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「カムバック 컴백」(第1話)

 ヒョンス(29)は軍役を終え、これからの将来を考えると憂鬱になっていた。
 彼は2010年頃に5人組ボーイズグループSHiZとしてデビューしたが、様々な問題を抱えて活動期間はわずか3年で解散。その後、様々な仕事に手を出すも全て失敗。心の支えだった恋人は、すでに知らない間に別の男と付き合っていて、面と向かって「あなたのダメなところ20箇条」を指摘される。

 学歴も資格もないが、プライドだけは高いヒョンスは、再就職もままならず。友達も離れていった。自宅のアパートで母親と二人暮らし、家では常にグチを言われ続ける毎日。「1か月以内に仕事を見つけなければ、お前は親戚のいる鬱陵(ウルルン)島のイカ釣り漁師のところに修行に出す」とついに母親に宣言される。

 焦ったヒョンスは、歌だけ自分の存在証明と、闇金から借金をしてパソコンを買いそろえてユーチューブチャンネルを開設し、見様見真似をしてみたが登録者は2桁で再生数も伸びない。
 借金の返済とイカ釣り漁が近づく中、町の飲み屋でカラオケを歌っていると、怪しいマネージャーのソ・ドンチョル(44)と出会い、再デビューと支度金1000万ウォンの話を持ち掛けられる。

 聞いたことのない怪しい事務所を疑うヒョンスだったが、調子の良いドンチョルに乗せられ、酒を大量に飲まされて契約書にサインしてしまう。

 翌日、自宅で二日酔いで寝込んでいると、ドンチョルが迎えに来る。「お母様、息子さんお仕事決まりました」と言うと、すぐに荷造りをして、パスポートも作らされ、訳が分からないまま、仁川から成田空港までの最も安い便で日本へ行くことになる。

 ヒョンスはアイドル活動をしていた10年以上前に、日本へは何度も来たことあったが、その頃はビジネスクラスで羽田直行。日本のプロモーターがあっちこっちアテンドしてくれ、楽しい記憶しかなかった。しかし、今回はたった一人、日本語も上手く話せない、慣れない電車で迷いながら、何とかドンチョルから渡された住所にたどり着く。「そこに行けば全部やってくれる」と言うこと以外何も知らない。

 迷いながらたどりついたのは歌舞伎町のカラオケバー。
 現れた店長・沢村は韓国人だったが、見るからにヤバイ筋の男だった。店長によるとヒョンスは200万円の借金を背負わされており、夜7時から朝まで、6か月ここの厨房で働くことになっているという。
 
「ドンチョルに騙された」と分かった時には、もう手遅れ。パスポートとスマホを取り上げられ、中野の寮という名のぼろ屋に放り込まれる、金も無く自由もない。隙を見て逃げ出そうとしたが、用心棒の郡司に取り押さえられ、いきなりボコボコにされてしまう。

 騙したドンチョルを恨み、自分を裏切った昔の仲間と事務所を恨み、ネガティブな気持ちで皿洗いやら、飲み物作り、フルーツ盛りなど、兵役よりツラい業務を黙々とこなす。

 店の客筋は、早い時間はホスト連れの金持ちわがまま女、そして深夜からはキャバ嬢と同伴で来るガラの悪い色黒社長。ヒョンスは雑用係としてこき使われる。

 その店には1日3回ショータイムがあり、日替わりで韓国から連れて来られた聞いたことないグループがBTSなど日本で人気のKPOPを歌う。彼らもヒョンスの事は歌手と認識せず、「終わったおっさん」と陰口を言われる。

 ある日ショーの前任者が体を壊して入院したため、ヒョンスは郡司と一緒に、その音出しと照明係をさせられることになった。
 無名グループのショーは、プロとして舞台に立っていたヒョンスから見ると、寄せ集めのアマチュアの集団にしか思えない。そのくせヒョンスには上から目線で、音や照明のクレームをつける。ある客が少ない公演で、あまりにやる気なく手を抜く若手グループに対して、切れたヒョンスが野次を飛ばして喧嘩になる。「そんなに言うならおっさん歌ってみろよ。下手だったら、この責任取ってもらう」 

 場内が注目する中で、ヒョンスは持ち歌をアカペラで歌う。しかし、誰も知らない歌のアカペラ、ヒョンスの元は良いが酒焼けで枯れた声。場内は微妙な反応になる。
 しかし、そこで客席から一人拍手する男がいる。歌舞伎町の元ナンバーワンホストの清本だ。出勤前の同伴でバーに来ていた。
「お前面白いよ、それに顔も声も悪くない」
 お得意様の拍手に、店長もヒョンスを怒るわけにいかず、若手グループに真面目にやるよう焼きを入れる。清本の推薦で、ヒョンスはそれ以来時々バーのショーで歌う事が出来るようになる。

 「これから歌える!」と喜んだヒョンスだったが、自分の持ち歌を歌おうとするとおしぼりが投げられ、BTSとかTWICEを歌わされり、一気飲みしろなど無理難題をぶつかられる。しかも他の時間は厨房の仕事も引き続きある。疲れと失意でボロボロになって厨房でしゃがみこんでいると、店長が呼びに来る「お客様がお前を指名している」。
 俺を指名するモノ好きは誰だと思い行くと、派手なおばさんが手招きする。
 「一体俺をどうする気だ」。

 連れ出しという事で、仕方なく派手なおばさんにトボトボついていくと、新大久保の外れの汚い居酒屋に入った。韓国演歌が流れる店内。そのおばさんが入ると、店にいたおじさんやおばさん全員が急に笑顔で挨拶し始める。
 「あなたは何者ですか」ヒョンスが聞くと、おばさんは、壁に貼られたポスターを指さす。おばさんは日韓演歌の大スターキム・ヨンジャだった。

 ヒョンスはそこでおでんと焼酎をおごってもらい、「あんたは声は良い物持っているが、出し方を忘れている、毎日発声をやり直しなさい」とアドバイスを受ける。店の客のリクエストに応えてキムヨンジャが、そこで一曲「キニムン モンゴセ」(あなたは遠い所へ)をソウルフルに歌う。それを聞くヒョンスは故郷を思い出して、自然と涙があふれてくる。

 別れ際に「歌手がイラついていてはお客さんが幸せになれない。お客さんが喜ぶ歌を心を込めて歌いなさい。それが歌手の使命よ」と諭され、ヒョンスの体に電撃が落ちる。翌朝から、ヒョンスは近所の戸山公園を走り、発声練習を始めた。歌手である誇りが蘇ってくる。

 出勤すると黒服からは、おばさんと昨日どうしたんだ、といじって来る。しかし、ヒョンスは笑顔で冗談を返す余裕が出てくる。

 ショータイムで、「一曲自分が歌いたい曲を歌わせてほしい」とお願いし、別れた彼女の事を思って歌ったKoyoteの「純情」がメチャクチャ盛り上がる。郡司もラッパーとして、カラオケバーのレギュラープログラムになる。

 店に来ていたホストの清本が面白がって、自分の店にヒョンスを貸して欲しいという、「200万の借金なんて俺なら1日で返せるよ」。

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