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インターネットという得体の知れない商品を企業に売り込んだ営業マンの話

1990年代にインターネットマガジンという雑誌がありました。

その中にはプロバイダーマップという折り込みの紙が入っていて、広げると日本のインターネット接続事業者が一覧で見られるようになっていました。

その頃の話を記載しているウェブサイトがありました。

逆に言えば、2000年以前の日本のインターネットは、紙に書ききれる程しかプレイヤーがいなかったことになります。


企業は個別ネットワークを利用していた

企業はネットワークを使っていなかったわけではありません。むしろ、通信回線の主要ユーザはやはり企業でした。株式取引から、商品受発注まで、様々な取引がすでにネットワーク経由で行われていました。

その中の一例はセブンイレブンで、セブンイレブンは各店舗からの発注をいち早く紙ではなく、パソコンと電話回線経由で行えるように対応をしていました。

ただ、彼らが使っていたのはインターネットではありませんでした。あくまで独自のネットワークで接続を行っており、そのネットワークはインターネットには接続していませんでした。

今となっては感覚を掴みづらいと思いますが、インターネットに接続する事はセキュリティ上大変にリスクのある行為と考えられていました。セブンイレブンの商品発注は所詮、店舗と本部さえ繋がっていれば良いのであって、何もそれ以外の人々に接続できる余地を与える理由は何もないからです。


企業が使い始めたのは、1990年代後半のこと

いまや電子商取引サイトの老舗となった楽天が、初めてウェブサイトを開設したのは1997年の事です。

先日、noteで書きましたとおり、日本で3G回線サービスが始まったのが2002年、i-Phoneの発表が2007年です。

この間、わずか10年という変化です。良く最近は「今は変化が速い!」という人もいますが、私は少し違うと思います。

繰り返しますが、楽天のできた1997年当時は、まだプロバイダーマップが作られていた頃。すなわち、まだまだインターネットは個人の趣味の範囲を出ておらず、法人は様子見をしていたのです。

そこには扉を開けた多くの営業マンの苦労がありました。


インターネットなんかいらない

営業マンは基本不遇です。「必要性を感じない」「今は特に困っていない」そういって追い返されるのが、世の常でしょう。インターネットを企業に紹介する営業マンも漏れなく同じ運命でした。

なにせ、ネットワークが必要な企業はすでに自社ネットワークを持っています。そうでない企業は、紙で十分業務が回っている人たちです。

インターネットといえばウェブサイト(当時はホームページと呼びました)でしたが、そもそもマニアぐらいしか閲覧者のいない環境に広報用ページを用意したところで特に費用帯効果はありません。広報部への営業は散々に終わりました。

また、当時パソコンはほとんど企業に普及していませんでした。人々の机には電話と紙があり、多くの人が半世紀前と変わらないスタイルで仕事をしていました。連絡は基本電話、かろうじてポケベルが流行し始めていた頃でした。

インターネットは無用の長物だったのです。


営業マンを救った、とあるお客様の一言

「この電子メールというのは海外とも連絡が取れるのですか?」

ふととあるお客様を訪問した際、言われた言葉です。


今は多少マシになりましたが、国際電話料金というのは異常に高いのが一般的でした。数分話せば、すぐに千円、一万円という世界。一般的に用いられていたのはFAXでしたが、それでも国際電話にはかわりありません。

電子メールは、プロバイダの接続料さえ払えば、後は無料。実は総務部にとっては夢のサービスだったのです。

こうしてインターネットはいわゆるグローバルに活動する企業から普及することとなりました。それ以外にもADSLモデルを無料でソフトバンクや、色々な影の功労者がいました。インターネットのようなヒット商品でさえ、様々な人の努力なしには、普及することはありえませんでした。


経験不足の営業マンほど、目の前のお客様の要望に答えようとします。「〇〇をつけてくれたら買う」と言われたら、〇〇をつけるように努力します。ただ、実際には〇〇をつけても買ってくれない事は多いですし、〇〇が足りないと明示してくれるお客様はほとんどいません。

ましてやインターネットのような、誰も見た事のない商品であれば、なおのことです。

大事なのは、どこかに必要としている人がいるはずだ、と信じて探し回ることでしょう。探しても見つからないかもしれませんし、もしかすると必要とする人はいないのかもしれませんが。

一つの仮説にこだわって、改善を積み重ねる事は既存分野の勝ち筋であって、イノベーションの勝ち筋ではありません。



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