見出し画像

【HPAC2020.9.20】夕映えと、最後の5小節。

夕暮れは、なぜ美しいのだろうか。
背後から闇が迫るからだろうか。


とっぷりと日が暮れてなお、
最後の最後まで、彼は、山を登ろうとする。


登ろうとして、
もう力尽きてしまいそうで、
でも少し登って、
やはり力尽きて・・・


そんな最後の5小節。


人生の最期にどんな景色が待っているのか、知らない。
でも、もしかしたら、こんな感じなのかもしれない。


すべり落ちるようにして、
たどり着いた音は、
喜劇でもなければ、悲劇でもない、
えもいわれぬ音。


そういうものなのかもしれない。


でも、
そこまでの長い道のりを、
彼が後悔しているようには思わなかった。

最後まで、
自らの足で登ろうとしたことを、
彼は少しだけ誇りに思っているのかもしれないと思った。


この街で聴く音楽は、いつも人生を照らしてくれる。


人生の終着点が、
どこにどんなふうにあるのか、
わからないけれども、
今日聴いた音楽の記憶を抱えて生きていけるなら、
人生の最後が、悔いだけで終わることはないと思う。



演奏会からの帰り道は、
一年のうちに何度も見ることはできないような、
息をのむほどの夕映えだった。


きっと、この街に ≪アルプス交響曲≫ が鳴り響いたからだ、と思った。


なにより、オーケストラの若いメンバーの未来に幸あれ、と願う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?