見出し画像

「宇宙」×「進化思考」       ~未知なるものを想像/創造するチカラ

 2024年2月28日、㈱ウエイクアップ・宇宙意識プロジェクトの対話イベントを実施しました。宇宙・天文学の専門家である縣秀彦氏と『進化思考』の著者でありデザインストラテジストの太刀川英輔氏をお迎えして、<「宇宙」×「進化思考」〜未知なるものを想像/創造するチカラ〜>というテーマで、奥深い対話が繰り広げられました。


2024年2月28日 実施

ゲスト:縣 秀彦 氏 (自然科学研究機構国立天文台准教授)
    太刀川 英輔 氏  (デザインストラテジスト / NOSIGNER代表)
進行:(株)ウエイクアップ  小西 勝巳
   (株)ウエイクアップ  山田 博

*肩書は、2024年2月当時のものです。



■ 今日のテーマとゲスト紹介

小西:今日は、ウエイクアップ主催で、<「宇宙」×「進化思考」~未知なるものを想像/創造するチカラ>と題した対話イベントを開催いたします。私は、今日の進行を務めます、ウエイクアップの小西勝巳です。ニックネームで“かつみちゃん”と呼ばれていますので、今日も“かつみちゃん”と皆さんに呼んでいただこうと思っています。そしてもう一人の進行役は…。

山田:はい、ウエイクアップの山田博です。“ひろしさん”と呼ばれているので、今日も“ひろしさん”で。皆さん、よろしくお願いします。

小西:今日のメインゲストのお二人と私たちで、進めてまいります。簡単に、ゲストのプロフィールをご紹介します。

 お一人目のゲスト、縣 秀彦さんは、自然科学研究機構・国立天文台の准教授でいらっしゃいます。縣さんのプロフィールはこちらのスライドに記していますが、後ほどミニ講演もしていただきますので、その時に改めて、自己紹介もお願いしております。

小西:そして、もうお一人のゲストは太刀川 英輔さんです。デザインストラテジストで、NOSIGNERの代表でもいらっしゃいます。太刀川さんには、弊社の事業体の1つであるCTI JAPANのウェブサイト[1]のデザインもしていただきました。ありがとうございます。

[1]㈱ウエイクアップが運営するCTI JAPANのウェブサイトは、こちらからご覧いただけます。https://www.thecoaches.co.jp/

太刀川:いい感じのが、出来上がりましたよね。

山田:ほんとに素晴らしい。かっこいいですよね。

小西:太刀川さんにも、後ほどお願いしているミニ講演の中で、ご自身の経歴のご紹介もいただければと思っています。

小西:今日はこんな4人で進めていきたいと思っています。よろしくお願いいたします。

全員:よろしくお願いします。

■ イベント開催の意図

小西:まず、なぜウエイクアップでこのイベントをやるのかということを、簡単にお話しさせていただきます。
 ウエイクアップは、コーチングの会社です。それも、アメリカ西海岸発ということで、単に目標達成するだけではなく、目標も達成しながら、その中で本質的な変化をしていこう、人も組織も変わっていこう、というコーチングを追求している会社です。

 そして、昨年、みんなで1年ぐらいかけて作ったのが、こちらのパーパスです。

 「意識の進化」というのが、我々のテーマなんですけど、それを端的に表すとこうじゃないか、ということで生まれたパーパスです。

 「意識の進化」は、ずっとウエイクアップが探求してきているテーマですが、進化の根源は宇宙だ、ということで、ビッグバンから始まる宇宙について、縣先生に何度もご講演いただいています。
 そして、「進化」といえば、太刀川さん、今日は英輔さんとお呼びしますが、英輔さんの『進化思考』もキーワードだということで、このお二人が対談なさったら面白いんじゃないか、という思いつきで、お声がけをしてしまいました。そしたら、実は、お二人は以前からの知り合いだったということで(笑)。

山田:ちょっと驚きましたよね。

太刀川:一緒にプロジェクトをやったり、オランダに一緒に行ったりもしてね。縣さん、ご無沙汰しています。コロナ明け初なんですよね、対面で会うのは。

縣:そうですね。ご無沙汰しています。

山田:このイベントは、オンラインでの実施でも良かったんですけど、やっぱり直にお会いになりたいというご希望もあって、こちらにお越しいただき、本当にありがとうございます。

小西:ありがとうございます。そんなこんなで、コーチングの会社であるウエイクアップが、なぜか、「宇宙」×「進化思考」というテーマでの対話を企画することになったわけです。

 実は、ウエイクアップの中でも、宇宙をテーマに「意識の進化」を探求するプロジェクトがあります。「宇宙意識「 」」というプロジェクトで、名前に「 」が付いているんですが…。

太刀川:「 」には何が入るんですか?

山田:いい質問ですねえ。分からないので「 」にしといたんですね。これはあえて。未知なる領域なので、その「分かっている」っていうところを1回外してみて、そこに何があるんだろうっていうことを意識し続けられるように「 」にしてあるんですよね。
そこに何が入るかは、また変わっていく。それこそ進化なのか、変容なのかしていくのかな、ということで、昨年かな、この名前に変えました。

小西:なかなか言葉にしにくいねっていうことで、あえて「 」で、中が空白になってるというプロジェクトです。

太刀川:今日もどこに行くか、わかんないわけですね。

小西:そうなんです。

山田:今日ね、本当に楽しみでして。本当にどこに行くかわからない、というところを楽しんでいけたらいいなと思いますね。
 分かっているところへ入っていくんじゃなくて、分からないところに我々も入っていく。たぶん、お二人は、もうそこをずっと探求されているので、それについていこうかなと思っております。
 
小西:ということで、前振りはこれぐらいにして、早速、本題に入っていきたいと思います。今日の進め方としては、まず、お二人それぞれからミニ講演をしていただき、その内容も踏まえての対談になります。
 視聴者の皆さんにも、ご質問などがある場合はQ&Aに入れていただいて、全部を拾えるかどうか分かりませんが、ピックアップして、対談の中に取り込んでいきたいと思っています。ではまず、縣さん、よろしくお願いします。

■ 縣 秀彦 氏 ミニ講演

縣:今日は、ウエイクアップの皆さんにこういう機会を作っていただいて、本当に感謝しています。小西さん、山田さん、よろしくお願いします。太刀川さんとは、2017年に初めてお会いしまして、いろんなことを教えてもらって。

太刀川:いえいえ、そんなこと。

縣:本当に恩人だしね、これからも頼りにしてるんで、よろしくどうぞ。

■ 宙ツーリズム

縣:1つ紹介すると、宙ツーリズム[2]っていうのがあります。今、宇宙旅行の時代に入りましたよね。宇宙に行く、空に向かって宇宙に行く。今日の主題とも関係するんだけど、僕らって、星空や宇宙の中に抱かれている時に自分の本質が見えてくる。混沌とした心や頭の中のゆらぎが収まって、自分自身がピュアに見えてくる瞬間って、星空のもとで、あったりするでしょう。

 それで、太刀川さんと共通の友人、ライデン大学のライデン天文台のペドロというんですけど、ペドロなんかとも一緒に、天文学の1つの方向性として、綺麗な星空を見に行くアストロツーリズムという星空観光をやろうと、2017年に立ち上げたのが、宙ツーリズムなんです。
 この宙ツーリズムのロゴ、素敵なロゴでしょう。これを太刀川さんがデザインしてくれて、このウェブページも作ってくれたんです。

[2] 宙ツーリズムの詳細やロゴは、こちらのサイトをご覧ください。https://soratourism.com/

太刀川:ボイジャーの、ゴールデンレコードをイメージしてね。

縣:そうなんですよね、ボイジャーから来てるんですよね。ボイジャーのような素敵な旅ができるようにっていう感じでね。

 我々人類が宇宙の謎を解いてくっていうのは、もう5000年以上やっているわけですが、じゃあ、今、宇宙の謎って何ですか?っていうお題をいただいたんですけどね。宇宙の謎といったって、今の宇宙がどこまで分かっているかとか、宇宙全体の姿がざっくり分かった方が議論しやすいだろうなと思ったので、国立天文台で作ってきたMitaka[3]というソフトがありましてね。このソフトは、Windowsでしか走らないんだけど、「Mitaka」で検索するとダウンロードできますから、是非、使ってみてください。最初の10分くらいを使って、このMitakaで、宇宙旅行に皆さんをご案内しようと思います。

[3] Mitakaの詳細やロゴは、こちらのサイトをご覧ください。https://4d2u.nao.ac.jp/mitaka/

■ Mitakaによる宇宙旅行

※本パートは、Mitakaのソフトを投影しながらご説明いただきました。以下の、イベントのアーカイブ録画では、実際の映像を見ながら、より臨場感を持ってご覧いただけます。 https://www.youtube.com/watch?v=gcQZ8Y_JqgM

~ 宇宙旅行に出発 ~

縣:じゃあ宇宙旅行に行きますね。今、ここは五反田ですね。2月28日、夜8時になって、街の灯りがなくて星空が見えているとすると、下の空ってこんな感じなんですよね。北極星がここにあって、時間が経つと、星々が時間と共に動いていく様子が見えるかと思います。そして、この地球から、今日の深夜に、宇宙に向かって旅立ってみましょう。

 眼下に見える灯りがありますね。夜でも人が住んでるところには灯りがある。もちろん、光を放ってる生き物ってゼロじゃないけど、我々人類は、ものすごいエネルギーを、ある意味無駄に、光を宇宙に放ってしまっていますよね。日本は、特に灯りがあって、夜でも形がよく分かりますね。ちょっと地球を回してみると、人が住んでるところは明るくて、インドはどこでも街があるなとか、ヨーロッパの辺りを見ると、ヨーロッパの海岸線は分かりやすく光っているなとか。

山田:ほんとだ。

小西:形がくっきりと。

縣:そうそう、人が住んでるんだなって、この星を見ると思いますよね。とはいえ、昼があり、夜がありですから、昼間の領域に行ってみると、こんな感じの星です。今アフリカが見えていますよね。

太刀川:綺麗だあ。

小西:美しいですね。

縣:時計の針を進めると、このように地球が…(回転して)今、日本が見えていましたね。(ソフト上で時間を早回ししながら)1日が、こんなに早く過ぎちゃうとちょっと残念だけど、でも毎日、朝、陽が昇ってきて、昼、南を太陽が通って、夕方、西に沈んでいく、そして、夜を迎えるという1日。毎日、1日1日をこうやって過ごしています。地球の自転ですよね。

~ 月 ~

縣:そして、地球に一番近い星が月ですね。今年は、月がブームですよね。アポロ以来、いよいよ月に人が行って、降りる時代。アルテミス、それから、この間、1月20日でしたか、日本のSLIMが、無人ですけど月に降りましたね。ロシア、アメリカ、中国、インド、そして日本も月に降りられる力を持つ、と。

小西:確か、誤差がすごく少ないんですよね。

縣:そうそう、すごくピンポイントで降りられるんですよね。「はやぶさ」や「はやぶさ2」の技術、本当に、ピンポイントで降りる技術を日本は持っていますから、いろんな国と協力すれば、月の資源を取りに行くことも可能ですよね、これから。
 (Mitakaで表示させながら)月があって。月までも遠いんですよ、地球30個分38万kmも離れてますからね。

~ 太陽系 ~

縣:そして太陽系。太陽の周りを…。

山田:(地球から徐々に離れ月や太陽、太陽系を映し出そうとしているMitakaの画面を見ながら)おお、良いですねえ。

縣:太陽の周りを、様々な天体が回ってるわけですね。太陽があって、まずは水星(みずぼし)と書く水星。そして、金の星、金星。赤い線のところが地球ですね。地球まで1天文単位と(画面上に)書いてありますね。太陽から地球までの距離は、1億5000万km(=1天文単位)もあります。

 真空中、宇宙空間だと、光は1秒間に30万km進みます。地球はぐるっと一周4万kmなので、光、そして電波もそうですね、電磁波、X線とか赤外線、そういう光の仲間たちというのは、1秒のうちに地球を7回半も回れるというスピードですよね。でも、太陽までの距離が1億5000万kmですから、30万で割ると499秒。だから、8分19秒の時間が、光でもかかっているっていうことなんですよ。今日は晴れているでしょう。ここからも太陽が見えるかと思いますが、あれは、8分19秒前の太陽ですね。

 宇宙を考える時に、実は、遠くを見れば見るほど、今の状態は見えないわけです。太陽は8分19秒前、土星まで行くと1時間20分前の土星、一番近い恒星はそれは4年前の姿、というふうに、遠くを見れば見るほど、昔に行きます。

 今日の主題である「進化」というところと繋がると思うんですけど、僕らが見て、解き明かしてきた宇宙っていうのは、実は、近いところというのは最近の様子であって、だんだんだんだん遠くに行けば行くほど(Mitaka上でだんだん遠くに行きながら)、昔の状態しか分からない、見ていないということになります。

 太陽系という我々の仲間がここに存在していますが、太陽系っていうのは、太陽~地球間の距離の1万倍ぐらいまでなんですね。ここはまだ太陽系ですよ。(徐々に遠くに行きながら)ここで1000倍。「オールトの雲」って書いてありますね。彗星コメット。(さらに遠くへ行き)これが太陽系の果て。「オールトの雲」とは、ライデン大学のヤン・オールト先生っていう大先生が昔、提唱したものですね。

~ 太陽系を出て、その先へ ~

縣:それから、ずっと行って、今度は「光年」っていう単位が出てきたでしょ。さっきの太陽~地球間の距離(の単位)だと、もう分かりにくいから、新たな距離の単位ですね。1光年=9兆5000億km=6万3000天文単位。太陽~地球間の距離8分19秒の、6万3000倍が、1年間で光が進む距離。

 逆に言うと、(Mitaka上で1光年と書かれた)赤い線で見えているところは、1年前の姿しか見えない。1年前の姿を我々は見てるんだけど、ここにはまだ、星って1つもないじゃないですか。地球のお隣の星が見えるのは、(Mitakaで表示させながら)このアルファ・ケンタウリっていう星なんです。このアルファ・ケンタウリが4光年先なんですよ。よく見ると、2つ星が見えますよね。連星といって、よく見ると2つ、大小ありますでしょ。
 冬のこの時期だと、(Mitakaで示しながら)シリウスっていう全天一明るい恒星。マイナス1.5等もあるシリウス。これは近くて、8光年先。そして、織姫星、夏の七夕のベガまで25光年。アルタイル、彦星まで17光年です。

 そして、ずっと行きましょうね。(Mitakaをどんどん進めながら)100年前の場所。300年前の場所。アンタレスとかベテルギウス。北極星とか、400光年ぐらいありますよね。そして、ずっと遠く、僕らが目で見て、誰でも見える明るい星、デネブ。夏の白鳥座の星ですが、これが1400光年。だから、1400年前の姿を見ている。
 それから、ベテルギウスが爆発する、超新星爆発、今も、ちょっと明るさが下がってきて、皆さん心配してますけど、ベテルギウスが超新星爆発をして、今晩、グワっと明るくなったとするでしょ。それは、640光年離れていますから、640年前、室町時代に爆発したわけです。星の一生が終わって大爆発すると、640年経って、今晩明るくなる。もし今日、爆発しても、640年しないと見えない。

小西:光が届かないわけですね。

縣:そうです、そうです。

山田:気が遠くなるような…。

~ 天の川銀河 ~

縣:我々の宇宙というのは、この太陽系を含む星の大集団なんです。(Mitakaを指しながら)ここになんか大きな集団がありますね。これは、太陽みたいに光っている星の集まりですよ。こういう不思議な渦を巻いている星の大集団。これはモデルなので、1個1個は観測点じゃなくて、モデルで示していますけどね。でも、ここに太陽みたいな星、恒星と言いますが、水素の核融合をして、自ら光っている星が大体1兆個近くあるんです。1兆個近いこの星の大集団を、僕らは古くから銀河系と呼んできました。

 この僕らがいる、(Mitaka上の)赤い丸の真ん中のところの太陽。ここに僕らがいるんですよ。太陽系って書いてある、赤い円の真ん中に地球もあって、今、皆さん、そこにいるわけです。そこからこの渦巻き、ドラ焼きのような形をした渦巻きの中に入っていってみますと、(Mitakaで銀河の中に突入しながら)何が見えてくるかっていうと、この星々の世界の向こう側に、薄く広がる白い光の帯。今、横に動かしてますけど、光の帯があります。これ、天の川なんですね。つまり、僕らは天の川のほとりにいます。天の川のほとりに住んでいて、この天の川の星の集団の中に埋もれています。これを天の川銀河とも言います。

 だから、銀河系っていう言葉は、最近の本だと天の川銀河と呼ぶようになりました。なぜかって言うと、宇宙って、ちょうど100年前に分かったんですけどね、この銀河系が、それまでは宇宙全体だと思ったのが、そうじゃないんだよ、と。宇宙っていうのは、この銀河系のような、天の川銀河のような星の集団、銀河の集まり。
 僕らの体って細胞からできてますよね。セル、細胞は、僕らの体の中に大体60兆個とか、少なくとも40兆とか60兆っていう数があります。この宇宙というものは、銀河の集団で、銀河が宇宙の中のセル、細胞だと思っていただけばいい。

~ 250万光年先のお隣さん・アンドロメダ銀河 ~

縣:この銀河の、(Mitakaでさらに遠くに行きながら)これ、1個1個、この白い点は、銀河なんですよ。大マゼラン雲、小マゼラン雲、よく知られているものは、形が描かれてます。この白い点々は、星じゃなくて、例えば、アンドロメダ銀河って見えてきたでしょ。有名な銀河なので、アンドロメダ銀河を見てみますね。
 (Mitakaでアンドロメダ銀河を表示しながら)こんな形です。秋の夜空、アンドロメダ座というお姫様の星座の腰のところにあります。これは肉眼でも、空の暗いところに行けば見えます。ぼーっと、米粒大に見えるんですけど。ここまで、距離が250万光年あります。250万光年先がお隣り(の銀河)です。皆さんは、250万年前は何をされていました?

太刀川:今、僕もそう思ってました(笑)。

縣:250万年前に、ホモサピエンスは存在してないけど、でも、皆さんの体の中にある遺伝子、DNAっていうのは250万年前も、ほぼ同じような情報を持っていた。たぶん、今の、我々ホモサピエンスのアデニン、チミン、グアニン、シトシンというDNAの4つの記号の並び、遺伝子記号、ゲノムの並びと、当時生きていて、我々に1番近かった生き物、猿人たちとの差は5%もないんですよ。
 チンパンジーと、僕らホモサピエンスのゲノム、DNAの並びの違いっていうのは、わずか 1.5%、オラウータンとも3%しか差がないから、猿人との差は5%もないかもしれない。2%ぐらいかもしれませんね、もっと近いかもしれない。だから、我々は、そういう遺伝子情報をずっとずっと昔からそのまま持っているわけです。

 アンドロメダ銀河が1番近く(の銀河)で、同時に、我々が肉眼で見える1番遠いところ、知ることができる1番遠くの銀河だから、今、説明をしてみました。宇宙はこのように、銀河でできています。そして、その銀河というのは、何億年も広がっていて…。(Mitaka上でさらに遠くに行きながら)

~ 138億光年先の宇宙の果て ~

縣:138億年っていうのが、宇宙の年齢なんです。(宇宙は)138億光年先まで広がっていますが、1億光年の外側に行くと、もう知ってる天体は皆さん、ほぼないと思います。38億年前に、我々、人類最初のDNAが、この地球に出来上がった頃の光っていうのは、(Mitakaで示しながら)この辺ですけど。もう、ほとんど何も知ってる天体はない。これ全部、銀河が群れているもの。名もなき銀河たちです。

 (Mitakaでさらに先に向かいながら)100億光年ぐらいになると、もうほとんど銀河は見えなくて、特別なクエーサーと呼ばれるものしか見えてこなくなります。いずれにせよ、138億光年先が宇宙の果てになります。

太刀川:これ、形が変なのは、観測してる向きってことですか?

縣:その通りですね。観測点を、これは全部、真面目にその場所と距離を測ってプロットしていますので、観測してない点や天の川銀河の面は、ガスや散りがあって観測できないので。(Mitakaで示しながら)この面は、実は、観測できません。それ以外のところも抜けているのは、観測が終了してないからなんですけど。まあ、ほぼこのようにムラになってますよね、よく見ると。分布が一様ではなくて、こう群れてるところと、あんまりものがないところっていうのがあることがわかります。これが、僕らの宇宙の姿です。
 最初のとっかかりになればと思って、宇宙全体の、今(わかっている範囲)の様子をご説明しました。

■ 天文学の謎

縣:あと少しだけ説明して終わりにします。事前にウエイクアップさんから頂いた問い、「今、天文学の残っている謎は何ですか?」ということについてお答えすると、大きく分けて、2つです。

~ 物質と時空の理解 ~

縣:1つ目は、この宇宙空間の物質やこの宇宙空間全体、時空と言いますね、時間と空間、これが、よくまだ分かりません。宇宙がどうやって始まって、どうやって終わるのか。今見た宇宙の細胞である銀河が、どのようにできて、どのように進化したのか。そして、銀河のほとんどの中心には、超巨大質量のブラックホールがあります。我々の細胞の中心にセルの核があるのと同じようなものですけど、これはなんでできたか、どうしてそんなものがあるのか、よく分かりません。不思議でしょうがない。それから、我々のこの周り(世界)を作っている、または身体を作っている元素はどうやってできたか、まだ全てが解明されているわけじゃないんですね。これが1つ目、物質や時間、空間、まだ解けていないことがいっぱいですという話です。

~ 地球外生命の探求 ~

縣:もう1つは、今日のこの後の主題になってくると思うんですけど、我々以外に宇宙に生き物っていないんですか?っていう話ですね。

 今日現在、我々の住んでいる地球以外の星で、火星でも木星の衛星でも、または星々の周りを回っている惑星でもそうなんですけど、生き物はまだ1つも見つかっていません。確実に生き物といえるものは見つかっていません。UFOに乗ってやってくる宇宙人は、今のところ科学的にはありえないし、宇宙人に会ったっていうのも、ほとんど何かの間違いというか、何かを誤解しているだけで、宇宙人には我々は会っていません。

 が、宇宙はこんな広大ですから、地球だけにしか知的生命がいないっていうのは、ちょっと考えたらありえないので…。

太刀川:そうですね、これだけ広いと。

縣:そうなんです。ですから、宇宙の中で生命探しというのが、とても大事になってきます。今、思っているのは、我々、進化していくっていう言い方が正しいのかどうか分かりませんけど、我々人類が今この時代、いろんな経済不況や国家主義、個人主義を乗り越えて、地球環境や人類の最適な生き方、SDGsを実装するだけじゃなくて、我々が地球以外の星に生き物を見つける。そして、その星々の中には知的生命体、いわゆる宇宙人もいて、そことコミュニケーション、交流ができるような時代が来る可能性がありますね、という話です。

 それは、2040年代、50年代にそういうことが起こってもおかしくないところまで来てますよね。だからこそ、その混沌、カオスから本質を見るためは、自分だけを見ていてもなかなか見えないので、よそから自分を見るとか、自分の外の家族、外の会社、外の国、外の惑星から、この地球の星というものを見る。(それによって)グローバリズムとかユニバーサリズム、こういったものが、本当に自分のものになっていく時代が来るんじゃないか、ということを期待しています。

太刀川:壮大ですねえ。

山田:いや、すごい。

小西:138億年前までの旅、すごかったですね。

■ 宇宙の年齢はどうやって計算されたか

太刀川:138億光年先まで宇宙は続いてるってことですか?

縣:宇宙を見れば見るほど、遠くを見ると、昔しか見えていない。理論的に、今の宇宙の想像モデルというのは、もちろんあるんですけどね。観測できる宇宙、宇宙の始まりは138億年前。光(の速さ)で138億年前の姿ということです。

太刀川:なるほど、それはどうやって計算したんですか?

縣:それは、とてもいい質問ですね。実は、僕が太刀川さんと同じ歳のころには、宇宙は200億年の歴史っていう本と、150億年っていうのと、短いものだと80億年と、いろんな説があってバラバラでした。

 ところが、今世紀に入って、宇宙からやってくる宇宙の始まりの時の名残りの電波っていうのを正確に調べることができるようになりました。そうすると、宇宙の晴れ上がりっていうんですけど、宇宙がビッグバンで誕生して、38万年ぐらい経った時に、光が直進できるようになって、満ちていくわけです。その時の光っていうのは、今、電波で、マイクロ波っていう波長で見えるんですね。それの揺らぎというのを見ると、理屈の上で何億年前に宇宙ができたっていうにふうに説明しないと、その揺らぎの形を説明できないんです。これが1つ。

 2つ目は、ハッブル宇宙望遠鏡ってありますでしょ。ハッブル宇宙望遠鏡や国立天文台のすばる望遠鏡をはじめ、巨大な宇宙望遠鏡を使って、遠くの天体をどんどんどんどん調べていったら、138億年ぐらい前に宇宙ができたと考えるとピタっと合うと。これは、ハッブル・ルメートルの法則っていうんですけどね。宇宙が膨張していくスピードから逆算すると、このぐらいだと。そういう2つの理屈です。

 他にもいくつか理屈があって、正確に言うと、それがぴったり合わないんですよ。これ、ハッブルテンションって言われてるんですけど。これは、もしかしたら、今まで僕らが作ってきた宇宙論がどこか間違っているかもしれないということをも示唆してるので。このハッブルテンションって、それぞれの証拠が微妙に合わない。一応、有効数字でギリギリ合うぐらいなんだけど、合わないと気持ち悪いので、どこか我々、ミスってる可能性があるということも指摘されていて。それでちょっとざわついてるんですね。

太刀川:面白い、なるほど。

山田:さっき、(画面が)拍手とハートマークの嵐でしたよね。(視聴者の)皆さん、驚きや何かを表現されてました。

縣:ありがとうございます。

山田・小西:ありがとうございます。

■ 太刀川 英輔 氏 ミニ講演

山田:続けて、ここからは、英輔さんにもミニ講演をお願いします。

太刀川:じゃあ、ちょっとミニ講演します。(縣さんのお話は)138億年の旅でしたけど、138億年から100億年飛んで、38億年前に生命が誕生して、そこからいろんな進化を遂げて、現在の生体系に至るという話なんです。

 僕は、進化学者ではなく、サイエンスコミュニケーターではあるかもしれないけど、まあ、進化好きのデザイナーなんですね。
 ふだんは、NOSIGNERという会社をやっていて、縣さんとのプロジェクトをしたり、CTIのプロジェクトをしたり、いろいろやっています。また、日本インダストリアルデザイン協会や、世界デザイン機構ってことをしてたりもするんですけど。

■ 創造性とは何か

太刀川:ざっくり言うと、僕のライフテーマは、創造性とは何ぞ?というものなんですよ。

 これ、超不思議現象なんです。さっき、38億年前に生物が誕生したっていう話をしたんですけど、どこの地質を見ても、どの時代の地質を見ても、こんなに物を作っていた生物がいた痕跡は、当然、1つもない。現在、この生態系の中には 3000万とか言われる種がいて、その種の中で、道具を、例えばズームとか本とか、本ぐらいプリミティブなものだったら、別に鳥とかだって作っていてもおかしくないようなものなのに、(ヒト以外は)作ってないでしょ。つまり、何かを作る能力というのが、(ヒトの中に)いつしか芽生えている。

 先ほど、ホモサピエンスの歴史は20万年で、その前の原人の歴史が100万年、という話がありましたけど、この創造性というのは、超不可思議な現象なんですよ。要するに、この38億年の中でも相当不可思議で、しかも、それがどんな構造を持っているかわからないから、創造性って、よく才能のせいになるんです。「あいつは俺とは違う」みたいな。

山田:確かにね。

太刀川:「あの人だから、できるんでしょう」とか。

小西:「(あの人だから)クリエィティブだ」とか。

縣:「クリエィティブなのは、一握りの人」ってね。

太刀川:そう。これ(創造性)はもうgiven、与えられたものであって、学習できないっていうふうに思い込んでいるのが、僕は嫌で。

縣:はい、はい。

太刀川:嫌だし、事実じゃないと思うんですよ。なぜなら、それは学習できたと思ってるから。少なからず学習する方法はあった。今、どれぐらい学習できているかはわからないけど、でも、学習できた部分は確実にあるから、これは、僕は教育の問題だと思っている。

 それにしたって、不思議な現象です。例えば、さっきの20万年前、(スライドを指しながら)ここにいろんなサルの仲間の画像がありますけど、これは人間にすごく近いですよね。でも、さっき言ったみたいに、人間だけが、いっぱいものを作っている。20万年前にホモサピエンスになって、そこから僕ら、ほとんどDNA上は変わってないんですよね。

縣:そうですね。変わってないと思いますね。

太刀川:まあ、99.99%一緒と言ってもいいでしょう。ほとんど変わっていないのに、すごく不思議なことがあって。20万年の中で、まともに物を作れるようになったのって、何万年ぐらい前なのかって、考えたことあります? 最初から作れたのかってことなんですけど。
 弓矢を作れるようになったのが、言語を話せるようになったタイミングと近いんじゃないかって研究があるんですが、弓矢が作れる、つまり、複数の道具を合わせてそういうものを作れるようになったのが、大体7万年ぐらい前だと言われています。

小西:7万年…。

太刀川:でも弓矢ぐらいだったら、カラスでも作りそうじゃないですか(笑)。

全員:ははは(笑)。

縣:できるかわかんないけど、できそうな気もする(笑)。

太刀川:なんだけど、(モノを作るのは人間だけで)でも7万年前。つまり、何が言いたいかというと、人類史のうちの2/3は、まともに物が作れていない。ということは、人類史のうちの2/3の時間を生きていた人は、みんな才能がないってことになっちゃうんです。もし、それが才能のせいなんだとしたら。そんなわけないじゃないですか。
 としたら、どうやら、僕らの身体から離れて進化してる能力と考えざるをえないんですよ、この創造性というものは。

 それで、僕は、デザインを極めたいと思っている人なんだけど、創造性という、途方もないものに手を出してしまったぞ、と思っていて。この創造性とは何ぞっていう旅を続けた結果、この560ページの本[4]も出すことになるんです。最初は独学だったんですけど、いろんな先生に助けてもらって、最近、増補改訂版が出たんですけど、東北大で教えている河田先生たちが大変助けてくれたりですね。初版も、養老さんとかいろんな方に評価いただいて。浅学の身なのですが、まあなんとなくやっております。

[4] 太刀川英輔著『進化思考[増補改訂版]―生き残るコンセプトをつくる「変異と選択」』2023年12月。

■ 創造性と生物の進化

太刀川:それで、結論から言うと、この創造性という魔訶不思議な現象に似たことが、自然史というか、生物史において起こったんじゃないか、それは生物の進化だったんじゃないかって思うようになったんですよ。
 それは、結果が似ているからです。いろんな状況に適応した形がたくさん出ている。用途に適した形になっている。しかも、美しくもある。よくできている。そういうものが無数に、何千万種も出ているという現象は、人類が何か作るっていうことの他には、「進化」しか自然界には存在しないんじゃないかって思うようになりました。

 (スライド[5]を表示しながら)これは、生物の系統樹で、僕が作った模型です。(もう1つのスライド[6]を見せながら)こっちは乗り物の系統樹の模型です。やっぱり似てる現象なんですね。それで、今日は縣先生がいるから、ここ、ぜひ補足してくださいね。138億年前に宇宙が誕生して、最初、ビッグバンで水素とかができて、ガスが集まって、それがだんだん化合していく中で、鉄ぐらいまでできるんですよね。

[5] 該当のスライドは、この対話イベントの録画https://youtu.be/gcQZ8Y_JqgM?si=roYigCfOBZ1-aBn8の37分40秒あたりからご覧いただけます。

[6] 該当のスライドは、この対話イベントの録画https://youtu.be/gcQZ8Y_JqgM?si=roYigCfOBZ1-aBn8の37分44秒あたりからご覧いただけます。

縣:星の内部でね。重たい星だと。

太刀川:星の内部で、どんどんどんどん、重力で固まっていって。

縣:はい。

太刀川:それで、いろんな元素ができる。そういう中で、プリミティブな温泉状態みたいな感じになってるんだと思うんですけど。それがまた超新星爆発すると、鉄以上のもっと重たい元素がいっぱい出てきて。

縣:はい、金とか銀とかね。ウランとかね。

太刀川:そういうのが出てきて、それらで僕らの体ができている。要するに、僕らは全員、宇宙の素材でできているっていうことなんです。魔訶不思議なのが、じゃあそうやって、無機的なものをいろいろくっつけたら生物になるのかというと、そんなことはない。

まず、そういう過程の中で分子はできてくるんですけど、さっきの話にも出たDNAという魔訶不思議な分子ができるんですよ、(スライドの系統樹を示しながら)この最初のところで。
 これが、文法を持った、ある種の分子みたいなものなんです。これが 38億年間、この構造が変わっておらんのですが、でも、最初にそうやってプリミティブな生物として出てきて、そこから20億年弱ぐらい経って、20億年前ぐらいに、例えば、ミトコンドリアが出てきたり。要するに、真核生物って言われる、多細胞生物の始まりみたいなものです。

小西:アメーバみたいな感じの。

太刀川:そうそう、そういうのが出てきて。それで、だんだんこうやって(系統樹を示しながら)ぐじゃーっといろいろと種が分化していって。さっき3000万種って言ったような、今のたくさんの命になっていくんです。
 この過程がどうやって起こったのかということと、僕らが頭の中で考えていることが、同じようなプロセスなんじゃないかと言っているのが、まあざっくり言うと、進化思考なんですね。

■ 進化はどう起こるのか

太刀川:進化っていう現象がどう起こるのかについては、論争があって、長い歴史がありました。

 進化ってコンセプト自体は、大体200年強ぐらい前、1800年代の初頭に出てくるんです。ただ、これがキリスト教的には異端なんですね。全ての生物は、神様が完璧な形で設計したものであって、そうでなければいけないから、昔は猿だったとかいうのは、ふざけんなと。しかも、そうやって完璧に設計しているはずなのに変わっていくとは何ごとぞ、と。そういうことで非常に問題視される時代がありました。

 その中で、ある種の秘密結社を作って、秘密結社の中で教え合うみたいなことが始まったのが1800年代初頭です。そういう秘密結社が実際にあったんですけど、そこに、ダーウィンのおじいちゃんのエラズマス・ダーウィンという人物や、ジェームズ・ワットという蒸気機関車を作った人や、いろんな人が、実は、その秘密結社にいたという話が残ってるんです。あんまり知られていない、世の中の裏のストーリーかもしれないんですけどね。

 このダーウィンのおじいちゃんが、かなり天才だったようなんですけど、実はここに、進化という現象が解き明かされる手前で、さっき縣さんがおっしゃっていたような、惑星的、地質的というか、要するに天文学的な考え方が入ってきてるんですよ。
 それまでは、地球がいつできたかということについて、神話で言うと6000年ぐらい前だろう、みたいな考え方だったんですね。何かを測ったわけではないけど、とりあえず物語的に6000年、みたいな。

縣:文化文明っていうのが5000年ぐらいだから、ちょっと前に(地球を)作ったってなると、なんとか辻褄があったんでしょうね、当時はね。6000年前ぐらいにできたって言った方が。6000年って138億年に対してかなり短いですけどね(笑)。

太刀川:かなり短い。超最近ですね(笑)。それに対して、そんなことなさそうだぜって言ったのが、ジェームズ・ハットンっていう、地質学の基礎となる人です。このハットンって人が、「いや、これ何億年か経ってますよ」って言ったんですよ。これが1700年代の最後半で、その時に本を書いてたんですけど、それはあんまり売れず、後でそれが再発見されて、すごいこと言ってたんじゃない、この人って感じで広がったのが、ちょうど1800年代の初頭なんですね。

 この頃に、さっきの秘密結社の話とか、進化という概念とかが、にわかに出てくるんです。だから、この頃に人類の意識が1個変わってるんですよね。つまり、この世界はナラティブな人類だけの何千年かの世界ではなく、どうやら何億年も続いている。

小西:桁が違うぞ、と。

太刀川:そう、桁が違う。

縣:地層からですよね。地層をいろいろ調べていったら、昔の化石がどんどん出てくるわけだけど、地層って時間をかけて、大体どれぐらいで、どういう状態になるかっていう計算ができるから。その何千年っていうのじゃ済まなくなっちゃうわけですよね。

太刀川:そうなんです。何千年じゃすまない。ここでまた一人の天才が現れるんですよね。それがさっきのエラズマスの孫、チャールズ・ダーウィンなんです。この人は、何億年も続いているということは、それだけ長い時間が経っている、と。そして、その頃、進化はタブーなんだけど、生物の品種改良というのは、よくやられてたんです。犬を改良したりとかしてたわけですね。それで、この品種改良と同じようなことが、長い時間の間に勝手に起こったんじゃないかと考えるようになったんです、彼は。

 それで、それを世の中に出すと、絶対に叩かれたり怒られたりするから、ひっそりとずっと書き続けていたんです。書き続けて、20年ぐらい経ったころに、彼のところに手紙を送ってくる人がいた。若い研究者で、アルフレッド・ウォレスという人なんですけど、この人が、「こんなことを考えついちゃって、あなたが似たようなことを考えてるらしいって聞きました。だから、ちょっと論文を読んでくれませんか」って。

 それで論文を読むと、これがダーウィンの考えとそっくりなもので、このままウォレスに出されちゃうぐらいだったら、ずっと書いてたから一緒に出しますかって言って、「自然選択説」という考え方の進化論を、ある種、トコロテンみたいに後ろから突かれて押し出されるような形で出したんですよ。それが、1850年代の後半なんです。そして、その後、『種の起源』という本を書きます。“The Origin of Species”ですね。

 ちなみにこれ、今回、CTI JAPANのウェブサイトを作った時に、僕はタグラインで“The Origin of Coaching”という言葉を皆さんと一緒に作ったんです。実際に歴史的に見ても、それをちゃんと言えるグループだと思うし、今までなんで言ってこなかったんだ、ということで、それを言おうって。それを言って、もし怒られたら僕のせいにしてくれ、と(笑)。

小西:そういうふうに、背中を押してくださったんですよね。

太刀川:もうOriginって言って大丈夫でしょう、これはってね。そういうふうになってんだから、歴史も、って話だったんですけど。まあ、それに影響を与えたのが、この“The Origin of Species”ていう言葉だったんです。

縣:途中ですが、ちょっといいですか。僕ね、今のこのビジュアル(太刀川氏作成の進化の模型写真のスライド)[7]があまりにも素敵なので、ひと言、言いたいんですけど…。

[7] 実際のビジュアルは、この対話イベントの録画https://youtu.be/gcQZ8Y_JqgM?si=roYigCfOBZ1-aBn8の46分52秒あたりからご覧いただけます。

太刀川:ありがとうございます。どうぞ、どうぞ!

縣:これって、さっきの進化の過程を、僕らは横に見たり、縦に見ちゃうけど、進化の道筋の目線で(後ろから)見てるんですよね。

太刀川:そうです、(スライドを指しながら)ここにヒトがいます。それで、これ(糸で)繋がってるんですよね。

縣:これが繋がっているってことは、これは、実際に物を作って並べたっていうことですか?

太刀川:そうです。これは、実は、全部フィギュアなんです。フィギュアを黒く塗装していて。もう途方もない数の、しかも、大体、全ての生物種のメインカテゴリーに相当するものは、全部、フィギュアを集めたので。ミドリムシとかまで。ガチャガチャのおもちゃになってたりするんですね、ちゃんと(笑)。

縣:すごいねえ。

太刀川:ネットオークションで、すごい買って、集めましたね(笑)。そういうアホなというか、そういうことをやりましたね(笑)。

縣:でも、ダーウィンもそうだけど、まずは物を集めるっていうところからですよね。

太刀川:そうなんです。その話も、後でしてもいいかもしれませんね。ダーウィンに影響を与えたのは分類学であり、分類学はリンネという人が始めるわけなんですけど。

■ ダーウィンは何を言ったか

太刀川:ダーウィンが何を言ったかということを、なるべく簡単に説明すると、これです(と言いながら、太刀川氏提唱の「適応進化のループ」[8]についてのスライドを表示)。
 「変異と選択」と書いてあります。この選択っていうのは、自然選択と読み替えてください。左の変異っていうのは、これは偶然、兄弟で顔が違ったり、交配させると偶然、違うものが出てくることあるよねっていうことです。つまり、変化が生まれる。そして、これは偶然である。偶然によって多様性が生まれる。この多様性が大事だし、偶然が大事なんです。

[8] 「適応進化のループ」のスライドは、この対話イベントの録画https://youtu.be/gcQZ8Y_JqgM?si=roYigCfOBZ1-aBn8の48分13秒あたりからご覧いただけます。

 なぜかというと、後で説明しますけど、(スライド上の)この適応というのが、ある種、僕らが考える進化っていう状態なんです。正確に、進化学の言葉で言うと、適応進化と言います。適応じゃない進化もあるからです。適応とはどういう現象かっていうと、獲得した「形質」、その形が、その状況によくフィットしていることを指します。つまり、よくできているってことです。

 その状況に対して、よくできている、うまくデザインされていると言ってもいいでしょう、僕の言葉で言えば。デザインって言葉は、基本的に進化学者は嫌いなんで、悲しいんですけど(笑)。やっぱり進化論VSデザイン論、インテリジェントデザイン論っていう考え方があって。神様が全てデザインしたっていう考え方VS進化論なんですよ。だから、デザインっていうと、ついそっちのことが頭をよぎるんですよね。僕は、デザインって必ずしも…。まあいいや、(話したいことはあるけど)いったん、これはこれで。そのデザインの話の手前で、ちゃんとダーウィンが何を解き明かしたのかって話をします。

 とにかく変異で、偶然、いろんな多様なものが生まれるんですけど、遺伝って現象があるじゃないですか、次の世代が似てるってやつです。

小西:伝わっていくっていう。

太刀川:そう、伝わっていく。それでいくと、どんなものが繁殖に有利かっていうのは、その状況次第で違いますよね。背が高い方が有利な場合も、全然動かないものが有利な場合も、めっちゃ派手なことが有利な場合もあるでしょう。その状況で有利なものが生き残りやすいって傾向があるじゃないですか。

 それで、その傾向が、1世代だったらまあ偶然で、ほとんど変わらずに次の世代になる。でも、100世代も200世代も、あるいは何万世代も続いたり、あるいは何万個体とか、ものすごい数の個体の中で、それが常に有利であるってことが続いた場合、結構、早い段階で、(例えば)平均身長が上がったりしません?
 つまり、その形質が、その群れの標準、平均になっちゃうってことが起こる。これがずっと続くと、しかも、体中のそこかしこで続いてるから。そうすると、何か問題があるものはふるわれちゃう。すぐ死んでしまうものは、ふるいにかけられてしまう。逆に生殖や繁殖に有利な形質の場合は、それが顕在化しやすい。そういうことがずっと起こると、だんだん状況にフィットしていく。フィットした形質が残りやすいから。

 ただ、ここでいくつか大事なことがあるんです。こういうプロセスでできていくものだから、すごく長い時間をかけてふるいにかけられたので、自然のものは、すごくよくできているように見えるんですけど。さっき、完璧な進化だけではないって言いましたけど、実は、中途半端なディテールとか、どっちつかずな、有利でも不利でもない形質ってのも、そのまま残っていっちゃうんですよ。だから、そうすると完璧なデザインにはならない仕組みになっているってことです。

 あと、この自然選択っていう、選択圧なんて言いますけど、これについても、進化学者はそこに必然性があるということを嫌うんです。でも、首が長い方が有利だというのは、必然的にしょうがない状況ってあるじゃないですか。これ(表示している「適応進化のループ」のスライド)は、それを分かりやすくしたものなんです。責任は僕、ないしは、ご監修いただいたのは河田先生なんですけど(笑)、でもこの図の責任は僕にあると思ってください。でもこれ、けっこう重要だと僕が思っているんですが、左は偶然でしょう。それで右は必然。

小西:その状況からの必然っていうことですね。

太刀川:そうです。状況からの必然性と、何かこう、内発的に始まるものは偶然。ということは、これ、偶然にも必然にも意識がないんです。つまり、誰かの意思が反映されなくても進化するんですよ。

小西:うん、うん。

太刀川:それが、ダーウィンが言った、すごいことだったんです。たとえ全て完璧に神様がデザインしていなかったとしても、デザインが良くなっていってしまう仕組みがあるよ、とダーウィンは言ったんです。

 そして、この構造はめっちゃ批判されます。だけど、160年間、めっちゃ批判された後に出てきたものは、批判のために出てきたものまで含めて、結局、この遺伝の仕組みの解読、説明だったわけです。
 このダーウィンの構造のいろんな部分を説明するもの、例えば、メンデルの遺伝とかも、最初はダーウィンの批判として始まったという要素があったんです。また、その変異っていう現象がよくわからんね、っていわれても、DNA が解き明かされていって、変異の原因はDNAのコピーエラーですっていうような説明がつくようになる。いろんなことで、ダーウィンの言ったことの説明がついていっちゃって。生命科学のあらゆる分野の基盤になったのが、今の進化学、進化論ってことですね。

■ 進化思考とは

太刀川:それで、進化思考とは何かっていうと、これと同じことを頭の中でやっていませんか、と考えるということです。(表示しているスライド[9]を示しながら)左は偶然性、右は必然性なんですけど、この偶然と必然のループをどれぐらい回せるかが大事だとする。
 そうだとすると、クリエイティブであるために、どれぐらい「偶然」に自分を開けるかということと、どれぐらい自分の自我とか思い込みを外して、必然的にそのセレクションプレッシャーから選べるかということの往復だ、って考える。そうすると、これ、同時にやるのは難しいんですよね。

[9]該当のスライドは、この対話イベントの録画https://youtu.be/gcQZ8Y_JqgM?si=roYigCfOBZ1-aBn8の54分15秒あたりからご覧いただけます。

山田:難しいですね。

太刀川:ボケながらツッコむ。

山田:バカなんだけど、ちゃんと見てる、観察できるっていう。

太刀川:だから2人で分けてもいいんですよ。ボケとツッコミに分けてもいいし。

小西:漫才師が2人いるのは…。

太刀川:やっぱりあれ、必然なんですよ。

小西:1人じゃ無理なんですね。

太刀川:っていうようなことを、(進化思考は)言ってるんです、大きくは。

 すごくざっくり言うと、変異にはパターンがあり、そのパターンは意外と少ない。そして、さっき7万年前に言語というものを人類は得たという話をしたんですけど、これがDNAの構造にそっくりだから、共通するパターンが出ちゃいますよね、っていうことです。

 何かを言い忘れたり、言い過ぎたり、うっかり別のときに言ったり、入れ替わったり、逆の意味で伝わったり、何か足されちゃったりするパターン、つまり、言い間違いのパターンみたいなものというか(スライドをめくりながら、「変異の9マス」のスライド[10]を表示)。
 そういうものが、実は、あらゆる創造性の根源にあるんじゃないかっていう仮説を、僕は持っています。そう考えると、少なくともバカみたいなアイデアをたくさん作ることには、めちゃ使えるんですよ。変異で多様なアイデアを作ることには、使える。

[10] 「変異の9マス」のスライドは、この対話イベントの録画https://youtu.be/gcQZ8Y_JqgM?si=roYigCfOBZ1-aBn8の55分42秒あたりからご覧いただけます。

 一方で、こっちが僕は大事だと思っているんですけど、さっきのデザインがうまくなっていくプロセスの中で、絶対に、これとこれとこれがめっちゃ大事だったっていうのが、僕の中であって。そこから自然科学に僕は興味を持っていくんですけど。実は、自然科学の中に、そういう観察手法というか、そういう観点、何かものをより良くしようとしたときに、絶対に欠かせない観点っていうのが、すごく詰まってるんですよ。

 不条理だなってよく思ってたのは、イノベーションブームが起こると、そういう観点が毎年のように、もう雨後の筍のように、なんとか分析だ、PEST分析だとかなんとか、いろいろ出てくるんだけど、そんなに違うこと言ってなくないか?ということ。進化思考だってそういうふうに見られるとあれなんだけど(笑)。

小西:なるほど。

太刀川:しかも、なんならそれは全部、自然科学の中に、それらの観察手法を何百年とか何千年とか前から、それぞれちゃんと提唱していた人がいる。例えば、行動経済学だったら、動物行動学に影響を受けていて、動物行動学は、当然、生態学の一分野であるとか。あるいは、リバースエンジニアリングは、解剖っぽい観察であるし、デカルトっぽいとも言えるかもしれないけど、でも、それが解剖学だったとしたら、5000年前からイムホテップが古代エジプトで始めているような観察とそんな変わらない。だとすると、新しい言葉を作るんじゃなくて…。

 ちなみに、これらの4つ(「時空間観察(ST分析)」のスライド[11]に表示されている「予測」「解剖」「歴史」「生態」)は、適応を観察する時に必要な観点を集めてみたものです。
 これは、ニコ・ティンバーゲンっていう動物行動学者が「4つのなぜ」を整理しているのを、3つに統合した上で、予測という、未来を扱う観点を入れてるんです。今の生物種の適応を見るだけだったら、未来を考える必要はない。今までだけで良いんですけど、(ここには)予測を入れてるんですよ。まあとにかく、これはそういう観点で整理してみた、と。

[11] 該当のスライドは、この対話イベントの録画https://youtu.be/gcQZ8Y_JqgM?si=roYigCfOBZ1-aBn8の57分58秒あたりからご覧いただけます。

 それで、究極的には、(「時空間観察(ST分析)」のもう1つのスライド[12]を表示させながら)実は、何かを観察する時に、(その対象に)自分を入れてみてもいいし、何か物を入れてもいいんだけど、中を見るか、外を見るか、昔を見るか、未来を見るか、しかない。

[12] 該当のスライドは、この対話イベントの録画https://youtu.be/gcQZ8Y_JqgM?si=roYigCfOBZ1-aBn8の58分39秒あたりからご覧いただけます。

 (「時空間観察(ST分析)」の最初のスライドに戻って)しかも、その方法はそれぞれ学問としてちゃんと体系になっている。
 解剖学だったら中を見る。解剖学の形を見るのは形態学で、機能を見るのは生理学で、作り方・作られ方を見るのは発生学です。自然史だったら、まず分類学。さっきリンネの話があったけど、それをやり切ろうと頑張ったビュフォンみたいな人が、比較解剖学を作った。それで、微差だけど違うかもしれない、みたいなことを言うようになったり、この微差を比べるのがすごい大事だってことがわかったり。それによって系統学、つまり進化系統図にするという考え方がダーウィン以降生まれてくる。

 生態学はかなり複雑で、行動学とか実験とか地理学とか、システム思考とかも、ここに入ります。システム・ダイナミクスもすごく大事なもので、それこそ生態学でも使われているし。昨年か一昨年、真鍋先生が、温室効果ガスの量が増えると血を流しますよっていう予測をかなり昔からしたということでノーベル賞を取られましたけど、あれはまさに、システム・ダイナミクスの話で、今のシステム思考に影響を与える思想ですね。だからこっち(表示しているスライドの右側=生態学)はそういう外側、システムを扱う。こっち(表示しているスライドの左側=解剖)は、内面を扱うものかもしれない。

 あと、(スライドの「予測」を指しながら)、データが揃うと、確実なことは言えないにしろ、フォアキャストができるようになる。でも、人類はやっぱり、デッドリスト、SDGsとかもそうだけど、何かこうゴールにピンを立てて、そこに行くためにバックキャストして考えなきゃいけないとも思う。
 だから、フォアキャストとバックキャストに、ここ(予測)を分けてるんです。そういうふうに考えると、観察する手法って実はそんなにないんじゃないか。というのを入れてみたのがこのスライドです。

 それで、どう繋がるかな。ポイントは、多分、系譜の話というか、138億年 から38億年、そしてここまでっていうのを読み解くのは、ここの下の部分(スライド上の「歴史」の部分)なんです。これらの観点って、それぞれ全部、正しいっちゃ正しいんですよね、ある種。

 例えば(「模造紙の折り方:時空間マップ」のスライド[13]を表示しながら)、これはざっくり書いたものですけど、中の構造とか仕組みに対して目線が行く人もいるし、状況の繋がりに対して目線が行く人もいる。だから、エンジニアは左(中の構造と仕組み)だし、マーケッターは右(状況とのつながり)だし。それで意見が割れることはあるんですけど、両方正しいっていう観点に立たないと、両方とも選択圧としてはかかっていたりするから。でも、その両者を繋ぐのは、僕はこのルーツの部分(スライド上の「歴史」)だと思ってるんですね。

[13] 該当のスライドは、この対話イベントの録画https://youtu.be/gcQZ8Y_JqgM?si=roYigCfOBZ1-aBn8の1時間1分25秒あたりからご覧いただけます。

 これね、科学の発展の順番と結構近いんですよね。解剖学が最初に発展しやすくて。中の仕組みが分かると、昔のものとかも解剖し始めたりして、種類とかが分かってくる。その結果、現在に至る状況の繋がり、これはかなり複雑だから、生態学自体も生まれてくるのは遅いんですよね。それで、最終的に未来の話になるんですけど、「内部(解剖)」と「外部(生態)」でそのまま行くとぶつかるけど、1回ルーツ「過去(歴史)」を挟むと、なんかこうグイっと、未来のことが見えやすくなるっていうふうに、僕は肌感で思っているところがありますね。

■ 宇宙と進化思考

縣:これ面白いんで、ちょっとだけ口を挟んでもいいですか。改訂版の『進化思考』も読ませていただきまして、ありがとうございます。それで、とっても面白いから、質問したいことやもっと深く聴きたいことがいっぱいあるんだけど。まず、さっき、僕が話した宇宙のことを当てはめて考えてみるとね…。

太刀川:良いですねえ。

縣:要は、アリストテレスとか、コペルニクス以前っていうのは、太陽系が宇宙だったわけですよね。太陽系の外側は、ただ星が天球上に貼り付けられているだけの世界。住んでいるのは、この太陽系の中の地球で、太陽が中心か、地球が中心かみたいな話でしょ。

 そうすると、太陽系が「内部」なわけですよね、当時は。それをいろいろ分析して、この「過去」っていうところの分類をして、変だなあとか、かつて古代ギリシャではこういう考えをした人もいたよね、みたいなことがあって。それで、結局、「外部」が見えてくるわけですよね。それは、いわゆる星、恒星の世界。今でいう、天の川銀河内の話が見えるわけですよ。そうすると、天の川銀河内で閉じれば(そこで)終わるんだけど、実はそうならなくて、今度は、天の川銀河の外は何よっていう「未来」になるわけで、そこを探求する。これ、100年前ですよ。

 だから、400年前に天動説、地動説って、コペルニクス転換で天と地がひっくり返って。それで100年前にエドウィン・ハッブルたちがいて、銀河が宇宙の細胞であるっていうことがわかって。天の川銀河全体が宇宙(の全て)じゃないってことが分かるでしょ。結局、この 100年前にも、この図と同じことが起こっていて。まず星をいろいろ見ているわけですよ。当時の宇宙、今で言う天の川銀河の「中」を。そうすると、どうも変だよねっていう話、「過去」があって。「外部」があるんじゃないかって考えたら、外部にアンドロメダ銀河があるとか。これ外にあるじゃないか、この銀河はっていう。

 当時、星雲、渦巻き星雲とか呼ばれたけど、星雲じゃないよ、これは、と。星雲っていうのはガスだからね。これは、遠くの星の集団なんだよっていうのから、今の宇宙全体(になっていく)。だけど、今、宇宙全体っていうのは、さっきも話したけど、実は、その宇宙全体の外側に何があるのっていうのが、マルチバースだっていう(「未来」)。これやっぱり、こう(この図のように)繋がっていくなって思うのね。

 その時に、今日、僕、ぜひ相談したかったことは、人類っていうのはもちろん生き物、ホモサピエンスとしては、DNAは変わらないから、生物進化ではないけど、クリエーションだとか、ここで太刀川さんが言っている思考っていうのは、多分、変わっていく。だって、7万年前までは、物を作る人はほとんどいなかった。いたとしても、多分、それが継承されなかったんだけど、7万年前以降は弓矢を作って、火を起こして、なんだかんだって、どんどんクリエーションする場面が増えたってことでしょ。クリエーションする人が増えた。イノベーション、クリエーションっていうことが、すごい密度が上がってくってことでしょ、時間的にね。

 だから、そういう意味での進化、それを何と呼ぶかはわからないけれど、それが起こっていくと、その時に、地球の「内部」、(図でいう)左側に当たる地球っていうものだけを、今は一所懸命見ているわけだよね。そこに紛争が起こるわけね。いろんな迷いごととか、自然破壊とかが起こるわけ。それで、いろいろ分類して、「歴史」を見て、考えて、僕らがいる。僕は基本的には「外部」、地球以外の外部の生き物の視点でも良いんだけど、そうすると「未来」がもうちょっとはっきり見えてくるんじゃないかっていうことを思ってるんですけどね。

■ 天文と意識の進化

太刀川:天文と意識の進化って、僕の中ではホール・アース・カタログです。あれは60年代後半から70年代ですかね、その辺ですよね。宇宙に行って、地球の写真を撮ってきたけど、それを見たことがある人がまだほとんど誰もいないっていうことに疑問を持って、NASAに掛け合って、表紙にバーンと使って。

小西:丸い地球をね。

太刀川:それで、実は、俺はこんなところに住んでるんだぞっていうことを、外から、有限なものとして見せた。

縣:そうですね。

太刀川:ですよね。それでこう意識が…。ヒッピームーブメントとかね。ちなみに言うと、それが、例えば、ヒューマン・ポテンシャル・ムーブメントとか、CTIにも繋がるようなものにもかなり影響を与えていくはずなんですけど。

小西:『成長の限界』とかもその辺ですよね。

太刀川:そうそう。『成長の限界』もそうだし、あと『宇宙船地球号操作マニュアル』っていうバックミンスター・フラーが書いてるんですけど、それとかも、そういう影響を受けて出てきているものです。時代的にも、意識が変わるときに、時間の距離とか、空間の距離とかが、遠くから眺められるようになりましたっていうのが、すごく大きかった。

縣:そうそうそう。

太刀川:銀河の外っていうのはね、まだ遥かに遠いんだけど(笑)。でもそうなると、なんかまた意識が変わったりすることがあるのかもしれないですよね。

縣:そう、(銀河の外について)人の意識が変わるところまでは、まだ身についていない感じがするのね。だって400年前の地動説、天動説で天と地がひっくり返るっていうのも、そんなにすぐに人間の意識には(反映されていない)。今の時代だから、それが大きいでしょ。それから160年前の『種の起源』だってそうだよね。

太刀川:そうですね。

縣:そういう、サイエンスの解き明かす新たな知見っていうのが、我々の生き方とか思考のレベルですごく影響を与えるのには、ある程度、時間がかかるだろうと思っているわけ。

 でも、100年前に宇宙というのは有限であるってことが分かった、時間的にね。だって、宇宙はどんどん膨張してるんだから、戻していくと小っちゃくなっちゃうわけだから。宇宙が、その小っちゃなものからビッグバンを経て、今も膨張しているってことは、宇宙には始まりがあり、終わりがある。だから、宇宙には空間だけじゃなくて、時間的にも限りがある。これを意識するかしないかは、すごく大きいよね。つまり自分って命は、1人1人の命は限りがある。

 生まれて、どこかで肉親のおじいちゃん、おばあちゃんとか親戚の方の死に直面すると、それは分かることだし、ある程度の歳になると、自分でも意識するからね。だけど、そうじゃなくて、種そのものも限りがあって、地球っていう星そのものも限りがある。この宇宙そのものも限りがあるんだ、っていう。時間軸上で始まりと終わりがあるっていうことを意識する。それを認識して生きる生き物に、今はなっている。それがあるかないかで違うと思う。

太刀川:これに出会ったことって、けっこう最近だっていうのが面白いなと思います。つまり、種の起源があることがわかったり、種同士にそういう繋がりがあったり、種分化みたいなのがあるっていうことが、ちゃんと語られるようになったのは160年前。そういう天文学的な時間、まさに地球の時間に触れるようになったのが200年前。これらって人類史、ホモサピエンス史からすると、0.1%ぐらいの時間しか経ってないんですよね。

小西:20万年という中で見るとね。

太刀川:そういう中で、さっきの、銀河があるとか、その先があって138億年あるらしいとか、他に地球の惑星外に種がいる可能性は非常に高いとか。でも、そこで種がいたとしても、同じDNAの構造を持っているとは限らない。完全に生殖隔離されているし、完全に繋がっていないから。ものすごく原始的な収斂進化で同じDNAみたいなことっていうのは、可能性がなくはないかもしれないけど、わかんないですよね。全くないとは言えないが、でも、ほぼないのかもしれない。

縣 : ない方が自然でしょうね。生き物が、元々、宇宙のどこかの星で立ち生まれて、まあ、それはもちろん神様が作ったということでも構わないんだけど、それが、どんどんどんどん分配されていって、そのうち40億年前、38億年ぐらい前に地球にやってきたと。地球って46億年前に今の形のボール全体ができたってことが分かってるんで。その後、その頃になんか落とされるのか運ばれるのか。そこから進んでいくなら、うんと遠くにいる、例えば4光先にあるアルファケンタウリ星に、生物がいるかいないか分かりませんけど、仮にいたとしたら、我々とよく似ていたりしても全然おかしくないんだけど。

 でも、地球において、さっきの変異、自然界の化学変化の中の何かの変異があって、突然、生き物が生まれたとしたら、それは火星にいる生き物とも全然違う。火星ではまだ見つかっていないけど、全く違うかもしれないっていう話になるだろうし。まあ火星ぐらいは、もしかしたら行き来があるかもしれないけど。少なくとも、遠くの銀河や遠くの星々の周りを回ってる惑星にいる生き物とは、全く違うでしょうね。全く違うと思う方が自然、主流だと思いますけどね。

■ 変異的な発想の源

山田:ちょっと質問していいですか。

太刀川:はい、どうぞ。

山田:ずっと聴いていて、もう説明されていることかもしれないんですけど。さっきのダーウィンとか、コペルニクス的な展開とか、時代時代で、非常に革命的なアイデアが出るじゃないですか。

太刀川:出ますね。

山田:ダーウィンが、品種改良(と似たこと)って、実は、自然がやってたんじゃないのか?みたいなことを(思いついたりすることが)、ふっと来るじゃないですか。これってある種、馬鹿げてることですよね、その時代的な文脈からすると。そうすると、それって変異の一種なのか分からないんですけど、人間の頭の中に、そういう変異的な、ちょっと馬鹿げたような発想が生まれてくるっていうのは、何が作用してるんですか?

太刀川:僕は、それが言語だと思っているんです。(言葉は)誤解するし、つまりDNAと同じように変異して遺伝してしまうし、言い間違えるし。しかも、アリストテレスとかの古代ギリシャ時代には、意図的にそれを使う練習をしてたんじゃないかとすら、僕は思ってるんですね。

山田:間違う練習をしてたってことですか?

太刀川:そうです。これは、なんでそう思うかと言うと、セブン・リベラル・アーツっていう考え方があります。いわゆるリベラルアーツの基本なんですけど、基本的に3学4科って言われるんです。よく文系、理系に分ける人がいるんですけど、僕はあんまりその分け方に賛成していなくて。

 3学というのは、この3つ、(「進化思考によるリベラルアーツの再構築」のスライド[14]を表示しながら)文法学、修辞学、論理学なんですね。4科は、それこそ天文とか、そういうのが入るわけなんですけど。4科が4科である必要があったかっていうと、これは他のこともあったかもしれなくって。100科だったかもしれない。でも、3学はちゃんと3学って、分けられているんですよ。それが論理学、修辞学、文法学。

[14] 「進化思考によるリベラルアーツの再構築」のスライドは、この対話イベントの録画https://youtu.be/gcQZ8Y_JqgM?si=roYigCfOBZ1-aBn8 の1時間15分5秒あたりからご覧いただけます。

 修辞学は何かというと、プレゼンです。プレゼンさせる。禅問答みたいな。プレゼンして納得、みたいな。これは結構、創造的な現象だなと僕は思っています。ちゃんと相手を納得させないといけない。論理学は、なんか分かるじゃないですか。必然性を観察する何かかと思うと、さっきの(適応進化のループ図)の右側にありそうな。

 問題は、文法学、これは言語学でもなければ語学でもないんですよ。ちゃんと文法学っていう学問として残ってるんですね。これ、普通に考えたら語学じゃないですか。でも、英語喋れないと困るから英語勉強しようみたいな話ではなく、文法学って書いてある。

 2000年前のことわかんないんで、僕の中で、これはもう完全に妄想なんですけど、文法ってまさに、さっきの言い間違いとかって、そういう話だと思うんですね。つまり、「教科書漫画」みたいな言葉って、足し算的文法でしょう。それを、例えば「ガンマ」って言うと、別のものになるでしょ。そんなふうに使っていくことで、「教科書ガンマ」は、じゃあなんだ?みたいな。そういうふうにやっていって、アイデアの多様性を偶然性から引っ張ってくる練習だったんじゃないかっていう、妄想です(笑)。

山田:なるほど。素晴らしい妄想ですね!なるほどね。

太刀川:でも、その可能性もあるなって思っていて。だって、そうじゃなければ文法学って言わなくていいでしょう。

縣:めちゃ面白いね。山田さんの問いにちょっと、僕の視点からもコメントしたいんですけど。

 コペルニクスが、当時言われたように地球の周りを太陽が回ってるんじゃなくて、太陽の周りを地球が回ってるって考えた方が、都合がいいよって考えますよね。それから、ダーウィンが、今日、太刀川さんからも話があったように、いろいろと実際に物を集めて分析して、フィンチっていう鳥の違いとかをいろいろ調べる。つまり、観察や実験をする。そして物を集めて分類するような科学的なアプローチの結果として、『種の起源』を書く。でも、それは彼一人じゃなくて、おじいちゃんの代からのいろんな積み重ねがあったって話がありましたでしょ。あとは、同じ100年前にアインシュタインは相対性理論っていうのを出すんですよ。

 こういう天才のやってる仕事を見ると、それは何か突発的に、その人があまりにも賢いから(できること)なんだと、我々、思いがちですよ。実際はそうではなくて、そこに至る必然があるし、そこに至る前のいろんな積み重ねがある。でもね、結局、最後のそのトキメキというか、閃きというか、そのアイデアがポンと出るかどうかなんですよ。そこがポイントなので、そういうチャンスはあるはずなんで…。

 つまり、それぞれの学術だとか開発をしているチームとか、いろんなところで、それが本当に見えるか見えないかのチャンスがくるかどうかっていうのを知りたいわけ。その部分こそが見えない。それは、太刀川さんの今の考察によると、訓練した人が持っている技能であったっていうことなのかな?

太刀川:さっきのループ図に戻りたいのですが、その前に。(スライド[15]を表示しながら)さっきチラッと映していたこの鳥がフィンチですね。

[15] 該当のスライドは、この対話イベントの録画https://youtu.be/gcQZ8Y_JqgM?si=roYigCfOBZ1-aBn8 の1時間19分18秒あたりからご覧いただけます。

縣:これね、島によって(くちばしの形状が)違うんですよね、ガラパゴスのね。

山田:これを観察したわけね。

縣:ビーグル号っていうのに乗って、旅をするわけですね。

■ 偶然性をどう扱うか

太刀川:さっきの話に戻ると、(「適応進化のループ」の図[16]を表示しながら)、この図で大事なことは、発想というのは確かにひらめきというか。最終的に、本当にめちゃめちゃ適応したものが残って、それが何千年の科学の知に影響を与えるぐらいのものになることもあるわけです。ならないことも多いし。でも、それが進化と同じ現象なら、この偶然性をどう扱うかっていうことが、かなり影響してる。

[16] 「適応進化のループ」のスライドは、この対話イベントの録画https://youtu.be/gcQZ8Y_JqgM?si=roYigCfOBZ1-aBn8 の1時間19分31秒あたりからご覧いただけます。

 実際に発想をしたとき、何かいいアイデアを思いついたときって、自分でも驚くじゃないですか。それがもし意識していて、意図通りに起こってる現象だったら、とても変なことです。だって自分で驚く必要ないでしょ、自分の頭の中でわかっているなら。つまり、自分の頭の中で起こっている偶然があるんだって考える方がいいでしょう。

 実際に、ノーベル賞を取ったいろんな人たちの文献とかを読んでいくと、いや、偶然、シャーレがカビたからペニシリン発見しました、とか、偶然、助手がミリグラムとグラムを間違えて1000倍の触媒を入れちゃったら、ポリアセチレン合成完了、とか。それでノーベル賞受賞、みたいな(笑)。

縣:この本(太刀川氏の著書『進化思考』)にも書いてあったけど、ノーベル賞を取ったような、そういう大発見が、偶然の場合がかなりある。

太刀川:かなりあるけど、同時に、その偶然に巡り合った人というのは、例えば、シャーレを培養していてカビちゃって、そのカビの周りに菌がいないことがわかるわけですよね。細菌が発生していないことが分かって、それで、これは抗菌薬になるんじゃないかって、ペニシリン発見につながるわけです。でも、それは周りの菌がどういう形であるかっていうことに興味を持っていない人にとっては、それは、ただの腐ったシャーレなんです。

山田:確かに。

小西:もう、ゴミ箱直行、みたいな。

太刀川:そう、ゴミ箱直行なはずなのに、実は、ゴミ箱直行するはずの、1000倍触媒入れちゃったやつに、なんかペロンとしたのついてるけど、これって、もしかして出来てるんじゃないの?みたいなのが、ポリアセチレンだったわけです。

 その偶然に必然を見出せるかどうかは、その人がどれぐらいその出来事について観察してきたかっていうことがあるんですよ。だから、「1%の閃きと99%の努力」の、1%の閃きという部分は、いかにその1%の閃きを1万個作れるかという、偶然の扱い方にかかってるかもしれない。

 一方で、でも、選択圧側が弱ければ大したアイデアが生まれてこないっていうことでもある。だから、もう針の穴を通すような話なんだけど、その針の穴をできる限り的確に、かなり固く小さく作り込んでいくっていう。観察の行き届かせ方とか、気の使い方っていうのかな、そういうことが、実はその大発見を産んでいる。その大発見があった時に、大発見だと、少なくとも気づく力を生んでいる。

小西:これは何だ?って思う好奇心だったり、今日のテーマの想像力、イマジネーションか もしれないし。

■ 未知なるものに触れた時の衝撃

山田:それで言うと、さっきの4つの要素の、内側、外側、過去、未来があるじゃないですか。その中で、縣さんの話もそうですが、要するに、地球の外からの何かを受け取った時に、何かがそこで生まれてくる。さっき、歴史がキーポイントじゃないかって話はあったんですけど。

 この外から来る何かとか、自分たちが見てもいない外側の世界で繰り広げられている、何か未知なるもの、それに触れてしまった時の衝撃みたいなものがフィードバックされるっていう要素が、その時に人類に何かを起こすっていうような印象があります。日本で言うと、幕末に外国が来ることで自分たちは日本人だったっていうことに気づくとか、地球人だったって気づくとかね。そういうことって、どう思われますか?

太刀川:進化に繋いで話してしまうと、天文にも繋がってくるんですけど、例えば、進化が爆発するっていう瞬間、例えば、カンブリア爆発とかあるじゃないですか。あるいは、それまでの中世代から新世代にかけての6600万年前に、ベン!と、でかい隕石が落ちて、テラノサウルスとかトリケラトプスが仲良く絶滅するとか。その後で、哺乳類が出てきて、我々も出てくるわけですけど。

 要するに、これ、トランジションですよね。外からの不可抗力として、そういうふうに惑星単位とか、天文的な単位で起こることって、いっぱい進化の中でもあって。でも、その都度、全滅しないで新しい可能性がいっぱい出てくる。なんかこれ、人間の成長も痛みがあってトランジションするっていうことと、似てるんですよね。

 イノベーション用語だとロックインって言うんですけど、これでいいじゃんってなると、何十年も進化しないっていうことがあります。でも、これじゃなくてもいいじゃないか、あるいは、これ作れないじゃないかとなると、トランジションが起こる。例えば、ガソリン車はもうあんまり作っちゃいけない感じがするという状況になると、EV車が出てくる、みたいなトランジションですよね。それまでも基本的な技術はあったわけだけど…。

山田:(著書にも)書かれていましたね。

太刀川:なんか、そういうことはあるのかなって思いますね、今の話を聴いていて。

縣:僕も、一言、良いですか。いや、おっしゃる通りだと思うんですよね。だって、そのフィンチっていう鳥が、島ごとにくちばしが違うっていうのは、生き延びるためには、そこで食べられるものを食べた鳥が生き延びるっていうことの繰り返しで、自然淘汰されていったわけですから、環境っていうのがすごく大事なのね。それで、山田さんが言ってる外からのプレッシャーって、環境の変化ですよね。

山田:うん、うん。そうです。

縣:例えば、開発チームで何か起こったとき、つまり環境が変化したときに、それにどうアダプトしていくかみたいな話になる。でも、そのときに、そういう意思、Willがないと、何かしようっていう気持ちがないと、すぐ「ゴミ箱直行」になってしまう。だから、もちろん、そこまでに培ってきた研ぎ澄まされた感性なり、知識なり、経験なりが必要なんでしょうけど、いざってときに、どれだけの意思を持っているか。そこにポンと環境が変化したというチャンスが来たから次へ行くみたいな、そういうイメージがあります。

山田:なるほど。

縣:進化にも多分、意思がありますよね。つまり、生き延びるっていう意味での意思があるわけじゃないですか。物を作るというのは、当然、意思があるわけでしょ。何かをたまたまやってたらっていうんじゃないと思うんですよね。だから、強い意思を個人でちゃんと持つとか、人類とか、集団とかでも持つっていうことが、環境変化のときに、自分たちをポジティブな方向に行かせる機会になる可能性もある。

 この太刀川さんの『進化思考』を読んで、めちゃくちゃ面白かったのは、ボケとツッコみが大事だっていうこと。そういう場面になったときに、真面目過ぎる人の集団だけじゃ多分、無理なのかなと思いました。

太刀川:そうだと思います。

縣:それはなんか、すごく嬉しくなってね。なんか、真面目な人じゃないと生き延びれないような空気感を、僕は、この時代に感じるわけ。

太刀川:ほんと、そうですよね。

山田:今の時代に、ですよね。

縣:そうそうそう。

太刀川:良くない。良くないよー(笑)。

山田:良くないね(笑)。

縣:だって、ボケとツッコミがいるから、ああ、なるほど、面白いんだ、と。だからボケとツッコミの両方の役割が必要だってことだよね。バカと秀才のね。

太刀川:そうそう。細かく見る人も必要だし、広く見る人も必要だし。ルーツを感じる人も必要だし、未来にエッジが立ってる人も必要だし、っていう観点の違いなんですよね。

縣:今ね、研究現場でもそうだし、多分、開発とか、モノを作るクリエイターさんもだけど、一人で完結する仕事ってほぼないじゃないですか。グループワーク、みんなでやらなきゃいけないときにね、ボケとツッコミやれる人が両方いるっていうことが大事だっていうこと、読んでいて嬉しくなったなあ。

小西:チームの中に、そういう両方の人がね。

山田:わかります、縣さんのおっしゃること。非常に実感があります。

縣:親父ギャグが良いんだって(太刀川さんが)いうから(笑)。

山田:自信を持って、親父ギャグをね(笑)。言い間違いをしながら。

太刀川:そうそう。

縣:なんか『進化思考』を読んでたら、進化しそうになりました(笑)。

太刀川:いやあ、嬉しい。縣さんにそんなこと言ってもらえるなんて、感激だな。

縣:今の、親父ギャグなんですけど(笑)。

全員:ははははは(笑)。

太刀川:でしたね(笑)。

縣:すみません(笑)。

太刀川:伝わらなかったっていう変異が起こりましたね(笑)。

■ 未来に向けて

小西:意思の力っていうんですか、それにちょっと乗っかって、お聞きしてみたいなと思うことがあります。英輔さんの本の最後の方にもありましたけど、今、本当に人類が生き残っていくためには、人類だけが生き残るという観点じゃ、もうダメじゃないか、と。惑星視点とか、そういうことが書いてありました。ここから先、どんなことを考えてらっしゃるのか、英輔さんと縣先生にお聞きしたいなと思います。

 太刀川:これ(スライドを示しながら)、進化思考のPDFです。ちょっとこんな図を書いて みたっていうのを見せたくて。「人に至る要求の系統樹」[17 ]というものです。ここに、「20億年前にATPの代謝」って書いてあるのは、ミトコンドリアっていう古細菌が共生するようになって、それで細胞ができるんですね。そこから真核生物になっていくわけなんですけど。それによって、酸素でエネルギーを作れるっていうふうになっていくんです。電池をゲットした、みたいな感じです。
 あと、有性生殖が12億年ぐらい前にある。この時点から、有性生殖してる生物は基本的に(要求として)全部モテたいとなるはず。そして、目を獲得した後は、隠れたいとか、かっこよくなりたいとかがあるはずです。顎を獲得してからは、なんか硬いものも食べたくなったり。哺乳類になってからは、未熟な子を大人まで育てたい、みたいな感じになったり。話したいとか、作りたいは最近ですよね、この30万年かな。

[17]「人に至る要求の系統樹」のスライドは、この対話イベントの録画https://youtu.be/gcQZ8Y_JqgM?si=roYigCfOBZ1-aBn8 の1時間30分52秒あたりからご覧いただけます。

 要するに、身体が獲得してきた形質が、僕らの欲求とか願いを、ずっと、ある種、培い続けてきてるわけです。それが僕らの本能になってるんだけど、ここから先の僕らの勝負はどこかっていうと、例えば、地球を持続可能にしたいみたいな欲求を僕らが持てるかっていうと、そういう体に生まれていないんですよね。

 でも、それが、例えば、かっこいいことであるとか、それがモテるとか、それでお腹がいっぱいになるとか、そういうふうに変換していくことによって、つまり、持続可能性はかっこいいムーブメントなのである、と。グレタ・トゥーンベリさんとかがそういう感じでやってるんだと思うんですよね。ああいう若者たちが、おお、やるぞ!いいぜ!みたいな感じになるっていうのは、やっぱりかっこいいからだと思うんですね。だから、そういうふうに変換する想像力が僕らには要るなって思う。

小西:こういう欲求に変換していくっていう。

山田:まさにねえ。

太刀川:そうです。あとは、さっきのすごく長い時間軸とか、すごく遠くから見れる距離とか、そういった視点に出会える、つまり、昔で言ったら、千里眼。今日の縣先生の話なんて、千里どころじゃない話ですよね、本当に。

縣:解き明かしてくれたのは、僕じゃないけどね。

太刀川:そういう千里眼みたいなものを誰もが持っている時代に、どういう欲求が、どういう意思が、立ち現れてくるのかというのは、個人の意思の問題というよりは、何か時代の意思というか、ある種、その状況が生み出す必然的な方向性みたいなものだと思うんですよ。

小西:うん、うん。

太刀川:そういったことを、僕ら自身が(自分の)意思だと思っているけど、多分にそういうものに向かっていってしまっていませんか、と。自分の意思ではない、広い意思みたいなものに操られるっていうかね。

山田:わかる、わかる。

太刀川:そういう感じはしている。なんか、その方向が、基本的に近視眼。明日のこととか、隣の人のことは気になるけど、遠くの人のこととか、将来の人とかの話、あるいは、自分と違う生物種のこととか、そういうところにまで意識がいかないっていう。これは、ひょっとしたらナラティブとか何かの考え方で、この200年で超えられてきたいろんな意識のパラダイムもあるだろうから、超えられるといいんだろうな、と思う。どうやったら良いのかはわからないですけど。

■ 想像力のトリガー

山田:いや、まさにそれ聞きたかったんですよ、お二人に。答えはないにしても、なんかこんなものなんじゃないかっていう。

(太刀川氏の『進化思考』の)文章の中で、僕、ここは〇をつけたんだけど、「意識を個体から解き放ち、どこまで私たちは遠くの関係性を見通せるのか。繋がりを理解する広大な想像力は避けられない知のテーマだ。」[18]ってお書きになっている。まさに、今、おっしゃっていることですよね。この想像力のトリガーは何なんだろう。

[18] 太刀川英輔著『進化思考[増補改訂版]―生き残るコンセプトをつくる「変異と選択」』2023年12月より抜粋。

縣:僕、わかんないけどね、ちょっとだけ画像を共有して話をします。想像力の話に戻ってきますけど、その前にまず忘れないうちに…。

 (ボイジャー1号・2号のスライド[19]を表示しながら)これ、ボイジャー1号・2号が、1977年に打ち上げられて、木星や土星に行ったでしょ。このゴールデンディスクっていうやつをね(積んでね)。これ、カール・セーガンたちの発案なんだけど。宇宙人になんてたどりつかないんだけど、これは地球人に対してのメッセージなんです。特に後世の世代へのね。1970年以降の、今の時代の僕らへ向けたもの。宇宙人にはたどり着けないかもしれないけど、宇宙人にメッセージを託すよっていうわけですよね。

[19] 該当のスライドは、この対話イベントの録画https://youtu.be/gcQZ8Y_JqgM?si=roYigCfOBZ1-aBn8 の1時間36分3秒あたりからご覧いただけます。

 このディスクに、さまざまな楽曲から、日本語も含め、いろんな絵や写真や音楽や、全部、積み込んで。この再生の仕方が、ゴールデンディスクの上に書いてあって。ここにね(ディスク上の絵を指しながら)、再生の仕方が書いてあるわけ。これ、こうやってこうやったら使えるよって。

 それで、我々がどこから来たかっていうのは、この絵なんですよ。我々は何者かって、宇宙人に伝えたいから。これね、パルサーといって、超新星爆発のあと中性子だけの星が残るんだけど、それがものすごいスピードで回転してるから、宇宙の灯台みたいなもので、電波を、すごいパルスを出すわけ。これは宇宙の灯台としてどこでも目立つから、それの、こういう距離のところに我々がいるよって示している。そうすると、「ここか、じゃあ、太陽系じゃん」て、特定できるわけ。これが、さっきの宙ツーリズムのロゴのアイデアにもなってるわけだけどね。

 今、話したかったのは、1960年代に…。(と言いながら、スライドをめくる。)

太刀川:このスライド、全部見たいなあああ(笑)。

縣:さっき、太刀川さんが言っていた1960年代に、もう1つのパラダイム変換が起こったと僕は思っている。それは何かって言うと、(「アポロ8号から1968年12月24日に撮影された月面の向こうに浮かぶ地球」のスライド[20]を表示しながら)宇宙の外から地球を見る視点を獲得したこと。それは、一部の人だけじゃなくて、誰でもが見えるってことですよ。

[20] 該当のスライドは、この対話イベントの録画https://youtu.be/gcQZ8Y_JqgM?si=roYigCfOBZ1-aBn8 の1時間37分50秒あたりからご覧いただけます。

 1968年の12月24日に、アポロ8号っていう…。アポロ11号が(月面に)降りるのが、1969年の4月20日だけど、その前に、練習で、降りないで(月の)周りを回って帰ってきたのが、アポロ8号。ボーマン、ラベル、アンダースの3人が飛行士。ラベルっていうのは、アポロ13のあのジム・ラベルね。彼らは写真を撮っただけじゃなくて、この時、動画を回していてね、白黒だけど。

 月の周りをぐるぐる回っていたら、向こうから地球が上がってくるタイミングが、ちょうどクリスマスイブだった。アメリカでは、みんな、七面鳥を食べながらリビングで寛いでいて、白黒の、ブラウン管のテレビのところに、白黒画像だけど、これが映し出される。これを何億人もの人が見たわけ。

山田:なるほど。

縣:これが地球かっていうわけですよ。ここに俺いるの、っていう。

太刀川:小っちゃくて、孤独ですよね。

縣:そうそう。これを見るわけ。それでね、最後のアポロ、1972年アポロ17号で、ようやく、このまん丸い地球を撮影するのに成功するわけ(スライドを「ブルーマーブル」というアポロ17号の乗組員が、地球からおよそ4万5千キロの距離から撮影した地球の画像[21]に変えて)。月って満ちかけしてるでしょ。だから、太陽の反対側からずっと地球に近づいていかないと、丸い地球にならない。かけちゃうから。

[21] 該当のスライドは、この対話イベントの録画https://youtu.be/gcQZ8Y_JqgM?si=roYigCfOBZ1-aBn8 の1時間38分59秒あたりからご覧いただけます。

小西:この時が、初めてですよね。

縣:これ1枚だけですよ。地球の丸い写真が(この写真とは違うものが)映っていたら、それは、アポロ以外の後世のものであって。これ、ブルーマーブルっていうんですけど。この写真を、ずっと長い間(使っていた)。最近になってね、「かぐや」だとかいろんなところが、こういう写真を撮れるようになった。気象衛星ひまわりとかね。だけど、それより前は、みんな教科書も図鑑も、全てこの写真1枚、ブルーマーブルだけ。多分、1番たくさん使われた写真ですよ、世界で。

 こういう視点を僕らが獲得するようになったから、例えば、1980年代に松本隆先生は、まさに、こういう詩を、「瑠璃色の地球」っていう松田聖子さんに提供した楽曲でね、(歌詞の一部を表示[22]しながら)ここに書いてあるようなことを言った。科学者が、とか、カール・セーガン博士が、じゃなくて、作詞家の松本さんが。もちろん彼はものすごい能力のある優れた方だけど、でも、こういうことを、我々、誰でもが、もしかしたら発想したり共感できる時代になりつつあるわけですね。

[22] 該当のスライドは、この対話イベントの録画https://youtu.be/gcQZ8Y_JqgM?si=roYigCfOBZ1-aBn8 の1時間39分53秒あたりからご覧いただけます。

 それは、僕、すごく大事なことだなと思っている。今の時代は不安だし、不満もいっぱいあるし、悲観的にならざるを得ない部分はあるけど、でも、僕らはそういう力を持っているから。
 この英輔さんの本を読むと、その次のシフトに移れる、次のクリエーション、イノベーション、そして、それが伝わっていく、伝承していく、広がってくっていう、まさしく、進化っていうのが起こるのかもしれないなって期待はしているんですよね。

 (スライドを「ペイル・ブルー・ドット」という1990年に約60億km彼方から撮影された地球の画像[23]に変えて)だから、こういう宇宙から見た地球っていう視点こそが…。

[23] 該当のスライドは、この対話イベントの録画https://youtu.be/gcQZ8Y_JqgM?si=roYigCfOBZ1-aBn8 の1時間40分57秒あたりからご覧いただけます。

太刀川:うわあ、これ、地球なんですか。

縣:そう、さっきのボイジャー1号が、1990年になりますとね、もう電池切れなんですよ。ボイジャーは、原子力電池を持ってるんだけど、その電池ももう終わっちゃうから、写真を撮ったり、いろいろと画像を送ったりできなくなる最後のタイミングで。1990年、これは、冥王星まで行った時の、その距離まで行った時ね。カール・セーガンは、ずっと、「振り返って地球を撮ってほしい」って何回もプロポーザルを出していたんだけど、いつも否定されていた、NASAから。で、最後の最後、OKが出て。もうやることがないから良いよっていうんで、太陽系の惑星たち、家族全部の写真を撮っていったの。そのうちの1枚が、これで。

 この1枚だけ。この青い丸は、僕が加工してつけてある。なぜかっていうと気がつかないからね、こうやって映すと。これ、太陽の光がレイとなって、光の筋になっていて。その光の上に、ほんの1ドットなんですよ。1ドット。これが、僕ら、ペイルブルードットっていうんですけど。青っぽい、ほんの小っちゃな点、この1点が地球。

 当時、ここに46億人、住んでいた。今は80億人、住んでいる。我々だけでなく、いろんな生き物が住んでいる。こんな星は、今のところ他にまだ見つかっていないっていう事実。見つかったとしても、うんと遠いから、僕ら、そこに旅に行けるわけではないっていうことですね。光だったら、電波だったら、ちょっとはやり取りできる。10年で1回とか、20年で1回ぐらいのコミュニケーションは取れると思うけど。だけど、行くことは不可能だから。となると、この星が、いかに不思議な、特別な星かってのは、やっぱり気がつくでしょ。だから、その思いを、どれだけ伝染できるかっていうことだと思うんですよね。

太刀川:本当に、奇跡ですよね。本当にちょうどよく、暑くもなく、寒くもなく。水が存在できる恒星からの距離にちょうどいて。しかも、それだけじゃダメで。それが、温泉みたいなところで、偶然、そういうDNAという不思議な分子が合成されないと、起きない。しかも、その後に、全球凍結したり、巨大隕石が落ちるとか、いろいろあって、地上からもうほとんど全ての生物がいなくなることもあって。

小西:何回もね、大量絶滅みたいなことが。

太刀川:そう、5度ぐらい大量絶滅があって。今、6度目なんですけど、現在が。そういうことがあって、僕らもいるんですね。いやあ、だから、まあ、ここしかないわけですよね。

■ Awe:畏敬の念

縣:コーチングをされている山田さんや小西さん、ウエイクアップの皆さんもそうだと思うし、英輔さんはじめ、モノを創造したり、クリエイションをしているデザイナーとか、クリエイターの皆さんもそうだと思うんだけど。きっと、どっか何か、仕事で、ものすごくこう、嬉しい、すごい、ああ、すごいなっていう感じ、思わず「あぁ!」とか「おぉ!」とか言いたくなる瞬間に、会う時があるでしょ。

 Wonderとか、Wonderfulよりも強い感情で、Aweと言うんだけど。Aweという感情を、最も強く感じた人は誰かっていうと、それは、紛れもなく宇宙から地球を見た、特に、月の上を歩きながら地球を見た人たちで。それって、全部で12人いるんだけど。その人たちは地球を見てなんて思ったかっていうと、なんて、か弱くて儚いものだろうっていう。

太刀川:そういう感じ、しますね。

縣:こう、指を伸ばして、親指と人差しでこの地球を挟んで、ピュッてやると、ドライフラワーのバラのように、バラバラバラと、崩れ落ちるように感じたっていうんですよ。そういう感情を、持つということ。

 もう1つ、今の話から展開すると、僕ら、Aweっていう感情を忘れているよね、日常の中で。たまに、まあディズニーランドとかどっか行って、楽しいとか、WonderやWonderfulぐらいの感じはあるかもしれないけど。Enjoyする、Joyとかね。だけど、ものすごい、この大きな自然だとか、星空とか、宇宙に行って…。
 もう、僕ら、宇宙に行ける時代になりましたよね。お金さえあれば、宇宙に行ける時代に。それで、宇宙に行って地球を見るとかね。それが、また、意識を変えていく、進化思考の次の、我々の、何か意識改革になるんじゃないかなって気がするし、そういうことを一部の人だけやっていても、なかなかそれは広がらないから、みんなが体験できる、多くの人がそういうことを体験することこそが、大事な気がするんですよね。

■ 「伝える」ことの大切さ

縣:僕は、こう思ってるんですよ。(「つながっている 宇宙・いのち・社会」というスライド[24]を表示しながら)今日の話でね、僕らはとにかく、物質として繋がっているわけですよね。いろんな物質が、星の進化、宇宙の中でできたわけだけど、でも、それ、僕らだけじゃないですよ。この空気だって、海だって、泥だって、木だって、コンピューターも、みんなそう。

[24] 該当のスライドは、この対話イベントの録画https://youtu.be/gcQZ8Y_JqgM?si=roYigCfOBZ1-aBn8 の1時間46分10秒あたりからご覧いただけます。

 でも、生き物は、今日のもう1 つの話だったDNA、アデニン、グアニン、シトシン、チミンの連続の遺伝子の情報で繋がっている。700万年前に、アフリカの大地を二本足で歩き始めた生き物がいて、それが 20万年前まで来るとホモサピエンスになって、我々の、今のDNAになるわけだけど。よくDNAで我々は繋がってるっていうけど、あの憎きコロナウイルスでさえ、DNAで繋がって、あんなにいっぱいいるわけだから。人間だけじゃない。

縣:人間って、やっぱり、これじゃないですか(太刀川氏著の『進化思考』の書籍を掲げながら)。つまり、創造する、クリエーションする、イノベーションする。(この本では)その仕方を教えてくれているけど、それは、もっと僕ら、そういうことができる生き物になりたいと思うし、ならなきゃならない。かつ、それを伝えることだよね。伝える。

 それは、DNAとか物質じゃなくて、「伝える」っていうことは、もっと違うものなんですよ。我々が伝えるっていうことは、コーチングかもしれないし、学校かもしれない、教育かもしれない。家庭かもしれないし、地域かもしれないし、国際社会かもしれない。今日の歴史の積み重ねかもしれないけど、伝承していかないと次へ進まない。それこそが、とても大事なこと。

小西:この、今の時代に生まれてしまっている我々の使命、かもしれないですね。

縣:まあ、僕ら、社会の中で繋がってるっていう意識は、ほぼ皆、全員、持ってると思うんですよ。だけどね、それは、宇宙とも繋がってますよっていうことだから。いろんな命とも繋がってますよっていうことを、改めて意識すること。同じようなことを太刀川さんも考えているなと、嬉しく思っています。

山田:そこが、お二人が繋がっているところなんですね。

■ 違う世界の観点とAIがもたらす可能性

太刀川:コーチングとかに繋げて言うと、こうやって奇跡的に繋がって、特に、生きている生物同士っていうのは、ある種、そうやって発達とか進化の段階の中で、獲得してきた共感があるんじゃないか。要するに、有性生殖以降は「モテたい」で共感できるはずであると。

 だから、あの欲求の系統って書いたのは、例えば、(系統の近い)僕らと犬とかって、すごく共感しやすい。まあ彼らが(そういうふうに)進化してくれたっていうことかもしれないんだけど。ただ、環世界という言葉があって、生物種が違ったり、違う状況に立つと、全く違う景色になる。

 だから、自分だけのパースペクティブで世界を捉えることはできなくて、僕らが犬だったら、僕らが蚊だったら、僕らが蜂だったら、全然、違う世界を生きている。ただ、この違う世界の観点っていうのを、想像することはできる。あと、AIがそれを繋いでくれるんじゃないかなって、最近すごく思ってるんです。端的に言うと、多分、犬と喋れるようになる。

山田:うん、うん。なるほど。

太刀川:データさえあれば、鳴き声とか、その時の感情のデータとか。

縣:いろんな鳥とかね、イルカとかとも喋れるんだね、僕らね。

太刀川:そう、そう。それが、もっと具体的に何の言語だったか、何の単語だったかっていうところも、かなりいけるようになるとすると、僕らが対話できる幅って、ひょっとしたらこの10年とかの間に、人類を超えて、ものすごく広がるかもしれない。それは、僕らにとって1つの可能性だと思うんですよね。

縣:なるほど。

太刀川:例えば、オーストラリアで山火事があって、カンガルーが燃えてますっていうような状況が、ついこの間っていうか、まだ消えてないないと聞いてるんですけど、それって、僕らからしたら本当には分からない。そこで、いろんな種が10億匹ぐらい死んだみたいな話を聞いても、わからないんだけど、それがもっとわかるようになるんじゃないか。目の前で痛がっている子供がいたら心配になるのと同じように。

縣:意識できるようになる。

太刀川:うん、そう。だから、遠くから見るってこともそうだし、他の立場でその状況を見 るっていうことも、そうかもしれない。やっぱり、いろんな視点で、遠くからも、近くだけど横からも、見られるっていう、その視点をいっぱい持てるようになるのが、そういう気づきに近づいていくってことなんじゃないかなって思いました。

小西:次のコペルニクス的展開みたいな、そのきっかけになるかもしれないですね。

太刀川:かもしれないですよね。

■ Q&A:未知への好奇心とAwe

山田:時間がかなり迫ってきてますけど、Q&Aですね。

小西:そうですね、1つご質問をいただいているので、ちょっと読んでみます。

 「人は見たことがないもの、まだ知らない世界を見たいという欲求があり、それが美しいならば感動し、さらに見たいという欲求が増すのではないでしょうか。探求したいという欲求が増すのではないでしょうか。そういう観点から、縣さんと英輔さんに、特別に感動したこと、Aweと思ったことを何か共有していただけると嬉しいです。」という質問です。

太刀川:確かに、縣さんは、なんでこんなに宇宙好きになったのか、聞きたいですね。

縣:僕の場合はね、長野県の大町っていうところに生まれ育って、僕の家の前に、北アルプス後立山連峰というのが、屏風のように立っているわけね。ただ、その向こうに何があるのかってのは、気になるわけですよ、子どもの頃にね。夜になると、その上に満天の星が見えるわけ。人がほとんど住んでいないからね。そうするとね、これは、一体どこまで広がって、何なんだろうって思ったの。そういう自然の中で生まれて生きていたから、そういうことを感じた。

太刀川:なるほど。

縣:それで、さっきの話で言うと、自分の子どもたちは東京で生まれて、東京で育ってるから、そういう経験がないわけじゃないですか。そういう人が圧倒的に多いわけ、今の時代はね。そりゃあ、宇宙とか興味持たなくなるだろうし、身近じゃなくなりますよね。僕らが心を痛めるウクライナとかガザとか、それは、映像とか情報で伝わってくるからだよね。ただ活字で、新聞で読んだだけじゃ、多分、感情がそこまで湧かないし。地震もそうだよね。

 だから、先ほどの、英輔さんのおっしゃる通りでね、僕らが認識できることが広がると、僕らはさらにもっといろんなことを感情的にできるだろうし、かつ、それがあったら、新たなクリエーションのエネルギー、火になる可能性もあるなって、今日は思いました。ありがとうございます。

太刀川:ありがとうございます。この質問に答えてるかわかんないんですけど、今の縣さんと僕に近いところがあるとすれば何だろうって思うと…。創造性という、答えがないけど明らかに不思議な、深淵な謎に、原体験的に人生をかけて、それと向き合いたいと思ってしまったということが、僕にとっては、すごくラッキーなことだったなって思うんです。

 問いかけをずっと自分にし、それに対して、やり続けることができるじゃないですか。何だろう、不思議だなって思うっていうことは、子どもの頃は、全てのものが不思議だろうと思うんだけど、だいたい、仕組みが解き明かされていて。何だろう、不思議だ、の先に行こうとしたときに、その奥行があるテーマに出会えるかどうかって、偶然、そういうテーマに出会ったりしたから、そうなったんだろうなって。

 さっきの、アルプスの向こうの星空が綺麗だったから、それが知りたくなってしまったっていうことと、デザインをやっていて、これは才能とか言われているけど、本当にそうなのかなって思ってしまったことは、違うものに対する目線だけど、でも、なんか現象としては同じようなことだったのかなって思います。その不思議だと思うこととか、全部解き明かされているわけではないっていうものを持っておくって、豊かなことなんじゃないかなって。

山田:確かに。その通りですよね。なんか感動しましたよ。それを持ち続けられたら良いですよね。最初の火種じゃないけど、それをずっと持ち続けているお二人なわけじゃないですか、まさに。

縣:不十分な生き方だと思うけど、でも、幸運だったなとは思うんですよね。だって、僕はどっちかというとバカの方、ボケの方だけどね、周りにそういった、突っ込んでくれたりとか、整理してくれたりとか、制限してくれる人がいて。バランスですよね。バカだけやっていたら、そんなに長くは生きられないし。そういう上手い人との縁で、人と繋がってくれたことが、何よりも幸せなことだなと思います。太刀川さんも、その1人ですけどね。

太刀川:ありがとうございます。僕にとっても、そうです。

■ 最後に

山田:いやいや、ちょっと話は尽きないですけどね…。

小西:話は尽きないですけど、時間も迫っているので、ひろしさんも何かありますか、最後に一言。

山田:たくさんあり過ぎて、それこそ、全く収拾つかないんですけど。僕は、最後にお二人がおっしゃった、自分が「おお」っていう、何か知りたいと思った、そのことをずっと持ち続けられているお二人と、こうやってずっと話していると、希望が湧いてくるんですよね、なんか知らないけど。

 さっき、0.1%の時間で人類はここまで来たって言っておられました。で、その中に、多分、お二人のような方がたくさんいたわけですよね、人類の中に。「おお」っと思ったことをずっとやっている、ダーウィンとか、コペルニクスとかがいたわけですよ。その人たちが、その人たちだけで作ったんじゃないけれども、協力者の力を得て、この時代を作ってきたわけで。そこをずっと聞いていたような気がするんですよね、そのヒストリーを。

 そうすると、そういうものを持っている私たちなんだから、まあ(今の)状況はこうなんだけど、悲観する必要はなくて、やっぱりその「おお」っていったものに、身を没頭して行けばいいんじゃないかなって思います。それを、一人じゃなかなか難しいんで、さっき縣さんがおっしゃったように、いろんな個性があるから、いろんな人と協力してやっていけば、次が創造されるんじゃないかっていう。そんな希望がね、僕は聴いていてすごく湧きました。

小西:僕も、ちょっと似ていて。ウエイクアップが提供しているコーチングの基本的な考え方で、「人は誰もが創造的だ」っていう信念みたいなものがあるんですよ。

太刀川:NCRW[25]ですね。

[25] NCRWとは、”People are Naturally Creative, Resourceful, and Whole.”(「人はもともと創造力と才知にあふれ、欠けるところのない存在である。」)の略であり、Co-Active Coaching®の基本スタンスです。

小西:そうです。今日のお話を聴いて、改めて、人は誰しも、多様ではあるけども、創造的だっていうことを、やっぱり信じてやっていきたいなと改めて思いました。本当にありがとうございました。

山田:最後に、お二人に一言ずつおっしゃっていただいて、閉じていきましょうか。今日の感想なり、聴いている方へのメッセージなどあれば。

縣:皆さん、今日は、本当にありがとうございました。あっという間の時間で、もうちょっと延長して本当はやりたいくらいですけどね。考える、または行動するきっかけが、1つでもあれば嬉しいなと思いますが、僕のおすすめは、この英輔さんの本、『進化思考』を読まれることですね。

 (書籍を手に持ちながら)こんなに分厚いから、途中でめげちゃう人もいるかもしれないんだけど、でも、最初の方をちゃんと読んで、あとは斜め読みでも個々のエッセンスが書いてあるから、読んでみてください。動画も、いろいろ、ご用意されているし。短く理解しようとするならね。それから、いろんなところで講演もされていらっしゃるから。

太刀川:ありがとうございます。

縣:みんながこれを共有するっていうのは、大事な我々のミッションの1つなんで。太刀川さん、これからもご活躍ください。今日はありがとうございます。

全員:ありがとうございます。

太刀川:じゃあ、僕も。いや、なんか、めっちゃ役得でしたね。本当に良かったなあ。ありがとうございました。縣さん、久しぶりにお会いできて、すごく嬉しかったです。

縣:ありがとうございます。

太刀川:この遠くの距離から、それが儚い存在だって気づくっていうのって、実家みたいですよね。強いと思っていた親父とか、母親とか。なんか、そういう感じですよね。そういうふうに、やっぱり甘えちゃうわけですよね、その中にいるから。すごく強靭なものに思えるし。そのシステムが、すごく自分を守っているものだから、あって当たり前のものだって思うわけだけど、そうではないっていう気づきって、やっぱり外からだと得られるんだろうなって、今日、改めて思いましたね。

 あと、もう1つ。これ、確かGoogleの創業者のどちらかが言っていたことだったように思うんですけど。人間て、でかすぎる問いについては、あんまり誰も考えない。意外とみんな考えていないので、チャンスがある、と。

縣:ああ、それはある。それはあるような気がするなあ。

太刀川:これは、天文とかもそうかもしれないし、創造性とかもそうかもしれない。みんな、真剣にそんなこと考えないっていう。

縣:今、タコツボにみんな入っちゃっているのね。で、これ(太刀川氏の著書)は、博物学なんですよね、つまり。水平思考VS突っ込んでいるところから抜け出してきて全体を見渡してみるっていうこと。それこそが、大事な時代な気がしますね。

太刀川:そういう広いパースで見るから難しいって感じる以前に、広いパースで見ようとする人が少ないっていうことは、僕は希望だと思っています。つまり、そういう観点が漏れているかもしれないっていうことに気づけるチャンスがあるし、そして、漏れてることに気づいたら、ダーウィンとかだってそうだったと思うんですね、生物学者だけど地質学に影響を受けたり、それが、その地球惑星科学みたいになっていくわけですけど。そういうことだったんじゃなかろうかなって。そういうマインドセットって、何かコーチングと似ているものがあるんじゃないかって思ったりしました。

小西:なるほど。ありがとうございます。

山田:ありがとうございました。

小西:時間になったので、ここで終了とさせていただきたいと思います。今日はありがとうございました。

全員:どうもありがとうございました。

小西・山田:視聴者の皆さまも、ありがとうございました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?