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【裏方定点観測】第1回 <照明>

こんにちは、どらま館制作部の大澤です。

2023年度、どらま館は【裏方定点観測】と題した記事企画を行っています。
早稲田演劇で活躍するスタッフに長期間取材を行い、その人の作業や試行錯誤の過程、考え方を探る企画です。

第1回は今年度の劇団森新人公演にて、劇団森2年代の大塚光一郎さんが様々な現場で照明を担当されてきた舞台美術研究会OGの平田清夏さんを取材してくれました。

照明というセクションの仕事を丁寧に観察し、平田さん自身の照明に対する考え方を探ってくれた素敵な記事になっています。ぜひご覧ください。


早稲田の演劇サークルで活動するスタッフに焦点を当て、その人の活動の様子を長期間取材する「裏方定点観測2023」。
今回は舞台美術研究会:平田清夏さんに、普段から仕事ぶりは目にしているものの細かいことは分からない「照明」セクションの仕事についてお話を伺いました。



照明セクションの仕事

まずは小屋入り中の照明セクションの仕事について簡単に説明します。
 
小屋入りして最初にやることは員数チェックです。灯体やケーブルを並べて数が合っているか確認します。仕込み日に、床にずらっと灯体が並んでいる様子を見たことがある人も多いのではないでしょうか。
 
次に搬入を行います。通常は舞台美術研究会の機材を使用したり、ART COREなどの会社から借りたり、機材を貸してくれるOBから安く借り受けたりします。搬入はかなりの肉体労働なので、戻ってきたら休憩を取ります。
 
その後吊り込みを行います。脚立にのぼって灯体を吊っていく人と、下回りの人に分かれて作業します。特に下回りは重要です。どの回路番号にどの灯体を繋げるかあらかじめ決まっているので、仕込み図をもとに次に吊る灯体などを考えて用意しておき、吊る人にスムーズに渡せるようにします。
灯体を吊る際にも、ケーブルがなるべくバトンの上にくるように工夫されています。これは綱処理と呼ばれており、見た目が綺麗になります。また、安全管理も徹底します。灯体のハンガーを固定する前にまず、落下防止用のワイヤを繋げます。
 
吊り込みが終わると、点灯チェックを行います。点灯チェックは一般灯体とLED、それぞれ行います。LEDが多いほど手間がかかり、トラブルが起こる確率も高くなります。
 
シュートでは、光の方向と大きさを調節します。チーフの裁量で、通しを見て決めます。仕込み日は演出が不在であることが多いため、サス(下に向けて照らす照明のこと)の位置はなんとなくで決めておき、場当たり後にシュートし直して確定します。そのため、サスの最初のシュートではハンガーはある程度緩く固定しておき、場当たり後のシュートでしっかりと固定します。大体100球前後吊っています。ダンスがある公演だと、吊るあかりが増えます。
 
シュートが終わるとあかりづくりをします。あかりづくりは基本チーフの一人作業なので、補佐の人たちは同時進行で照明ものの片付けを行います。また、補佐の誰かが舞台上にいてあげることで、チーフはどんな感じで光が当たるのか確認しながら作業を進めることができます。あかりづくりが終わると、チーフの仕事は半分くらい終わったことになります。

舞台上にてあかりづくりを手伝う平田さん


小屋入り二日目の午後以降から、場当たりが始まります。ここからは操作の方も活躍します。操作では物理卓(フェーダーがあるもの)を使用することはほとんどなく、パソコンなどで照明変化の秒数も決めてしまう場合が多いです。
 
小屋入り三日目以降はゲネも行われます。チーフは修正点や照明変化、きっかけなどをメモしながら観ます。メモを取って、照明を直して、の繰り返しです。
 また、アップを盛り上げるのも照明の仕事です。主に公演で使うあかりを応用します。中でもLEDを多用します。
 本番日は、操作の方の仕事が中心です。チーフは横について見守っています。
 
バラシ日は、灯体をひたすら下ろします。床置き灯体、ホリゾント(背景の幕や壁を照らす灯りのこと。主に空を表現)、単管など、他セクションの作業の邪魔になりそうなものから即移動させます。下回りの人はため場(キャパ上)などに降ろされた灯体や綱を持っていき、サバキの人はそれを整理して元あったように収納します。その後は員数チェック、搬出を行えば小屋入りの仕事は終了です。搬出に行っていると大入りに出席できないこともあります。


平田さんにインタビュー

次に、照明の仕事について平田さんに語っていただきました。
 
大塚:
照明のやりがいや魅力を教えてください。
平田:
下回りから経験を積んで脚立に登らせてもらえるようになるので、脚立に登ったときは嬉しかったです。灯体の吊り下ろしなどの体を動かす作業が一番好き。
チーフとしては、プランを立てている時にやりがいを感じます。主宰と照明で打ち合わせを行なってプランを決めていくのですが、主宰が出してくれたアイデアをいかに形にするか考えるのが難しいです。提案してやってみたことがうまく行ったら嬉しい。
 作品に直接関わっている感じがするので、操作も好きです。チーフを切れるようになってからも操作に入っています。『り・あ・りてぃ!』(SWANDIVE×横綱エクスプレス11月企画公演, 2022)での操作が、それ以降の仕事に好影響を与えてくれました。あの現場は楽しかったです。
 
大塚:
操作は直接公演に関わっている感じがしますよね。私も音響操作をした時に、今までで一番公演に関われている感じがしました。
チーフとして苦労した経験があれば教えてください。
平田:
初チーフを務めた、劇団森の2022年度新人公演ですね。まだぶたびの活動にも出遅れ気味で、照明沼にハマりきっていなかったです。経験不足でした。チーフになった途端に自由度が一気に高くなって戸惑いを感じました。1個決めると選択肢が狭まるから決めることが怖くなっていましたね。また、あまり学生演劇を観ていなかったので、インプット不足でもありました。
チーフをやってみてうまくいかなかった記憶のまま『り・あ・りてぃ!』の小屋入りをしたのですが、そこで照明の楽しさを再確認できました。仕込みバラシを中心に日々の予定を立てるまでになりました。同期との経験の差を埋めるため積極的にオファーを受け、小屋入りを増やしました。また、商業演劇は元々観ていたのですが、早稲田演劇を中心に学生演劇も観るようになったので、手札が増えました。
『Automato-n/s』(虚仮華紙×劇団森8月企画公演, 2023)が今までで一番チーフとして仕事できました。胸を張って頑張ったと言えます。夏休みで授業がなく公演に集中できたことも大きかったです。自分がその時点でできるベストを尽くせたから楽しかったしスッキリしました。経験を積もうと頑張ってきた自分を認めてあげたいなと思えました。
その点くるめる5月(劇団くるめるシアター第88回本公演『毒リンゴを投げ合って』, 2023)は忙しい時期と重なってしまい、悔しいし申し訳なかったです。
小屋入りの回数をこなしていくことで知り合いが増え、話せることが増えてきました。みんなと話せることは楽しいです。

大塚: 
そうした経験から、後輩に伝えたいことはありますか。
 平田:
知識量に怖気付いてしまいぶたびの活動に参加できなくなった時期があった経験から、尻込みしなくていいことは新歓の時に言うようにしています。また、授業を切る必要性もしっかり最初に伝えるようにしています。

大塚:
 
今回の公演では(劇団森2023年度新人公演『明日、僕らが歩む道』)、イナポジ(主に初チーフを務める人について、業務を教えたり、手助けしたりする役職のこと)を務めていますね。イナポジとしての小屋入りはどうでしたか。
平田: 
自分が初チーフをやった時、メンタルを削られた経験から、安全面など言わなきゃいけないことはしっかり言うけど、それ以外は言い方に気を配っています。
やりたいことが明確にあってチャレンジする人が77期に多いので、誰もやったことがないからやめようと言うのではなく、安全にできるか一緒に考えて取り入れるようにしています。前例と違うから否定するのではなく、どうやったら安全にできるか考えます。新しいことをやろうという思いは摘みたくないです。必要か必要じゃないかはやってみないとわからないですよね。
あとは、説明するのはやはり難しかったです。座学みたいになってしまうところも多いので。いろんなことがいろんなことに関連しているから、どこまで最初に話すか、話す順番、話す深さ、言い方などには気を使いました。

大塚:
 
今回の小屋入りを振り返ってみて、いかがでしたか。
平田:
操作を担当した新人の子とは初対面でした。照明は外部に依頼をもらっていくから、照明卓は仲良くなりがちです。今回も新人の子と仲良くなれて嬉しかったです。
仕込みは休憩中に人員とも話すし、灯りづくり、灯り直しで舞台上にいるときに話したりして仲を深めます。
特に操作の子とはチーフがいない時に話が膨らんで仲良くなりました。キャパで、寝転がりながら恋バナをしました。また、照明的には余裕のある小屋だったので、夜ご飯も一緒に食べたりしました。

取材中の平田さん。当時、肋骨が折れていた。

チーフの子には前の小屋の時から補佐の仕事に留まらず、先を見据えてチーフの仕事を先に教えていたので、今回新しく教えることは少なかったです。くるめる5月の時には打ち合わせに帯同してもらい、アイデアも出してもらいました。その時に、この子はダンスの灯りが向いているなと感じました。なかなかの曲者で、誰もやったことがないことでもやれる人なので、振り回されはしましたが、機材の返却の際にアドバイスがもらえたのでよかったです。
大塚:
誰もやったことがないことに挑戦したからこそ、ですね。


今回は、照明セクションの仕事全般についてお話を伺いました。次回は平田さんが照明チーフを務める鶴の一声×演劇ユニット两『ユリイカ』で、公演にかける思いなどについてお話を伺います。


取材した人:
大塚光一郎(劇団森2年代)

取材された人:
平田清夏(舞台美術研究会OG)

企画担当:
大澤萌(どらま館制作部/舞台美術研究会OG)

ヘッダー画像作成:
大江飛翔(舞台美術研究会OB)

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