根無しのわたし
赤ん坊の頃に生母をなくしたため顔も覚えていないし、思い出もない。写真もなにもない上に、亡くなった生母のことの話をしてしてくれる人も全くなく、母親がいないからみたいなことを言われることは多かった。兄姉もいるけれど彼らが何か話してくれたことも一切ない。彼女は病気で闘病の末になくなったため、多分子供が生まれてすぐ親がするような、写真を撮るとかそういうことが少なかったからか、子供の頃の写真は一枚も持っていない。
生母の面影的なものが登場するのは住んでいた商店街辺りに住んでいるご近所のおばさん方に声をかけられるときだ。彼女たちに名前を呼ばれて振り向くと、「○△ちゃんよね?〇〇さんのところの。」と声をかけられて、本当にお母さんにそっくりねと言われることだけ。姿形だけではなく声まで似ているらしく、びっくりしちゃったなんて言われるけれど、私は本当に彼女のことは何も知らない。それでも近所のおばさんたちは私が歩いているのをみかけると、〇〇ちゃん綺麗になったわね。お母さんにそっくりねと声をかけてくれる。
多分、彼女たちもかなりの高齢なのでこういう感じのことはどんどんなくなっていくだろうけれど、それでも彼女たちに声をかけられると、私の知らない私のことを知っている人がいるんだなと思う。
若くして生母を亡くした祖母は、彼女の残りの人生40年以上、自分の娘が先に逝ってしまったことを悔やんで悲しんですごしていた。亡くなった事実はどれだけ悔やんでも消えないのだから、父を恨んだり責めたりして生きることを辞めて、残りの人生は別のものと考えて楽しく生きればよかったのにと、彼女の介護が終わるまで思っていた。
生母が亡くなったことで祖父母と父との関係が悪くなり、ますます家族関係が悪くなり手につけられない状況になって、それが様々な問題を引き起こして大変だった。認知症で施設で暮らしていた祖母が亡くなる数年前父が亡くなりし、その後祖母も亡くなった。結局、私は自分のルーツみたいなものを知ることもなく、聞ける相手もいなくなって根無しの私だけが残った。
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