迷走する人民解放軍

■静かな軍隊
 中国は人民解放軍の軍事演習を派手に行い宣伝してきた。2018年から2020年は盛んであり、アメリカ向けの軍事演習は明らかだった。だが2020年から次第に大規模な軍事演習は減少し、2021年になると軍事的に有益な軍事演習が見えなくなる。

 それに対して、アメリカ・イギリス・フランス・オーストラリア・日本などは、お互いに連携して合同訓練や軍事演習を定期的に行なっている。それどころか、人民解放軍とは反対に合同訓練・軍事演習が増加している。

■軍事演習の現実
 軍事演習とは軍隊の練度向上と維持を目的に行われる。何故なら軍事演習は敵がいないだけの実戦であり、指揮命令・物資消費などは実戦と同じ。だから軍隊の練度向上と維持に使うのが基本。

 軍事演習の裏の顔は、軍事を背景にした外交。だから軍事演習で仮想敵国を脅すのが目的になる。仮想敵国が軍事演習を行うと、自国も軍事演習で返礼することは珍しくない。それどころか、軍事演習の返礼で、自国の対応能力を示す。仮に軍事演習で返礼しなければ、言葉による指導力に屈したことを意味する。

 軍事演習で覇権拡大や返礼に変えないのが日本の政治家。日本の政治家が穏健なのではなく、国際政治に疎いだけ。理解しているなら軍事演習を自衛隊に行わせる。自衛隊の軍事演習は、アメリカ軍との連携が大半だが、これは主導権をアメリカが持っているだけのこと。

覇権国:軍事力を背景とした外交を行う。
保護国:外交権と軍事権を覇権国に依存している。
属国 :覇権下の国。

 戦後日本の立場はアメリカの保護国。アメリカの軍事力に護られ、自衛隊を用いた軍事演習による返礼を行う必要が無かった。アメリカの覇権に依存し、見た目だけの外交と軍事を持っているだけだった。

 だが日本の立場はアメリカの保護国から属国へ昇進。日本の立場が保護国から属国は昇進したのは、日本の政治家の努力ではない。世界情勢の変化で、アメリカが直接統治から間接統治に切り替えたからだ。

 単にアメリカの都合であり、アメリカ軍を用いてアジアのパワーバランスを維持するよりも、日本に任せた方が安いと感じたからだ。結果的に日本は、アメリカの都合に合わせて良い方向に流れただけ。

 日本単独の軍事演習は少なく、外国との軍事演習が増加。結果的だが、外国との信頼関係向上と連携が上手くいく。これで外国から警戒されず、むしろ信頼される日本になっただけ。皮肉なことに、中国の覇権拡大と傲慢な態度が、日本の地位向上に向かわせたのだ。

■謎の軍事演習と訓練
 中国も軍事演習が減少したので、中国の外交が弱くなったことを理解した様だ。そこで中国のメディアを用いて、有事を想定した軍事演習や訓練を行なったと報道させている。これは実際に行われたのか不明であり、これまでの軍事演習とは異なり、人民解放軍が宣伝しているわけではない。

中国、「台湾有事」想定の演習を連日実施…「米台分離主義者への警告」
https://www.yomiuri.co.jp/world/20210720-OYT1T50174/?fbclid=IwAR1X1zNj-LNtcYDfepGKK3cqcxvW0KkQn5tf08CenqwPqiBAqItCsga3-oQ

 これまでの人民解放軍は、軍事演習を映像として流している。では何故7月の軍事演習や訓練を映像として公開しないのか?メディアを用いた宣伝では信用できないのが現実で、張子の虎を示す様な動きになっている。

 仮に実際に行われたと仮定すると、人民解放軍による機雷を用いた海上封鎖訓練は自殺行為。機雷を用いた海上封鎖訓練は渤海で行われたらしい。実際に機雷を用いた海上封鎖を行えば、渤海であれ黄海であれ、人民解放軍海軍を自ら封鎖する。

 海軍は古代から攻勢に使うのが基本。海軍艦艇は基地から出撃し、基地と戦場を継続的に往復することで制海権を獲得する。だから出撃しなければ制海権を得られないし敵に奪われる。基地にいるだけで何もできず敗北の軍隊になる。戦争史を見れば、海上封鎖で敵海軍を基地に閉じ込めるのが常。

 機雷の性能向上は事実だが、敵味方を識別する能力は未完成。艦艇が発する音紋を機雷にインプットすれば、特定の目標だけを攻撃できる。これを味方艦艇の音紋をインプットすれば、限定的だが敵味方の識別はできる。

 だが民間船の音紋は無限大だから、機雷が賢くなっても、明確に敵味方を識別できないのが現状なのだ。だから人民解放軍が渤海と黄海に機雷を用いた海上封鎖を行えば、人民解放軍海軍も閉じ込められる。これに対応するとすれば、人民解放軍海軍艦艇の音紋全てを、機雷にインプットすることが前提になる。できないなら人民解放軍は無意味な訓練を実行した。

 機雷を用いた海上封鎖が台湾付近・東シナ海で行われた場合は、中国は世界を敵に回す。何故なら台湾・東シナ海には海上交通路が存在し、世界経済を左右する価値を持つ。海上交通路から各国は利益を得ているから、機雷を用いた海上封鎖を行えば中立国すら中国の敵に回ることは間違いない。

■見せかけの軍事演習
 人民解放軍海軍が機雷を用いた海上封鎖をするのは自由だが、実行する海域で世界を敵に回す。さらに人民解放軍海軍を自ら渤海に閉じ込めるから、人民解放軍が機雷を用いた海上封鎖は沖縄近辺・佐世保近辺でなければ効果が得られない。

 だが沖縄近辺・佐世保近辺に機雷を用いた海上封鎖をするとしても、制空権を獲得する戦闘機隊が存在しないのだ。大陸の海岸から沖縄・佐世保まで出撃し、日米から制空権を奪うことになる。これ出来なければ絵に描いた餅。

 さらに人民解放軍海軍と陸軍は、台湾上陸を想定した合同訓練を行なったらしい。これも人民解放軍空軍が、台湾空軍から制空権を奪うことが前提になる。制空権無しに台湾上陸は可能だが、「したいこと」と「できること」は別物。

 仮に制空権無しに台湾上陸を実行すれば、台湾上陸が出来たとしても補給が得られない。後続の部隊も来なければ補給も無い。これでは無意味。欧米の軍隊では、第1段階として制空権を獲得し、第2段階として制海権を獲得する。制空権と制海権を獲得し、海を自軍の庭に変えてから第3段階の上陸作戦を実行するのが基本。制空権・制海権無しに上陸作戦を行えば、悲惨な結果になることを経験から知っている。

 人民解放軍の軍事演習を見ると、制空権と制海権獲得の手段が無い。軍事演習を行なったとしても、肝心な制空権を獲得する方向性や手順が無いのだ。行き着いた先が、映像を公開しない軍事演習・訓練の報道。これでは迷走しているとしか思えない。

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