山の記憶(9)鎌倉アルプス

日本人の登山者は「アルプス」が好き。3000m級の山々が連なる山脈に「日本アルプス」と名付けていますが、日本にある「アルプス」はここだけではありません。沼津アルプス、須磨アルプス、頸城アルプス、天草アルプス…。中には、すみませんがこれをどう認識すればアルプスとなるんでしょうか…という「アルプス」もあります。山の高い低いにかかわらず、尾根をつなげて歩けるようなルートに「アルプス」と名付けたがるようです。

そんな「ご当地アルプス」のなかでも、もっとも手軽に登れるアルプスのひとつが、神奈川県鎌倉市にある「鎌倉アルプス」です。

古都・鎌倉の北部に連なる山並みで、最高地点は標高159mの大平山。よく歩かれているのは、北鎌倉の建長寺から、鎌倉の瑞泉寺までの尾根道でしょう。北鎌倉駅からスタートして尾根道を歩き、瑞泉寺に出て鎌倉駅へ向かう、のんびり歩いても半日程度のお気楽山歩き。幼稚園児の遠足に遭遇したこともありますし、平日・休日問わず、季節を問わず多くの人で賑わっています。下山後は鶴岡八幡宮でお参りし、小町通りをのんびり歩いて帰るのが最近の定番。時間があれば甘味処に立ち寄って、歩いた疲れを癒して帰ります。

ハイキングコースは常緑樹の林。なので、いつも木々が茂っています。鎌倉市街から本当に近いところなのに、登山道からはときどき下の住宅街が見えるのに、町の喧噪は全く聞こえません。歩いていると、深い森の中にいるような気持ちになります。不思議だなぁっていつも思います。

何度も訪れているこの山で、一度だけ迷ったことがあります。…正確には下山後に。

瑞泉寺方面に下る看板を見落とし、広い山道をまっすぐ進んでしまったら、見覚えのない住宅街に出てしまいました。道行く人に地図を手に「ここはどこでしょう?」と質問する間の悪さときたら。冷や汗をかきながら、「鎌倉駅へ行く方向」を教えてもらい、よく分からない細い路地を歩き、ようやく見覚えのある広い道に出たのでした。

低山ハイキングは、実は登山道が終わって、最寄り駅やバス停に着くまでが核心だったりするのです。今でこそ道標もずいぶんつけられるようになりましたが、とくに登山道が終わって住宅街をたくさん歩かなくてはならないときは、未だに「この道で合ってるかしら」とドキドキしています。

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