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車いすからベッドへの旅

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毎日、天井を見つめている。ベッドで横になっていると、ぼくの六畳の部屋半分と、ヘルパーさんが仮眠する隣の四畳半三分の一ほどしか視界には入らない。 かぎりなく狭い世界の中で、なにを考…
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2021年4月の記事一覧

牛すじの行方

 ただいま、午後十時二十分。オシッコをガマンしながら、この原稿を書きはじめる。ベッドの上…

背負いつづけてきた記憶②

 十歳ごろだった。  施設には、毎日のように学生ボランティアが訪れて、食事やお風呂の手伝…

背負いつづけてきた記憶①

 なにも書きはじめていないモニターを、ぼくはしばらく見つめていた。 ぼくの生きてきた長い…

くすんだ緑の野球帽

 すこし顔を左へむけると、ぼくの視野の中へくすんだ緑の野球帽が独特な存在感を漂わせながら…

かたむいた長屋から

 目が覚めると、もう泊まりと朝のヘルパーさんとの交代時間だった。ゴールデンウィークのころ…

下町のスーパーにて

 「思いこみコロナ」のおかげで、ずっと通いつづけてきた作業所と疎遠になり、毎日のように昼…

だんだん暗くなる

 「ぼくを探す旅4」を書こうとして、4に目が行ってしまった。縁起が悪い数字だ。  この間は、noteのどのカテゴリーも、見事に九本目でそろいそうになった。 「九かぁ、縁起が悪いなぁ…」などと、必死でつぎのネタ卸をがんばった。  そういえば、欧米では十三が不吉な数らしい。    よく読めない地名シリーズに登場する「十三(じゅうそう)」は、阪急電車の乗り換え駅の代名詞に近い存在だ。  以前、住んでいた文化住宅は、阪急の三つの駅の中間にあり、通っていた作業所もなぜか同じような図式

ゲームで乗りきる

 おトイレから食事までひとりでできないぼくの生活は、多くのヘルパーさんたちがシフトを組ん…

一人ひとりの暮らしかた

 二十五年間、介護をする人たちと文化住宅の一室を借りて生活を続けてきた。  長かった施設…

Aさんの戦争体験

 天皇代替わりの奉祝ムードの中で、ぼくはすこし割りきれない気持ちで毎日を過ごしていた。 …

顔面27センチ

 ぼくの身近にも、そろそろコロナの影がしのびよっている。およそ三十人ちかくのヘルパーさん…

桐の花との再会

 朝、いつものようにラジオのスイッチが入ると、PM2.5は飛んできているものの、大阪はよく晴…

君だけがわかってくれる

 ぼくのガラケーの登録名「弁慶が止まらない」くんは、仕事と趣味のお節介が高じて、ほんとう…

「はぁ…?」

 ついさっきのこと。  ぼくは、このマガジンにまったく別のことを書こうとしていました。  十行ほど進んだところで、急にオシッコがしたくなったんです。 さっそく、ソーシャルディスタンスを守りながらぼくの言葉をパソコンに入力してくれていたSくんに、お願いしたんです。ベッドの上でのけぞるほどになっちゃって…。  彼は入力を中断して、要領よくシビンを受けてくれました。  無事、オシッコを出しきった瞬間、ぼくははっきりと言ってしまったんです。 「マル!」。  一瞬の間がありました。