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【応募直前対策】小説コンテストで失格になる作品とは? 文学賞の表紙の付け方など解説!

 すごく面白い小説が書けた。これは受賞間違いなしだ。推敲も完璧。早速封筒に入れて応募しよう……。

 その前に、ちょっと待ってください。
 その原稿、もしかしたら読まれる前に失格になるかもしれません。


はじめに

 小説コンテストの選考を突破する方法の記事は多数あります。
 小説コンテストに応募したい方は、そうした攻略記事を読みこんで対策しているかもしれません。

 しかし、実は審査員に読まれる前に失格になってしまう原稿があることをご存じですか?

 筆者は過去に数年ほど、大手小説コンテストの現場で事務作業などをしていたことがあります。

 本記事では、内容の面白さや誤字脱字以前の話、郵送で送った原稿が失格にならないための方法をご紹介します。

小説コンテストの選考方法を知ろう

下読みと仕分けの違い

 文学賞の1次選考、あるいは1次選考の前段階のことを一般に「下読み」といいます。2次選考以降の審査員の目に触れる作品を厳選するお仕事です。

 やばい作品や規定外の作品、クオリティが選考基準に達していない作品がここではじかれます。

 あまり知られていないのですが、大きいコンテストの下読みの前には「仕分け」という作業があることが一般的です。

 仕分け作業は、いわば、公正に下読みできるようにするための雑用です。

内容としては、

・封筒に入れて送られてくる大量の作品を開封する
・規定枚数や紙のサイズなどの体裁をひとつひとつチェックする
などがあります。

賞によっては

・紐とじされている原稿をクリップとじに直す
・表紙の内容をエクセル等に打ち込んでデータ化する(このとき、漢字変換できないペンネームの人がいたら発狂します)
・下読み担当の方のために、作品を新しい封筒に入れて、封筒の表紙にタイトルや作者名を手書きで書く(「薔薇」とか「憂鬱」みたいなタイトルがくると発狂します)

といった作業が発生することも。

 もし仮に送られてきた原稿をそのまま審査していたら、豪華な封筒に入った作品への期待が高まったり、ページをめくりにくい綴じられ方をした作品にマイナス点がついたりするかもしれません。

 そういった可能性を排除し、なるべく下読みさんが公平に作品の内容を読めるようにするために必要な作業が仕分けです。

仕分け段階で失格になるもの

 仕分け作業では、「明らかにやばそうな原稿ははじいてください」と指示されることが多いです。失格になりやすい原稿を以下に列挙します。

応募枚数に過不足があるもの:基本は応募要項に準拠します。数枚程度なら見逃してくれる担当者もいます。

本文の字が読めないもの:字が汚かったり、達筆すぎたりして読めない原稿は問答無用ではじかれます。よほど字に自信がない限りはワープロソフトを使うのがよいでしょう。

用紙サイズの規定と異なるもの:A4指定なのにB4、A5で送られてくる原稿など。こちらも現場によっては見逃してくれる場合もあります。

色のついた紙などに印刷してある、書き損じの紙や広告の裏に書いてあるもの:白い普通の紙に印刷しましょう。

自費出版した別の作品などが同封されている:実際これはけっこうあります。文学賞は持ち込みの場ではありません。同封されているものを捨てるのもしのびなくて心が痛みますが、捨てます。

挿絵があるもの:かならずはじかれるというわけでもありませんが、コンテストによっては問答無用で規定外となり、失格になる場合もあります。

募集要項を読み込もう

 とにかく読みましょう。一言一句もらさずに読み込みましょう。読んだ後に感じるはずです。「結局どうしたらいいんだ?」

 そうです。募集要項はたいてい、ものすごく簡潔に書いてあります。最近は原稿の送り方や体裁まできっちり指示してくるコンテストもありますが、伝統のある大きなコンテストはたいてい、募集要項がものすごく短いです。

 基本は「募集要項に書いてあることを必ずやる」「募集要項に書いてないことはやらない」が鉄則ですが、たとえば「表紙を付けること」と書いてあってもどんな表紙をつけたらいいのかわからなかったり、「枚数を冒頭に記載すること」と書いてあってもどうやって枚数を数えたらいいのかわからなかったりしますよね。

枚数の数え方

 枚数は、数え方の指定がない場合原稿用紙換算です。もう一度言います。原稿用紙換算です。
 私はワードの「レイアウト」から「原稿用紙設定」にして枚数を確認することが多いです。

 たまに、ワープロソフトで書いた原稿の枚数を書いてしまう人もいます。

 一度あった事件で、募集要項に「150枚以上」と書いてあるにもかかわらず、原稿には「原稿用紙換算:100枚」と書いてあるものがありました。

 普通なら枚数不足で失格になります。しかし、原稿には明らかにそれ以上の厚みがありました。なので文字数を計算して数えました。(めちゃくちゃ面倒くさかった)
 数えなおしたところ、その原稿、原稿用紙換算で200枚ほどありました。規定内なので通りました。

 この方は分厚い原稿だったので気づきましたが、応募枚数ぎりぎりの場合、気づかない場合もあるかもしれません。

 枚数は基本的に、原稿用紙換算で表記しましょう。(「30字×40行で換算」など、枚数の数え方の指定があれば、それに倣います)
 万が一字数が足りない・超過している場合は、気合で直しましょう!

「右肩を綴じる」場合はクリップが無難

 応募要項にはたいてい、「右肩を綴じること」と書いてあります。

 「右肩」とは、「原稿の右上の角の部分」です。たまに左側や右の小口部分を綴じてくる方もいますが、右上です。

 綴じるときに意識するのは、「紙を傷めないこと」「すぐにばらばらに外せること」「途中でちぎれたり破れたりしないこと」です。では、どのように綴じればいいのでしょうか。ダブルクリップで綴じる方法、紐綴じ、ホッチキスの方法をそれぞれご紹介します。

■ダブルクリップ
 特に指定なく「右肩を綴じる」と書いてある場合、ダブルクリップではさむのが無難です。あの黒くて三角でまるい角が二本生えているやつです。

 紐で綴じるのもいいですが、編集部によっては紐をはさみで切ってクリップを付けなおす場合もあります。その際、紙が傷む可能性があるので紐綴じはおすすめしません。

 クリップの大きさは何でもいいです。かわいい柄物やおしゃれクリップでもいいと思います。
 ただしいわゆる「目玉クリップ」は推奨しません。重ねたときにほかの原稿を傷める可能性があるからです。

■紐綴じ
 紐綴じ指定の文学賞もあるので、その場合は必ず紐で綴じましょう。

 紙の右上に穴をあけ、専用の「つづり紐」を使って綴じます。

 綴じ方にはいろいろありますが、タテに1周、ヨコに1周まきつけて、最後にちょうちょ結びする綴じ方がおすすめです。二重も三重もぐるぐる巻きにしたり、最後に固結びするのはおすすめしません。原稿がちぎれたり傷んだりする可能性があるからです

■ホッチキス
 分厚い原稿を気合でホッチキスでとめてくる方もいます。ホッチキスは一見よさそうに見えますが、少し紙が動いただけで破れてしまったり、針が取れてしまう場合もあるので、枚数の少ない(数枚程度の)原稿以外は避けましょう

■NGな綴じ方5選
・ビニール紐やリボンなど、つづり紐でないもので綴じてある
・ビニールテープなどで貼り付けてある
・リングを通してとめている
・目玉クリップ
・紙が安定しない綴じ方:つづり紐を使っていても、1周くるっとまいただけなど。

表紙をつけよう

 コンテストに応募するぞ、となったとき、一番困るのが「表紙」をどうつけたらいいかです。

 指定がある場合はそれに倣うのが一番ですが、特に指定がない場合は読みやすい・編集部で管理しやすい体裁のものをつけるのが無難です。

指定の表紙フォーマットがあればなるべくそれを使う

 自分独自の体裁で書くのもありですが、仕分けの段階ではかなり困ります。仕分けでは相当なの数の原稿をさばくことになるので、指定の表紙フォーマットがあればダウンロードして使いましょう。

 個人的な意見にはなりますが、見栄えはフォーマットを使った方が断然いいと思います。

 ほかにも、機械(OCR)を使って読み込む前提のフォーマットもあるため、お手製の表紙が来ると大変です。

 フォーマットには、下読み担当者が備考や日付を書く欄がある場合も。欄がないと余白に書き込むことになるので、独自の体裁をとる場合も、最低限の余白は残しておきましょう。

手書きはできれば避けよう

 楷書の腕に自信があるなら手書きでもいいと思います。

 ただ、手書きの場合、タイトルや名前を間違えられても自己責任です。表紙が判読不能な原稿はけっこうあります。失格になる場合も。

 最終選考に残って連絡を取ろうにも、住所や電話番号が読めないなんてことがないように、できればワープロソフトで作成しましょう。

 手書きの場合は、縦棒「|」と数字「1」の書き分けに注意。漢数字「二」「三」もはっきりわかるように。

難しい漢字を使いたい。長い副題をつけたい

 変換できないような難しい漢字や長い長いタイトルは、もう作品の個性だと思うので、想像力の赴くままにどんどんやっちゃっていいと思います(審査員がどう思うかはわかりませんが)。

 ただし、仕分け作業員が泣きます。

 変換できない漢字も、なるべくネットで調べてでてきた漢字をコピペしていますが、大変です。調べるのもかなり手間がかかります。

 ワードで変換できない漢字の場合、たとえば

「タイトル:『●●(変換不可)と僕の初恋物語』」

 などと入力されるはめになります。

 仕分け時に手書きでタイトルなどをどこかに記入する作業もある場合、複雑な漢字や長すぎる題名があると泣いてしまいます。どんどん泣かせましょう。どんとこい。

数字は漢数字にしなければならないって本当?

 縦書き原稿の場合、数字は漢数字にするのが決まりですよね。

 しかし、表紙の住所・連絡先などではなるべく算用数字を使うと仕分け作業員としては助かります。横倒しの表記も歓迎です。もちろん、漢数字でもOKです。

ペンネームは必須? 本名や年齢を隠してもいい?

 筆名(ペンネーム)はあってもなくてもかまいません。ない場合も、ペンネーム欄を空欄にする・「本名と同じ」と書く・本名と同じ名前をもう一度書く、などなんでもいいと思います。

 表紙の時点で本名や年齢を隠すのは原則NGです。これは二重応募を防ぐためでもあります。バレた時点で失格です。
 もちろん、出版社から発表される際には本名などの個人情報は隠されますのでご安心を。

住所・電話番号の書き方

 郵便番号・都道府県は必ず併記します。(都道府県を書かずに「○○市……」から始めるのはあまりよくないです)

 また、指定がない場合、郵便番号・電話番号には横棒「―」を入れた方がよいです。

 全体的に、数字は算用数字(0,1,2など)を使っていただけると事務作業上助かります。
 漢数字を使うとき、たとえば「50歳」と書きたい場合、「五十歳」と書くか「五○歳」と書くかで迷うと思いますが、後者で統一した方が仕分けのミスが減ります。

 電話番号はひとつで構いません。たまに、「携帯」「自宅」「社用携帯」などたくさんの電話番号を書いてくる応募者もいますが、電話番号が複数あると事務作業が煩雑になるため、なるべくひとつにすべきです。やむを得ない事情がある場合のみ2つ併記しましょう。

現職・職業の書き方

 なるべくシンプルに書くべきです。会社員なら「会社員」、大学生なら「大学生」、無職なら「無職」と書きましょう。

 どんなに面白い会社に勤めていても、会社員なら「会社員」です。えらい官僚の秘書でも、公務員なら「公務員」です。職種や業務内容まで書く必要はありません。目安は「8文字以下」です。

略歴の書き方

 文学賞が略歴を求める理由は、「実力のある応募者をなるべく同じ担当者が読まないようにするため」という理由が大きいです。

 選考基準は賞によって異なりますが、たとえば「下読みで10本に1本を選ぶ」という方針だった場合、受賞の余地のある良作が一本落とされてしまうということになりかねないからです。

 大きいコンテストの場合、「実力のある」の基準は、「大手新人賞の最終選考に残った経験があるかどうか」であることが多いです。

 途中選考通過や、小さな賞の受賞、地方賞なども経歴としてあるのであれば書くべきですが、あまり意味はないように思います。
 落選経験は書く必要はありません。

 受賞歴などがない場合、「筆歴なし」と書くか、とりあえず卒業大学などを書いて体裁を整えるのもいいと思います(学歴は選考とは関係ありませんが)。

 とにかくシンプルがいいと思います。

 小学校からの経歴や会社名、執筆に至った経緯や、「現在は二児の母」「アルコール依存症になり毎日荒んだ生活を送る」「会社を辞めて小説家を志す」のような現況、応募に対する熱意などを書く人もかなり多いですが、必要ありません。意気込みは作品の内容で表現しましょう。

あらすじを書こう

 募集要項に「あらすじを添えること」と書いてある賞もあります。書いていない場合にはあらすじは必要ありません。

 Web小説のあらすじや文庫本の後ろに載っているあらすじは最後に「引き」を残すのが一般的ですが、文学賞の場合は最後(結末)まで書きます。

 あらすじの文字数や体裁は応募要項をよく確認しておきましょう。書き方は何でもいいと思いますが、時系列に沿って書くやり方や、論文のように作品の概要から書くやり方もあるようです。

 あらすじの書き方は既出の記事が多いため、調べてみてください。

封筒に入れて送る

 養生とテープで厳重にぐるぐる巻きの封をして「水濡れ厳禁」など書いてある応募作はよくありますが、開封作業が煩雑になるのでできれば避けてもらえると嬉しいです(不安だったらやるのもOK)

 用紙サイズに合った封筒に入れて、指定の宛名を書き、切手を貼って期限内に出すだけです。募集要項で、必着なのか消印有効なのかも確認しておきましょう。

 封筒の重量がオーバーした場合追加料金がかかることがあるので、私は少し多めに切手を貼って送っています。多めに切手を貼るのはマナー違反という方もいますが、数百、数千と応募がある中で編集者はいちいち気にしません。

 水濡れが気になる方は、ビニール袋に原稿を入れてから封筒に入れる方法もあります。開封作業のときは「なんだめんどくせえな」と思いますが、どの作品がビニールに入っていたかは覚えていませんし、封入方法で落選することはまずないといっていいでしょう。

 編集部に電話して「届いていますか?」と聞くのはあまりよくありません(迷惑だなあと思われます)。
 届いたか不安な場合は、レターパックに入れて送るのをおすすめします。追跡できるので便利です。

まとめ

まとめると
・応募要項を読め
・事務作業がしやすいように配慮してくれると嬉しい
・応募要項を読め
・審査員の読みやすさに配慮
・原稿は命よりも大切に
・応募要項を読め
となります。

 この記事を読んで文学賞に応募される方々が少しでもいい結果を残せるようにお祈り申し上げます。

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