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日常だった後輩との帰り道が、特別な空間に

玲:せーんぱい!今日も一緒に帰りましょ?


1日の授業が終わり、玄関で靴を履き替えてると

なぜか俺にめっちゃ話しかけてくる、1年で後輩の玲とまた会った。

1つ上の俺にはほとんど接点がないのに。

正しくは俺が来るのを待っていたみたいだ。


〇:なんでまた…

玲:なんとなくです。なんとなく

〇:玲なら友達いるだろ…

玲:友達はいますよ。いますけど、先輩と帰りたいんです


ほんとにそう思っています!

のような目で見つめてくる。

聞こえるように溜息をついて、歩きだす。

玲もそれに着いてきた。

なぜか帰る方向一緒だし。


玲:そういえば先輩の連絡先知らないです!

〇:教えてないからな

玲:連絡先教えてください

〇:嫌です

玲:だめです。スマホどこですか〜?


俺の周りを歩きながら体全体を見渡している。

俺はそんなことお構いなしに普通に歩く。


玲:うーん…先輩は私と連絡先交換したくないんですか?

〇:どっちでもいい

玲:じゃあ交換していいんですね!やった。笑


玲は小さく微笑んで嬉しそうな顔で俺の目を見つめてくる。

玲は、頻繁に俺の目を見る。

その度に恥ずかしさと可愛さが押し寄せてくる。



〇:そんな喜ぶかよ…

玲:先輩と交換したいんですもーん

〇:交換してなにすんの?

玲:挨拶とか、今何してますかー?今から電話しませんか?とか…他には、

〇:うん、大丈夫。わかったわかった

玲:交換する気起きました〜?

〇:起きてなーい

玲:えぇっ、ひどいっ!


酷い、と言ってる割には嬉しそうな顔。

またまた、嬉しそうな顔。

玲はいっつも嬉しそう。楽しそう。

俺にはない部分で理由を聞きたくなるけど、めんどくさい予感がして聞かなかった。


いつもの分かれ道に着いて、俺達は別れた。

玲に、

"明日こそは連絡先吐かせますからね!"

と、一生吐かない気力が湧いてくる言葉を言われた。

なんだかんだ玲との帰り道が日常の1部になっていた。



玲:せーんーぱーいーっ……!


お昼休み。

聞き馴染みのある声がして、ふと向くと

玲がクラスの教室の前に来ていた。

ちょっと見られたらまずいか…?

と一瞬思ったけど友達いなかった。


〇:なに?

玲:あれ先輩友達いないんですか?

〇:刺さるからやめて欲しいんだけど

玲:えっ…ごめんなさい…冗談のつもりで…


俯いて悲しむ玲を見ると心が痛い。

冗談なのは知ってたからこれは俺が悪い。

友達がいない俺が。

…だめだ、どんどん俺の心が寂しくなってる。


〇:うん、もう大丈夫。

玲:あっ!じゃあ明日からは一緒にご飯食べましょ!

〇:で、要件は?

玲:スルーしないでくださいよ…

〇:要件無しに来たの?


玲は細目で少し睨んできて、俺は普通に見てると

負けを感じたのか溜息をついて普通に話し始めた。


玲:私今日少し残らないといけないので、一緒に帰れないです。ごめんなさい!

〇:別にいいよ。俺はどっちでもいいし。

玲:そんな寂しいこと言わないでくださいよ〜

〇:じゃあ、早く帰りな。

玲:はーい…せっかく顔見れたのに…せっかく緊張しながら会いに来たのに…


ぶつぶつ色々言いながら帰って行った。

よく考えたら学校の時間中に誰かとこんな話すのは久しぶりかもしれない。

それぐらいに人と話さないから。


玲のこと、もっと大切にしないといけないのかもな…



玲:あれ?先輩、今日元気ないですね?


あれから数日。

本当に玲はお昼に俺のクラスに来て、俺を連れ出して空き教室で一緒にご飯を食べるようになった。

無理しなくていい、と言っても

"玲:無理はしてません。先輩こそ寂しさが減って嬉しいんじゃないですか〜?笑"

と、からかってきた。

友達と食べなくていいの?と言っても、

"友達には他の友達がいます。でも先輩は私以外に友達いないので。一緒に食べるのが嫌なら友達作ってください。"

となぜか少し怒っていたり。


〇:別に元気はあるよ

玲:じゃあなんで静かなんですか?

〇: …玲はさ、なんでそんな俺に構ってくれるの?

玲:えっ?

〇:友達だっているのに、友達がいない俺の事を。

玲:んー、理由は1つだけあります。



玲:先輩に恋をしているからです。



4歩を歩いて足が止まった。

いや、体の動きを止められた。心に。

玲は何も言わず、少し照れくさそうな表情だった。


〇:はっ…?

玲:先輩が覚えてるかわからないですけど、私が入学して1週間ぐらいの時に



玲:この本届かない…


私は図書室で本を借りようとしていた。

探してた本が見つかったんだけど…

少し上の方にあって背伸びしても届きそうにない…


〇:ん、これでしょ。

玲:あっ、ありがとうございます!

〇:あそこにある小さい椅子、上の方を取る時に使っていいから。じゃ。

玲:えっ、あっ、ありがとうございます!


その時の先輩のクールさにときめいちゃって…

でもその時は、少しいいなって思うぐらいだった。


でも先輩は常に1人で、それが私には

無駄な関わりを持たない、人に迷惑をかけない、人を傷つけない、

って見えて。

どんどん心が先輩を気になっていった。



そんなある日の帰り道。

前の方に先輩がいた。

私は慌てたけど、隣に先輩が小学生ぐらいの子供がいるのに気づいた。

少し近づいて聞き耳を立てると


〇:大丈夫?転んでたけど痛い?

"ちょっと痛いっ…"

〇:あぁ、少し擦りむいてるね。

先輩は水のペットボトルを出した。

〇:飲みかけだけどいいかな?

"うん…大丈夫…"


先輩は傷口に水をかけて、ハンカチで拭いた。

そしてリュックから絆創膏を出して貼っていた。


〇:よし、これで大丈夫だよ

"ありがとう…お兄さん…"

〇:ううん。血が出てなくて良かったよ

"お兄さんのおかげで元気でてきた!"

〇:ほんと!



〇:それならお兄さんも嬉しいな。笑

 

そこで私の心はもう鷲掴みされた。

初めて見た先輩の笑顔。

くしゃ、っとした可愛らしい笑顔のギャップに、

子供に話しかけて傷の手当てもする優しさも、

全部全部が、私の心を先輩色に染めていった。


この日に私は思った。

私も沢山話しかけて好かれたい!

そして、あの笑顔をずっと私が見ていたい。

先輩のそばで。



玲:ってことがあって…そこからずっと…先輩が好きでした…

〇:あぁ…そんなこともあったね…

玲:あの日から私は先輩の虜です。ずっとずっと先輩が…大好きだったんですっ!!


顔を真っ赤に染めながら想いを全部打ち明けてくれた。

周りに人は誰もいない。

だから今ここは2人だけの空間だと思ってしまう。

そう。だから、今は、2人だけのの空間。だから。


〇:俺さ、あんま好きって感情がわかんないんだ

玲:えっ…?

〇:だからその…玲が良ければさ…



〇:俺の隣で、好きって感情を教えてくれない…?



ださい告白の答えだけど、俺にはこれしか言えなかった。

好きって感情を知らないのに嘘をつきたくなくて。


玲: …ふふっ、先輩らしいですね。笑

〇:どういう意味だよ…

玲:いいですよ、私の好きって感情を沢山あげます。そして知ってください。


玲:好き、って感情も。先輩への、好きって想いも。


玲は俺に近づいてきて手を握った。

真っ赤な顔で見つめあった。

本当に2人だけの空間だった。


〇:なんか…心臓の鼓動が激しいんだけど…これってまさか…

玲:ふふっ、私も今そうなってますよ

〇:じゃあこれが…

玲:でも、もっと実感できる方法がありますよ

〇:えっ?


玲の顔が急接近してきて、気づけば俺は、

ドラマや映画でしか見たことがない

初めてのキスをしていた。


柔らかくて、なんというか、

俺の知ってる言葉では表現できない、甘い雰囲気が心と体に染み渡っていった。


唇が離れた玲の顔は、真っ赤だけど

それより、いつもの何倍もかわいかった。


玲:先輩、ドキドキしましたか…?

〇:うん…ドキドキなんてもんじゃないと思う…

玲:ふふっ、よかった…笑



玲:私も今、すっごく先輩への好きが溢れてます。



俺は知った。

この感情を、好きと呼ぶのかもしれない、と。

そしてこれは、玲だからなのかもしれない、と。


玲:先輩。これから沢山、恋愛しましょうね?

〇: …玲がしたいならいいよ…

玲:素直じゃないとこも好きです!

〇:あぁもう…恋愛向いてないのかも…


ふふっ、と笑い声がして玲が先に歩き始めた。

後ろから俺が走って隣に着く。

手と手が触れて、玲が絡ませてきた。

この行動1つで俺はまた顔が赤くなってしまう。

俺はやっぱり恋愛に向いてないのかもしれない…


そしてこの帰り。

俺達は連絡先を交換した。

2人の心の想いを交換して、伝えあったように。

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