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AIを使って絵心ゼロの素人が漫画(R-18)を完成させたので制作秘話などを…


とにもかくにも作品を見てくれ!

細かい話は置いておいて、まずは作品へのリンクを貼っておきましょう。(R-18作品なので閲覧にはご注意を)

R-18はちょっと……という方のために、あまりセンシティブではない導入部分のみを掲載したX(Twitter)の方へのリンクも置いておきます。(多少センシティブな箇所もあるのでその点はご了承を)

なお完全版はBOOTHにて有料販売中です。

……といったところで、以下本題。

制作秘話など

先日、画像生成AIで漫画を作成した方の記事を読みました。

正直「やられたー」と思いましたよ。
なぜなら私もAIで本格的な漫画を作ることに挑戦している真っ最中だったから。(そして第1話の完成が目前だったから)
グラハム・ベルに電話の特許を取られたイライシャ・グレイの気分が少し分かったと言っては言い過ぎでしょうか……?

まあ、そもそもの話をすると、AIで漫画を制作しようという試みについては実は過去にも挑戦者は一杯いて、別にこれで一番を逃したという訳では全然ないのです。
というか、一言で「AIで漫画を作る」と言っても、

  • どこまで人間が加筆修正(またはAIに渡す元絵)に手を入れるのか

  • どこまで本格的な漫画作品に仕上がっているか(単なるイラスト集との差があるか)

  • 漫画作品としてきちんと面白いか(完成度は高いか)

などの点がグラデュエーションになっており、誰が「人類初AI漫画家」の称号に値するか断定するのはそもそも難しいというのが現実です。
なので(一番乗りの称号はともかくとして)AIで漫画を作るという行為の新規性を評価しようとするなら、現状は上記の3要素それぞれのレベルを個別に見ていく必要があるのかなぁと思います。
ちなみに私の作品については、2点目と3点目については実際に作品を読んでご自分の目でその仕上がりを確認していただければと思いますので、1点目の人手の有無についてだけ補足しておくと、私の場合「かなりきちんと絵心がない人間」なので否が応でも作画については相当部分をAIにお任せせざるを得ませんでした。
(実は1年ほど前に中古のペンタブを5000円ほどで買ってきてイラストに挑戦したことがあったのですが落書き(本当に落書き)を数枚描いた時点であえなく挫折しています。それより昔に遡ると中学校の美術の授業までまともな絵を描いた記憶はありません)
ごくごく僅かな修正やi2i(既存画像を元に画像生成を行う機能)のためのミミズがのたうったようなラフ画とも言えないようなラフ画を除いては、この作品に私の作画はほとんど介在していません。
そんな感じで果たして新規性があるのやらないのやら微妙なところではありますが、それでも何かしらの参考になればと思いますので、実際に作品を作る中で分かったノウハウや感想などを雑多にFAQ形式で共有してみたいと思います。

AIを使って漫画を作ってみてどうだった?

AIを使えば楽に漫画が作れそう?

私の場合、一コマ分のキャラ絵や背景絵をAIで出力するのに最低でも30分、平均すると1~2時間、複雑なコマだと4~5時間は掛かっています。さらにこの出力した絵をコマに配置し、レイヤー調整や画像処理、トーンや効果線、吹き出し、漫符、書き文字などの仕上げを行うのに1コマあたり30分~1時間ほど。この仕上げ工程については漫画を作り慣れている人ならばおそらくはもっと手早くできる作業なのだと思いますが、これが全くの処女作である私のスピードだと、どうしてもそのくらいは掛かってしまいました。
1ページあたり3~6コマ程度で全50ページだとすると、全部完成させるまでに掛かった時間は……といった感じで、果たしてこれを「楽」と表現できるのかは、AIを使わず漫画を描いたことのない私には分かりません。

なぜR-18?

一番リビドーが滾る題材だったから……というのはまあ置いておいて、その他の現実的な理由としては、

  • AIが得意そうな分野が美少女だったから

  • 画に大きな動きが無くても成立できそうだったから

  • ストーリーが作品の評価に影響しにくそう(テンプレのストーリーでも成立しやすい)だから

  • 使える・使えない、で評価が明確になりそうだから

  • クオリティがそこまで高くなくても一定のニーズ(読んで評価してくれる人)を得られそうだから

などがあります。
結果としては大体狙い通り(評価についてはこれからですが)だったと思います。

なぜ百合モノ?

一番リビドーが滾る題材だったから……というのはまあ置いておいて、その他の現実的な理由としては、

  • 絡み(複数の人間が重なり合うようなアングルの画)が少なくても成立しそうだったから

というのがあります。
結果としてこれは大正解で、実際にやってみると2人以上の人間が互いに干渉しあっているような画を思い通りに作り出すのは相当に困難であることが分かりました。(不可能ではありませんが、相当に労力を必要とします)
作品の中にも多少はそういったシーンが出てきますが、1コマ完成させるだけで半日近く掛かっている箇所がいくつもあります。

制作環境は?

あまり詳しいことを開示して後々面倒なことになるのも嫌なのであえて詳細は避けますが、比較的一般的なローカル環境を構築して、そこで作成を行っています。
もちろんモデル等については商用利用可能なライセンスものを使用しています。
なおPCのスペックはかなり貧弱でGPUもかなり廉価なものを使用していますが、そこは工夫と根気で結構なんとかなりました。
漫画自体の作成はMedibang Paint Proを使用しています。

プロットやネームは?

我ながら無謀に思えますが、プロットもネームも作成していません。多くても2ページ(少なければ1ページ)ずつ、書き終わったらコマ割りを考える、という流れで制作を進めていきました。なので最終的に全部で何ページになるかもギリギリまで全く予想できませんでした。
では、なぜネームを作成しなかったのかというと、それは(特に制作初期の頃は)ネームで描いたとおりの画をAIで出力できる自信が全く無かったからです。というか、そもそも本当にAIで漫画を作れるのか自体が全くの未知数だったので、まずは数ページ作れるかどうか試しでやってみよう……と始めたところ、それなりに良さげな感触が得られたので、そのままの勢いで先に進んでいってしまったといった感じです。
ただ、それでは実際問題、今後は先にネームを書いてから制作ができるのかというと、それも意外と難しいのではないかとも思います。
というのも、実際に制作を進めていくと、どうやっても当初思っていた通りの出力が達成できず、コマの内容変更を余儀なくされることが少なからずあったからです。AIの都合に合わせてコマを変更するということは、そこから先のコマとの繋がりが失われるということを意味していますので、あらかじめガッチリとしたネームを作っていればいるほど、その修正は大変になるのではないかと思います。

キャラの同一性はどうやって保っている?

技術的な話になりますが、まずプロンプトを駆使して理想のキャラの画像を作成します。次にその画像をReference Onlyに突っ込み大量に似たキャラの画像を作成。その中からピックアップした数十枚をベースにLoRAを作成。あとはそのLoRAと当初設定したプロンプトをあわせ技で重ねがけすることで、比較的安定して同じようなキャラを出力できるようになりました。(それでも最後はひたすらガチャです)
Reference Onlyの時点でも、まあまあの精度でキャラの出力は安定するのですが、やはりより強くキャラを固定化できる点と、より処理が軽くて済む点から基本的にメインキャラについてはLoRAを作成しました。

LoRAのデメリットは?

少ない画像点数で学習している弊害か、特定のポーズや画角以外はプロンプトで指定してもなかなか出力されなくなるという悪影響が見られました。後述する「目線の指定」や「後ろ姿の出力」もLoRAが効いていると一層困難になる印象です。

出力が思い通りに行かず苦労したパターンは?

これは色々とあります。
まず一番に挙げたいのは「目線」の誘導。色々とプロンプトを試すのですが、とにかくカメラ目線になりがち。前述のLoRAが強く効いていると、さらに言うことをききづらくなります。最後の手段として一旦画像を手作業で修正し、弱くi2iを掛けて誤魔化すという手段を取った箇所もあります。ただ本気で絵が描けない人間の修正なのでクオリティ的には……といった感じです。(逆に言えば、絵心のある人ならこういうところはサッと直せてすごく効率が良くなる部分だと思います)
また同じく苦労したのが「後ろ姿」の画像です。AIはどうしても目や鼻や口を描きたくなる性分をしているらしく、あの手この手で完全な後ろ姿を描かせようとしても、全身全霊を投じて反抗してきます。仕方がないので手前に別のレイヤーで何かしらの小道具を置いたり、余計な顔の部分をコマ枠の外に追い出したりして誤魔化してみたり、斜め後ろからの画角で妥協したり、と苦労に耐えませんでした。
あと、人物については意外と同一性を維持した出力がそれほど難しくないのですが、それ以外の無機物、特に小道具や建物の内装などは同じものを出力し続けるが非常に困難です。このうち建物の内装(間取り)についてはもう、矛盾のない画を複数出力するのは不可能と割り切って、似たような画で誤魔化したり、大きめの背景画像を出力しておいて同じ画像の色々な部分を切り抜いて使ったりと、小手先の技を駆使してなんとか体裁を保っています。

全部で何枚ぐらい画像を出力した?

出力フォルダを調べてみたところ、ざっくり5万3000枚ほどの画像が保存されていました。すべてがこの作品用に出力した画像ではないので正確な数字は分かりませんが、少なくとも4万枚以上は出力してたのではないかと思います。(本当かよ⁉)

オリジナルじゃなくて二次創作作品は作れますか?

できると思いますが、流石に揉めそうですよね。
ちなみに今回の作品の中で他者の作品のキャラ等を明示的に指定したプロンプトやLoRAなどは一切使用していません。

今後は?

現状のAIの能力で漫画を作るのがかなり大変であることは身に沁みて実感しましたが、乗りかかった船ですし、とりあえず2話以降はなんとか完成まで持っていきたいですね。
その上でテクノロジーが更に進んでより楽に漫画制作ができそうな環境が整えば、一般作品にも挑戦してみたいです。

最後に

AI技術の進歩が文化の発展に功罪双方の影響を与えていることは事実だと思いますが、私のように創作とは全く無縁だった人々が創作の機会を得て0が1になるチャンスが生まれるという点は、AIの持つポジティブな可能性の中でも特に大きなものではないかと思います。
今後の進展に期待です。


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