あなたが落としたのは綺麗なストリップですか
「エロじゃなくて、綺麗なんよ」
最近都内に居を移した女友達Kは、出会い頭にストリップの良さを語りはじめた。
「客がめちゃくちゃ真剣でな、競馬場の人らより健全」
その比較は、それ、大丈夫か。
「綺麗なんかもしれんけど、メインはエロの方じゃろ」
「いやいや、だって女性のお客さんも普通におるんやに。」
女性のお客さんだってエロを見に来てるかもしれんやろがい。
「いっぺん行ってみて。そんで感想教えて。私は行く勇気ない」
これだけ語った本人がまだ行っていなかった。
Twitterにて次の日やることアンケートをとったところ、ストリップに票が集まった。
有言実行の鑑なので翌日渋谷の道頓堀劇場前に降り立った。
道頓堀劇場の看板、あれ、めちゃ大きいですね。
以前ライブ会場に向かう途中に何回か横を通ったことがあるはずなのに、全く気づかなかった。古くからある店の力というやつなのか。午前の光の中で黄色と赤の巨大立体が通りに調和してしまっている。
横の無料案内所から出てきたあんちゃんがこちらをまじまじと見てくるので、中に入ることにする。
入ってすぐのチケット売り場でチケットを買う(ちなみに女性は料金が男性の半分以下だ。申し訳ないくらい得した)。配慮なのか、売り場の人の顔は見えない。ちょっとアングラっぽくて良い。
その奥は待ち合いスペースになっていて、お高めの飲み物や喫煙所がある。
劇場は階段を下った先にあった。既に開演した後だったので、重い扉を静かに開けて入る。
あっ、いい匂いがする!
「オンナの匂い」とかそういうのではなく、なんとなく嗅ぎ慣れた匂い。
あれだ。ライブ会場の蒸気だ。人いきれの方じゃなくて、人工的に発生させる蒸気の方。ホームグラウンド感にテンションが上がる。
人の入りは、椅子席が半分埋まり、立ち見は隣同士がくっつかなくてすむくらい。今のところ女性の姿は見えない。
みんな魚市の中卸業者のごとき真剣な眼差しで黙ってステージを見ている。
立ち見席の柵の後ろに立つと、ステージがよく見えた。
肉付きジャスト(個人的好み)な踊り子さんが、回る台の上に座り、ほぼ存在してないくらいの薄い衣装をめくりながら片足をまっすぐあげているところだった。真横から見ていたので足がかなり高く上がっているのがよくわかった。
「あ、綺麗だな」と思った。
Kとの賭けに負けたかもしれない。第一印象としてはたしかに「綺麗」だった。
(このあたりで女性の二人組が入ってきて「お」と思ったが、後から知ったところによると二人とも踊り子さんのお知り合いだったようだ)
台が0.75周し、踊り子さんの顔が正面から見える位置に来た。最初横から見たときはそれほど好みと思わなかったのだが、優雅に踊りながら回るのをじっくり見ているうちに、ドストライク好みの顔に思えてきた。
踊り子さんがおもむろに衣装を脱いだ。椅子席二列目のじいちゃんが、ぐっ、と身を乗り出す。ちょっと雲行きが変わってきたぞ(雲行きもなにもそこからがメインなのだ)。
開脚がジャスト正面からバッチリ見えて、普通に「あ、エロいな」と思った。
他の人々はどんな顔で見ているのか気になってそっと隣を盗み見ると、依然として目利きのテツ(架空の中年男性)みたいな不動の真顔で凝視している。
マジか。けっこう生々しくないか。これ普通なのか。それとも貴方がポーカーフェイスすぎるのか。
とにかく一つ確信した。
綺麗なことは間違いないが、しかしね、激辛に砂糖をいれると甘い激辛になるように、エロに綺麗を入れても綺麗なエロになるんじゃないの。エロが相殺されたりしないんじゃないの。
笑顔でポラのリクエストに応じる踊り子さんを見ながら、Kにどや顔で報告したろ、と思った。
「聞いてやK、普通にエロかったで」
「そうなん?」
勝ったぞ、と思っていたら、Kはにこにこしている。
「じゃあ私も行く」
よくわからないうちに負けた。
びびって前に行けなかったけど、ポラお願いすれば良かった。誰か無念を晴らしに渋谷に赴いてください。
追記
ちなみに法律的にはストリップの営業はグレー視されているらしい。でも少なくとも公然猥褻じゃないよなあと個人的には思った。人前だけどあれは不特定の人ではないもんな。
風営法は詳しくないのでまた調べます。
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