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北海道で発生したブラックアウトについて考える


こんにちは。yukiです。
2016年に発生した熊本地震から2年後、またもや最大震度7を観測する大地震が発生してしまいました。(写真 AERA.dot)

このクラスの地震は千年に一度などと言われていたこともありましたが、2011年の東日本大震災から過去3回も発生しており、珍しいものではなくなってきた事実に驚いています。今回の地震でお亡くなりになった方につきましてお悔やみを申し上げます。
今後はこのような災害がないように祈るばかりですが、官民で協力して迅速な対応を実現できるように平時から検討していかなければなりませんね。

さて今回は、北海道全域にわたって電力の供給がストップした、いわゆるブラックアウトについて考えたいと思います。
 NHKの画像をみてわかるように、今回ブラックアウトのきっかけとなったと言われる苫東厚真発電所(とまとうあつまはつでんしょ)は、震源の近くに位置していることがわかります。地震直前まで 1号機、2号機、4号機の 3つの発電機が稼働しており、北海道全体の電力需要の約半分程度の165万kwを供給していたと推定される火力発電所が、今回の地震により緊急停止しました。この発電所の停止がなぜ北海道全域に影響を及ぼしたのか、防ぐ方法はあるのかを考えていきたいと思います。

目次は以下のとおりです。

・ブラックアウトはなぜ発生したのか?
・電力設備のリスクヘッジ
・連系線の増強は有効なのか?

ブラックアウトはなぜ発生したのか?

ブラックアウトを説明する前に、電力の需要と供給の関係を表した絵を見てみましょう。

なおこの絵は60Hz の商用周波数としている九州電力のホームページより参照してあるためバランス値を60Hz としていますが、東日本である北海道は50Hz がバランス値ですので50Hz と読み替えてください。


出典: 九州電力HP(参考)電気の特性や電気をお届けするまで

 

 今回、苫東厚真発電所が停止し、電力系統から切り離されたことによって、発電量が低下しました。つまりここでいうと真ん中の絵の状態です。このようなとき、周波数の目盛をみると周波数が減少していることがわかります。

周波数とは、回転機の回転数と比例関係にあり、周波数が減少すると回転数が減少していきます。この回転機というのは発電所のタービンや工場などの回転機(モータなど)と同期をとっており、需給バランスが取れていると、その管内は同じ回転数で回っています。需要と供給を一致させる理由は、電気は保存が難しい、という理由のほかに周波数を一定に保つためなんですね。
タービン回転数には上限値・下限値があり、上限を超えて運用した場合はブレードの破損など発電機の損傷、下限を超えて運用すると熱疲労による破損が懸念されるため、制約値の逸脱を検知すると停止する保護機能がついています。
このような発電所を保護する機能が、各発電所へ連鎖的に発生したため、同期していた発電機が次々に停止を余儀なくされ、系統から切り離されてしまいました。当然ですが発電所が切り離されてしまうと電気の供給を受けることはできず、停電状態となります。
このように大規模な停電になることをブラックアウトと呼びます。アメリカなどでは度々発生していますが、日本の大手電力会社の管内全域で発生したのはこれがはじめてのことです。

2003 年 8 月 14 日 北米北東部停電事故に関する 調査報告書http://www.enecho.meti.go.jp/category/electricity_and_gas/electric/pdf/nayousar2.pdf

 

電力設備のリスクヘッジ

 電力供給設備の基本的な考え方として、N-1という考え方があります。簡単に言うと、これは1つの設備が何らかの影響で停止してしまっても停電を起こさせないという考え方です。多くの送電線が2回線で1ルートとして形成されていますが、ほとんどが片方が断線してしまっても、もう片方で供給可能であるように構成されています。発電設備も同様で、通常の状態では1つの発電所が停止した状態では、他の発電所からの供給でカバーすることで需給バランスが保たれ、ブラックアウトに至ることはないような設備計画を理想としています。(ちなみに発電機の出力配分には経済負荷配分という最適な出力配分があり、通常フル出力運転はしないため出力に余力がある)
これについて以下の2点から考察をしてみます。

・泊原子力発電所が点検停止中
・1つの発電所が大きすぎやしないか?分散化の不足?

 まず泊発電所について。現在停止している泊発電所1号機,2号機,3号機の合計の定格出力は207万kWとなり、今回停止した165万kWを上回る出力があることがわかります。通常、原子力発電は定格一定出力であるため、泊発電所が稼働状態であれば、苫東厚真発電所の発電量全体にしめる比率は、地震直前より少なくなることが想定され、一時的な抑止力にはなりうると考えられます。
 次に、1つの発電所への依存度の高さが懸念されていますが、1つの場所に発電施設をたくさんおいたほうが全体的なコストは下げられるので、そのメリットの恩恵を受けるため、結果的に苫東厚真発電所の発電量全体にしめる比率が増えてしまった可能性があるかもしれません。半分程度の出力能力を持った発電所を別の場所に建設して、今回の災害で停止していなければ、連鎖反応の抑止力に寄与したでしょう。

連系線の増強は有効なのか?
電力ネットワークは沖縄や離島を除き、日本全体で繋がっています。地域間を結ぶ送電線のことを連系線といいますが、本州と北海道を結ぶ送電線の増強が計画されています。

現在は60万kWの容量ですが、今後は90万kWへの増強計画が予定されています。
容量を見ると今回の脱落量よりかなり少ない事がわかります。
また、その連系線の運用で定められたマージン(空容量)を確保する必要があるため、定格容量すべてを使うことはできません。
ですので今回のような大規模発電所の脱落に関しては、増強だけではブラックアウトを防ぐことは厳しいと考えます。

そうは言うものの連系線の増強によって、電力ネットワークは需給バランスをはじめ周波数の安定化に寄与するものであり、再エネ連系の導入量の確保や融通などわたしたちの生活にもメリットがあります。

最後に

今回のブラックアウトに関しては、地震による大規模発電所の停止が引き金であったと推測しますが、未曾有の災害ではあるものの、リスク管理の方法を見直すきっかけになるかもしれませんね。あまり馴染みのない周波数について取り上げましたが、周波数が系統に及ぼす影響は、今回のように大規模になることがおわかりいただけたでしょうか。
本記事には取り上げませんでしたが、周波数領域の応答制御について、再エネの大量導入により、回転機の慣性エネルギーが減少し、過渡応答特性が脆弱になる可能性も一部では指摘されています。今後、時間を見つけてその分野をお知らせできたらと思います。

最後になりますが、一刻も早い北海道の復興をお祈り申し上げます。

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