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フィールド魔法とジャブ -名詞だけの初句+一字空けの効果-

 タイトルの通り、〈名詞(一字空け)二句目以降~〉の構造の短歌について解説する。自分でよく詠むから手の内を明かすようだけど。でもサボらず探求していくために、一度まとまった形で共有しておこうと思う。

 ↑先日の奥村鼓太郎さんの記事を補足する形で、解説したい。この記事では、「フィールド魔法」的な効果について触れている。確かに、〈名詞(一字空け)二句目以降~〉の歌では、そういった効果が機能しているものもある。加えてさらに解説するなら、この構造の短歌の初句(名詞)の効果は、私が考えるにフィールド魔法・ジャブ・タイトルの三つに分類される。

 前提として、〈名詞(一字空け)二句目以降~〉の構造では、初句の名詞がよく目立つ。だからこそ、特別な効果が発揮されているし、されているべきだと思う。

フィールド魔法

 奥村さんの記事と同じ歌を引用する。

花曇り あなたが山羊に餌をやる様をいつまでも覚えているだろう。
/𠮷田恭大『光と私語』

 もちろん、「花曇り」=「桜の咲く頃の曇天」という情報が読者に共有されて、それに沿う景を構築させている。しかし、それだけではなく、「花曇り」はその意味を知らない読者にとっても、「花→草食動物」のリードによって山羊の質感を上げているように思う。また、「花曇り」という語そのもののイメージ(花=ポジティブ・曇り=ネガティブ)が、一首の嬉しげで寂しげな雰囲気を補強している。

 「フィールド魔法」の元ネタは遊☆戯☆王のカードゲームで、「海」とかとか「ディフェンスゾーン」とか「摩天楼 -スカイスクレイパー-」みたいな、プレイしているすべてのカードに効果を発揮するカードを指す。短歌においても同じだと思う。初句の名詞が歌全体の雰囲気を決定して、各部分にバフをかけていく役割を担っている。

ジャブ

 その名の通り、ジャブ。かます。相手をハッとさせる役割。ハッとさせたその隙に、二句目以降の景や主張を受け取りやすくさせる。驚きとカッコ良さの両立だ。

シャンプー 僕は自殺をしてきみが2周目を生きるのはどうだろう
/青松輝 (初出がどこか分かりませんでした…孫引きで申し訳ありません。)

 私は「シャンプー」と二句目以降の主張に関連はほぼ無いと読んでいる(あるとすれば、シャンプーをする時の項垂れる姿勢を首吊りの様子に重ねている?)。でも、だからこそ、初句でジャブを喰らってフラフラの読者の体に、主体の主張が染みるのだと思う。歌の底知れなさが説得力を生んでいる。
 ジャブの歌は二物衝突的に歌の世界を広げつつ、単なる驚きだけで終わらず、二句目以降を受け入れてもらわなければならない。しかし意味を間違った方向に邪推してもらっては困る。そのためにはきちんとした飛躍が必要だ。

タイトル

 タイトルは、あまり決まってない時に言う。分かりやすすぎる「フィールド魔法」みたいな。
ちょっと歌を詠むと、

ドン・キホーテ 安いパンツが前閉じかどうかを確かめる夜勤前
/村上航

 この歌だと「ドン・キホーテ」が単なる説明に終始してしまっている。それの何が良くないって、1字空けのインパクトを活かしきれていないのだ。この歌の形は読者に「ドン・キホーテ」を、ほかの句以上に意識することを強要する。それなのに主体がドン・キホーテに居ることは歌の核ではない。それならば、もっと自然な形で提示するべきだと私は思う。


 こんなところだろうか。実際はきっぱり分類できるものではなく、複合型であるものも多いと思う。他にもこの人が使ってるよー、とか。別の用法があったらコメント欄で教えて(アトムホウリツジムショ)。

※2022/2/15 23:14
引用している青松さんの歌に間違いがあったので訂正しました。

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