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農業をデジタル技術でかっこよく稼げて感動があるものに!

 日本の農業者数は高齢化に伴い、年々大きく減少の一途をたどっているのは多くの方がご存知だと思う。しかしながらその反面、大規模に農業を行う農業法人が急増しているのだ。今後もこの傾向は変わらず、耕作放棄地を活用してさらに拡大して行く。要するに小さな農業で経験と勘でおこなってきた農業には限界が訪れており、同時に今までの経験したことの無い未曽有の課題が先端的な農業者(以後スマートファーマー)に降りかかっているのである。
従ってスマート農業、スマートアグリ、アグリテック、精密農業などと表現される次世代農業手法(以後スマート農業)が必須になる。これらを活用した農業のイノベーションを昨今では農業DX(デジタルトランスフォーメーション)と表現し、本年になって農林水産省に於いて3月に「農業DX構想~「農業×デジタル」で食と農の未来を切り拓く~」として取りまとめられた。
筆者は、息子が農家を継ぐ(事業承継)シーンの多くが父親が他界するタイミングであり、結果的に適切な技術伝承がなされないまま後継者にバトンが渡されることになるシーンが多いと聞く。このような結果になる前に日本の農業の匠の技術をデータとセットで残していかなければならないという喫緊の課題を日本は抱えているのだ。本稿では筆者がスマート農業や農業DXに永年関わった経験から日本農業の未来像について考えてみたい。
現在、スマートファーマーの多くが取り組んでいるのは、自分が永年培った経験と勘と呼ばれるノウハウの明文化である。日本の農業をサスティナブル(持続可能)なものにするために1番重要なのは、先祖代々伝承されてきた個々の農業生産者の営農手法を、蓄積されたビッグデータ等を元に明文化することである。ここで明文化されたノウハウを埋め込まれたAIが、営農において都度遭遇するあらゆる課題に対してシミュレーションし、常に最大収益につながる確率の高い順に幾つかの方向性を提案してくれるようになる未来が想定できる。このシーンでスマートファーマーは、自分の責任のもと複数の候補から実際に行う作業を選択するという重要な経営判断が主な仕事になる。
このまま農業法人が年々大規模化を続けると、個々の農業企業の技術(筆者は創意工夫と試行錯誤と表現)が複数拠点に展開され、夕張や魚沼といった場所に紐付いたブランドだけではなく、日本でもゼスプリやドールのように生産方法や品質を基本とした農業企業ブランドが産まれて来ることが想定される。
農作業においても今までのような重労働からは解放されている。どうしても人間で無ければできない作業を除き、アシストスーツを装着することで約10分の1の力で実施出来、疲労から解放される。アシストスーツと共存して、AI搭載の自動制御ロボットやドローンが圃場を見回り、収穫、各種センシングなども行う。これらロボット同士がそれぞれ自律的に動作することで属人的になっていたノウハウを複数個所の圃場で同時に行うことが可能になる。匠の農業者の目の代わりを高解像度のカメラが担い、膨大な枚数の病気に関する情報をディープラーニングで得ているAIが画像診断により瞬時に病気などを確定し、対処法についてもタイムリーにリコメンドしてくれる。また衛星から得られる情報もフル活用し、作物の生育状況と今後の予想される天候などから最適な対処を事前にAIが提案、可能性が一つに絞られる場合に限り自動で実行をする。
さらには、食農分野のあらゆるデータが集まるプラットフォーム(農林水産省が勧めているWAGRIを想定)に蓄積された各種オープンデータの活用により、グローバル観点での市況情報や消費者ニーズに基づいた生産(品種選定や生産量確定)が国内全てのエリアを対象に行えるようになる。農業生産者の一大イベントでもある作付計画も、輪作や連作、納期などの情報を意識し、最大収益につながる品種を選定し、播種時期や育苗時期をリコメンド、播種時期や定植開始日からの作業スケジュール案も自動で作成してくれる。こうして一か八かと表現されることの多い農業界の固定概念を覆す。一部で、農作業の労力を大幅に軽減することは農業者のモチベーションを下げるのではといった議論がされていることもあるらしいが、筆者がスマートファーマーとして呼称している先進農業者においては、そのような発言をする者は皆無であり、逆に全自動で農業ができる未来を望んでいる方が多いイメージだ。
日本の農産物が安心・安全と謳われているのは日本の国土で作られているからだと思われている方が多く、国外で生産することは想定されていない。世界中のどこで生産しても同じブランドとしてなのることはできない。実は多くの場合において、「日本国内で作られた」かよりも「日本人が生産していること」に重要だといえる。日本人の農産物の作り方を「日式農法」として定義し、確立ができれば、世界中のどこで作っても国産生産物と同じような高い付加価値で扱うことができる。
農作物の品種もバイオテクノロジーの進化により、ゲノム編集が容易に行われ、現状栽培に向いていないエリア(砂漠や冷寒地、船上、宇宙空間など)で生育可能な新品種が生まれてくる可能性も想定される。世界的な人口増加による食料(特にタンパク源)不足対策として、先進国である日本のテクノロジーが活躍し、その結果ジャパンプランド種苗が世界の種苗のシェアを大きく塗り替える未来を筆者は描いている。こうして使用用途や生育環境に応じた品種が、多く生まれることで、スーパーにもトマトが一種類しかないということは無くなり、同じ品目でも複数の用途に応じた品種がラインナップされ消費者の選択の幅が大きく増えている。レシピサイトもジャガイモやトマトといった記載ではなく、男爵やメークイーン、アイコなどといった品種名で材料名が記載されるようになる。
ここまで書いて来たように、農業におけるイノベーション(農業DX)は農業者だけではなく、国内の全ての英知を統合・活用しなければ生まれ無い。従って、食や農に関わる全てのプレイヤーの意識を少しずつ変えていく必要がある。これらの実現に向けて全ステークホルダーが協業し、農業を今までの「キツい、汚い、危険」の3Kではなく、新3K「カッコ良くて稼げて感動がある」職業としていく必要がある。それにはAIやIoTなどの先端技術の活用は欠かせないと筆者は考えている。私が代表をつとめる一般社団法人日本農業情報システム協会では、4月15日に私がここ数年来の念願として来た、日本で初めての先端農業者(スマートファーマー)を表彰する第一回スマートファーマーアワードを実施した。     
このような取組などを続けていくことで近未来、東大卒が選択する職業ランキングの1位に農業がなることを願い本稿を締めくくる。

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