留学中憧れ続けた人について

留学中、年齢や性別問わず、かっこいいな、素敵だな、尊敬するな、と思った人たちには何人も出会ったが、その人たちの中でも強烈に印象に残っている人について。

その人は、オランダ出身で、私の留学先大学の正規学生の1年生で、英文学とクリエイティブ・ライティングを学んでいる。彼女との出会いは2021年の11月。私が留学中に参加した、Creative Translation in Schools Projectというボランティアの、参加学生対象のトレーニングセッション第1回目のことだった。こちらのボランティアの詳細は省くが、これに参加する学生は複数回トレーニングセッションに参加しなければならなかった。その初回、メールで事前に告知された教室で互いの自己紹介から始まり、翻訳やスクールマネジメントの方法を学んだ。当然彼女もそのセッションに参加しており、私の彼女に対する第一印象は、「・・・男の子?」だった(失礼ながら。人を見た目で判断するのは良くないことだけれど、パッと見で男性かな、女性かなと思うのにストップはかけられないのでは・・・と、思う)。また、参加者が輪になって自己紹介をした時、彼女の態度が少し仏頂面というか、そっけない感じだったので、うわあなんだか怖そうだな、同じグループになったらしんどいかもしれない・・・、と思っていた。幸か不幸か、そんな私の予想は的中し、私は彼女と同じグループになった。ちなみにこのグループは4人組で、今後このグループ単位で行動するのだ。 グループに分かれて、今後のグループの方向性などを話し合うのだが、顔をつきあわせてじっくり話してみると(といっても、そのときは一対一ではなく、4人で話したのだが)、自分の想像よりも彼女はとても優しくて、親しみやすい人なのだということが分かった。彼女がいかに優しくて聡明な人かというのを語るには、この翻訳ワークショップでのエピソードが欠かせないのだが、それを全部書くと長くなりすぎてしまうので、割愛する。でもとにかく、1年間に4、5回ほどあった翻訳ワークショップのトレーニングセッションや、たまたま学内で会った時など、ちょくちょく話すうちに、どんどん彼女の人柄に惹かれていった。

ちなみに、私が彼女に惹かれたのはもちろん内面が素敵だったからというのが第一だが、それ以外にも、パッと見の外見がそれはもうすごくかっこよかったからというのもある。ここで言う「外見がかっこいい」というのは、「顔がイケメン」「スタイル抜群」などということではなく、「自分の好きなもの・スタイルを確立して、身にまとっている」という意味だ。彼女の場合は、まず髪型はスッキリとしたピクシー・カットに細淵のメガネ。髪色は薄いブルネット、そしてびっくりするほどきゅっとしまった綺麗な顎に、知的な眉。薄いブルーの瞳。上述したように、基本的に真顔で、いつもニコニコしているわけではないが、話してみると、口をすぼめたり、眉をくいっと動かしたり、両目を一瞬つぶってみたり、顔のパーツの動かし方が小説の登場人物みたいに素敵なのだ。服装はいつも、ちょっと色あせたジーンズにカーキ色のハイカットのコンバース、トップスはだぼっとしたパーカーやジャンパー、ストールなどをまとっていて、"Book is always magic"と書かれたトートバッグを持っている。ちなみに、彼女が愛用しているMacBookにはたくさんのステッカーが貼られてあって、その内の1枚は『崖の上のポニョ』のポニョが眠そうにしているものである。さらに、両耳たぶに小さなピアス(片方は指輪でもう片方はたしかドクロだった気がする)、そして左耳に軟骨ピアスが1つ。グリーン系のネイル。スラッとした長身で、たぶん170センチくらいあると思う。

加えて、私が彼女のことを「優しい」と感じたのは、私がイギリスに留学している割にはあまり英語が上手ではなくて(最大限努力はしていたが)、グループでのミーティングでもよく足を引っ張っていたのだが、それでも分け隔て無く接してくれたり、私が持っている小物をよく褒めてくれたり、小さな所で私の精神状態を救ってくれたからである。誤解のないように書いておくと、彼女以外の他のワークショップのメンバーがいじわるだったとか私を中間外れにしたとか、そういう訳ではない。他の人も、彼女と同じくらいすごく優しくて、そのことは本当に感謝している。

そんなこんなで、密かに彼女のファン、というか彼女ともっと話してみたいなあとうずうずしていた私だが、声をかける勇気がいまいちわかなかった。だって違う学部だし、ごくたまに学内で会って一言二言交わすくらいの関係だったから、「わざわざ私から声を掛けたら彼女はびっくりしてしまうかもしれないし、断られたら少しの間私は立ち直れないかもしれない・・・」と思ってしまったからである。しかしある時、彼女が5月の下旬に学期末課題が全て終了するので、人より早くオランダに帰る、と言い出した。そこで、私は「これを逃したら、もう一生彼女とは会えないかもしれない!」と思い、思い切って「実は、ずっとあなたと話してみたいと思ってて、近いうちに学校のカフェでコーヒーでもどう?」とお誘いのチャットをした。いいよと返事を貰ったので、ついに念願叶って彼女と一対一で話す機会を手にいれることができた(ちなみに、このチャットをした時はちょうど学期末試験や課題の期間だった)。

当日、彼女と学内のカフェで待ち合わせてお互いに飲み物を買い、机に座って(まさに膝をつき合わせて)1時間半ほどおしゃべりをした。この時、彼女は全ての期末課題を終わらせていたが、私は何1つ終わっておらず、すべてが途中だった。私はここぞとばかりに、聞きたかったことを次々に聞いていった。何を専攻しているの?と聞くと、彼女は英文学とクリエイティブ・ライティング、と答えた。何でオランダの大学じゃなくて、イギリスの大学に来たの?と尋ねると、オランダには、(恐らく彼女が満足できるレベルの)英文学を学べる大学が無くて、うちの大学はイギリスの中でもオランダに近い側にあったので、ここに来た、と教えてくれた。私の日本での専攻も英文学とアメリカ文学なの、と言うとすこしびっくりして、でも嬉しそうな顔をしてくれた。そこから、今までの授業で読んだ作品や、好きな作品のことなどを話したが、お互いにイギリスの古典文学が苦手ということは一致した。卒業したら何したいの?バイトはしてるの?などと聞くと、今年はバイトはしてないけど、来年、学内のカフェで働くつもりで、卒業後はたぶん、出版社で働くと思う。でも、自分で文章を書くのも好きなので、いつか自分の本を出したい、と言っていた。あなたは自分で何か書かないの?と聞かれたので、私はどちらかと言うと、作品を読んで分析する方が好きだなあと答えた。さらに、「本読むの好きなの?」と聞くと、帰って来た答えは「もちろん」だったのだけど、その「もちろん」の言い方が8通りくらいあった。つまり、「もちろん」を意味する8種類くらいの単語を立て続けに発したのだ(私の彼女に対する好きポイントがまた増えた。こんな答え方をする人には初めて会った)。その後も、何かと好きなものがだいたい同じということが判明した。例えば、warterstonesでぶらぶら本を物色した後、2階のカフェで何か飲みながら本を読むのが好きなこと、書店で働いてみたいこと、ドイツ語を勉強していること(2人して"visit"をドイツ語で何と言うか記憶を掘り返した。答えは"besuchen")。オランダでは、ほとんどの人が流暢に英語を話せることも教えてもらった。話していたのはざっと1時間半ほどだったと思うけど、本当にあっという間だった。近くにあったパン屋に寄って、カフェを後にした。別れ際、一緒に写真を撮ったあと、彼女が「次はいつになるか分からないけど、その時まで元気でね。最後にハグしよ」と言ってくれた。私はとても嬉しくて、文字通りちょっと飛び込む感じで彼女とハグし、別れを告げた。その日、すごく天気が良くて、青空と周りに生えている木々の葉っぱがとても綺麗だったことを今でも覚えている。留学中、ずっと憧れていた人とたくさんお話しできたことがそれはもうとても嬉しくて、ニヤニヤしながら寮まで帰った。私が好きなミュージカルの劇中曲に、こんな歌があったな・・・。

今考えれば、何故ここまで彼女に惹かれたのか、すごく不思議だ。だって他にも、彼女と同じくらい素敵な人は私の周りに沢山いたのだもの。それに、この感情に名前を付けることは、今はまだ出来ない。恋とか愛とか尊敬とか憧れとか、なんだろう、そのような一言で表せるものではない。でも、絶対にもう一度会いたい人。私の中のプラスであたたかい感情を全部集めると、彼女に向かい、私の中のときめきが全部詰まっている、たぶん、そんな人。顔を合わせた回数は少なくて、しかも彼女が私のことをどう思っているかは謎だけど。私と出会ってくれてありがとう。



「あなたは自分で何か書かないの?」と当たり前のように聞かれたことが心に残っていたので、書いてみた。自分で文章を書くのって難しい!でも楽しいのね!🌿

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