永遠のロックスター、プリンスについて今まで知られていなかった事実を、側近が饒舌に語る
ジェームス・ブラウンの敏腕ツアー・マネージャーとして業界にその名を知らしめたアラン・リーズは、プリンスのアルバム『1999』のツアーに、マネージャー代理として呼ばれた。ほどなくして、プリンスの側近の1人としてのポジションが固まると、アラン・リーズは現在の妻グウェンと共にミネアポリスへと引っ越し、プリンスの専属マネージャーとなった。その後、プリンス&ザ・レヴォリューションが革新的なアルバム『Purple Rain』と同名の映画を発表し、ポップ・ミュージック史に数々の伝説を刻む光景を、彼らは目の当たりにするのである。
BEHIND THE PURPLE ROPES
舞台裏の真実
Prince and the Revolution
1983年初頭、プリンスはそれまで一度も会ったことのないアラン・リーズを突然、ツアー・マネージャーとして雇用した。ジェームス・ブラウンのマネージャーだったから、という理由だけでの大抜擢である。ツアー中に急遽、ツアー・マネージャーの代理を見つける必要に迫られたプリンスは、「あのジェームス・ブラウンの人を呼んでくれ」とだけマネージャーのスティーヴン・ファーグノリに言ったらしい。
当時フリーランスの身だったアラン・リーズは、急に舞い込んで来た仕事について、職歴の項目が1つ増える程度にしか捉えていなかった。ニューヨークのアメリカ自然史博物館内にあるヘイデン・プラネタリウムで広報の仕事をしていた、恋人のグウェン・グウィンのもとに帰れる日を心待ちにしながら、彼はいつも通り仕事に臨んだのである。まさかこのとき受けた仕事が、彼のその後の人生の転機になるとは、彼は夢にも思っていなかった。その後彼は、ミネソタ州ミネアポリスへと引っ越し、プリンスの側近として10年間働くことになるのだ。さらに、お堅い科学の世界からワイルドなロックンロールの世界へと足を踏み入れたグウェンにとっても、それはまさしくライフスタイルのパラダイム・シフトと言える変化となった。今では夫婦であるアランとグウェンの2人が、もう何十年も前の話を思い返し、とても貴重な当時の経験を、互いに異なった視点から語ってくれた。
アラン・リーズ:最初に私は、プリンスに対するアプローチの仕方を、スティーヴン・ファーグノリから厳重に警告された。「彼は初対面の人に慣れるまで少し時間がかかる」と、スティーヴンに言われたのを今でも憶えてるが、それは控えめな表現で、“少し”どころではなかったね。
そのときはKISSのツアーの仕事を終えた直後だったが、そのままサンディエゴに直行し、スティーヴン・ファーグノリたちに会ったんだ。彼が私を他のスタッフに紹介して回ってくれた。まずプリンスのバンド・メンバーと、ボディーガードのチック・ハンツベリーと仲良くしておこうと、心に決めたよ。チックにも、プリンスとは慎重に距離感をはかるよう言われたよ。
アーティストとツアー・マネージャーの関係性というものは、人が想像している以上にパーソナルなものだ。ありきたりで少々偏見のように聞こえるかもしれないが、たいていのパフォーマーというものは、ツアー中は非常に情緒不安定だ。彼らの信頼を獲得するには、仕事ができることをアピールするだけでなく、一緒にいても不愉快に思われない存在になる必要がある。仕事の面では心配なかったが、プリンスに好かれることに関しては、手探り状態だった。第一に、プリンスの舞台裏での習慣や、移動する際のNGに関することなど、いろいろと憶えなくてはいけなかったんだ。しかし、それらのことを直接プリンスに訊いてはならないと、チックから言われたよ。「そんな質問をしたら、なにも分かってない、仕事ができないヤツだと思われる」とね。
チックが警護する、プリンスの楽屋のドアは、本番まで閉ざされたままだった。そしていよいよ出番になったとき、部屋から出てきたプリンスは、ステージに向かう途中で立ち止まり、私と軽く握手をし、聞き取れない小声でなにやらボソボソと喋った。その後ライブが終わり、次の街へ飛び立つまで、彼とは一度も会わなかった。
KISSはマネージメント側の人間にしっかりとした服装を求めたため、コンサートの仕事で私はスーツを着用していた。この仕事も同じだろうと思い、翌朝、ばっちりピンストライプ・スーツを着込んで、空港に到着した。飛行機に乗り込み、通路を自分の席まで進んでいたとき、みんなの視線を感じた。プリンスは目線を上げなかったが、チックはなにやら会釈をした。クスクス笑っているヴァニティ6のヴァニティとスーザン・ムーンシーと目が合い、まったく無関心そうなザ・タイムのテリー・ルイスの顔が見え、モーリス・デイに睨まれたような気がした。ツアー・プロモーターのジェフ・シャープは、「こいつ、いつまで持つかな……」という表情を浮かべていたよ。全員がスウェットとか、カジュアルな恰好をしていたんだ。私のフォーマルな服装はどうやら、うぬぼれた偉そうなヤツと捉えられてしまった。新人であるがゆえに、ある程度の疎外感を覚えてはいたが、その服装が余計に空気を悪くしてしまった。そこにいた全員に、「なんてこった」と思われていただろうね。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?