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車いすからベッドへの旅

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毎日、天井を見つめている。ベッドで横になっていると、ぼくの六畳の部屋半分と、ヘルパーさんが仮眠する隣の四畳半三分の一ほどしか視界には入らない。 かぎりなく狭い世界の中で、なにを考…
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#高橋源一郎の飛ぶ教室

背負いつづけてきた記憶①

 なにも書きはじめていないモニターを、ぼくはしばらく見つめていた。 ぼくの生きてきた長い…

くすんだ緑の野球帽

 すこし顔を左へむけると、ぼくの視野の中へくすんだ緑の野球帽が独特な存在感を漂わせながら…

かたむいた長屋から

 目が覚めると、もう泊まりと朝のヘルパーさんとの交代時間だった。ゴールデンウィークのころ…

下町のスーパーにて

 「思いこみコロナ」のおかげで、ずっと通いつづけてきた作業所と疎遠になり、毎日のように昼…

だんだん暗くなる

 「ぼくを探す旅4」を書こうとして、4に目が行ってしまった。縁起が悪い数字だ。  この間…

ゲームで乗りきる

 おトイレから食事までひとりでできないぼくの生活は、多くのヘルパーさんたちがシフトを組ん…

一人ひとりの暮らしかた

 二十五年間、介護をする人たちと文化住宅の一室を借りて生活を続けてきた。  長かった施設生活から街での暮らしに変わり、心にのしかかっていた重圧から解放された。  施設では、いつも自分の起こした失敗が他人の責任に転嫁されることに、怯えながら生きていた。  雪の降るなか、スタッフの目を盗んで外へ出て体調を崩したとしても、ぼくに責任は問われない。たまたま、出勤していた誰かの行動が問題にされたり、施設の体制に矛先がむけられたりする。    いくら集団生活をしていても、突きつめていけ

Aさんの戦争体験

 天皇代替わりの奉祝ムードの中で、ぼくはすこし割りきれない気持ちで毎日を過ごしていた。 …