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切り抜ける人格

日野湧也(ひのわくや)
1998年8月3日生まれカリフォルニア州ロサンゼルス育ち。
ウォールテリア小〜リチャードソン中〜サウストーランスハイスクール出身。


僕には、これとは別に
時間と労力をふんだんに使い作り上げた
『架空の人格』がある。


正確に言うと、


「僕が日本で生まれ育っていた世界線」
をいくつもの妄想とシミュレーションで緻密に積み重ねた、存在しない記憶を今の自分と帳尻を合わせた人格だ。


日野湧也
1998年8月3日生まれ神奈川県厚木市育ち。
厚木第二小〜東名中〜海老名高校出身。


これが僕の『架空の人格』である。

僕はどうしてもこの人格を手に入れたかった。


理由はいくつかあるが、まず、
自己紹介での自分のターンが長いからだ。


以下に、僕が本当の人格を使った場合の飲みの場でのリアルなやり取りを紹介する。

「わくや君って出身どこなの?」
「ロサンゼルスです」
「いやいいって笑」
「まじなんすよ」
「え?本当に言ってる?あのロサンゼルス?」
「そうですね、親の仕事の都合でずっとそこで」
「何年ぐらいいたの?」
「いやもう1歳の頃から高校卒業するまでずっとだから18年くらいですかね」
「ということは英語ペラペラ?」
「まあそうですね、母語なので」
「実家とかは?」
「ロサンゼルスにありますね」
「うわー!かっけぇ!
俺も実家ロサンゼルスって言ってみてぇわ笑」
「僕も気に入ってますこの響き。」
「学校とかもアメリカ人ばっかり?」
「アメリカなのでアメリカ人ばっかりですね」
「えじゃあさ、友達とか彼女とかもアメリカ人とかだったってことでしょ」
「そうですね」
「すげえ!関係ないんだけどさ、フライドチキンって言ってみてよ」
「Fried Chicken」
「やっぱ本場は違うわ!」


100000000000000回やったこれ。
100000000000000回やったし、実際はもっと長く続く。同じ内容を、いろんなところで。

これからずっと仲良くする人ならいいんです。
今後二度と関わらないであろう一時的な集まり、美容院、友人の友人、自分が主役ではない会。

アメリカ育ちなので自分の話をするのは好きなのだが、日本人なのでこういう時に僕のターンだけが長いのはとても気まずいし気を遣う。

聞いてくる相手が悪いわけではない。変な経歴な僕が悪い。
僕も宇宙人が飲み会にいたら結構色々聞いてしまうと思う。「ぶっちゃけ地球の重力ぬるいなって思った?笑」とか

宇宙人は地球では宇宙人であることを隠しているみたいな都市伝説があるが、それはスパイだからではなくだる絡みされたくないからだと思う。

これが
「日本で生まれ育った世界線を妄想し作り上げた架空の人格(以下:日野湧也β)」
だった場合どうなるか。

「わくや君って出身どこなの?」
「神奈川ですねー」
「部活とかは?」
「中学は陸上で高校はサッカーやってました。」
「へーー」


これで済む!
だいぶ省エネ。最速で次の人の番。

そして、もう一つ『日野湧也β』が欲しかった理由。

それは、会話についていけないということ。

みんながクレヨンしんちゃんドラえもんを見ているとき、僕はFairly Odd Parentsを見てた。GReeeeNが流行っていた時、Big Time Rushが流行っていた。日本の学生が地震を想定した避難訓練している時、僕は銃乱射を想定した避難訓練をしていた。

日常の会話というのは、共通認識やあるあるが占める割合がかなり高い。分からない話題が出た時いちいち会話を遮ってしまってはキリがない。

そして何より、ユーモアが通じない。
お笑い芸人を志していた僕からすると、致命的であった。

僕は20歳の時にこれに気付き、

『日野湧也β』で様々な場面を切り抜けていけるように、違和感なく会話に馴染めるように、
日本で過ごさなかった1歳から18歳の全ての記憶を綿密で緻密な妄想で作り上げ、
およそ3ヶ月の期間をかけて完成させた。

みんなの少年、青春時代を、僕は3ヶ月でシミュレーションしたのだ。

国語の教科書もメルカリで買って読んだ、スイミーから羅生門まで。クレヨンしんちゃんもドラえもんもちびまる子ちゃんもサブスクで全部見た。SKETDANCEや銀魂も。多分そこまで必要ないだろうけどいぬまるだしっ!も見た。ピタゴラスイッチも、エンタも、天てれも、はねとびも、深イイ話も、天才!志村どうぶつ園も、さんまのからくりTVも全部見た。
YouTubeで「懐かしの平成CM集」を見ることによって、コンテンツだけではなく隙間も埋めた。
記憶が新鮮な分、今はなんなら人より詳しい。

(デュエマだけは、元々知ってた。
9歳の頃に、日本からきたマサヤくんがデュエマをする相手がおらず、日本人である僕にデュエマを普及しようとした。だがアメリカには当然デュエマは売っていないのでマサヤくんが三軍のデッキを僕にくれた。マサヤくんの一軍のデッキと僕に与えられた三軍のデッキで対戦し続け、ただただ毎回同じボコられ方をした。その記憶はある。)

とにかく、色んな人から学生時代の話を聞きまくって、それをなんとなく平均して、自分のものにした。

『日野湧也β』は小学校のとき放課後はイオンでムシキングをやったりした。友達の家ではスマブラやったり、ポケモンを改造して色違いの伝説を量産している友達を羨ましがったりした。LINEのタイムラインで好きな子の質問答えます系の投稿にスタンプを押したが答えてもらえなかった。カラオケに行って純恋歌を入れるも思ったよりサビ以外が分からず曲も長い為演奏中止を押さざるを得ず、気まずい中DAM CHANNELが流れたりした。部活ではチーム事情で一時的にゴールキーパーもやれと顧問に言われた。修学旅行で奈良と京都に行ったが、清水寺が工事中だったので、代わりに二条城に行った。大学受験期間は「君の名は。」が大流行したが、大学生になってから見ようと思って我慢するも結局見ることを忘れていた。

全部、架空の記憶。
でも、確実に分かる。
理科室の水道が強いことも、日付と同じ出席番号が当てられがちなことも、金曜のテレ朝の番組表が盤石なことも、サイゼリヤのドリンクバーでいろんな飲み物を混ぜるのがある年齢から恥ずかしくなることも、体育祭のペアダンスで好きな子がイケメンと踊ってるのを見る悔しさも、経験してないけど懐かしい。

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芸歴3年目を迎え、この前ライブの楽屋で動物の話になった。

「南極の過酷な環境で生きられるのも、
 ペンギンだからできたことやけどな。」

先輩の何気ないコメントに、反射で言えた。

「天神のCMみたいに言うなよ。アグネスか」


ちょっとだけウケた。
日本育ちにしかできないツッコミを、
アメリカ育ちが努力でツッコめた。

自分の中の『日野湧也β』が報われた気がした。

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