ゼリー怖くない

『水中人工物恐怖症(Submechanophobia)』についてのツイートを先日読んだ。
水の中のプロペラを写した写真などが添付されており、私は皮膚の不思議なぞわぞわを感じながら見た。

水中の人工物に対する恐怖は誰もが持っているものだと思っていたが、周囲の反応からして案外そうでもないらしい。

水中人工物のなにが怖いのだと聞かれると、説明はとても難しい。
私の場合、たとえばプロペラが自らを害することを想像してしまうわけではない。プロペラよりは躍動感のあるサメの写真の方が、私の頭の中に恐ろしいストーリーを産み出すのには役立つことだろう(教科書英語訳)。

プロペラ単体は怖くない。水は入ると溺れるので怖いが、その怖さとも違う。何が怖いのだ。

・水中の広さ(水平方向)
・水中の深さ
・人工物の大きさ
・人工物の種類

様々な組み合わせを想像する。

深さ一メートル程度から始める。
ここは案外何が置いてあっても大丈夫であるが、排水のために空いた穴とそこに取り付けられた柵が怖い。この場合広さはあまり関係がない。

深さが三メートルを越える。
この時点では、水平方向が25メートルプールくらいの広さで、大きい人工物がど真ん中にあると特に怖い。

深さが10メートルを越える。
もはや水平方向の広さを考えている余裕がない。この深さにおいては縦に長い人工物に対する恐怖が非常に強い。
不思議なことに、プラスチックの人工物と排水の穴のうち小さなものは怖くなくなってきた。ただ壁面に自分の体より大きな穴が開いていたらショックで死にそうである。

ちなみに、水が水平方向に広い場合に私が一番怖いのは、沈んでいる人工物を中からではなく上から見た場合だ。それでいくと人工物ではないが巨大な魚影も怖い。

先程からなんとなく気づき始めてきたのたが、人工物は自ら動いていない場合の方がより恐ろしい。
正確にいうと、自ら動いていたらそれはそれで怖いのだが、人工物が動いていないほうが「水中人工物恐怖症」らしい恐怖感がある。
花粉症のくしゃみと風邪のくしゃみの違いみたいなもので、縁がない人にはどうでもいい話である。
ただ、水の流れによって動いている場合はまさしく「水中人工物恐怖症的な」怖さがある。

ここでちょっと水中人工物恐怖症の皆様にお訊きしたいのだが、人工物ではないのにジャイアントケルプは怖かったりしませんか。私はする。
ついでにお訊きしたいのだが、巨像恐怖症を併発してたりしませんか。私はする。


ふと思い付いたのだが、水が若干乳白色に濁っていたら怖くないんじゃなかろうか。
泥のような濁りだと変わらず怖いが、海際で牛乳工場を爆破したような乳白色の濁りがあると、そんなに怖くなさそうである。

もしくは水の粘度を上げて行ったらどうだろう。みずあめの心中現場として名を馳せる貯水槽なんかがあったら、巨大な廃潜水艦が沈んでいてもなんとか潜れなくはないかもしれない(物理的にはどうかわからないが)。

なんとなく、水中を半ば空間として認識していることに恐怖心の一因がありそうな気がしてきた。
もちろん空の貯水槽に巨大人工物があるよりそこに水が入っていた方が怖いので水中=空中ではないのだが、たとえば同じ水中人工物の写真でも、満たされているのが水ではなく(空間として認識できないほど)高い粘度のものや、ソーダゼリーであると想像すると怖くなくなってくる。


こうしてめでたく己の恐怖心への対処法を一つ見つけたわけだが、実を言えば水中人工物の怖さそのものが大好物なので、残念ながらその対処法を使う時は来ない。

巨像も大好きです。

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