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カラスは沢山居ます


「おっさんの言語に振り回されない」とサファリで検索したのは、彼はいまおっさんの言語に振り回されているのかもしれない、と自分で思っているからで、けして悪いことでない。出てきたのはやっぱり他人の言葉に振り回されない方法、とか、他人に振り回されやすい人の三つの特徴、とか、「マジで」や「無茶苦茶」はもうおっさんの言語になってきています、というような記事でなんだかなあ。おっさんは自分のことをおっさんと言うし自認しているし、頑固で人の話を聞かないというイメージがあるし、彼はそんなおっさんになりたいと常々思っていたけどもうなっていた。
 セダンに乗って桜川まで行く途中、何通りかの行き道があって、左右どちらの道を選ぶかは大事なことで、右に行くか、左に行くかをセダンは瞬時に決めないといけない。運転しているのはマユズミさんで、ソマムラさんとユキミチさんは助手席と後部座席、ユキミチさんの横に彼が座っている。「どっちから行こうか」とマユズミさんが言うと、「右」とソマムラさん、「左」とユキミチさん。「では真っ直ぐ行きます」とマユズミさん。「次の信号を右へ行って、右、右、右で元の道へ出よう」とソマムラさんは言い、「次の信号で左へ行って、あとは右を向いたらいい」とユキミチさんは言う。マユズミさんは頷いてまだ真っ直ぐ進むので、彼はやっと「桜川へ行こう」と言う。「この車線でいいですか」とマユズミさんは再び言い、「左左左左」とソマムラさん、「このレーンで良い」とユキミチさん、彼は「桜川はどっちだ」と言って桜川に全然つかなかった昼飯前があった。桜川にやっと着き、タバコを吸って彼は「桜川にはカラスがたくさんいますね」と言い、他の全員は「居ない」と言った。ソマムラさんは「カレーうどんが食べたい」と言い、全員は「うどんは嫌だ」と言った。「定食屋に行こう」とユキミチさんは言い、「どっちでもいい」と全員が言ったので定食屋に行った。マユズミさんは定食屋で「カレーうどんはありますか」と聞き、店の人は「昔あったけど今はない」と言った。全員に定食が到着して、全員が「美味い」と言って食べた。
 彼は自分だけが一喜一憂したり、言語に振り回されていると思っていたけどそんなことはありえないのじゃないか。そんな短絡は彼が自分のことを特別だと思っていたり、自分がおっさんであることを自認してないのじゃないか。おっさんの見た目に憧れて、内容まで吟味してないからじゃなかったか。でもおっさんというのはやっぱり良いものだ。各々しっかり分散しているから。そのようなことを思いながらサウナへ着き、阪神戦がやっていた。佐藤が三振した。
「んーなぎゃなも。たーあっかんなあ。帰ったあと家で見てないんちゃうか。酒飲んで忘れようしてんちゃうか。飲みに行くんええけどな、見て見て見て素振らなあかんわあかんわほんまにい!」と一人のおっさんが言い、もう一人のおっさんは「振るだけやったら猿でもできる。大谷とそこがちゃう。ええもん持ってんのになあ!あちい!」と言ってサウナから出た。彼はそのあとその二人のおっさんが、「お湯割りというのはお湯を先に入れて、後で焼酎を入れるんですよ。混ぜなくていい」と話しているのをあんま器に当たりながら見ていた。見て居るということだけが揺るがなかった。

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