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山の記憶(5)鍋割山の登り方

鍋割山に登って、山頂で鍋焼きうどんを食べないなんて、ない。

鍋割山は表丹沢県民の森のゲートから歩き始める。歩き始めて30分も歩くと、水の入ったペットボトルがいくつも置いてある。水場がない山頂の山小屋が、登山者に水運びのボランティアをお願いしているのだ。このとき、気前よく水を担ぐのが山頂で心地よく過ごすポイント。だから、日帰りとはいえ、ちょいと大きめのザックを背負っていく。無理のない範囲で何本かザックに詰める。

標高800mぐらいを一気に登り詰めていくので、なにげにきつい。登り始めは針葉樹の薄暗い林、尾根に出ると明るい広葉樹林。ときどき鹿がいる。彼らは人の姿を見ても逃げない。いや、正確には「相手が自分に危害を加えようとしても逃げられる」距離を保っているらしい。大丈夫な距離まではかなり無防備、でも一歩でもその距離にこちらが踏み込むと、すごい勢いで逃げて行く。

山頂には山小屋が建っている。鍋割山荘という。

「鍋焼きうどん」の看板が出ている。1000円なり(…だったかな?)。

山荘に入り、小屋の人に声をかけ、入口の畳に担いで来た水を置く。そして鍋焼きうどんを注文する。…別に担いでこなくてもうどんは食べられるし、たくさん担いだからといって割引になるわけでもない。

少し待って、小屋のカウンターからうどんが出てくる。土鍋にいっぱいのうどんと具。できたてでグツグツしている。外のテーブルにもって行き、おもむろに食べ始める。ねぎ、しゅんぎく、きのこ。生野菜だよ、これ。かぼちゃの天ぷらもある。そしてたまごがふるふると煮えている。ハフハフいいながら一口。いい感じに味が染みてる。美味しいぞ、これは。息つく間もなく完食。

標高1300m近い山。もちろん車の通り道はない。うどんや生野菜、たまごなどの材料はすべて山麓から人力で担ぎ上げている。決して簡単なことじゃないのに、大変なんだとはおくびにも出さず、小屋の人たちはうどんを作り続ける。だから、、ちょっとでも協力したいと思うんだ。水なんて軽いもんだ。

帰りはバスの便がある大倉へ下る。水がなくなった分、荷物が減って足取りも軽い。飛ぶように下り、最後はちょっと息切れ。バス停近くに農産物の無料販売所がいくつかあって、買った野菜をからっぽの大きいザックに入れて帰る。

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