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しなやかな思考とは


 人間の心のあり方の理想として「しなやかな思考」をもつことは、言葉を変えつつも、あらゆる書籍の中で言われていることだ。うつ病治療で代表的な、認知行動療法でもしなやかな思考をもつことを目標にすべきだ、と言われている。

 しなやかな思考とは、固くならず流動的で、一つの見方や価値観にとらわれず多様な視点を持ち、言葉のニュアンスにあるような、どこか飄々として理屈っぽくなくなく、情緒的でどこかユーモアを感じさせるものなのだろう。世界に対して信頼し、愛情豊かな印象もある。

一刻と変化する状況やデータを絶えず、ブラッシュアップする。
MECEで考えうるすべての思路を言語化し、その上で最適なものを選ぶ。
ゼロベースで思考し、最適だと思っても、次の瞬間に捨て去ることができる…
というような超合理的なものではなく、それではAIの思考で、しなやかさとは言い難い。価値観が内包され、どこか美的な要素もあるのではないかと思う。

甘えとか共感ではなく、もっと高い水準での美意識みたいなものを共有できなければ、なかなか治療は進まないのではないか、という仮説がある。
精神分析的な知的で、レトリックな世界も魅力的だが、日本人には馴染みにくい。
日本的な美と言えば、幽玄の美や侘の美である。うつろいゆく自然をあはれに思い、無常観という本来なら悲しい・苦しい感情を、マゾヒスティックな倒錯的な快感ではなく、どこか受け入れ「自分も世界の一部なのだ」と安心していくさま。それはロジックの積み上げではなく、日常の所作や身体的経験から理解していく感情である。

僕らは弱者なので、合理的に頭をつかわないと生き延びれない。
一方で、弱者の枠から出られないならば、せめてそれを肯定する美意識も必要だ。
そういう地点にたどり着く必要があるのか、と思う。

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