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うらかたり 第17話

裏方が語る舞台の裏側の物語『うらかたり』と題して、どらま館制作部技術班が制作部週間内で毎日更新するnote記事企画。
今回の制作部週間では、第13話~第18話を公開します。

こんにちは!劇団くるめるシアターの弌葉です。

後編では、早稲田演劇における音響チーフの仕事の流れ・内容についてお話しします。

順番逆だよなとは思いつつ、昨日のテーマの方が大勢に読んでもらえるのかなと思ったので。

この記事が公開されている頃には各劇団の新人公演も軒並み公開を終え、新人の皆さんは将来のスタッフワークについて色々思考を巡らせていることでしょう。そんな中で、音響スタッフのお仕事についても知ってもらい、魅力を感じてもらえれば幸いです。

なお本記事は私自身が勝手に意識していることを勝手に書いていますので、これは別に「音響チーフの手引き」ではありません。この人はこういうことを考えながら順々に仕事をしているのだと、少し覗き見てみる程度の心持ちでお願いします。現役代の皆さんも、そんな感じで大目に見てください。


1. オファーを受ける

音響に限らず、主なスタッフチーフへのオファーは、主宰さんが企画書を作成する段階で行われます。本番の半年前あたりでしょうか。音響チーフは、仕込み日程が丸2日ある場合などを除いて(音響の仕込みは1日で終わります!)当然小屋入り期間中は毎日小屋に行かなければいけません。予定をしっかり確認し、企画書を読んで自分の「できること・できないこと」と相談しながらオファーの諾否を決めましょう。


2. 予算決め・打ち合わせ

オファーを受けて初めにするのは、予算を含め基本的な仕事内容に関する打ち合わせを行うことです。打ち合わせといっても、この程度でしたらLINE等で済ませてしまうことも多い気がします。

この時点での基本的な仕事内容の確認とは、ズバリ「特殊なことをするか」というだけ。

作曲の依頼・権利の問題に関する相談・ある程度高価な物品購入(レンタル)が予測される・録音環境の手配・操作に2人以上要する 等、要は準備に時間がかかりそうなことをあらかじめ聞いておきましょうという話です。全く無い場合が多いですし、ある場合はオファーの段階で最低限説明があるはずです。それらを踏まえ、予算も決定されます。


3. 脚本を読む

稽古中盤あたりには、スタッフにも暫定の脚本が共有されます。この時点である程度音について決定されている主宰(脚本)さんもいらっしゃいますので、イメージを掴んでおきましょう。なんなら初めから音の素材を指定してくださる主宰さんもいらっしゃいますが、それが普通だとは思わない方がいいのかも。

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舞台美術研究会 2021年度春季研究会公演『SENSE』より(脚本:八七世晴岐)

このように、脚本段階でBGMのリンクまで指定して下さっている脚本さんもいらっしゃいます。とても助かる。


4. 通し

通し稽古を見に行き、役者さんが動いていく中での流れを確認します。脚本時点で音が用意されている現場では、通し現場にパソコンとコントローラーを持ち込んで実際にシミュレーションを行うこともあります。


5. 音集め

通しの段階で音がある程度決まっている公演の場合は、それを参考に主宰さんと相談しながら流す音を決めていきます。例えば脚本に「魔法の音」や「爽快感のあるBGM」などと書いてあったら、フリー音源サイトや動画サイトにはいろんなそれっぽい音が転がっています。役者さんのアクトや作品の雰囲気を鑑みて「こんなんでどうかな?」「これもアリだと思う」などと、いろんな可能性を提案しながら絞っていきましょう。

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音響スタッフがよく使うフリー音源配布サイトの1つです。このように、1つのサイト内でも似たテーマの音が様々用意されています。


6. 図面・借用書などを書く

仕込みにおいて、美術さんや照明さんとの干渉を確認するために仕込みの図面を書きます。「この位置にこのスピーカーを吊ります」ということを、他のスタッフさんに共有しておくわけです。また、学内施設を利用する場合、施設側に対しても図面の提出が義務付けられています。備え付け以外の機材を持ち込んだり借りたりする場合はそれらの書類も併せて、小屋入り開始の1週間前までに劇場管理さんに提出します。

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音響図面のイメージです。人によって書き方はあるかもしれませんが、最低限バトンのどこを使いたいかわかるようにすればいいはずです。裏面には配線図というものも書きます。



7. 場当たり打ち

主に最終通し以降に行われる、きっかけを全て確認するための打ち合わせです。遅くとも場当たり打ちまでには全ての音に関する情報を主宰さんと共有しておくようにしないと、小屋入り直前が大変です。たまーーに、場当たり打ちで漸く音の全貌を知るという事態もありますので、それも含めあくまで主宰さんとのコミュニケーションが大切だという話になってきます。

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先に挙げた『SENSE』の1ページです。私は本番中もパソコンで脚本を参照しますので、場当たり打ちで確認したきっかけを全てわかりやすく図示することにしています。「B-5」といった表示はコントローラにおけるボタンの振り分けを示しています。



8. 仕込み

音響の仕込みの流れは、
搬入→吊り込み→ケーブル引き→ラインチェック→サウンドチェック
という形が多いです。スピーカーをバトンに吊り、ケーブルをバトンに這わせる。ラインチェックとは、ひとまず全てのスピーカーから音がちゃんとなっているかどうかの確認です。ケーブルをバトンに這わせる前に繋ぐだけ繋いでみてラインチェックを先に行う人もいます(バトンに一旦這わせてしまうと、後でケーブル不良などが発覚した場合に引き直しに手間がかかる為)。そしてスピーカーの向きや音量などを調節するのがサウンドチェック。これは他セクションの方々に協力してもらって小屋を空にしてもらう必要がありますので、タイスケにもきちんと明記されます。サウンドチェックの予定時刻から逆算して、音響仕込みのスケジュールは決められます。


9. 場当たり・返し

場当たり・返し共に「スタッフのためのリハーサル」です。場当たりで全てのきっかけを実際の舞台で役者さんに動いて頂きながら実践し、不安な点があれば返しでもう一度時間をもらって確認することができます。

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なんだか最近小屋で人気の、私の相棒を紹介します。ミキサーの上で操作を見守ってくれるマグロのぬいぐるみです。名前は「アジ」と言います。突っ込まないでください。


10. アップ

事前に集めたアップ曲を流し、本番直前の役者の方々に喉や体の緊張をほぐしてもらう時間です。小屋にいる全員に楽しんでもらえるよう、流す曲の順序や曲を切り替えるタイミングなどを工夫するのが私のこだわりです。ときにはマイクを用意して、カラオケみたいな状態になった小屋もありました。

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上:劇団くるめるシアター『心拍と焔』(2020.2) 下:劇団くるめるシアター『ワールドライン・アクト・ライト』(2020.12)


オペ卓から眺めるアップの風景が私は本当に大好きです。上記2枚の写真の間には恨めしく歴史的な隔たりが生まれることとなってしまったわけですが、2年前のように憂うことなく思いっきり空気が吸え、全員の笑顔がきちんと見えるアップが復活することを切に願います。



11. 本番

仕事については言うまでもありませんので、私が音響操作に使っているソフトとコントローラを紹介します。

私はパソコンのみを使って本番の音響操作を行いますが、例えばiTunesの画面から直接再生ボタンを押したり止めたりというのでは流石に快適とは言えません。その為、音響スタッフは自分の好みのソフトウェアを使って様々に工夫を凝らしています。

私はAbleton live liteというソフトと、それに対応するAKAI APC-miniというコントローラを使用しています。このソフトは主にDTM(パソコンを使って音楽を作ること)に用いるいわゆるDAWソフトですが、その機能の1つであるこの画面が音響操作に最適であると思っています。8チャンネルに分けて音を出せる(簡単に言うと、8種類の音を同時に鳴らせること。例に挙げたiTunesの画面などでは、一度に鳴らせるのは1つの音だけですよね。)ことに加え、全ての音の音量レベルを個別に調整することが出来とても便利です。 

Ableton liveシリーズは結構高価な有料ソフトですが、「lite」はその無料ライセンス版です。楽器などを買うと付属される場合が多く、一般に配布されているわけではありませんが、フリマアプリなどではこのライセンスが安価で多く出回っておりますので手に入れるのは簡単です。コントローラを用いるのは単にパソコンのマウスでカチカチするより随分快適だからです。更にこのAPC miniには全てのチャンネルにフェーダーが付いているので、複雑なフェードイン・アウトの操作も簡単になり非常に優秀です。

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とあるアップ用に組んだAbleton liveの画面と、APC mini(コントローラ)です。このように8×8曲を収めることができ、曲の入っているマス(トラックと呼びます)に対応してコントローラのボタンが光っています。このボタンを押すとその音が流れ、コントローラ下部のフェーダーを用いて音量調整も行えます。トラックを色分けする機能が使い易く、アップの際はどの役者さんのリクエスト曲なのかを一目でわかるようまとめておくことができて便利です。


12. バラシ

お片付けです。ケーブルを降ろす作業は慣れれば一瞬ですので、バラシ開始の一瞬だけ脚立を借りてササッと済ませてしまうことができます。仕込みもそうですが、慣れれば他のセクションと比べて作業時間が圧倒的に短くできるという点は、音響の魅力として是非伝えておきたいことですね。また、学内施設の場合は物品の返却時も劇場管理さん立会いでラインチェックを行います。「壊してないですよ!」という証明です。

最後に

以上、私が経験した限りでの音響チーフの仕事をまとめさせて頂きました。初めは補佐としてこれらのお手伝いをすることから始まりますが、その中で是非自分なりの工夫を見つけ、みんなに信頼されるスタッフを目指してもらえればと思います。

弌葉英晃
劇団くるめるシアター3年代
役者・脚本/演出・音響スタッフ。add9-RAYというソロユニットでは映像作品なども制作しており、12月にはユニット初の演劇作品『ob-(Re)-vious』をプロデュース予定。


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