『mist over(ミストオーバー)』簡単2週目まで終わらせたレビュー

 久々に好みのゲームを購入したものの、怒りのあまりどこかで発散させたいという想いがあり、noteに手をつけた。そのくらい悪い意味で衝撃だった。一応、良く言えばそのくらいの熱量と期待がある。

レビューにあたって前提

 そもそも自分がどういう期待を持って『mist over』を購入したのかを明確にしておく。似たような性格の人そうでない人で感じることが全然違うと思うからだ。自分は以下のような理由で『mist over』を購入した。

・ローグライクが好きだから。rogue寄りな作品だと『変愚蛮怒』『elona』『Dungeon Crawl』『Tangle deep』くらい
・装備集めという要素が好きだから(ハクスラ要素)
・難易度が高いと聞いて長く遊べそうだと感じたから
・滅亡の時計のシステムに魅力を感じたから
・キャラが可愛いから。硬派なのは大抵イラストも硬派なのでNG

 つまり、このレビューはローグライク&ハクスラ要素が好きなオタクが書いている。それから付け加えておくと購入したのはSwitch版。初見プレイは「普通」でエリア4に入りたての頃に滅亡。今は「簡単」で2周目をクリアしたところで、「難しい」については一切語れない。基本的には「簡単」基準での話だと思ってほしい。また、Steam版の細かいアプデに関しては一旦無視。結構ネガティブなことを書いているので、気分を悪くしたならすぐに閉じてもらいたい。

総評

不便、不自由、不親切
 繰り返し遊ぶこと想定しているとは思えない。
 とにかく不便。特に、ローグライクという何度も繰り返し遊ぶことが想定されるジャンル、ゲームデザインでありながら、恐ろしいまでにテンポが悪い。戦闘も育成も全部。難易度とかシステムとか、他のあらゆるマイナス要素なんかどうでも良くなるくらい酷い。斜め移動の認識の悪さ(8方向ぴったりじゃないと反応しない?環境の問題?)、テンポの悪さによる戦闘の長さ、一部メニューの上下左右の端がつながってない、冗長な合成アニメーション、装備変更が一部施設でしかできない、所持アイテムも一部施設でしか確認できない、施設セリフの妙な間、アイテム一括売却や使用ができない……ざっと思いつく限りでもこんなにある。極論、ここさえまともならこんな悪し様にレビューすることはなかった
 おまけに不自由。滅亡の時計(事実上の時間制限)というシステムは、そもそもゲーム全体の自由度がないため取捨選択という概念が希薄で意味をなさない。ただ稼ぎプレイを抑制するだけの代物に成り下がっており、面倒なダンジョン探索を毎回強要される。装備も種類が少ない上に後半ほど性能が良くなるから、序盤でゲットした良質なものをつけておくという選択肢が基本的にない。しかも2周目を想定してか装備レベル制限があるのでレベリングまで必須。キャラのビルドもあってないようなものだ。
 そして不親切。各ステータスの説明はゲーム内はおろか公式サイトにすらない。探索では壁にぶつかるだけで1ターン経過するし、戦闘では敵のEVDやGRDが考慮されていないせいか体感とか偏りとかでは済まないレベルでHIT表記があてにならない。使わない連携技のOFFもできない。広場では次の依頼の解放条件も明示されない。ボス戦では突然のキャラロスト、立て直しも困難で滅亡まっしぐら。なんなら時計の針が進むか進まないかもダンジョン出るまで不明。

戦闘バランスはおおむね満足
 一方で戦闘の難易度に関してはかなり高評価。「普通」から「簡単」に移行したとき、戦闘バランスは「普通」が良かったなと何度も思っていた。気を抜くと死にかねないし簡単にパターン化させてくれない。それゆえに安定して勝てるようになると嬉しい。失敗や試行錯誤がキャラロストやデータロストにつながるのはいい。今度はもっとうまい方法でやり直せばいいから。
 そこで立ちはだかるのが、不便不自由不親切なのだ。これらのせいでリトライへのハードルが非常に高くなってしまっているのが残念でならない。

キャラへの愛着もなかなか
 ちなみにキャラは可愛いし結構喋るし、NPCも男女も問わずかなり気に入ってる。特にボイスは意外と気合が入ってる。施設キャラのイラスト差分も多め。あと毎日執務室に通いたいくらいステラさんの服がエッチ過ぎる。世界観と雰囲気も統一されていて、変なギャグもほぼないので没入できる。設定だけ引き継いで完全なローグライクを作ってもらってもいいくらいだ。自分みたいな妄想たくましいオタクにウケるだけの要素はある。

未購入者向けのレビュー
 1回だけクリアしておーわりって感じのRPG感覚なら、まあ、おすすめしてもいいかもしれないかもしれない。『世界樹の迷宮』が好きな人とか。だが1000回遊べるRPG感覚で買うと痛い目を見る。そんなわけで、モノは良いだけにUI/UXの意識が欠如しているのが残念という感じ。まあ酷評した部分は少しずつアプデで改善されているのでいいでしょう。え、Switch版とPS4版のアプデは10月末?ふーん……。

戦闘の難易度そのものは良好

雑魚戦はいい意味での緊張感がある
 雑魚の強さに関しては非常にいい。これは配慮とか擁護とか抜きにして、本当に気に入っている。特に新天地に挑んですぐの戦闘は全く気が抜けない。というか運が悪いと即キャラロストする。エリア2は麻痺ハメではあああってなるし、エリア3はバフデバフで酷い目に遭うし、エリア4は先制とっても先制が取れずボコボコにされるし、尻尾を巻いて逃げるしかなくなる。やっと自分のターンが来てHIT42%とか見て察する。流石に「簡単」ではここまで酷くないが。
 これでキャラロストなんかしたときは理不尽だクソゲーだと思いこそすれ、じゃあ敵を弱くしますキャラロストなくしますって言われたら嬉しいかと言われるとそれは違う。実際、しっかりとレベルを上げて装備を揃えて強化すればかなり安定して戦えるようにはなっている。最初は理不尽だと思った敵の強さも、気づいたら安定して処理できるようになっている。これはかなり嬉しい。ああ強くなったんだなと実感させてくれる。

ボス戦の緊張感は完全なマイナスでしかない
 ただ、ボス戦に関しては不満が大きい。
 デバフや状態異常が基本的に一切通らない。通るのは序盤のうちだけで、エリア3以降はほぼ無意味なものになる。そこから導き出される結論は何かというと、高火力でひたすら殴るだけ。ドーピングして殴る。単純で退屈が過ぎる。だがこれは許容できる範囲だ。
 高難易度RPGあるあるだが、ボス戦よりも雑魚戦のほうが殴られる数が多いので窮地に陥りやすく、行動パターンも読みにくいので常に緊張感がある。ボス戦のほうが簡単なRPGなんて決して珍しいものではないし、別にボス戦が難しくないといけない理由なんてない。まあ弱かったら弱かったでネタにされるし盛り上がりも薄れるしで難しいところではある。個人的なボス戦の落とし所は、綿密に計画を立てれば高い再現性を保って安定して攻略できる敵、と考えている。雑魚戦は基本的にレベルを上げて物理で殴れば勝てるので(まあボスもそうだが)、通常とは明らかに違う立ち回りを求められると、攻略してる感が出るし達成感もある。

 ところで、『mist over』の出したボス戦の答えはいかなものか。その本質は多くの人が直面したであろう、2面ボスに凝縮されていると思われる。「まあそうなるわな」と共感した、Steamのとあるレビューを一部引用する。

まず2面ボス。現状だと、大半の人はここでゲームを投げると思います。
2面ボスは定石通りに戦えばまずパーティ全滅で、運よく逃走出来ればロストを免れるといった具合です。
凶悪なギミックを用意するのは結構ですが、ヒントも無しに突然殺しに来るのは流石にどうかしています。
ただ、この時は、配慮不足で初見殺しが生まれてしまっただけだろうと前向きに捉えていました。
次に3面中ボス。3面中ボスと闘い、2面ボスの理不尽な初見殺しは意図的に組まれたものだったと確信しました。
3面中ボスは高威力のいやらしい攻撃をしてきますが、予兆はちゃんとあります。だから、適切に対処すれば勝てるだろう。
そんなことを考えていると、突然、特大ダメージ(最大HPと同等?)の範囲技が飛んできます。当然食らったキャラは生死の境に入り、その上出血状態になります。ダメージだけでも驚きなのに、出血ダメージが700を超えていたのにはさすがに笑ってしまいました。
この時、”ロストさせるためだけの技”でボス戦の緊張感を生み出してくるんだなあと感じてしまい、気持ちが折れました。
幸いにもロストはせず、戦略も練り直しましたが、理由も分からず飛んでくる即死技の存在に萎えて再挑戦する気にはなれませんでした。
このゲームはリカバリーが難しく、ロストが詰みに直結します。そのようなデザインにも関わらず、ボス戦では突然ロストの危機に追い込んで学ばせようとしてきます(もっともロストしても学べる仕組みになっていませんが)。これは、ボス戦で負けて学ぶ度に一からやり直せと言っているようなものです。理不尽に殺される度に一からこの重いゲームをやり直すなんて普通の人には出来ません。全滅はプレイヤーの納得出来るものであるよう、即死技は一切なくすか、初見でも対処できるようにすべきです。

 “ロストさせるためだけの技でボス戦の緊張感を生み出している”。少なくとも、エリア2ボス戦で1回全滅してもらおうという意図はあっただろう。一応擁護しておくと、エリア2ボスが即死技を放つ条件はしっかりと決まっているので、それさえ知ってしまえば回避はそれほど難しくない。しかし以降もボスは全員即死技を持つものの、ここまで明確な殺意を持った即死技は他にない。まあ、終盤ボス戦も(多分)残りHP割合が低下すると複数回行動で理不尽なキャラロストを迫ってくるわけだが。
 全滅技なんてRPGにはいくらでもあるだろうと考える人もいるかもしれないが、『mist over』はパーマネントデスが搭載されているうえにあらゆる場所でオートセーブされるので、やり直しが効かない。キャラロストは戦力の低下を招き、後述する「滅亡の時計」の存在により大きなリスクになる。引用したレビューでも語られているが、本当にリカバリーが難しい。となれば確かに緊張はする。

ボス戦は「緊張」ではなく「不安」と「絶望」
 しかし、雑魚戦とボス戦とで感じる緊張感は明らかにモノが違う。雑魚戦での緊張感は言わば新天地での洗礼であり、新たな目標として立ちはだかる壁であり、明確な課題を突きつけてくれる存在なのだ。それでキャラロストすれば七転八倒するものの、何糞ぶち殺してやると意気高揚させてくれる。リスクを背負ってでも先へ進んでやるぞと思わせてくれるだけの環境の変化もある。勿論安定して雑魚を処理できるようになれば緊張感は失せるが、「退屈」「面倒」を感じるだけの確かな成長として形に残る。この新天地の雑魚戦の緊張感に関して異論がある人は少数だろうと思いたい。どのゲームでも大なり小なり共通することだろう。
 では、『misut over』のボス戦の緊張感はいい意味での緊張感なのだろうか?自身の準備不足と未熟さを教えてくれる登竜門なのだろうか?否だ。高揚感を煽ることはなく、ただ不安感を扇動する腫れ物なっているのが現実だ。それは何も、単なるキャラロストへの不安感ではない。「このゲームをまた最初からやり直さなくてはならないのか」という、ある種の絶望感である。

試行錯誤とリトライを億劫にさせる壊滅的なUI/UX

レビューを書く理由にもなったストレスフルなUI/UX
 絶望感の根本的な原因はここにある。即死技とか雇用のランダム性の高さとか倉庫圧迫とか、職業感のバランスとかMP回復量とか、運命の時計の仕様とか、賛否両論になっている要素は全てどうでもいい。総評でも触れたが、ここさえまともなら餌を待つ雛鳥のように口を開けて時には騒ぐくらいで済んだ。でもそうはならなかった。運悪く繁殖期のカラスのようになってしまった。

 まず探索パート。チュートリアルで説明される斜め移動は全てのオブジェクトをすり抜けられない。いわゆるローグライクや不思議のダンジョンプレイヤーにとっては怪奇現象だ。すり抜けられないと突っかかって1ターン消費するから腹も減るし慣れてないうちは敵に先制されて気分が悪い。まあ、これは仕様として割り切ればいいだけの話ではある。
 ちなみに斜め移動の操作感は最悪だ。これはSwitchやコントローラの環境のせいかもしれないが、斜め移動の認識が非常に悪い。8方向ピッタリしか認識してくれないイメージ。50時間くらいやってもまだ慣れないくらい操作感が悪い。カチャカチャスティックが空振る音だけ響くことになる。これだけで結構なストレスだが、自分が短気なだけかもしれない。
 満腹度と光輝度についてとかフィールドスキルとか敵のリスポーンとか視認性の悪さとか、その他諸々についてはそういう仕様だと考えているのでここでは言及しない。

 で戦闘ですよ。まあアニメーションが長い。アニメーションはシンプルで好きだし、キャラは可愛いし喋るしオタク的にはにっこりだがまあ長い。こっちはアニメじゃなくゲームを買ってるわけだ。で、「高速化あるじゃーん」って思ったらボタン押しっぱにしなきゃいけなくて面食らった。なんでこんな無駄な操作強要するの?普通オプションとかでデフォ設定できるようにするものでは?敵の行動も8割くらいバフデバフ状態異常が絡んでていちいち長いし、味方の範囲バフは一括なのに敵の範囲バフは1体ごとに判定してるせいで長いし、回避のたびに発生するSPDバフもまた長いし、オンミョウジの省エネも変なディレイかかってるし、ウィッチのワイルドマジックも毎ターン鬱陶しいし、ついでにパラディンの挑発はなんか機能しないしで不具合かと疑った。不具合かもしれない。
 敵が強くて一戦が長いのは仕方ない。だがテンポの悪さで戦闘が長引くのはいただけない。これが2,3戦程度ならいい。ただ後述する滅亡の時計の仕様によって嫌でも戦闘しなきゃならない。戦闘を回避するという選択肢は、かなり消極的にならざるを得ないようになっている。

 で、やっと戦闘が終わって、心の拠り所であるべき広場での行動も苛々させられる。ここからかなりキレ気味だから本当に気分悪くなるかもしれない。でもそのくらい基本的で重要なことができてないのだ。
 まず一部メニューの上下左右の端がつながってない。今どきこんな仕様ある?戦闘のスキル選択はちゃんと上下つながってるのになんで?????意味が分からない。これだけで「ああUI/UXのことはあんまり重視してないんだな」ってことが分かってしまう。ありえない。もし自分が無知で、あえて実装しないメリットがあるなら教えてほしい。明確な意図があって端を断絶させてて、納得できるだけの理由があるなら謝罪するレベルだ。
 そしてキャラや所持アイテムの詳細は一部施設でしか確認できない。なんで??????最優先でメニューから飛べるようにすべき項目では?メニューに記録(プレイ記録、冒険の足跡的なアレ)なんて項目いる?記録なんて項目こそ、殿堂とか冒険記録室とか適当に施設で確認すればいいくらい優先度の低い項目なんじゃないのか?記録と装備を確認する頻度のどっちが多いのかは明白で、少し遊べば瞬間に理解できそうなものだが。その記録も別に大したこと書いてないし必要か?クリア記録としてどこかに残るわけでもないのに存在理由がマジで分からんし不要とさえ言える。まさか技術不足でメニューから飛ばせませんでしたなんて言わないだろう。ただゲーム開発には関わったことがないから、もし技術的に難しいならごめんなさいだ。がんばってほしい。
 アイテムの一括売却もできないのも本当に不便。スタックできるアイテムはいいとして装備品の一括売却。SFC『風来のシレン』でも確かに一括売却はできなかったがN64『風来のシレン2』の時代ですら普通にできたことが何故できないのか。なんならGB2からあったわ。いやここまでうるさいのはアイテム所持数に限界があるからで、倉庫を整理する必要に駆られるからで。
 で、その所持数の大半は支援レベルを上げるための日誌で埋め尽くされるわけで。好意的に捉えるなら日誌の管理も含めて取捨選択してほしいってことだろうし、当然リターンも大きいから1週目は耐え忍んでストックしとくわけだ。これはいいさ。ただ2周目になって支援レベルを最大まで上げると燃えないゴミと化した紙束は手動で売却しない限り無限に溜まり続ける。この無駄な作業は何?本当に繰り返しプレイすることを想定してるのか????不要になったらダンジョンで見かけても拾うなってことか。なんでもかんでも拾いまくる自分のプレイスタイルが悪いのか……いやだったらそもそも出現しないようにするとかさ!そもそも2周目をあまり想定してないのか?でも2周目限定の要素とかあるし分からん。
 拠点入場時のセリフもまたテンポを崩す。これは実際に操作しないと分からないと思うが、初見時はこの妙な間が非常にストレスだった。慣れればどうということはないが、それでも1回ボタンを余分に押さないといけない。ステファンもいちいち喋らなくていいから。たかが1回うるせえなと思う人もいるかも知れないが、何度も訪れる場所で何度も余計に1回ボタンを押さなければならない。頻度の問題なんですよ頻度の。こういうのがエンディングまでに合わせて2回程度なら別に文句ないですよ。まあ多少はねで気にもならないし気づかないよ多分。
 あとステファン(施設NPC)で思い出したが『mist over』攻略のコツは装備合成にある。装備合成のアニメーションがいちいち無駄で無意味な時間を要するという点を除けば、積極的にやるべきだ。攻略の安定感とステファンへの苛立ちを確実に高められる。例によってこれも何度も繰り返し見せつけられることになる。これ装備合成しっかりやらないと戦闘が厳しいと思うのだが、この冗長なアニメーションについて開発は何か思うところはなかったのだろうか?シュイィィィィン……チュン!はぁ。もしや装備合成ってやりこみ的要素なのだろうか?

 まあこんな感じで、UI/UXについては割とブチ切れてる。何度でも言う。本当に繰り返し遊ぶことを想定しているのか?ローグライクってそういうのを前提としたゲームじゃないのか?開発と自分とでローグライクに対する認識が違うだけなのか?それならそれでいい。自分の思い違いが悪いで済む。そう思いたいくらい酷い。総評でも触れた、1回クリアで終わりな人はまあ買ってもいいと語ったのは、この反復作業へのストレスが最小限で済むからだ。

反復作業の長さがリトライの拒絶になってしまっている
 言うまでもなく、上記のようなストレスはコントローラを手放すまで延々と続く。長くなったがそんな理由があって、「このゲームをまた最初からやり直さなくてはならないのか」という絶望感が生まれるというわけだ。正確には、「この作業をまた最初からやり直さなくてはならないのか」。ある程度進めたプレイヤーはみんな学習してるんです。滅亡までにどれだけ退屈な時間を要したかをね!
 データロストして最初からやるのはいい。繰り返し作業になるのは、そもそもそういうゲームジャンルなのだから当然だ。これが受け入れられない人はそもそも向いてないと思う(開発がこの手のジャンル初心者を狙ってるなら配慮すべき項目ではあるが)。問題は、この手のゲームに慣れた人でも億劫になるほどの絶望的なテンポの悪さなのだ。

「滅亡の時計」は時間制限ではなく行動制限

「滅亡の時計」の仕様はあらゆるマイナス要素の根幹
 UI/UXについてはまあいい。肝心なのはゲームの面白さだ。操作性が悪かろうが面白いゲームは世にいくらでもある。『mist over』には独自のシステムとして、「滅亡の時計」というものがある。これが面白さキーになっている……いや、キーになるはずだったと言うべきか。
 個人的には諸悪の根源とも言える「滅亡の時計」。何だそれって話だが、4Gamerのインタビューで触れられていたので引用。

Han氏:
 それはいい考えだと思います。また,命がけで探索をせず,ある程度余裕をもって拠点に戻ればいいと思われるかもしれませんが,本作には「滅亡の時計」というシステムがあり,プレイ内容によってはゲーム全体の制限時間が短くなったり,延長されたりします。
4Gamer:
 ゲーム全体の制限時間とはどういうことでしょうか。
Han氏:
 本作の世界は滅亡に瀕していて,滅亡の時計が進行すると自動的にゲームオーバーとなってしまうのです。時計はダンジョンに潜るたびに進行するのですが,くまなくダンジョンを探索したりすることで時計の進行を遅くしたり,巻き戻したりすることが可能です。
4Gamer:
 ゲームオーバーということは最初からやり直しということでしょうか。Han氏:
 はい。そうなってしまいます。
4Gamer:
 なかなかにシビアですね……。滅亡の時計をシステムに加えた意図を教えてください。
Han氏:
 2つ目的があります。1つはプレイヤーの選択すべてがゲームを進めるうえで重要な選択になっていることを提示したかったからです。そしてもう1つが世界を滅亡から救う緊張感を与えるためです。安全に無制限にレベル上げができたら,それも薄れてしまいますから。

 時間制限という言葉はシステム的には間違っていない。しかし実際には、行動制限のためにあると言ってもいい。滅亡の時計を進めないためにしなければならないことがあまりにも多いからだ。
 滅亡の時計はダンジョンに潜ることで進んだり戻ったりする。滅亡=データロストなので当然進行は抑えたい。そのためには探索で「高評価」を受ける必要がある。その評価は複数の項目があるが、針を進めないためには主に以下のような行動が必須になってくる。

・一定数以上の敵撃破
・宝箱、ガラクタの回収
・全ての光花を灯す
・冒険者を救助する(ない場合あり)

 強力な装備を回収したくても敵を一切倒さなければ容赦なく針が進むので、ある程度は敵を倒す必要があるし、光花を探しにダンジョンをくまなく探索する必要もあり、おまけにガラクタ回収も必須で冒険者がいたら助けないといけない。レベル上げだけをしたい場合でも針を進めないために毎回ダンジョンをくまなく探索させられる。ダンジョン探索において実質的な自由と選択の余地がない
 自分は試したことはないが、レベルの低い冒険者を雇用して初期のダンジョンで時計の針を戻すためだけに探索するなんてテクニックもある。ただこれをテクニックと呼んでいいものか。滅亡を回避する物語で、滅亡を迎えないために最初期のダンジョンをぐるぐるして時計の針を戻す。もうこれでいいんじゃない?解決ではないが少なくとも世界は滅亡しない。

選択肢の少なさ+時間制限=行動制限
 ゲームジャンルが全く違うが、例えば『パワプロ』のサクセスモードもある意味では時間制限があるといえる。シリーズによっては強制ゲームオーバーまで存在している。決められた期間内にキャラを育成するのがサクセスだが、不思議なことに時間制限の不自由さを感じることはない。原則としてタイムリミットがいつなのか明確であり、行動の選択肢が非常に多いのがその理由だろうか。
 時間制限があることでプレイに緊張感が生まれるのは確かだと思う。だからこそ、事前に計画を立てて簡単なチャートを組み立ててゲームを進めていくわけだ。どうも上手く進まなければ計画を変えて行動の取捨選択を迫られ、逆に上手く進めばゆとりができるし予定を追加することもできる。それでタイムリミットが近づくようなことはない。

 滅亡の時計で致命的なのは、一度計画が狂うと負のスパイラルに陥ることだ。特に「普通」以上でキャラロストした経験がある人はわかると思うが、立て直しが非常に困難になる。レベルもスキルも未熟でまたロストしかねない。資金も尽きて探索に赴くも、うっかり敵の殲滅が足りずまた滅亡に近づく。で、またロストする。キャラロストという分岐点で転がり落ちると、いつ本来の計画に戻れるか分からない。自分がヘッタクソなだけかもしれないが。
 念のために言っておくと、滅亡の時計を撤廃してほしいわけではない。問題は、自由度の低さによる事実上の行動制限なのだ。実際、「簡単」では滅亡の時計などあってないようなもので、非常に退屈だった。良くも悪くも、時計の存在を忘れてプレイできる。自由だ。だが退屈と感じるあたりわがままだなと我ながら思う。

 考え方を変えれば、滅亡の時計はダンジョン探索を怠けてもいい権利と言えなくもない。そして怠けて、時計の針が進んでこう思う。「自由に探索しただけなのにペナルティ受けるんだな」。ネガティブだ。時計の針が進んで嬉しいのはバイト中くらいなものだ。
 まあ流石にこれは個人差があると思うが、ただ、これがもし逆だったらどうか。滅亡の時計は常時進んでおり、どんな行動だろうが原則決まった値で進む。そのかわり成果を上げれば進行が緩やかになる。すると、面倒な行動にポジティブな意味が生まれる。最終的には面倒な作業に感じるだろうが、時計の針が進んでしまったというネガティブな要素は払拭されるのではないか。手間と時間をかけたことに明確な利益があるというだけで、例えそれが面倒なものだろうと納得できるように思う。
 他にも、滅亡に近いほど装備が良質になるとか取得経験値が増えるとか、特殊な依頼が出るとかスカウトキャラが強くなるとか(知らないだけでそういう仕様があるかもしれない)。別の方向で「滅亡の時計」の価値を高めるのもアリかなと。『mist over』にこういう要素は少ないが、例えば呪い装備の強化上限引き上げみたいにさ。リスクとリターンの選択って大事だ。
 いや、もしかしてダンジョンをくまなく探索して敵をなぎ倒してガラクタと宝箱回収するってリスクと、時計が進まないってリターンがあると言えるのか?だとしたら……うーん、自分には大局観が足りてないのかもしれない。

アップデートに対する本当に個人的な考え

 自分はSwitch版のVer1.0なのでエアプになるが、細かいアップデートについても少し気になることがある。あとここは本当にプレイしてる人向けの感想というか、悪く言えば同調意見を求めているだけなので、読む人がいるかは疑問だが未購入者は完全に無視していい。

MP回復緩和アップデートは表面的な解決でしかない
 ある程度プレイに慣れてくると、深刻なMP不足に陥る。それを解消するテクニックとして、MPを回復するために敵を1体残して防御でターンを回すというものがある。これが退屈で仕方がない。
 MPが不足するのはボス戦を除けば雑魚と連戦するときくらいで、満腹度が0でなければ1ずつ回復していく。じゃあなんでそんなクソ面倒なことをするのかと言えば、全箇所見回って敵倒して、無理矢理にでも時計を進めないようにしなきゃならんからだ。当然腹は減るし食料買う金もない。スキルを使うMPも必要だ。だから空腹状態でもHPMPを維持できるようにと、退屈な作業を繰り返す。
 で、アップデートによって歩行によるMP回復量が大きく増えた。この修正は意図が分からない。もしも防御MP回復のストレスを防ぐという目的で修正したのなら、かなり場当たり的で表面的と言わざるを得ない。何故そういう行動をとっているのか、その背景を全く理解できていない。全ては時計が悪いと理解しているのだろうか。
 仮に時計の仕様が悪いと理解した上でMP回復量の緩和(MPが過剰に必要になるようなゲームメイク)を実行したのであれば、正直期待はできない。時計の仕様は今後も変わらないだろう。空腹状態で延々とダンジョンを歩かされるかわいそうなパラディンちゃんはそのままだ。
 そもそも深刻なMP不足には、前段階の問題として食糧不足と資金不足がある。食料があれば別にMPなんか自然に回復するまで待てばいいし、資金があれば食料を買い漁ればいい。じゃあなんで食料と資金が不足するのかって話になる。何度も言うがダンジョン探索と戦闘を強いられるからだ。何故強いられるのかと言えば、また時計の話になる。
 で何が起きたかと言うと、序盤の資金面の大幅な緩和なんですよ。いやだから違うんですって。その問題の背景に時計があるんだって分かってるんですか。根本的な原因を理解してるんでしょうか。
 つまり、緩和しなければいけなかったのはMP回復量ではなく、滅亡の時計システムそのものということだ。仮に時計がなければ、MP回復量なんてどうでもいい。敵を避けて宝箱回収して、腹が減ったら帰ればいいのだ。

 なんかもう書けば書くほど独自要素の時計がマイナスでしかない。この独自要素がマイナスだから、『mist over』のいいところが全然出てこないわけだ。探索パートと戦闘パートがある普通のRPGなので特に言うこともない。出てくるポジティブはキャラが可愛いボイスがいい以上。自分みたいなオタクに「ゲーム」に直接関係ない部分をおざなりに褒められて終わりなんです。そんな評価が開発者の望むことでないことは明らかでしょう。流石に。

関係者がテストプレイしたのか疑わしい不具合修正
 これは色々事情があるだろうし仕方がないと思うが、テストプレイヤーが気づけないであろう不具合修正がとにかく多い。
 例えばNPCのセリフやボイス。これは正常な動作が分からないテストプレイヤーにとっては判断が難しい。「こいついっつも同じセリフしか言わねえな」と思っても「まあセリフが1種類しかないんだろう」と解釈してしまえば、テストプレイヤーやユーザーにとっては不具合ではなく仕様として認識されてしまう。
 例えば施設のカーソル位置記憶。Ver1.0.3dでこれが修正されたと書かれている。自分は完全に仕様だと思っており、どっちかと言えば便利かなと思っていたので、「不具合だったのかよ!」とかなり驚いた。これ自分だけなのか?自分がマイノリティならすいません。ごめんなさい。

 で、こういう不具合に気づけるのは誰か。一般ユーザーが気づけないとは断言できないが、十中八九開発関係者だろう。それをリリース前に直せなかったということは、一体何を意味するか。
 だから何って言われたらそれまでだが、心象は良くないよねって話。

おわりに

事実上の難易度緩和は避けてほしい
 ここまであらゆる要素をケチョンケチョンにしてきたので説得力がないかもしれないが、決して『mist over』が嫌いなわけではない。書いている途中で、初見挫折した「普通」のエリア4までは初見時よりも遥かにいい調子で戻ってきた。人に勧められるかと言われたら勧めないかなという程度ではあるが、戦闘の難易度は気に入っているし、良くも悪くもRPGとしては普通に遊べるし、良質な装備を拾えばやっぱり嬉しいし、キャラロストすればクソゲーと思いつつも続けられる程度には面白い。

 だからこそ、事実上の難易度緩和は避けてほしいのだ。これはレビューとかではなくお願いになる(誰が読んでるか知らんけど)。そもそも高難易度をうたって売り出したというのに、万が一にでも敵を弱くします装備強くしますスキル倍率上げますとか言われたら困る。
 今のところそんな心配は無用と思っていたが、Ver1.0.3dの基本陣形保存の項目を見て少し不安になっている。実際どういうものなのか分からないが、潜入時の陣形が戦闘開始ごとに正されるという内容であれば、ただの難易度緩和でしかないのではないか?敵に陣形を崩される危険が大幅に減ってしまうだけだ。というか陣形が崩れるストレスは、移動スキルの少なさと移動そのものの行動ロス感が強いのが原因なのではないか?さらに言えば、無理をしてでも戦闘を継続せざるを得ない時計の存在があるのではないか?そこまで考慮しての実装なのだろうか?何故そういう要望が出たのかと考えてくれたのだろうか?もし、Twitterや5chなどの「陣形いつでも変えられたらいいのになー」という、理由も背景も一切不明な独り言をそのまま拾って愚直に実装したというのであれば、落胆しかない。まあ、まさかそんなことはないでしょう。
 ユーザーの要望を吸い上げて反映する、それもフットワークが軽いのはいいことだが、何も考えずに仕様変更することがないことを祈るばかりだ

 どうしても難易度を緩和したいのであれば、要素を分けるのがいいのではないかと思う。滅亡の時計の進行の速さ、敵の強さ、装備Tierの出現率、アイテム販売価格、満腹度と光輝度の減少量などなど、難易度に関係する要素は細分化できるはずで、ここを3〜5段階くらいで弄れるようにするとか。それで難易度ごとに倍率をかけて最終スコアなんか出したりすれば、クリアのモチベーションにもなるかもしれない。わざわざ選ぶのが面倒という人がいるならデフォルト難易度は別途用意しておくとか。

 難易度を上げるか下げるかのどちらがいいかはユーザーに大きく依存するので、どちらを選ぶにしてもリスクがあるし万人向けなど不可能だ。開発者にとって本意ではない場合もあるかもしれない。
 どちらかと言えば、アップデートはテンポや操作感の改善に努めてほしいものだ。遊びやすさの難易度を下げるのは一向に構わないし大歓迎だ。ゲームの難易度調整に比べれば、よっぽど万人向けの答えもあると信じている。