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三日月

これはMOAMiさんの「三日月」という曲から勝手に書いた二次創作です。
かなり逸脱した物語になってますが、うっかり読んでしまったMOAMiファンの怒りを買わないように🙏


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かつて僕には愛した女性がいた。
もうその笑顔を見る事は叶わない彼女と初めて出会った時、彼女は暖かな春の日を思い起こされる笑顔を僕に向けてくれた。
一瞬で惹かれた。
そして思い過ごしでなければ彼女も一瞬で。

けれど二人にはいささか複雑で一線を超えてはならない理由があった。

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当時の僕は30歳を少し超え、自分なりの人生設計ではなかなかに上手く歩けていたように思う。
仕事も順調だった。
あるプロジェクトを任され、そのビジュアルデザインを外部発注した際に紹介されたデザイナーが彼女だった。

よく通る透き通った声で自己紹介された時、その短い自己紹介が終わる前に僕は恋に落ちていた。
初恋の女の子から数えると何人もの女性に恋をして来た。
互いに気持ちが通じて付き合った女性も年齢からすると少ない気もするが何人かはいた。

そして、彼女は、それらの女性達全員を一瞬にして塗りつぶしてしまった。

昼食を兼ねた簡単な顔合わせを終わらせ、会社のデスクに戻った後も彼女の笑顔は僕の脳裏から離れてはくれなかった。

その日の仕事が終わろうした時にメールが届く。
彼女からだった。
自惚れではなく彼女からの連絡は予想していた。
相手の想いが自分に流れ込んでくる感覚はそれまで知らずにいたが、それはとても自然な事だった。

「急なご連絡申し訳ありません。もしよろしければ少しお話するお時間をいただけますか?」

1時間後、僕達は少し洒落たオイスターバーのカウンターで隣に座っていた。
普段の僕には背伸びした店だけど彼女の綺麗な指先に持たれたワイングラスはその店の抑えた照明によく映えていた。
今日この日に彼女を迎える為にだけその店は存在していた。
二人で過ごす時間はこれまでの僕の人生で間違いなく最高の時間だった。

最後の彼女の言葉を聞くまでは。

それから丁度1ヶ月後の夜に彼女は自らの生に幕を閉じた。
遺書は無かった。
ただ静かに誰にも胸の内を明かさずに旅立った。

それからしばらくして僕に新しい恋人が出来た。
まだ彼女の面影は消えてはないが、どこか彼女と同じ匂いがする綺麗な恋人。
立ち止まっていたい気持ちと立ち止まっていてはいけない思いが争う僕の心の中は新しい恋人にまだ話せていない。

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姉の訃報を聞いた時、足元の地面が割れて私はすうっとその割れ目に落ちて行き、そして光を失った。

昔から仲の良い姉妹で近所では通っていた。
私は姉が大好きで、また姉も私にその愛を惜しみなく注いでくれた。

姉の結婚が決まった時に私は姉を取られてしまう気がして泣いて姉を困らせた。
そんな私を姉は優しくいつまでも頭を撫でてくれていた。
そして残念な事だけど姉の結婚相手は文句の言い様がない人だった。
さほど時間が掛からずに自然に「お義兄さん」と呼べる程に。

そんな姉は最期に私宛の手紙をくれた。
私に宛てた遺書。
私だけが読む遺書。

そこには姉がその細い首にロープを回す事になった理由が書いてあった。
すごく簡潔に。
姉には幸せな家庭があった。
私もよく知っている幸せな家庭。
姉は義兄を愛していた。
それは間違いない。
でも他に、他にも好きな人が出来てしまった。
生真面目な姉は苦しんだ。
きっと何か解決策はあったはずなのに、どうしてか分からないけど、姉は自分が消えてしまう事で終止符を打った。

私は姉を苦しめた男を恨んだ。
姉は二人の男性を愛したけれど、倫理的にも悪いのは既婚者である姉に恋慕を抱かせた男だ。
姉からの手紙にはその存在だけでどこの誰かは分からない。
でも見つけてみせる。

そして私は彼を見つけた。
憎むべき男を。
そして私は、
彼を見つけて、
憎むべき男を、

愛してしまった。

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僕の気持ちに決着はつかない。
彼女をまだ愛おしく想う。
でも目の前の恋人もまた同じく想う。
弱い人間なんだ、だから

窓の外の三日月が寂しく笑う

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私はどうしたいのだろう。
姉を忘れる事なんてこの先ずっと無い。
でも目の前の恋人に強く惹かれている。
弱い人間なんだ、だから

窓の外の三日月が寂しく笑う

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孤独を2人で分け合ってベッドの上
沈む声と貴方の体温を背に
揺らいでるカーテン越しの

どうにもこうにも釣れない
雲も釣れない
「話は半分で聞くよ」
そう・・・(無関心)
それが1番怖いの

ダーリン
気がつかないで
目を瞑っていてね
ああ私の本当の姿を見ないで
抱きしめていて
耳元で囁いて
私を世界で一番愛してるって
そう言って

窓の外の三日月が寂しく笑う
声に出して泣けたあの日のことも
貴方が頷いてくれるなら

他に何もいらない
あとにもさきにも
もう戻れない
それで本当にいいのよ

ダーリン
立ち止まらないで
(後ろは)振り返らないでね
ああ貴方の夢を見せて
誰より近くで
抱きしめていて(優しく)
耳元で囁いて
私を世界で1番愛してるって
そう言って...

三日月ひとつ
私の心のよう
哀しい言葉は
そっとしまっておくの
ダーリン...

「三日月」 MOAMi

https://moastore.thebase.in/items/24274243


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