人が時間や体験を共有し、新しい気づきが生まれる場所になるようにと、様々な取り組みをされています。

今回は「今までのこと、これからのこと」というテーマで、ワカヤマヤモリ舎取締役の宮原さんにお話を伺いました。

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-宮原さんのお仕事について聞かせてください

「自分が暮らして楽しいまちを作る」をコンセプトに、元々問屋町として栄えた大新・新通(しんとおり)エリアを活気づけるために何ができるかを考えながら、活動しています。現状自社で運営しているのは、ゲストハウスと、2019年4月にオープンした飲食店「Una rama de RICO」、シェアハウス「希望荘」、大新公園でのマーケットイベント「大新ピクニック」の企画運営が中心です。

実務や企画運営は、僕ともう一人のスタッフの2人で主に行なっていますが、僕はゲストハウスの運営業務をしながら、各プロジェクトに関わる、設計やデザイン、たまに施工、役所への提出書類の作成、申請業務、行政事業のコンペ提案などを主にやっています。

ワカヤマヤモリ舎としては私を含む3人の立ち上げメンバーが隔週で会議を行い、今後の方向性等を決めています。

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-早速ですが、ゲストハウスのことからお聞かせください。ゲストハウスの運営はいかがでしょうか?

ぼちぼち、といったところでしょうか。収益としては黒字を保っています。その利益を次のプロジェクトに投資するスキームです。
稼働率としては、京都や大阪のゲストハウスの繁忙期が80%から90%だと聞くので、それに比べると低いなと思います。RICOの場合、所在地の和歌山市に観光に来るというより、高野山や熊野古道への中継地点として利用される方がほとんど。和歌山市は観光地としてあまり認知されていないことを痛感していて、その中で観光地ではない、日々の暮らしの面白さを発信していければと思っています。

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また世間ではインバウンドが注目されていますが、波もあり、和歌山を訪れる外国人客はむしろ昨年より減っています。RICOの客層としては、1〜2人の個人旅行の方がほとんどですが、最近では家族や友人同士のグループで利用する方も増え、個室の需要が目立ちます。こういった客層は予約のタイミングも早く、単価の高い個室を利用してくれるので、経営面でもありがたいですね。

和歌山市内もゲストハウスやその他の宿泊施設も増えてきたので、立ち位置を考え直す時期に来ていると思っています。

-宮原さんは元々建築士をされていたそうですが、収入面での変化はどうですか?
手取りは前職と比べて3/4くらいです。 前職もそんなに多かったわけじゃないですが(笑)
ワカヤマヤモリ舎としてゲストハウスをはじめ、いくつか事業の運営をしていますが、利益率もそこまで高くないし、利益も次のプロジェクトに再投資しているという現状があります。面白いから、好きだから続いているというところがありますが、ただそろそろ、稼げる家守会社にしないといけないなとは思っています。


-宮原さんにとって「地域とのつながり」とは?

ご近所付き合いの延長ですかね。僕もRICOの入るアパートで暮らしています。
当初はゲストハウスの運営面から、住み込みスタッフのような形で暮らし始めましたが、4年経って、ワカヤマヤモリ舎として「自分が暮らして楽しいまちを作る」をコンセプトにエリアマネジメントをしてるし、それはその地域で暮らしたほうがいいだろうなぁと。ここで暮らしながら、地域の人とコミュニケーションを取り関係性を作るのも、大事な仕事だと思っています。その中で地域の人とも一緒に、課題を解決していけたらいいですね。
働きに来ているだけでは、地域に溶け込むのは難しい。ゴミ出しで顔を合わせたり、掃除中に立ち話したりしながら、地域の方と関係性を少しづつ作っています。

地域とつながることって、楽しいですよ。お裾分けで庭になったスダチや栗や、不要になった家具をもらったり、近くの喫茶店で突然話しかけられたり。RICOの人ということも認知されているので、悪いことできないなと感じます(笑)。地域とつながるってこういうことだなと。

-地域とのつながりを中心にイベントやコミュニティを作られているのですか?

コミュニティづくりというより、「地域の人と関われる場所づくり」を意識しています。イベントを行う時も、近所にチラシを配っているので、地域のご家族連れやご高齢の方がふらりと来てくれます。実は新通エリアってお祭りが少なくて、地域の人が集まる機会がないんです。なので今年の夏は地域のお祭りの代わりになればと、斜向かいにある銭湯「幸福湯」さんと一緒に「流しそうめんと夏祭り」のイベントを企画しました。楽しそうに過ごしてくれている地域の人を見ることができて、やって良かったなと嬉しくなりました。

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-ゲストハウス以外の事業についても教えていただけますか?

RICOの近所でシェアハウス「希望荘」を運営しています。大家さんから活用方法を相談されたのがきっかけで運営することになったのですが、かなり模索したプロジェクトでした。
築57年の古い建物ですが、40年経営されている1階の美容室が今も健在のため、取り壊すこともできない。かといって壁が薄いのがネックで、1階美容室の会話が2階の部屋に聞こえるくらい防音が弱い。当初は住居には向かないなと、シェアオフィス、シェアアトリエとして募集をかけました。ですが実際蓋を開けてみると、住居や、住居兼事務所として入居される方がほとんどで、「暮らす」という要素が強くなり、結果的に現在ではシェアハウスとして運営しています。
面白いのは、移住者が集まってきたことですね。仕事が決まって住まいを探してるとか、移住して仕事が見つかるまでの仮住まいとか。あとゲストハウスのヘルパースタッフとして数ヶ月の滞在する人もいます。こんな古い建物に住んでくれるくらいなので、個性的というか、面白い人たちが集まって、仲良く暮らしています。年齢的にも僕と近い人達も多いので、友達が近所に住んでいるという感覚です。たまに一緒にご飯を食べたり、「希望荘」のメンバーが作ったおかずをRICOに持ってきてくれたり、まさに「スープの冷めない距離」の関係です。

-その他の事業や、これからやりたいことを聞かせてください

地域にある大新公園で「大新ピクニック」というイベントを開催しています。先日3回目を開催することができました。回を重ねるごとに協力者や参加者が増えていて、地域の方の来場も増えてきています。
初回の開催時に自治会や婦人会に挨拶に伺ったのですが、注意点の指導が多くて、少し悪いイメージを持たれているように感じました。ですが当日設営に行ってみると、婦人会の方達が早朝から公園の掃除をしてくれていて。見守られている、応援してくれているということを知れたのはとても嬉しかったですね。
最近では大新ピクニック以外の日にもピクニックをしている人たちが増えてきているような気がしていて、これが日常になっていけばいいなと思っています。


今後はRICOの1Fにシェアオフィスのブースを作る予定です。あと近くにある古い物件を新たに借り始めました。建坪5坪程の小さな建物ですが、エリアの物語の詰まった素敵な建物です。どう使っていくかはまだ未定です。

他にもやりたいと思うことはたくさんありますが、全国の事例を参考に、できることから「とりあえずやってみる」ようにしています。同時に、全体の収益をどうあげていくかは悩みどころです。ゲストハウス事業も伸び悩んでいて、当初の想定よりも厳しい状態です。とはいえワカヤマヤモリ舎として事業の幅を広げるのも限界を感じています。今後はこれまで自分たちが養ってきたノウハウを生かし、企画提案やコンサルティングを事業としてできないかと考えています。

-空き家活用はリノベーションスクール関係者や行政など意欲的な人も多いですが、協力関係はありますか?

民間として、自分たちができることを粛々と実践するようにしています。協力しあえるところは協力しあいながら、それぞれにカラーがあるので、自分たちのカラーや軸をブラさないように、ということは意識はしています。

-最後の質問です。リノベーションを実践されてみてどうですか?

ワカヤマヤモリ舎として、実際に住んでみてわかったことがすごく大きいですね。住んでいるからこそ地域が少しずつ変わっていくことを肌で感じるし、実際に周りが応援してくれる。RICOがきっかけでご近所付き合いを始めたけど、地域と繋がるのは豊かだなと感じます。

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-ありがとうございました

「自分が暮らして楽しいまちを作る」という分かりやすいビジョンのもと、地域に少しずつインパクトを与えている宮原さん。そこで暮らしているからこそ築ける関係性は、お金では得ることのできないものだと感じました。幅広い事業を進めていけるのは、彼らへの共感が多いことの証明ではないでしょうか。これから、より一層つながりを感じられる暖かいエリアになりそうな予感です。

同時に、収益を得ていくための仕組みに対しての課題をどう解決すべきなのか。持続性を持たせるために必要なことは何か。私たちも自分に置き換えて深慮すべきではないでしょうか。


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