ヘッドとエッジの研究シリーズ(継続中)

●2019/8/10

エッジ部接触状態調査その4
〜TAMA Starphonic Brass〜

第四弾です。ここまでプライ(合板)シェル2つ、ステイブ(樽木)シェル1つを見ましたが、今回は初の金属胴です。

スターフォニック2

エッジ自体はR2.25、外径は大きめでREMOヘッドとは当然R部で接触。浮き上がり計算値は5mmと大きめです。

190810 TAMA Starphonic エッジ

今回びっくりしたのが、思いの外シェルの寸法精度が悪いということ。よく考えるとこれは成型方法による宿命です。

金属胴は大きく
・無垢の素材を削り出したもの
・板材をプレス+板金加工で円筒にしたもの
の2種類ありますが、今回は後者。1.6mmの素材を円筒にして溶接しエッジ部を折り曲げています。

木胴と金属無垢の場合は、シェルを成形したあとで別工程としてエッジを削ることができます。つまりそれぞれの工程を別々に精度管理可能です。まず旋盤で回してキレイな円筒に成型し、そのあとでエッジ加工をしても円筒の真円度は基本的に影響を受けません。

ところが板金加工の場合はこうはいきません。
円筒にする工程のあとでエッジを成型する工程を行うと、もとの円筒形状も崩れてきます。特に局所的に力を加えるスネアベッド加工は影響が大きいと思われます。
つまりは寸法精度を確保するのがとっても大変。
もちろんあとで削って修正することはできません。

そう言う目でシェル現物を見てみると、打面側直径で1.2mm、ボトム側直径は2mmを超える直径ばらつきがあります。いや逆にいうとよくこの誤差で済んでいる、というレベルなのかもしれません。

他の板金シェルも要チェックですね。ラディックとか。

●2019/8/3 エッジ部接触状態調査その3
〜ICDステイブシェル自作スネア1〜

エッジ部とヘッドの接触形態を細かく調べるシリーズ第三弾として、今のワタシのメインスネアをバラしてみました。

この楽器はICD(Inami Custom Drums)さんのシェルとTAMAのSTARPHONICのハードウェアを使って2014年に自作したものです。シェルは16個のブロックを継ぎ合わせ円筒形に削ったもの(Stave=樽木シェル)。
直径方向に柔らかく縦方向には非常に強いという特徴があり、これをCanopusのヴィンテージワイヤと組み合わせたときの音にすっかりやられてしまい、以後5年間今まで不動の1位です。

ICD全体

さて、計測結果ですが、このスネア直径が少し小さ目です。直径14インチというのは355.6mmですが、外径平均が350.1mm。エッジ頂部の平均径が347.4mm。
サカエより3mmも小さいです。
これはどちらが良いという話ではなくて、ヘッドとの接触方法についての考え方次第。
サカエはヘッド端部のRの部分とシェルが接触し、このスネアはヘッドの平面部とシェルが接触するイメージです。

エッジ部描画

ICD 外R4.5_2

ICD エッジ2

頂部Rは現代のスネアらしく1mm台。
シェル厚さが12.5mmもありますが、内部Rはあまり急峻にせずオーソドックな45度。
合板シェルと違って直径方向に剛性が出にくい構造なのでここをあまり薄く攻めると変形量が大きくなりすぎるのかもしれません。

今回のヘッドはREMOでなくEVANSのGenera G1。
5年間使い込んでかなりくたびれていて、エッジ部もほぼクリープし切っているものと思います。が、この外径の小ささが効いて、たとえば新品のREMOヘッドを張ってもほぼ同様のあたり方になるはずで、このあたりも「いつも安定の同じサウンド」を出してくれる理由なのかもしれません。

ということで、今日からREMOを張って様子を見ようと思います♪


●2019/7/28 SAKAE バーチ5.5in(2016年)

エッジ部接触状態調査その2としてSAKAEのバーチを実測。

前回のYAMAHAは80年代の楽器でエッジもとてもゆるやかでしたが、SAKAEは非常に鋭く立っていてしかも頂部が外にあります。これは現代のドラムに共通の傾向で、ヘッドとの接触もますます外に寄っています。

計算上は新品ヘッドを張ろうとするとヘッド平面がエッジよりも2.8mmも浮いた状態になる・・・そんなことあるか?と思って新品ヘッド当ててみたらそんなことありました(笑)

ただ、スネアにもともとついていた使用済みヘッドはここまで浮かないので、使用中にクリープして少しは伸びるはず。その具合も知りたいところなので追って調べてみたいと思います。

サカエエッジあたり

●2019/7/28

ヘッドの素材特性について

これを避けては通れないのでがんばって勉強してみます♪

REMOが使っているのはデュポン(DuPont社)のMylarというフィルムで、ポリエステル製。特性も公開されています。
http://usa.dupontteijinfilms.com/wp-content/uploads/2017/01/Mylar_Physical_Properties.pdf?fbclid=IwAR0HzXHrtqtdfudp-NEmQQ4mGI8-iyrO5jwWQjOnPl1a3BCwWU8LV_YUMTY
ヘッドとして重要なパラメータがいろいろありますが、今回注目している「エッジ部の浮き」に関して検証してみます。

ポイントは、エッジ部の浮きは使っているうちに馴染むのか?という点だと思います。

スネアドラムを例に考えてみましょう。
14inヘッドのエッジ接触長さは
14x2.54x3.14=111.65cm
接触幅=ヘッドフィルム厚さ10mil(0.0254cm)
とすると断面積は
111.65x0.0254cm^3=2.836cm^2

20℃でエッジ部分を永久変形させるのに必要な力は
1050x2.836=2978kg。

つまり、スネアの上に乗用車を2台乗せるくらいの力でフープを押さえないと伸びません。
10テンションの場合、ヘッドホルト1本あたり298kg。

逆に、人力で伸ばすためには何℃まで温度をあげればよいでしょうか。
体重60kgの人が全体重をかけたと仮定すると、引っ張り力は
60kg÷2.836cm^2=21.2kg/cm^2

この力でも永久変形する温度をグラフから読み取ると、ほとんど200℃ぐらいまで昇温させる必要があることがわかります。

フィルムの融点は254℃なのでヘッド自体は十分実用域ですが、こんな温度まで加熱すると木製のシェルだと燃えてしまいます。つまり、ドライヤーで加熱してなじませる※という作業はフィルムの仕様上は成立しません。

というか、さすが世界のデュポン。
このフィルムめちゃくちゃすごい性能ですよね。

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※追記

「なじませる」ですが
ヘッド張り替えの際に指で押す作業に関しては

・ヘッドを片寄らないようにタイコの真ん中にもっていく
・ヘッドとエッジを何度かこすりあわせて接触面同士の引っ掛かりを減らす

という意味で効果があると思います。
「ヘッド自体が変形してエッジにぴったり馴染む」ことはないけれども、ヘッドの片寄りを防止できてエッジとのひっかかりも軽減できるならこの作業自体の意味は十分あると思います♪

●2019/7/27

YAMAHAのSD970とREMOのアンバサダーを使った実測をしてみました。REMOのサイトにあるようにヘッド端部は浮いた状態になる設定です。
今回の計測では浮き量はだいたい1.1mm。
手で押さえると十分わかるレベルです。

SD970エッジあたり

実際にテンションをどんどんかけていくと浮き上がりは減ってくるわけですが、完全に真っ平らにはなりません。タムもスネアも、REMOのヘッドは常にエッジから浮いた状態で振動するわけです。

断面図を見ればわかるとおり、シェルのエッジが少々どんな形であってもヘッドと接触するのは一点のみ。張り方やチューニングの技能に対して許容度の広い構造と言えます。
また、振動面が完全に平面な場合に比べ、ヘッドはいろいろな方向へ動きやすくなるはずで、より倍音が増える傾向になる構造です。

また、ドラムはいろいろなメーカが製造しますが、少々シェルの寸法がばらついてもほぼ同じように接触できるよう、この構造でうまく吸収しています。

●2019/7/26

前から不思議だったヘッドとエッジの物理について詰めに入りたいと思います。もう30年以上も眺めているけど全く知らない基本的部分。ここをちゃんと掘ってすっきりしたいと思っています。

ということで寸法の把握にとりかかりました。
600mmのノギスとRゲージも準備完了。
夏休みに終わるか微妙ですがゆっくりと確実に進めたいと思います。

ノギス

Rゲージ2




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