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車いすからベッドへの旅

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毎日、天井を見つめている。ベッドで横になっていると、ぼくの六畳の部屋半分と、ヘルパーさんが仮眠する隣の四畳半三分の一ほどしか視界には入らない。 かぎりなく狭い世界の中で、なにを考…
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2021年5月の記事一覧

施設では経験できなかった

 二十年近く前だったと思う。  ある土曜日の午後、ぼくは自宅から十五分ぐらいの住宅街にあ…

ヘルパーさんの言葉遣い

 「清拭」という介護用語がある。お風呂に入る代わりに、全身を熱いタオルで拭くイメージだ。…

面倒くさい「積み残し」

 地味な話を書く。だれも見向きもしてくれないかもしれない。  ぼくは、すぐに「積み残し」…

まつ毛が長いといわれても

 訪問入浴の女性スタッフや看護師さんたちから、「まつ毛が長いですねぇ」とうらやましがられ…

頭をぶつけるひと、足をぶつけるぼく

 「ドン」という鈍い音が、四畳半を隔てたぼくの部屋まで聞こえた。  「またやりよったか」…

ありふれた一日

 いつものように、日付が変わってから眠りについた。 トイレに一度、寝返りのために二度、泊…

陽のあたる山脈

 先日、昼間からうとうとしていたら、ガラケーのショートメールの着信が鳴った。それだけで、送り主の顔が浮かんだ。ぼくのガラケーは、送信者の名前の表示が見えにくい。その書き出しを読むと、やっぱり、予想通りの相手だとすぐに確かめられた。  今年度も、夜間中学の教壇に立つという報せだった。 七十代を迎えているというのに、「ようやるなぁ~」と思ってしまった。その他にも、彼は障害児の放課後デイサービスにも顔を出している。  ここまで書けば、団塊世代の活動的な万年青年がシュッとして、立っ

本当にこまりました

 路地裏の文化住宅の一室に引っ越してきて、いつも気になるなぞがある。 夕方になると、ご近…

ピンクのシーツに横たわる

 わが家は、朝から大爆笑だった。  来週には、記録的な早さで大阪も梅雨に入るという情報か…

自分で決めること、おまかせすること

 「思いこみコロナ」が引き金になり、一日のほとんどが天井を見つめる生活になり、一年以上が…

二千二十一年 五月十一日

 夕食を終えて何か一本書こうと思っていたら、一時間ほど居眠りしてしまった。  先週末、不…

ヘルパーさんごめんなさい

 みなさん、気がついておられますか?梅雨に入る半月ほど前に、すごくさわやかで天候が安定す…

ひとりの時間①

 一九九六年、夏、ぼくは山にかこまれた静かな障害者施設から、大阪のターミナルの一つ梅田ま…

ひとりの時間②

 ぼくの頭の中には、いつもテンビンバカリが用意されている。  毎日の買いものから人生の分岐点に至るまで、コスパを計算したり、取り組む過程での充実度や挫折したときのセーフティーネットをシュミレーションしたりしながら、自分自身にとっての損得勘定をはじきだしてきた。  物心ついたばかりのころ、毎日のように帳場の畳に寝かされて、商いをするおふくろの背中を見つめていた。  山陰の地方都市の小さな呉服屋とはいえ、着物や帯は高価なものに変わりはない。 必然的に、お客さんとのやりとりでは「