戦闘教義から紐解く定期更新ゲーム
定期更新ゲームは戦時中の部隊の追体験
「Good morning, and in case I don't see ya, good afternoon, good evening, and good night!」
やあ、初めまして、空漠たる電子の世界へようこそ。
このぺージは、「定期ゲ・甲 Advent Calendar 2021」の12月23日用に書き下ろされた記事だ。ちょっと遅刻気味なのはご愛嬌……ということで許して欲しい。ノルマンディー上陸作戦に比べれば、たかだか1日未満の遅れなんてかわいいものだろう?
この記事を読んでいる同志諸君は定期更新ゲームの何たるかという点について、僕よりも遥かに深く理解されている事と思う。だからその辺の説明は省かせて貰うよ。その代わりに、戦闘教義の何たるかという点について、存分に語らせて貰おうと思っている――。
「はあ? 戦闘教義と定期更新ゲームに何の関係があるんだ?
とどのつまり、お前が語りたいのは戦争についてなんだろう。
引っ込め、この戦争狂(ウォーモンガー)め!」
或いは同志(あなたのこと)は肩を怒らせ、僕に詰め寄ったりするだろう。どうどう、確かに同志の怒りはごもっともだ。
せっかく貴重な時間を割いてまで、大好きな定期更新ゲームの話を聞きに来たのに、口を開けばノルマンディーだの戦闘教義だの……。
「戦争について語るアドベントカレンダーで勝手にやってろ」と野次の一つでも飛ばしたくなるだろう。
だが安心して欲しい。
じつのところ、定期更新ゲームと戦争は、じつは無関係ではないのだ。
これは今更語るまでもないが、古今東西、ほぼあらゆる定期更新ゲームには戦闘の要素がある。戦闘がある以上、武器を手の取り、立ち塞がる敵(NPC、PC問わず)を排除し、先へ進み続けなければならない。
そう……これはさながら、ベルリンを目指して西進を続けるソ連兵だ。
もしも同志がゲーム上の1キャラクターだったとして、どんな指揮官の下に付きたいかな?
間違っても「ypaaaaaaaaaaaaaa!!」と叫びながら無謀な突撃を繰り返したり、落下傘なしの空挺部隊を組織するような人物の下には付きたくないはずだ。
そう、無策は罪である。
しかしながら同志が嘆く必要はない。同志はキャラクターを導く指揮官の立場であることから、無能指揮官の下で無駄死にさせられることはない。
「でもそしたら今度は、私がキャラクターを無駄死にさせてしまうじゃないか!!!」
どうどう、肩を震わせて泣き出したくなる気持ちもよく分かる。
指揮官という立場は非常に重い……。自分の戦略一つで、PT、それらの生死を左右するのだから。
だが安心して欲しい。
これから、古今東西で練り上げられ、実践されてきた戦闘教義を幾つか紹介しようと思っている。
電撃戦(Blitzkrieg)
最初に紹介するドクトリンは、古今東西あらゆるドクトリンの中で最も有名であろう電撃戦だ。実際、電撃戦を定期更新ゲームの戦闘に応用している同志も多いことだろう。
戦車や軍用機を用いて敵前線を一点突破、速やかに後方へ浸透し、脆弱な要所を叩いて回り、指揮系統をズタズタにすることで敵主力と戦わずして勝つ。それが電撃戦である。
定期ゲーで応用される電撃戦は典型的な短期決戦型で、継続火力はそれほど重視されない。
大切なのは、「如何に早く駒落ち(戦闘から脱落させる事)させられるか」なのである。
さて、今日の定期更新ゲームでは基本的にHPを幾ら削ろうと、それで相手の火力が減ったりはしない。もちろんヒーラーを回復で忙殺させることくらいはできるが、それはヒーラーの本務なのだから何も痛くない。
各キャラクターはHPが満タンだろうと1割だろうと、死なない限りパフォーマンスが落ちることはなく、十全に仕事を果たすことができるのだ。
だからこそ、駒落ちの影響は大きい。基本的に一度戦線離脱したキャラクターはその戦闘には二度と戻らない。蘇生スキルがあるゲームもあるにはあるが、総じてリスクはだいぶ重く設定されている。
定期更新ゲームのPTはおおよそ3~5人で組まれるが、1人いなくなっただけでPTの総パフォーマンス量は2~3割落ちる。また、各キャラクターはそれぞれ担当するロールがあるのだから、それが丸々欠落することを考えると、PT自体が機能不全に陥ってもおかしくない。
そういう訳で、5対4になれば余程のことがなければ5が上回るという寸法だ。
電撃戦はそれを狙う。
「後列を狙うスキル」や「最もHP割合の少ない相手を狙うスキル」で敵の脆い箇所を集中攻撃したり、火力に特化してタンク役を短期間に無理やり突破する、といった手段が用いられるだろう。非アタッカーもバフデバフでDPSの底上げが可能。
その性質上、継戦能力は低くなりがちだ。さっさと相手を駒落ちさせて、敵の継戦能力をこちらより更に低くさせよう。
現実の独ソ戦では、ソ連のPT人数がドイツの3倍だったので、ソ連側が何人か駒落ちさせられたところで大勢に影響は出なかったようだ。
ファランクス(Phalanx)
ファランクスとは、定期更新ゲームの序盤に大活躍するドクトリンだ。密集し堅固な陣を生成する。
ファランクスは、盾と槍を持った兵士が横一列(実際にはこれを縦に何重にも重ねる)に並び進軍するという、シンプルながら強力な陣容だ。正面からの殴り合いでは先ず負けない。
既視感がないだろうか。全員が前列に並び、被弾を分散し、とにかく殴る。定期更新ゲーム序盤によく見られる光景だ。
定期更新ゲーム序盤では、キャラクター毎の火力も耐久力も大差がなく、ヒーラーすら殴ったほうが早いというケースが多い。
その為、まだ大して堅固でもないタンクだけを前に出すよりも、全員が前に出て被弾を分散、駒落ちを最大まで引き延ばすという戦術。
先述した電撃戦と絡めて、相手の駒落ちを狙ってもいいだろう。
余談だが、全員が後列に設定し、戦闘と同時に前列へ躍り出るのを「新宝島」と呼んだりする。
縦深攻撃(Deep battle)
縦深攻撃はソ連が採用した戦闘教義で、圧倒的な戦力を笠に長大な攻勢をおこない、敵を殲滅してしまおうというドクトリン。
独ソ戦中期から末期に掛けて、ソ連赤軍はドイツ国防軍に対して兵力・火力ともに優位を確保していた。この優位を強みに、次のような攻勢をおこなうのが縦深攻撃。
全縦深同時攻撃
大量の砲兵と空軍で敵の防衛線のみならず後方の予備兵力や補給基地まで同時多発的に攻撃し、機能不全にさせる。無停止進撃
第一梯団が砲爆撃で麻痺した敵防衛線を突破。敵戦力の殲滅よりも前進を優先し、後方へ浸透する。機械化波状攻撃
第一梯団に攻勢限界が訪れた時、後方の第二梯団が追い越し任務を引き継ぐ。これにより攻勢は止まらず、敵に防衛線構築や戦力再編成の時間を与えない。包囲殲滅
包囲下の敵を殲滅。文字通り敵は消滅する。
全戦線でノンストップ攻勢を仕掛け、後方予備を含め敵戦力を殲滅してしまおうというのが縦深攻撃だ。
注意して貰いたいのは、縦深攻撃はこの「戦力での優位」が前提であるということだ。格上を狩るようなドクトリンではない。
定期ゲーの戦闘に落とし込めるようなドクトリンか甚だ疑問(如何に敵を逃さず殲滅するか、に主眼の置かれた効率の良い力業のため。)だが、無理やり落とし込むとすれば、序盤は敵の攻勢を耐え忍びながらバフ連打し、中~終盤で大規模な攻勢を仕掛ける、所謂「ソ連型」戦術となるだろう。
攻勢ではバフで盛られた大火力によるSP攻撃を敵全体にばら撒き、同時に異常撒き(連続行動を阻害するようなバステがあると良い)をおこなうことで、敵PTは機能不全に陥り、縦深攻撃しているな~感が出るんじゃないかな(投げやり
エアランドバトル
エアランドバトルはWW2以降のアメリカが、ソ連を仮想敵国として練り上げたドクトリンだ。主には縦深攻撃へのカウンターとなっている。
従来アメリカ軍はソ連の縦深攻撃に対して縦深防御(何重にも防衛線を築き、適切な距離を保ちつつ戦う)を採用していた。
しかしこれは受け身の戦略であり、ソ連軍にイニシアチブを取られることは危惧するところであった。
縦深攻撃の要は第一梯団がこじ開けた前線から第二梯団が後方へ浸透し、戦果を拡大するというもの。
それに対し、強力な航空戦力と砲火力で第一梯団・第二梯団を同時に叩いて動きを止め、並行して前線で攻勢を仕掛けるというのがエアランドバトルである。
名前の通り、空(エア)陸(ランド)共同で敵の攻撃部隊を叩こう、というドクトリン。
個人的に航空戦力を定期ゲーの戦闘で例えると異常系なので、敵アタッカーに狙いを定めてSP攻撃や異常責めをしよう、という風に翻訳できる。
多少戦力差があっても、SP攻撃や異常責めをケアする手段を持っていないと下馬評と結果がひっくり返ったりする。強力なビートダウン(力押し)には搦め手を使って対抗しよう。
(異常の量で圧倒することを制空権を握る、と呼ぼう)
衝撃と畏怖(Shock and awe)
衝撃と畏怖は、ドクトリンとしては極めて異質なものである。
戦力で優位な陣営がその力を事前に見せつけることによって、対戦相手の戦意を挫き、戦わずして勝つというドクトリンだ。
定期更新ゲームのマッチアップは基本的に同レート帯でおこなわれるよう調整されているが、それでも戦力に偏りが出ることはままある。
劣勢側の陣営は勝ち目の薄い戦いにも関わらず、膨大な時間を注ぎ込んで精一杯のアセンブルを仕上げるだろうか? ほどほどで投げ出したくなるのが人の常だろう。
投げ出せるように背中を後押ししてあげるのが、「衝撃と畏怖」なのである。
このドクトリンの実行は、事前準備がすべてである。曰く、
・「前の戦闘で対戦相手を完膚なきまでに叩き潰す」こと。
・「戦う気が起きなくなるほどのリソースを備える」こと。
・「今回の戦いに於いても盤石であることを暗に示唆する」こと。
備えよう。
終わりに
ちょっと時間なくてあんまり書けんかったので、これまでの記事を統合して来年リベンジしようと思います。
もう当日の21時過ぎてるし!
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