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【NNOX】技術的特徴ってなんだろう?    ~X線管編~(おまけ:X線の基礎知識)

文章書くのが苦手で、1記事書くのにめちゃくちゃ時間が掛かってます(笑
すらすらと書ける人を羨ましく思う今日この頃です…。

前回はNano-X imaging Ltd.(ティッカー:NNOX)の'21/5/11決算の内容、事業計画についてまとめました。
その中では、コロナの影響や技術的な部分で課題があるようで、事業計画が1年近く後ろ倒しになる、という内容で少々残念に思うところもありました。
ただ、まだ製品自体が完全にダメだという訳ではなく、現にX線シングルソースのNano-X Cart X-ray SystemはFDAの510(k)の認可は下りています。
今後、特に注目すべきは製品となるNanox.ARKで採用予定のマルチソースの510(k)申請がどうなっていくか、ですね。
年内に申請を出す、という話でタイミングが読めませんが…。

しかし、勿論まだまだ製品に関して展開されている情報が少なく「やっぱりダメでした!」というパターンも無い訳ではないので、リスクがあることだけは認識しておく必要はあります。

…なんて言ってたら、期待してるのかしてないのか、どっちやねん!!
って突っ込まれそうですが、私は期待してますからね  d(´ω`*

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*note書き始めた6月上旬ではこんな感じでしたが6/18にマルチソースを申請したと発表ありました
note執筆が遅すぎるから・・・(笑

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さて、承認や製品出荷等の大きなニュースが来るまでに大きな時間が空いてしまいました。
暇つぶしと言っては何ですが、今一度NNOXの製品の技術的な特徴って何かを纏めようと思い、今回のnoteになります。
しかし残念ながら私の専門は機械工学で、NNOXの扱うような電磁気学、電気電子関連の知識は素人です。
素人なりに調べて理解できた範囲でしか書けませんが、お付き合い頂けたらと思います。
もし勘違いしている部分や誤った理解をしている等、お気づきになられた方がいらっしゃいましたら、そっと教えていただけると嬉しいです。

例によって、このnoteはNNOX株を売りだ、買いだということは議論しませんので、悪しからず。

NNOXが主張する技術的特徴

'21/4/6に公開されたSECへ提出されたFrom F-20、Annual Reportの59ページ目「Our Technology」という項目に特徴が纏められています。
まずはこの内容を要約していきます。
途中でNNOXのプレゼン画像を挿入していますが'21/4公開のInvester Presentationの資料抜粋になります。
今回はトモシンセシスのNanox.ARKに関係する部分にフォーカスしてまとめていきます。

記載内容をそのまま書いていきますが、中には実際の意味とやや異なる表現がされていたり、まだ検証結果が公表されておらず、観測的な内容もありますので、ご注意ください。

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〇既存技術の説明
・X線管技術は1895年より基本的に変わっていない
・電子を高エネルギーに加速させて、X線が放出される金属ターゲットに電子を衝突させ、電力をX線に変換する
・X線を生成するX線管へは多大な電気的エネルギーを供給する必要がある
・ただし、供給したエネルギーの大部分は熱に変わる
・これは熱電子と言い、金属フィラメントを約2000℃まで加熱すると出来る
・カソード(フィラメント)で電子ストリームを生成し、アノード(金属ターゲット)に衝突させ、高エネルギーの衝突から生じる光子ベースのX線ストリームを生成する
・1903年にタングステンフィラメントが導入されたが、現在も使用される

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〇既存技術の課題
・タングステンフィラメントを2000℃まで加熱するために、カソード部周辺は高真空、高電圧環境での高温に耐える必要がある
・高温下でフィラメントは徐々に蒸発し、X線管の寿命が制限される
・CTスキャナーに使用されるX線管は長い時間通電させる必要があるため、特殊な冷却構造を備える必要がある

【既存品の冷却構造】
①ガントリー(円形門型部)の回転によって装置冷却

②カソードを回転できる構造にして冷却

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CTスキャナー用X線管は上記の特殊な冷却仕様を必要とするため、重さが50~100kgある
CTスキャナー用X線管の一般的な価格は$150,000以上
・数多くのX線像を使用して3D画像を作成するために、CTスキャナーでは患者は長い時間放射線に曝される必要がある

〇NNOXの新しいX線源
・既存システムの複雑さとコストが課題と認識して新しいX線源を開発
・電界放出ディスプレイ(FED:Field Emission Display)の技術がベース
(ソニーがテレビモニター用に開発してきたもので、合弁会社であるエフ・イー・テクノロジーズ社を立ち上げて継続的に開発が進められたが、2009年にプロジェクトを中止、解散した)
・X線源はMEMsベースの半導体カソード
・従来の単一フィラメントではなく、電子銃として機能する約1億のナノスケールのモリブデンコーンへの非熱電子定電圧トリガーによる電子放出を実現

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〇技術的メリット
・放射線被ばく時間の短縮
電子ビームの瞬時On/Off切り替えが可能な構成のデジタルチップを使用
(実質的にX線照射のOn/Off制御)
アナログX線源と比較して被ばく時間の短縮が可能

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・1つのX線源を使用したマルチスペクトルイメージングが可能
X線透過強度と露光されたX線量(kVp/mAと呼ばれる)が独立しているため、マルチスペクトルイメージングが可能な構成になっている
従来のX線源の場合はkVp/mA比は線形的な関係性があり、1つのX線源では特定用途のkVp/mA、1セットしか生成出来ない
(例えば組織画像か、骨画像か、のいずれか)
マルチスペクトルイメージングでは、ヘッドスキャン、腹部、マンモグラフィ、血管造影など、様々な密度の軟組織と硬組織の両方を同時に含む複数タイプのスキャンに使用できる
プロトタイプでは60kVp/mAを使用しているが60~120kVp/mAの範囲のマルチソースNanox.ARCを商品化する予定

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・X線源の長寿命化
アナログX線管では単一フィラメントを高温加熱するのに対して、MEMsカソードでは複数の電子銃を備えて電子生成の負荷を分散している
アナログX線管の回転アノードのようなメカニズムを必要とせず、各デューティー比において固定アノードの様々な場所に電子ビームを照射出来る
更にカソードのOn/Off切り替えにより動作時間を短く抑えることが出来る
これによって高い安定性と長い寿命を保ち、平均故障時間を長く出来る

・ハードウェアの簡素化
X線源は上記の通りデューティー比によって固定アノードの異なる場所に電子ビームを照射するように設計しているため、患者の周りを回転する一つのX線管ではなく、患者の周りに複数の固定されたX線管を配置出来る
そして従来の回転アノードでは、コンポーネントが複雑な動きをするためにサイズやコストが増大する
新しいX線管によって、従来のCTデバイスに比べてNanox.ARKは小型、簡素化とコスト低減が出来る
(X線管コスト$150,000→$100)

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まとめ

簡単にまとめると以下のようになります。
既存装置の課題
・カソードを熱するのでX線管の寿命はこれに引っ張られる
・冷却装置をつけるために大きくなる
・コストが高い
・患者のX線被ばく時間が長い
解決手段
・新しいX線管の開発(MEMsカソードが特徴)
技術的特徴
・X線のOn/OFF制御によって患者さんのX線被ばく時間を抑えられる
・マルチスペクトルイメージングが可能
(一個のX線管で撮像対象はマルチに対応可能)
・X線照射のOn/Off制御が出来るため、寿命が向上する
・機器構成を簡素に出来る
・装置コストを低減出来る


ふむ、なるほど…そういうことか…!
と、皆さん理解出来るでしょうか…。(@w@;
残念ながら書いてる張本人は、実はここまでの内容を半分も分かったかどうかです。
専門外なので…。

これは少しお勉強が必要ですね~。

おまけ(X線やX線管、冷陰極に関する基礎知識)

さて、ここからはおまけになります。
難しい単語がゴロゴロ出てきて消化不良しているので、これを補う補習のような位置づけになります。
NNOXの技術を理解するために、必要な基礎知識をまとめて行きます。
投資の判断材料・・・にも何にもならないですが、優位性と言いますか、イノベーションなのかどうかを理解/判断するための話になります。
最後の方で少しだけ、NNOXの技術の位置づけみたいなのも見たいと思います。

あまり宜しくないですが、他サイト様の画像も一緒に引用します。
削除要請あれば即座に図を消します。
Wikipediaばかり頼って脳無しなまとめですが、お付き合い頂けたらと思いますw

・X線とは?

〇レントゲン写真撮るとなると必要になるもの。
〇これを使えば様々な物質が透け透けになってる写真が撮れる。
…という位がごく一般的な認識じゃないでしょうか。

まずはX線って何なのかを確認していきましょう。
見て回った中では下記のWebサイトの説明が非常に分かりやすかったです。
これとWikipediaも引用しながらまとめます。

X線
1895年11月8日、ドイツのヴィルヘルム・レントゲンにより特定の波長域を持つ電磁波が発見され、X線として命名された。
呼称の由来は数学の“未知数”を表す「X」で、レントゲンの命名による。
電磁波の波長が0.5 Å – 2.5 ÅのものがX線と呼ばれる。
(Å :オングストローム 1Å =0.1nm=10の-10乗m)

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またしても難しいキーワードが出ましたね、電磁波。
以下のサイトを引用しながらまとめます。

電磁波
電場と磁場の波で、それぞれ互いに振動しながら空間を伝播していく物理現象。

可視光も電磁波の一種。
電場と磁場は密接な関係があり、磁場が変化すると電荷に力が働いて電荷を移動させ(電流が流れる)、電流が流れると磁場に変化を及ぼす、という相互作用が起こる(電磁誘導)。
波長が短いほどエネルギーが高く、エネルギーが高くなるほど物を透過する性質がある。
(X線、γ線のような短波長で高エネルギーの物は放射線(電磁放射線)と表現されることも)

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上記のような電場、磁場の振動から生じる現象から「波動性(波としての性質)」を持っている。
一方で、波長が短くなると波の性質である回折現象(ある隙間を通過した波が回り込むように広がる)が弱まり、直線的な振る舞いをする。
この直線的な振る舞いは「粒子性(物体としての性質)」の特徴であり、粒子はエネルギーの塊として一個、二個とカウント出来る。

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電子のエネルギー状態が高エネルギー ( EH ) から、何らかの原因で低エネルギー ( EL ) 変化(遷移)したとき、そのエネルギーの差分( ΔE = EH - EL ) を原子の外に波動エネルギーとして放出する。
この放出された波動エネルギーが光(電磁波)である。
 1 個の電子のエネルギー遷移から放出されるエネルギーが光(電磁波)の最小単位で「光子(フォトン photon )」と呼ばれる。
(光子の量で輝度に影響があり、可視光だと「眩しい」の度合いが変わる)

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ここまで見ると、電場とは、磁場とは、波動とは、粒子とは、光子とは・・・となってしまいますが、きりがないので細かい追及は今回はここまでにしておきますw

さて、X線の方に話を戻しましょうか。
下記のサイトも引用しながらX線の作用をまとめます。

X線の作用
X線が物質に入射すると散乱したり、吸収したり、透過したりする。
・散乱(反射)するもので、ある角度で干渉が生じて強まる特性をX線回折
・X線入射して、特定波長のX線が放出される(光る)ものを蛍光X線
これらは照射した物質に応じた固有の特性を有するため、元素分析や結晶構造分析のような物理分析で用いられる。
レントゲン撮影は透過するX線を利用する。

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透過するX線の特徴について以下のサイトを引用してまとめます。


X線の吸収差
原子番号と密度の大きいものほどX線を遮断する。(吸収/減衰される)
骨や歯などは透過しにくくフィルムには白く映る。
脂肪や水は透過しやすくフィルムには濃く映る。

物体の厚みによっても差が生じる。
厚いものほど透過しにくくフィルムには白く映る。
薄いものほど透過しやすくフィルムには濃く映る。

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また後程このレントゲン撮影画像の濃淡や輝度に関して出てきますが、一旦区切りましょう。

ここまででとりあえずX線がなんたるかは何となく分かってきましたね。
というところで、次はどうやってX線を作るのかを見ていきましょうか。
上記にあった「既存技術の説明」でも一部同じ話が出ましたが今一度。

・X線の発生原理とX線管

X線の発生原理を下記のサイトを引用してまとめます。

X線の発生原理
下図は固定陽極X 線管の模式図。

X線管:X線を発生させる真空管/電子管のこと。
フィラメント(カソード、陰極)を電流を流して加熱することで熱電子を発生させる。(約2000℃)
陽極と陰極に高電圧をかけることで、タングステンやモリブデンなどの金属(ターゲット、アノード、陽極)に熱電子が高速で衝突し、連続X線(制動放射)や特性X線が発生する。

この時の陽極と陰極の間にかけた電圧を管電圧(V)、電流を管電流(I)と言う。
通常、管電圧はkV(キロボルト)、管電流はmA(ミリアンペア)で表わす。

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X線やX線管の歴史に関して、国立科学博物館産業技術史資料情報センターが「X線管装置の技術の系統化調査」と題した報告書を公開されていて、非常に読み物として面白いです。
…が、122ページに及ぶ長編なので、興味のある方だけ覗かれると良いと思いますw

NNOXのX線管の説明の中で「X線透過強度と露光されたX線量(kVp/mA)」という話がありました。
これは上記の管電圧、管電流に関連した話になります。

kVp:管電圧(X線強度)
   X線管の陰極と陽極間に印可される電圧の最大値(pはpeak)
   撮影した画像のコントラスト(濃淡)に影響
   管電圧を上げればX線の波長が短くなり、透過し易くなる。

mAs:管電流(X線量)

   X線管を流れる電流の平均値と流した時間(撮影時間)の積
   撮影した画像の明るさ(輝度)に影響
   (上の方で記載した光子(フォトン)の量に同義)
   管電流を上げれば発生するX線量が増え、強度が上がる。

管電流だけ上げても波長は変わらないので、透過していない物を見ることは出来ない。
見たい物に合わせて最適な2つの条件(管電圧・管電流)を決めていく事が鮮明なX線画像を撮るポイントとなる。

吸収の度合いの似たもの同士では、X 線写真でその差がわかりにくいので、管電圧を適切に選ぶ必要がある。
例えば、水と脂肪を分けて見るには、管電圧を低くする必要があるが、吸収の差の大きい骨と脂肪では高い管電圧でも撮影できる。

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NNOXの技術的特徴の中で「60~120kVp/mAの範囲のマルチソースNanox.ARCを商品化する予定」と書かれていますが、今現在のところNNOXのX線管の実力値(定格仕様)が公開されておらず、不明です。
(シングルソースでは60kVp/mAの低い値での記載)
管電圧や管電流の仕様値はレントゲン像(透過像)の見れる対象物の範囲や画像品質に関わる部分です。
今後マルチソースが承認された暁に明るみになると思いますので、そちらも注目したいですね。


さて、話が少し反れましたので、X線の発生原理に戻します。
「連続X線(制動放射)や特性X線」というワードが出ました。

特性X線は上記「X線の作用」のところで触れた通り、照射した物質(アノード)に応じた固有の特性を有するX線のことで、分析用途で用いることが多いものです。
レントゲン撮影で用いるのは、様々な特性を有する制動X線(連続X線、白色X線)です。

制動X線
陽極に引き寄せられた熱電子は、陽極の材料(一般にタングステン)の原子核に引き寄せられ、急激に方向を変えられる。

車に例えれば、急にブレーキをかけてハンドルを切るのと同じであり、ブレーキやタイヤから音や熱のエネルギーが出るのと同様に、ブレーキをかけられた電子は、エネルギーを外に出すことになる。

このエネルギーの大部分は熱になるため、陽極は高温になるが、一部のエネルギーはX 線として外に出てきます。
これをブレーキによるX 線という意味で、制動X 線と呼ぶ。
制動 X 線は、様々な波長のX線を含むため X 線分析に利用出来ない。

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特性X線
熱電子が衝突した金属陽極では、K殻の電子が弾き飛ばされ空軌道ができる。
この空軌道に向かって外殻電子が遷移すると、電子軌道のエネルギー差と等しいエネルギーをもったX線が放出される。
そのX線の波長はターゲット原子によって固有であるため、特性X線と呼ばれる
この特性X線には、L殻からK殻へ遷移する場合に発生するKα線と、M殻からK殻へ遷移する場合に発生するKβ線がある。
なお電子ではなく、エネルギーの高いX線が物質に衝突したときにも、同様のメカニズムで特性X線が発生する。

繰り返しになるが、元素分析や結晶構造分析のような物理分析で用いられる。

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ちょっとだけ補足説明します。
原子核やK、L、M殻とワードが出てきましたね、一応簡単に見ておきましょうか。


原子
物質を構成する基本的な粒子を指し、物質の最小単位とも。
物質の最小単位というところで「原子」と「元素」が混同されがちだが、以下の違いがある。
原子:物質を構成する具体的要素
元素:性質を包括する抽象的概念

原子は正の電荷を持つ陽子と中性子からなる原子核と負の電荷を持つ電子からなり、原子核の周りに電子が存在する状態を模式的に電子殻として表現される。
エネルギー準位の低い方からK殻・L殻・M殻・・・と呼ばれ、電子殻それぞれに入ることのできる電子の数は (2nの2乗) 個に等しい。
K殻:2個、L殻:8個、M殻:18個・・・・


この原子レベルで、電子による殴りあいの喧嘩をした結果としてX線が出てくる、位の認識でOKでしょうか。(適当

さて、話をまたX線に戻します。
制動X線の説明で「エネルギーの大部分が熱になる」とありましたね。
Wikipediaの「X線」に、以下の記載があります。

加速電圧(管電圧)と電子流による電流(管電流)からくる消費電力の1%程度だけがX線に転換される。つまり電子線の電力の99%が対陰極の金属塊を熱するということになるため、実験上冷却が重要である。

X線を発生させるエネルギー効率は非常に悪いようですね…。
この為にガントリーを回転させる中で大型の冷却装置やX線管の回転陽極のような冷却構造が必要となるわけです。

さて、X線がどのようにして発生するかが分かってきましたが、NNOXが技術的特徴としているX線管がどういうものかにフォーカスして深堀していきましょうか。
ここまで出てきたX線管は、電子を放出するカソード(陰極)にフィラメントを用いる「熱陰極」と呼ばれるものです。
これに対応して「冷陰極」と呼ばれるものがあり、NNOXの提供するX線管で用いられているものがこれになります。
上記にリンクを記載した「X線管装置の技術の系統化調査」でも冷陰極を用いたX線管の話は若干出てくるのですが、技術的な課題を抱えているようで、現在の主流はフィラメントを用いた熱陰極のものという認識で間違いないようです。
NNOXはその技術的な課題を克服出来たのでしょうか…。

それでは陰極構造に関して見ていきましょう。

カソード(陰極)構造(熱陰極と冷陰極)

熱陰極のフィラメントと聞いてピンと来る方もいらっしゃると思いますが、身近なところに使われています。

電球や蛍光灯です。

その中でも蛍光灯はX線管での熱陰極の使い方と同じで、電子を空間に放出する形を取っています。
このおまけの冒頭にも書きましたが、可視光も電磁波の一種で、蛍光灯の光の発生原理もX線の発生原理に非常に近く、電子の殴り合いです。
下記サイトを引用しながら蛍光灯の発光原理をまとめます。

蛍光灯の発光原理
電極のフィラメントに電気を流して加熱、発熱させて熱電子を飛ばす。
この電子放出源はエミッターと呼ばれる。)
蛍光管の中に水銀ガスが入っていて、電子を水銀ガスにぶつける。
水銀ガスに電子がぶつかると、原子が振動すると同時に紫外線(目に見えない光)が発生する。
これがガラス管に塗られた蛍光塗料にぶつかり、蛍光塗料が発光する。
電子を水銀ガスにぶつけて、水銀ガスから出た光を目に見える形の綺麗な形(色)に変換している。

・電子の移動イメージ
放電によって高いエネルギーを与えて飛ばした電子は、激突と言って良いほどの勢いで原子にぶつかり、その勢いで原子にくっついていた水銀の電子が飛び上がり、水銀の原子がホッとして元の場所に戻るときに光を放つ。

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電子殻の電子をぶっ飛ばすところ、まさにX線の発生原理と同じですね。
ということで、熱陰極のフィラメントは蛍光灯や電球の電極で使われてる、あれをイメージしましょう。↓

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さて、熱陰極はイメージついたので、次に冷陰極を見ていきましょう。
下記サイトを引用しながらまとめます。

熱陰極蛍光管 (HCFL:Hot Cathode Fluorescent Lamp) 
電極を加熱して積極的に熱電子を放出する構造を持った蛍光管。

冷陰極蛍光管 (CCFL:Cold Cathode Fluorescent Lamp) 
陰極を加熱せずに電子を放出する構造を持った蛍光管。

冷陰極管
熱陰極管に比べて冷陰極管は陰極降下電圧が大きい

陰極降下電圧は蛍光管の発光に寄与せず、そのまま熱的な損失となる。
しかし陰極材料が改善され、陰極降下電圧が下がる目処がついたため、冷陰極管の発光効率は大幅に改善した。
(材料だけでなく、周辺温度やガス圧等の環境からも影響を受ける)

冷陰極を使用した小型蛍光管が液晶バックライト用の光源として急速に発展し、発光ダイオードが一般的になるまでは多くの液晶パネルに搭載されていた。(発光ダイオードの方がコストが安い)
近年では蛍光体の選択による植物の生育に適した波長特性と耐久性、省電力により植物工場での人工光源として活路を見出しつつある。

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あらら、実は冷陰極は効率が悪いのか…?
陰極降下電圧って、また難しい言葉が出てきましたね。
放電という現象と共に、簡単にどんなことかを見ておきましょうか。
博士論文も引用しましたが、冒頭部分のみ参考にしました。

 放電
電極間にかかる電位差によって、間に存在する気体に絶縁破壊が生じ電子が放出され、電流が流れる現象。
形態により、雷のような火花放電、コロナ放電、グロー放電、アーク放電に分類される。
放電の結果、蛍光灯が発光する

グロー放電
低圧の気体中の持続的な放電現象。
電極間空間への荷電粒子供給が、正イオンの負極への衝突の際に起こる二次電子放出(γ作用)と負極・正極間を移動する電子による気体分子の電離(α作用)によるもの。
電流が増加するとアーク放電に遷移する。
冷陰極管において電流密度とガス圧が低いときの発光(グロー、glow)を伴う定常的な放電のこと

アーク放電
アーク放電は電極からの電子の放出が前述の二次電子放出(γ作用)以外のものが主となる放電の形態で、放電の最終形態となっている。 
照明ランプや、アーク溶接に利用され、たとえば、蛍光灯においては、低気圧水銀蒸気中における熱陰極アークが利用されている。
アーク放電は負極からの電子放出の形態により、負極の加熱により起こる熱電子放出による熱陰極アークと、負極表面に存在する非常に強い電界により直接電子が放出され(電界放出あるいは冷電子放出と呼ぶ)る冷陰極アーク(電界アークとも呼ばれる)に分れる

陰極降下
グロー放電が開始すると陽イオンが空間電荷となって陰極付近に集まる。
この時,陰極付近の電位傾度は極端に大となる。
この部分(陰極暗部)にかかる電位差を陰極降下という。
熱陰極を用いたアーク放電もグロー放電と同様の陰極降下が生じるが、電圧降下の程度は冷陰極に比べて非常に小さい。
(熱陰極:20V、冷陰極(Ni電極):140V)

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実はここで私は混乱してしまい、noteを書く手が止まりました。
NNOXの冷陰極は「電界放出ディスプレイ」でも使われる電極で、「電界放出」という言葉はアーク放電の冷陰極アークの説明に近しいもの。
しかし冷陰極蛍光灯(CCFL)はグロー放電を起こすと…。

「冷陰極」、確かに熱陰極の対義としてある言葉ですが、電子の放出方法の違いで分かれそうです。
Wikipediaの「放電」のページに電子放出に関して以下の記載があります。

電子放出
放電を持続的に継続させるためには、電子が電極から連続的に放出されねばならない。
電子を放出するためのエネルギーは以下のようなものがある。

熱電子放出
:電極が加熱されることによって熱エネルギーによって電子を放出するもの。
電界電子放出:金属の表面に強い電界を作用させて電子を放出させる。
2次電子放出:電極に荷電子が衝突するエネルギーで放出される電子。

電界電子放出も2次電子放出も「冷陰極」とまとめて書かれますが、どうやら違いそうです。
というところで、私の理解としては下記の通りです。

〇熱陰極蛍光管(HCFL)の熱陰極
〇従来のX線管で用いられる熱陰極

同様のフィラメントを用いた構成、熱電子放出

〇冷陰極蛍光管(CCFL)の冷陰極
〇NNOXのX線管で用いられる冷陰極

構成、電子放出原理が異なり別物
CCFLは二次電子放出、NNOXは電界電子放出

冷陰極に関して、日本の特許庁の技術動向調査報告がありました。
これによれば冷陰極の構造は大きく4通りあるようです。
(冷陰極に関して、日本での技術開発が結構進んでいて特許も多いのだとか)

冷陰極構造
〇電界放出型
〇半導体型
〇MIM型、MIS型
〇弾道電子型
〇表面伝導型(SCE)

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色々調べたのですが、CCFLがどの型式か分からずでした…。
いやはや、大きく寄り道しちゃいましたね…w

さて、気を取り直して。
電界電子放出とはどんなものなんでしょうね。
2次電子放出だと陰極降下によって効率が悪いとされてましたが、電界放出だと原理的には陰極降下は少なそうですが…。
電界放出ディスプレイ(FED:Field Emission Display)の技術がベース、とも記載がありますし、FEDとは何かも気になりますね。
次はこれらに関して見ていきましょうか。

米国株やってる方は間違えそうですが、パウエル爺さんが議長やっているFED(Federal Reserve System:連邦準備制度)じゃないですからね!w

電界放出ディスプレイ(FED)と電子放出原理

大分基礎的な話から応用的な話に移ってきましたね。
まぁ、この辺りもNNOXを理解する上では必要な基礎知識ということでw

電界放出ディスプレイに関しては正直、調べても情報が少ないです。
まずは手っ取り早くWikipediaで見てみましょうか。

電界放出ディスプレイ(FED:Field Emission Display)
ブラウン管や液晶ディスプレイと同じく、映像を表示させる装置

特徴
・熱電子放出に比べて効率がよく低消費電力。
・画素ごとに電子放出部があり、高輝度と広視野角な画像が得られる。
液晶よりも表示特性が良い
・電子放出部が薄く作れるため薄型ディスプレイ向き。
・発熱が少ないため高寿命。

発光原理
基本原理はブラウン管(CRT)と同じで陰極部分から電子を電界放出によって真空中に放出し、蛍光体へぶつけることで発光を得る。
ブラウン管は陰電極部分にフィラメントなどの熱陰極を使用しているが、FEDは熱を加えることなく電子を放出することから冷陰極方式ともいわれる。

電界放出原理
電界電子放出とは、電極に外部から電界(電圧)を加えることによりトンネル確率を上げることで電極固体表面から電子が放出する現象。
(トンネル効果)
電極固体に低いエネルギーを与えていると、鏡像ポテンシャルの壁に跳ね返される。
そこへ外部から電圧を加えることで電極固体表面は電界(外部電場ポテンシャル)によるポテンシャル障壁の低下が起こり、電子を放出するのに必要なエネルギーは低くなる。
電子放出を電界によってアシストするもの。
(ショットキー効果)
ポテンシャルの壁を抜けた電子は外部電場ポテンシャルによって外部へ放出・加速されていく。

欠点
回転蒸着法エミッタ、即ちスピントエミッタでは先鋭で均一な先端形状を再現性良く作製することが困難でありエミッタの破壊などの課題があった。
しかも大面積基板へのステッパ使用や超大型真空蒸着装置の必要性のため、低コストで作製することが困難であった。

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トンネル効果やショットキー効果は、エヴァンゲリオンのATフィールドをATフィールドで中和して物を突破させるようなイメージでしょうか(適当

冷陰極蛍光灯のCCFLでは陰極降下で効率が悪かったり、熱を放出するとありましたが、電界放出型だとそれらの欠点は無さそうです。
しかし、安定した製造のハードルの高さ、製造コストが折り合いつかず、FEDは世に出ることなく、その技術はお蔵入りに…。
ソニー、キヤノン、東芝などの大手メーカーが電界放出ディスプレイの開発に挑んだが、いずれも2010年までに開発を打ち切ったようです。

Wikipediaの説明中にも出てくるエフ・イー・テクノロジーズ社、
ソニーからFED事業を切り離して投資ファンド(テクノロジーカーブアウト投資事業有限責任組合 (TCI))との合弁会社で、NNOXに非常に強い関係を持つ会社です。(2009年に清算されている)
というのは冒頭のNNOXの技術的特徴のところでも書きましたね。

エフ・イー・テクノロジーズ社に在籍されていた方が、NNOXの特許にも名を連ねています。
(桝谷均さん(TCI)、監物秀憲さん(元ソニー))
この辺りの話は、また別の機会にまとめられたらなぁ・・・と思います。

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さて、電界放出型の冷陰極の構造について見ていきましょうか。
上記ではスピントエミッタなんていうキーワードが出ました。
スピントエミッタとは何でしょうね。

電界放出型の冷陰極
(スピント型エミッタとCNTエミッタ)

先に引用した論文と下記の記事に電界放出型冷陰極の電子源(エミッタ)構造について記載があるので、そちらを元にどんな構造、種類があるかまとめます。

スピント型エミッタ
先端を鋭く尖らせた円錐状のエミッタを2次元状に多数配置した構造。
円錐状エミッタは、金属電極の先端を細く尖らせる(高さ、径共に1~2μm程度)と先端に電界が集中して比較的低い電圧で電子が放出されることを利用したもの。
考案者の名前をとってスピント(Spindt)型とよばれる。

カーボンナノチューブ(CNT)エミッタ
ダイヤモンドと同じ炭素系素材であると電子親和力が非常に低いために電子を放出しやすく、低い電圧で電子の電界放出が起こる。
スピント型エミッタの円錐チップを非常に細かいカーボンナノチューブの集合体に置き換えたもの。
カーボンナノチューブの先端に電界が集中して電界放出が起こる。

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FEDは2009年までに閉じられてしまった技術でしたが、調べているとこれらの電界放出型エミッタはまだ研究開発や、製品化されていたりしています。

スピント型は電界の収束性向上や生産性向上が課題として挙げられていて、これの改善策の模索を産業技術総合研究所(産総研)が取り組んでいるようです。

一方、カーボンナノチューブエミッタは中小企業庁の支援を受けながら産総研と一般企業のサポインのような形で研究開発が行われ、研究成果を用いて明電舎がX線非破壊検査用のX線管を製品化しています。
海外ではMicro-Xという企業が、可搬式X線検査装置でカーボンナノチューブのX線管を用いた製品を出しています。(FDA認可されている)
日本ではJAXAが宇宙空間での推進方法、エレクロトダイナミックテザー(EDT)での電子放出源として研究もされていたようですが、現在は不明です。

こう見るとカーボンナノチューブエミッタの方が製品化されているものが多いように見えますね。
過去には製造の安定性やコスト、信頼性(耐久性)に課題があったようですが、これらの課題は解消して製品化に行き着いた…と見てよいのでしょうか。


電界放出型冷陰極の欠点に関しては下記論文にまとめられていました。
引用して記載します。

電流の安定性の欠如
安定な電子放出を得るためには圧力を極力下げる必要があり、一般的には10-7 Pa 台以下が望ましい。
圧力が高い場合には、陰極表面への残留気体分子の吸着・脱離が頻繁に起こることで陰極表面の仕事関数が変化し、それに応じて放出電流が変化する。

発熱による陰極溶融
細いエミッタに電流が集中するとジュール熱による発熱を生じ、陰極が溶融してしまうこともある。
このため、材料を選ばないとは言うものの、ジュール熱による破壊が生じないよう電気抵抗率が低く、熱伝導率が高く、融点の高い材料が望ましい。
これに加えて表面が化学的に安定であることも望まれる。
過熱の問題は、動作条件の設定や保護抵抗の挿入などである程度回避できる。

電界集束性
引き出される電子線の発散角が大きいという問題もある。
電子ビームをある程度の距離輸送しようとすると、発散を抑えなくてはならない。
このような背景から最近では、FEA のゲート電極を二段化したダブルゲート と呼ばれるデバイスを開発するグループも増えてきている。

うーん、結構超えるべき課題はあるんですね。
NNOXはこれらを乗り越えられたのだろうか…。

ここで、NNOXのWebに掲載されている冷陰極に関するホワイトペーパーで、冷陰極の特徴やスピント型とカーボンナノチューブの比較が記載あるので、そちらを簡単にまとめます。
正直こちらは相当スピント型が有利になるようにバイアスかかった記載になっていたり、内容が古かったりもするので、軽く見てもらうのが良いと思います。
(DeepLの翻訳)

Nanox FED(スピント型エミッタ)
コーンの先端だけがイオンビームの影響を受けやすい。
(ゲート構造である程度防げる)
金属タングステン(イオン化したアノード)を蒸着しても、ナノスピントチップ素材の機能への ナノスピントチップ材料の仕事の機能への影響は最小限です。
効率
頑丈なゲート設計による高効率
ナノスケールのチップに配置される何百万ものナノゲート
寿命
メタルエッジの露出を抑えることで高効率と長寿命を実現
均一性と安定性
コーンチップの露出が少ないため、チップの均一性が高く、焼き付きが少なく、ワーク機能にタングステン金属が付着する心配がない
画質品質
切り替えの高速化と同期性の向上
デジタルイメージリセプターとの同期性が向上
画像のブレや患者の動きによる影響を低減
エネルギーマネジメント

50V以下の電圧が必要
チップからの電子放出を活性化し、電圧に依存しない電流(X線照射量)

カーボンナノチューブ(CNT)カソード
イオンボンバードの影響を受けやすい。
金属タングステンの蒸着により、すべての表面で炭素の仕事関数が増加する。
効率
グリッド構造とグリッド上の吸収、およびタングステン金属蒸着によるカーボンチップの仕事関数の増加により、効率が限定的
寿命
長時間にわたって効率を維持することができない
均一性と安定性
メタルエッジの焼け落ちが激しくチップの均一性が低いため、安定性が損なわれる
エネルギーマネジメント
電子放出のためには1000V以上の電圧が必要

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スピント型の方が、ある範囲に決まった数の形状が整った電子放出源を配置できるし外的要因のダメージを受けにくいので、性能的に安定した電子放出を行うことができる、という理解で良いでしょうか。

蒸着とかイオンボンバードとか、突然キーワードが出てきましたね。
金属表面処理の世界でよく見られるワードです。
Wikipediaやアークイオンプレーティングの技術の説明を引用しながら簡単に現象をまとめます。

イオンボンバード
真空管等の中には不活性ガスとしてアルゴンガス等が封入されている。
エミッター(陰極)に電圧を印加して電子を放出させると、電子とガスが衝突してアルゴンガスイオン(陽イオン)が生成される。
この生成されたイオンをX線管内のカソードであるタングステンに衝突させると、物理的にタングステンが損耗する。
このイオンの衝突によって材料が損耗する現象をイオンボンバードやイオンエッチングと呼ぶ。
ちなみに、損耗した材料が空間に飛び出す現象をスパッタと呼び、この飛び出した材料を他の材料にくっつける技術をスパッタリングと呼ぶ。

蒸着
ある材料に熱が加わって一部が気化、または昇華して、離れた場所にある材料表面に付着させ、薄膜を形成させるものを蒸着と呼ぶ。

X線管に電圧を掛けて使っていると、カソードの表面にイオンボンバードや蒸着のような現象によってゴミが付着して、電子放出を阻害する、という話ですね。
スピント型の方が影響を受けにくくて良いよ、とのNNOXの主張。
本当にスピント型は信頼性が良いのかは・・・現時点では分からないですね。

ホワイトペーパーの中ではカーボンナノチューブを狙ったところに配置することが難しいことや、プリントや接着等によってくっつけるが、経年的にくっついている部分が劣化して電子放出特性が変化することも書かれてました。
しかし、実際にはこれを解消するために、カーボンナノチューブに配向性を持たせつつ狙った場所に配置するような技術もあるようです。
ホワイトペーパーに記載内容の比較技術をどこまで信じてよいか。

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あとホワイトペーパーで気になるのは電子放出に必要な電圧ですね。
スピント型は50V以下、カーボンナノチューブは1kV以上、という点。
フィラメントのような熱陰極も含めて、この電子放出に必要な電圧が変わると、このおまけの冒頭で書いた「管電圧」「管電流」の数字に影響するのでは?
例えば、同じ60kVp/mAをX線管に印可したとして電子放出の特性が異なるので、それぞれの陰極構造によってX線強度は変わっていくのではないかと思います。
ちなみに、ホワイトペーパー内に記載あるのですが、管電圧の一般的な値はX線撮影では40~120kV、マンモグラフィでは22~49kVだそうです。

こういった出力特性の違いに関して、一般的な文献で純粋に比較されているものは残念ながら見つけることが出来なかったです。
どの構造が製品として優位に立てるか、比較したデータがあると良いのですが…。
NNOXからは具体的なX線撮像に関わる仕様や撮像事例があまり公表されていないので、この辺りはいまだ不明な部分が多いです。
この辺り、どこまで検証が済んでいるか分からないので不安になりますね。

さて少し振り返りますが、電界放出ディスプレイの説明のところで、製作が難しいという記載がありました。
少しスピント型エミッタの製法に関して見てみましょうか。

スピント型エミッタの製造方法

上記のスピント型とCNTの特徴を記載したところで引用した文献に、スピント型エミッタの製造方法に関して記載がありますので、そちらを引用してまとめます。

「回転蒸着法」「シリコンエッチング法」の2つが代表的な製法

回転蒸着法
1.ガラス基板上にエミッタ電極、絶縁膜、ゲート電極を成膜する
2、3.ゲート電極、絶縁膜にゲート開口部をフォトプロセスで形成する
4.アルミナ等の犠牲層を基板に対して浅い角度で回転蒸着する
ゲート開口径は縮小するとともに、ゲート電極膜は犠牲層に覆われる
5.モリブデン等のエミッタとなる金属を基板に対して垂直に蒸着する
開口部は蒸着と共に小さくなるので、穴の内部に円錐型のエミッタディップが形成される
6.犠牲層のエッチングにより不要なモリブデンを除去して完成

シリコンエッチング法
1.
シリコン基板上に熱酸化膜を直径1μmの円形にパターニングする
2.酸化膜をマスクにして、シリコンのアクティブイオンエッチングを行う
3.熱酸化を行うことによって、熱酸化膜の内部に先鋭なシリコンエミッタが形成される
4.さらに絶縁膜、ゲート電極膜を形成する
ゲート開口部は自己整合的に形成される
5.フッ酸により熱酸化膜のエッチングを行うことにより、エミッタマスクのリフトオフを行って完成

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先に説明をした「蒸着」や「エッチング」等の手法で穴の中にコーンを作成していたのですね。
1つのコーンが1~2μmの物を広い面積で数多く形成させる中で、欠損があっては電子放出特性に変化が出てしまうので、これを安定的に作れる技術が必要ということです。
NNOXには果たしてこのナノコーンを作る技術力があるのか。

調べていると下記の資料が。
2013年頃の資料で、ナノックスジャパン㈱(今のNano-X imaging Ltd.の前身の会社、Nanox imaging PLCと協力関係にあった会社、2020年3月に清算)の 佐藤善亨さんが日本国内の大学の設備を利用してエミッタの試作を行っていたようです。

東京大学に依頼して電子線描画装置によるEBリソグラフィを実施
自社でエッチングしてゲートホールを作製
東北大学において、大口径ウェハに対応し、かつ、測長機能を持った電子顕微鏡を用いてホール径を測定し、狙い通りの径が得られたことを確認した
筑波大学のスパッタ装置を用いて中間層としてのSiC膜を成膜した
名古屋大学のスパッタ装置を利用してアノードにMo膜を形成した
Cone を作り込んで、最終的にSpindt型のエミッター試作に成功し、これを使って撮像素子等の評価を行うことが出来た

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先にまとめた製法から察するに回転蒸着法で作成されていたのですね。

色々な大学の持つ設備を使いながら…
地道な努力を重ねて、頑張ってモノづくりやってたんですね…(TワT
ちなみに佐藤善亨さんは元ソニーの方で、スピント型エミッタの製造方法で特許を取られています。


NNOXの技術のルーツはソニーで、色々調べていると日本で技術が育てられたことが見えます。
そういうところ、私は個人的に好きです。
ナノックスジャパンは清算されて無くなっていますが、今のNNOXにナノックスジャパンの技術がちゃんと継承されていると良いのですが。

安定した製造に加えて、安価に製造出来る算段がNNOXにあるのか。
大量生産できないとコストは下がらないです。
FEDのテレビだと冷陰極を使う面積も広いし、数もそこそこに出す計画でしたでしょうけど、それでも採算合わなかったようですし…。
この辺りは実際にNNOXが量産を始めてからどうなるか、でしょうか。

おまけのおわり

さて、長らくX線やX線管、冷陰極構造について見てきました。
ここまで見たらNNOXがどんな技術を使っているのかは、おぼろげに理解出来ましたよね。
・・・ですよね?w

(おまけのまとめは後日追記します)
率直な感想として、
NNOXの技術は完璧な新規技術ではなく、既存の組み合わせ技術です。
冷陰極の先発としてCNTがあり、製品化されてもいますし、スピント型も昔からある技術ですし。
このことは別に悪くはなく、むしろ既存技術をベースとしているので偽りは少なく、安心できるのではないかと思っています。
だから私は全ぶっこみとかやったりするのですけどねw
但しここまで書いた通りで、冷陰極の製造コストや製造品質の安定性、X線管の動作仕様、信頼性等、まだまだ不透明な事が多いので、懸念事項として頭に置いておく必要があります。
FDA510(k)取得したとしても先々心配事は続くだろうなぁ、と予想します。


もっと数多くのまとめたいことや書きたいことがあるのですが、キリがないので、今回はここで終わりにします!!
個人的には下記の内容をいつか纏めたいなぁと思っています。
多少は見て知ってますが、今回のように調べつつになると思うので、馬鹿みたいに時間かかりそうですが・・・
書き終わるまでにNNOXが根を上げて事業を畳むことが無いことを祈ります!w
・特許
・撮像板
・トモシンセシスとX線CT
・AI

では、今回はこれにて終了っ!!


例によってコーヒー代を頂けたら喜びます(´ワ`*
前回くださった方々ありがとうございましたm(_ _)m
おかげでおいしいスタバのコーヒーを頂きました!


以下は本文何も記載ないです。

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