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#55 「約束」

11月7日火曜日

祖母の具合が悪いと聞いたのは約一週間前。
あと一週間持つかどうかという話だった。

前座の代わりなんていくらでも
なんとでもなるだろと思っていたけど、
ハレの舞台だしとぐっと切り替えて仕事を。
まあ入院先の病院からもコロナで
面会出来ないと言われていたし。

一日だけ休みの日が出来たので、
無理かなと思いつつも
行かないで後悔するよりは会いに行こうと
地元へ急遽帰省した。

おばあちゃんには着物を買ってもらった。
実際に着ている姿を見せたいし、
ありがとうとお礼も言いたい。

両親が事情は話してくれて特別に面会出来た。
面会は一人だけ、10分間のみ。
色紋付きに黒紋付きの羽織で会う。

だいぶ久しぶりに会う祖母は
痩せていて体の節々が痛いと言った。
意識も明瞭ではなく、
なんとなくこちらから一方的に話をする。

「会いに来たよ。こっちは元気よくやってるよ。先輩たちにもよく可愛がってもらってるんだ。毎日楽しいよ。ほら、おばあちゃんに買ってもらった着物で来たよ。見て見て。ありがとう。来年これを着て二ツ目昇進披露目の会てのをやるんだ。200人ぐらいの満員の前だよ。あなたの孫が大勢の人の前で落語をやるよ」

分かっているのか分かっていないのか。
頷いていたから分かってはいると思う。

見るからに体は弱っていたけど、
最後に会えて本当に良かった。

伝えたいことは伝えた。約束もした。
あとは本当にするだけだ。


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